タイから広州へきたコンテナにちょっとした事件が起きた。
なんと、コンテナのなかに身長三〇センチくらいの大トカゲが入っていたのだ。しかも、生きたまま。おそらく、コンテナのなかは木陰になっていて涼しいからうっかりまぎれこんでしまったのだろう。
タイの工場から広州の工場まで船で運ぶとタイと中国の通関手続きと海上輸送をあわせて、なんだかんだで三週間近くかかってしまう。もちろん、鉄製品を運ぶコンテナのなかには大トカゲ君の食べ物などあるはずがない。水すらないのだ。三週間もよくサバイバルしたものだと思う。
大トカゲを発見した中国人スタッフたちはすっかり盛り上がってしまい、箒でびしばし大トカゲ君を叩いて殺してしまった。三週間飲まず喰わずでいた大トカゲはすっかり弱っていて、さしたる抵抗もしなかったのだとか。中国人スタッフのひとりが大トカゲ君の遺骸を持ち帰り、白酒につけて薬酒にしたそうだ。大トカゲ君は酒壷のなかにその姿のままで押し込められているのだろう。
そのままタイにいればふるさとでのんびり暮らせたものを、中国へやってきたばかりに薬酒にされてしまったのかと思うと、なんだかあわれである。
(2014年6月11日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第300話として投稿しました。
『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/