六畳の神殿

私の神さまは様々な姿をしています。他者の善意、自分の良心、自然、文化、季節、社会・・それらへの祈りの記。

映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」

2007年05月18日 | 映画
 先日は、石原都知事制作総指揮の映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」
(・・このタイトル、長くて言いにくいよ )を観てきました。

 ネタバレあり注意。(5月19日加筆あり)。

 では感想。
 この映画はアレだね、教科書的存在の映画だね。
 どういう意味かというと。
 その人の持ってる思想は右でも左でも良い、とにかく日本人なら全員、ひととおりコレには目を通しなさい、みたいな。自分の父祖の代にこういう事実があったということはおさえておきなさいってゆー、その目的で観るのに適した作品ではないかと。
 これを観たうえで、先の戦争や日本や自分の立ち位置をどう考えるか・・右にいくか左にいくか真ん中をいくか、それを各人で、是非真剣に、いっぺんくらいは考えて欲しいなと思いました。

 もっとも、「そんなことマジメに考えるのは嫌~」という人には特におススメはしません、なにせ「教科書映画」ですから(笑)。この作品をスペクタクルとかエンターテインメントとは呼びにくい。

 この映画を称して「戦争賛美だ」と言う人がいるらしいけど、首をかしげる。ほんとにコレ観て・・こんな哀しい映画を観て、戦争を肯定し気分高揚するかや??
 また、作品中で将校が言った台詞をとりあげて「過去の日本はやっぱ正しかったのだ、あれは聖戦だったのだと主張するためのプロパガンダ映画」みたいな評価をする人もいるらしいけど、それもどーかな。だって当時は事実みんなが迷いつつ疑いつつそういう空気のもとに生きていたわけで。その背景を描かずしてどうやって特攻につながる過程や心理状態を理解できるのかと逆に問いたい。プロパガンダ映画っつーのは、現代の立ち位置からの色眼鏡を通しすぎな評価だと思う。

 わたし的に観てて辛かったのは、たびたび出てくる血書のシーン。演出か知らんけど、そんなに大量の血は流さないでくれぇ~ とついつい目をつぶっちゃいました。

 でも、これがこの映画のテーマかもね。

 日本人皆が、血を流していた。一億火の玉で、先の戦争を戦った。それが正しかったか間違っていたかの評価とは別に、その事実は、みんなが受け止めなければならないと思う。一部の指導者・・自己保身と功名だけを目的とした無能な指導者に無辜の大衆は騙されていたのだ、だからそいつら悪い指導者だけを糾弾すれば良い・・という文脈では、本当の意味で先の戦争を理解したことにはならない。
 私は最近、仕事で接する人の中に、昭和19年頃から20年の春にかけて生まれた人に、名前に「勝」の文字が入っている人が異様に多いことを実感している。「勝男」さんとか「勝子」さんとか「勝治」さんとか・・。統計をとったら絶対に、この年代の人だけ明らかに有意な差が出ると思う。生まれた我が子に「勝」の字を授ける・・この1点だけでも、一般の人々がどういう心理状態の中にあり、何を希望と信じ、どういう立ち位置にいたかを推し量ることができるのではないか。
 今と未来の平和は、その時間の流れの上にある。当時、何が誤りで、何が問題だったのか、それを冷静に分析し受け止めないことには、未来の平和を考えることにもつながらないと改めて思った。

 観ていて私が強くくり返し感じたのは「責任」の二文字。
 この国に生を受け、こうして平和と繁栄を享受している以上、過去にこのように散っていった人たちから知らずに手渡されていた愛に応えるために、この国をもっと良くする責任があるのではないか。選挙権をもつ成人として。
 そう身の引き締まる思いがしたですよ。

 具体的エピソードでは、「・・我六才より育て下されし母・・」の手紙・・!あれダメなんだよ~(号泣)さだまさしのアルバム「さよならニッポン」の「兵士の手紙ときよしこの夜」って曲にもあるけどさ~。
 ・・今回の映画内で使われた朗読は「そうじゃないだろ!」って言いたくなる読み方ではあったが(苦笑)まぁそれは役者や演出家それぞれの解釈の好みでね。どんな読み方されても、この手紙は必泣~

 同じ意味で、寺田農演じる老いたお父さんが、息子の窪塚に「お願いします」とくり返し頭を下げる場面・・特攻に志願した息子をどんな思いで見送ったのか、それを想像すると胸がつぶれそうな気持ちになる。

 石橋蓮司も良かったです。去り行く飛行機に気づいてハッと道端に土下座するシーン。思わずウルウルきてしまいました。

 それにしても今回の窪塚は、よかったねぇぇ~! ・・正直言って、窪塚洋介にはあんまり良いイメージもってなかった(チャラチャラでプッツンな若者ってイメージでした、ゴメンね)ですが、今回は見る目が変わりました。きちんとコントロールされた演技の中に、裡に秘めた熱とか怒りとかを凄く表現できていた。これは見込みがある。これから良い役者になっていく人かもしれません。期待しちゃう。

 あと、今回の映画の一番の功労者は、冒頭にちらっとしか出ない、的場浩司だと思います。彼の、特攻に同意する時の鬼気迫る表情と声が大きな駆動力となって、作品全体を牽引していったと思いました。この人も良い役者なのね。見直したパート2。

 注目株は中村友也。自分は19歳で死ぬから残りの寿命はトメにあげるって言う彼です。彼の、トメに迷いを吐露する井戸端のシーンの表情は必見。なんて哀しくも美しい決意・・彼なら本当に蛍になって戻ってくると思える。

 筒井道隆は・・この人はあいかわらずね・・でもこれが彼の個性っちゅーか存在感っちゅーか・・こういうなさけな~い味うす~い感じを表現する役者さんも稀有かもしれない
 あと、徳重聡。主人公なのに、この存在感の薄さは・・ いや多分、私の中でピントの合わないタイプの人なんだと思う、この人。ルックス良いのに、何故か顔が覚えられないんですよ。整いすぎて、クセがなさすぎて、記憶に残らないの。これで何か(例えば演技がすごい下手とか)印象に残ることがあれば別なんだろうけど。・・たとえばこの役をぐっさんとかがやったら、あたしラストシーンで号泣すると思うな~。(いや、ぐっさん好きなんで ^^;)

 岸惠子は、上手に歳をとってる女優さんですよね~。若い頃の印象が強いと、老いが隠せなくなった時、残念だなーと思う美人女優さんが多い中(いや、誰とは言いませんが・・)無理して若さを写そうとするのでなく、老けたら老けたなりの美しさを見せてくれる。この路線で、生涯現役で銀幕を輝かせて欲しいでーす。


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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2007-05-26 19:08:40
戦争を考えるために、小林よしのり著『戦争論』を読んでみてほしい。

ここが考えるスタートだと思う。
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はい (風野)
2007-05-26 22:47:37
小林よしのり著『戦争論』は拙宅にもあります。
でも私の考えるスタートはマハトマ・ガンジーなので。
もし良かったら過去ログ「道の上」も読んでみて下さいね~。
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