
どこかで書評を読んだことがあった。何回か在庫を探したがいつも貸し出し中だった。在庫しているのを見付けて、手に取ってみると6百ページを超える厚さ、一瞬その分量にたじろいだが購入するわけでは無し借りるのだから、いやになったら止めればよいと借りてきた。
満州に人生をささげた人々の話。日露戦争の前、満州におけるロシアの存在を調べるために渡るところから始まる。確かにこのころはロシアの南進に対して日本はどうするべきか。朝鮮をどうする。清はどう出てくるか。が日本国内で大きな関心を集めていた。祖父も大学を出て弁護士や内務省の手伝いをしている時、吉林省の南部、豆満江北方左岸地域で現在は延辺朝鮮族自治州の「間島」に入っていた。朝鮮人が多く北上していた。日露戦争後発生した「間島問題」の事前の下調べだ。清も己が故郷の地として漢人の立ち入りを禁止していた。しかし清も力が弱まり、漢人もなし崩しで入植を始め、ロシアも南下するという混乱した状況であった。このような東アジアの状況の中で密偵として満州に渡りロシアの官憲の目をくぐりながら日本の権益を築こうとする日本人の若者たちだ。時は義和団が暴れまわっている時期。二人は松花江を船で遡るとき、同乗の漢人が自分の故郷には「作物が育つ土」と「燃える土」、「燃えない土」があると話すのを聞いた。もしかしたら「燃える土」とは石炭のことかと考える。しかし、満州のそのあたりに石炭の層があるとはどこの資料にもない。そこは李家鎮と言う貧しい田舎だった。しかしやはり石炭があり、日本が満州経営に乗り出したときはこの石炭を開発しようと近くに鉄道を引いたり鉱山を開発してゆく。この新しい土地にどのように町や産業を築いてゆくかが「地図」でそのための武力や強制力が「拳(こぶし)」だ。
そこから日中戦争で日本が負け、満州から引き揚げるころまでの時代にこれに参加した多くの人物たちも物語だ。町が作られてゆく様子などは、大連やハルピン、瀋陽などを思い浮かべさせる。また岸信介など当時の若く気負った新官僚などの姿も見えてくる。多くの登場人物が出てくるが、核になっているのは最初、密偵として入った二人とその子供たちだ。
この作者はこれで直木賞を受賞している。この作者の他の小説を読むかは、この読疲れが少し薄らいでから考えよう。