片雲の風に誘われて

自転車で行ったところ、ことなどを思いつくままに写真と文で綴る。

5/1 古処誠二『中尉』読了

2024-05-02 17:09:18 | 読書

 ビルマ戦線、インパール作戦に失敗しその敗残兵が落ち延びてゆく街道沿いの部落が舞台。街道から少し入り込んだ山裾の部落にペスト患者が発生した。その防疫のために派遣された軍医中尉と彼を護衛する軍曹の物語。軍曹を主語として語られる。軍医は衣服も顔つきもいかにもだらしなく、軍曹よりよほど年上に見える。しかし軍曹より一つだけの年上だった。軍医は三年以上ビルマにおりビルマ語も堪能だ。しかしマラリアで高熱を出し人格も変わってしまっているらしい。50人ほどの部落で、一組の夫婦が罹患、この夫婦を隔離して、部落を閉鎖、ネズミの駆除と部落の主要個所に石灰剤を散布するなどの防疫対策をする。この数週間の部落の住民たちとの交流が描かれる。ビルマは英国の植民地となって三度独立闘争をして失敗している。それが日本軍が来て英国を追い出してくれ独立が達成できた。多くの現地の人からは好意を持って受け入れられている部分もある。そんなエピソードの中に、英国支配下ではペストなど伝染病の予防接種をビルマ人の多くは受けられなかったが日本軍はビルマ人にも全員投与してくれたなどが語られる。中尉もビルマの今後の平和と発展を強く願っている。

 数週間の後、患者は回復に向かい、部落でのそれ以上の広がりもなく封鎖は解除される。しかしその解除の日に軍医が武装強盗団に拉致される。終戦まじかで憲兵などの捜索も十分には行えず中尉は見つけられない。後半はこの拉致が話の本筋になる。敗戦後英国が再度進駐してきて日本軍は捕虜収容所に入れられる。収容所といっても管理は緩く外部の商人などは入り込んでくる。そんな状況下捕虜の日本兵に対して反英独立闘争への参加が呼びかけられる。この呼びかけのビラに拉致された中尉の名前がある。帰国の見通しが見えない時期にはこの呼びかけに応じる日本兵もいたようだが、帰国の計画が始まってからはその動きも少なくなる。軍曹は考える中尉の拉致は本当だったのか、芝居ではなかったのだろうかと。

物語の中で、ビルマの人々の生活、考え方、人間性などが様々記述される。著者のビルマ愛が感じられる。なぜここまでビルマに思い入れがあるのだろうか。

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