今はもう少なくなったけど、広東省広州では店員が「硬貨ですみません」と謝りながらコインを渡すことがしばしばあった。
一角(一元の十分の一の単位)、五角、一元は硬貨と紙幣の両方が流通している。上海では当たり前にコインを使うから紙幣の一元札は少ないけど、今でも広州では一元札のほうが主流だ。広東人の感覚では、コインはおもちゃのようでしっくりこないようだ。
そういえば、二〇〇一年に初めて中国へ来た時、辺境の町で一元硬貨を渡そうとしたら、店のおばあちゃんがコインをしげしげと見て、
「なんだねこれは?」
と言った。
「一元だよ」
僕が言うと、
「おもちゃは受け取れないよ」
と受け取りを拒む。
「中国のお金だよ。ほら、ここに中華人民共和国って書いてあるじゃない」
そう言っても納得せずに、子供のおもちゃはだめだと頑として受け取らなかった。そのおばあちゃんは生まれて初めて一元硬貨を見たようだった。
お札じゃなければお金じゃない、そよの国にはそんなふうに考える人がいるんだなとその時初めて知った。
(2015年11月7日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第338話として投稿しました。
『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/