日本人の友人がiPhone4を買ったのだけど、中国人は彼のiPhoneを見るたび、必ず好奇心に目を輝かせながら、
「あなたのiPhoneはホンモノ? それともニセモノ?」
と異口同音に言う。べつに嫌らしい訊き方をしているわけでも、妙な勘繰りをしているわけでもない。道を尋ねるみたいにごく自然に訊いている。
彼が「ホンモノだよ」と答えると、これまた十人が十人とも、
「わあー」
と歓声をあげる。子供が新しい玩具を見て喜んでいるようだ。単純明快な人たちだと思う。
それにしても、iPhoneを見てまっさきにホンモノかどうかを確かめるだなんて、日本ではあり得ないやりとりだろう。それほど中国ではニセモノが生活の隅々にまで浸透してしまっている。
もちろん、iPhoneのニセモノもかなり出回っているようで、けっこう売れているらしい。ホンモノは高くて買えないので、せめてニセモノで満足しようということだろうか。中国人はニセモノに対する抵抗感が薄く、むしろ、ニセモノをありがたがっているようにさえ見受けられる。ニセモノのおかげで、安くて格好いい商品が手に入ると喜んでいるとしか思えないこともしばしばだ。品質や機能は日本人ほど重視しないから、使えればそれでOKというノリだ。
そういえば、体育西路という広州の繁華街にある地下鉄駅の地下道でニセモノのMP4なんかがワゴンに入れて売られていた。「sony」と書いたMP3があったので買ってみたのだけど、やはりニセモノだった。初めからニセモノだとわかっていたし、音質はともかく使えるからいいんだけど。値段も安かった。
もちろん、ホンモノだと思って買ったのに騙されることもある。先日、別の日本人の知人がノキアの携帯電話を買ったのだけど、どうもおかしい。そこで携帯をよく見てみたら、「NOKIA」の「O」の字に切れ目が入っていた。完全な偽ブランドだ。ぱっと見ただけではわからないから、騙されたのもしかたないだろう。
なんでも、カローラのニセモノまであるそうだ。とある中国の自動車メーカーがトヨタ・カローラそっくりの車を生産しているのだけど、ディーラーに頼めば、もとのエンブレムを引き剥がしてカローラのエンブレムをとりつけてくれるらしい。とはいえ、いくら外観がそっくりといっても乗り心地はカローラにかなわないから、やっぱりホンモノが欲しいと言ってカローラに買い換える人もわりといるのだとか。ここまでくるとほんとうかどうか、わからない。笑い話だと思いたくなるけど、いかにもありそうな話だ。
中国の生活はニセモノ抜きでは考えられない。表面上は近代化が進んでいるように見えて、その実、近代経済の仕組みとはまた違った仕組みで動いている国だ。
中国人に知的所有権を理解してもらうのは、たぶん永遠にむりなんだろうなあ。
あとがき
2010年8月26日発表作品。 http://ncode.syosetu.com/n8686m/12/