朝5時頃、東の空が白み始める。
23時起床、荷物はそのままに、簡単に食料を腹に入れる。
私は、紅茶とビスケット数枚しか食べられなかった。
皆さん、高度、緊張、ダイアモックスによるトイレで眠れなかったと訴える。
隣で寝ていた元女優から「貴方はよく寝ていたわね」と褒められたのか、妬まれたのか、声を掛けられた。
24:30出発。
空は快晴、満点の星で天の川もはっきり見える。
気温はそれ程低くなくマイナス3度、風もなく良いコンディションだろう。
荷物は出来るだけ少なくして、負担を減らせ、と言うリーダーのアドバイスで予備のカメラだけで、ほとんど空のザックをガイドに預ける。
服装は、下はサポートタイツの上に、ヒートテックの防寒用タイツ、厚手の登山ズボン、更に雨具用のゴアテックスズボン。
上は、ヒートテック長袖下着にメリノウールのシャツ、その上にフリースジャケット、更に雨具のゴアテックス、その上から登山口で借りたダウンジャケット。
首に、フリースのネックウォーマー、頭は毛糸のキャップ。
手袋は厚手のゴアテックス、下にもはめてダブルにした方が良いとのアドバイスだったが、様子を見る。
ガイドのスタンレーが先導し、私が先頭で続く。
今までよりも更にゆっくり歩を刻む。
呼吸法も今までより更に慎重にペースを作る。
極端にゆっくり登る我々の隊を多くのグループが追い抜いて行く。
ヘッドランプの明かりだけを頼りに、地面を見つめ、呼吸音と足音を聞きながら歩く。
砂走りの急な坂道を、ジグザグに進む。
2・3時間登って、5千メートル付近を越えると、登山道で座り込んでる人が現れ始める。
私は先頭なので、良くは分からないが、我が隊からも遅れ始めた人が出たようだ。
ギルマンズポイント直下は、岩場が2百メートル程続く。
まだ高山病の気配は感じない。
太陽が雲海の上に顔を出す頃、ギルマンズポイントに到着。
この男4人と女性3人が同時に到着した。
9人の内、7人の顔は確認できた。
残り2人の到着を待とうとしたが、早めにウフルピークへ向かう方が良い、と言うアドバイスで写真もそこそこにまた、歩き始めた。
その頃は高山病の症状を訴える人が出てきて、歩けずに立ち止まる人もいる。
何とか励まし合って、更に2時間、ウフルピーク到着。
登山開始から8時間近く経過している。
ウフルピーク下の氷河。
噴火口内部。
揃っての写真撮影は出来る状況になかった。
登山中ズッと携えてきたスキットル(ポケット瓶)からウイスキーをキャップに受け、山の神に登頂を感謝した。
このウイスキーは、大学時代の友人が壮行のため我が家に集ってくれたとき、山頂で皆さんと祝杯を挙げてくれと託されたものだ。
こんな高度でのアルコールは以ての外だと言うので、指に着いた数滴を嘗めるだけにした。
ピークではメンバーの中からも、自力で歩けなくなりガイドに両脇を支えられる人や、手を引かれる人もでた。
私も娘も幸いそれ程の影響はなかったが、気を抜くと目眩を覚えた。
とても他の人を助ける余裕はなかった。
目の端で、ガイドのサポートを受けているのを確認するだけで、自力下山に入った。
慎重に岩場を下ると、長い砂走り地帯が始まる。
登って来るときは、ここをジグザグに道を取ったが、下りは直線で降りることが出来る。
若い人たちは駆け下りて行く。
私は膝が心配で駆け下りることは出来なかった。
それでも自然と大股の早足になって下ってしまう。
登り8時間以上掛かった所を2時間で降りた。
キボハットにはギルマンズポイントだけで引き返した女性がリーダーと共に、既に下山していた。
荷物をまとめながら皆を待つ。
1時間程で、9人全員が揃う。
全員がキリマンジャロ登頂成功、8人がウフルピーク征服と言うめざましい結果だった。
軽い昼食を取って、ホロンボハットへ向かう。
足取りは極めて軽くなっている。
午後4時前、ホロンボハットに着く。
男6人、女4人それぞれの小屋に入る。
まだ乾杯は出来ない。