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片雲の風に誘われて

自転車で行ったところ、ことなどを思いつくままに写真と文で綴る。

5/8 黒田昭伸『歴史の中の貨幣 銅銭がつないだ東アジア』読了

2025-05-09 22:54:51 | 読書
 少し古すぎるかもしれないが、銭形平次が投げた銭は一文銭。日本では奈良時代に和同開珎などの貨幣が発行されたが、一般庶民の使用するところまでは至っていなかった。一般の経済活動に銭が使われるようになったのは鎌倉時代。当時の中国から輸入した渡来銭が使われた。形状は円形の中に方形の穴が開いている。材質は多くが銅だ。これに時代によって錫や鉛、鉄などが混ぜられている。この貨幣は銭と呼ばれたが、時代、地方によって幾種類もの銭が存在した。これらを識別するのに貨幣上に記された文字なり文様を読み取る必要があった。それで文とも呼ばれるようになったそうだ。しかし輸入された銭は必ずしも貨幣としてばかり使われたのではない。奈良の大仏を建立する際は多くの渡来銭がその原料とされた。中国の歴代王朝でも銭を発行しない王朝もある。したがって市中に出回っている銭は古くからのものが混在している。当時銀行などはないので、集まってきた大量の銭は地中に踏められて保管されることが多かった。それが忘れられて後代に発見されることが多い。その場合その銭の種類の比率で大方の埋められた時代がわかると言う。時代ごと発行された量にちがいがあるのだ。
この銭が日本だけでなくベトナムなどでも流通していた。将に中華圏に属していたわけだ。日本でもその流通量が拡大してくると、同じ形状で国内で作られるようになった。ただし、錫が取れないときはほぼ銅だけの銭になった。この場合文字が鮮明な形で鋳抜くことが難しい。それで文字の不鮮明なものができる。文字を鮮明に形や周囲の縁もしっかりと鋳抜くには錫を混ぜなくてはならない。これらが混ざった銭の中から鮮明なものと不鮮明なものが選別される。粗悪なものを鐚線(びたせん)または悪銭と呼んだ。こうして銭を区別してその価値に差をつけることを撰銭(えりぜに)と言う。大きい場合は三分の一や五分の一、さらに大きく差をつけることもあった。しかしこれはエンドユーザーにとってはつかいにくい。そこで時の政府府は度々撰銭禁止令を出したと言う。
中国でも日本でもこの一文を原子単価とする貨幣だけでは、庶民の日常の買物では問題はないが、長い旅に出るとき、または軍隊の遠征などではこの銭を携帯するためだけに荷車を出さなければならなかったそうだ。日本の使節が訪中するときも日本から金などを持ち込んで、現地での銭に両替するとその運送だけで数両の荷車が必要になり、長安に着くまでに運搬費用としてその何割かを費やさなければならなかったそうだ。それで五文の銭が現れたりしたそうだが、結局それも一文としてしか扱われなくなったそうだ。紙幣も発行されたがすぐに消えてしまったと言う。
 日本で貨幣経済が広がった12世紀ごろから18世紀まで、この中国貨幣をベースにした銭が流通していたことになる。最後の頃は銀貨や金貨が用いられるようになるが、当時の一文銭の中には中国由来も混じっていたようだ。数百年の間異国の通貨を取引の基本単位として使用していたことは世界史的に見ても珍しいと言う。
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5/6 村田沙耶香『変半身(KAWARIMI))』読了

2025-05-06 22:25:48 | 読書
 前回の『コンビニ人間』と一緒に借りてきた。2016年の芥川賞受賞後の17年の作品だ。表題作以外に『満潮』が併載されている。どちらもあまりよく判らない小説だ。自分が属している世界に対して何か違和感を持っている主人公たちが出てくる。その違和感の正体が何であるのか、はたまた属している世界そのものが本人の思っている、あるいは理解しているものと違う世界だった。この作家の次を読もうと言う気持ちは当分出てこないかもしれない。

 雨が降って緑がますます濃くなっていくサンルームからの眺め。ここで本を読んでいても今ならまだ暑さを気にせずに過ごせる。また、今日のように部屋の中では少し肌寒い時でも陽射しはなくても快適に過ごすことができる。それでも転寝をするときは身体に掛けるブランケットが必要だ。
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5/5 島田雅彦『人類最年長』読了

2025-05-05 13:22:43 | 読書
 昨日、娘や妻に付き合って森林公園に出かけた。娘はエリーとトレイルランの稽古、妻は野鳥探し。私は車の中で少し昼寝をして、その後は読書。標記を読んだ。
 万延二年に横浜に生まれた男が現在まで生きていると言う話。開国、明治維新、鉄道開設。日本の近代の出来事が順に挙げられていく。中学生高校生の歴史の勉強にはよいかもしれない。なぜなかなか死ねないかと言うと、成長が遅いことにある。通常の人の1年の成長がこの男には数年かかる。そのうえ中国大陸でモンゴルの不死の長老からその後継者にされてしまったので死ぬことができない。話は「然も在りなん」という内容だが読んでいて面白い。後半には岸信介や田中角栄も実名で登場するが、裏社会の闇将軍児玉誉士夫は別の名前に変えられている。さすがの島田が闇の力に怯えているわけでは無かろうに。

 今使用している包丁類を研いだ。つらつら眺めるに我が人生を感じさせると思った。右から、娘が東京で学生の時に使っていたもの、次が妻と結婚して静岡の刃物屋で1万2千円のもの。50年近く前だからかなり高かった。次は会社でお客に配った残り物、中国製だ。次の柄もステンレスの包丁は母が父の死後一人で暮らしていた後我が家で同居した時持ってきたもの。次の鯵切は結婚した頃のもの。左のペティナイフ2本は右が会社が配った包丁とセット、その左は結婚の頃。こうしてみると娘や母のはまだ刀身の幅が残っているが、私が昔から使っているものは幅広の文化包丁だったものが柳葉包丁のように細くなってしまっている。まだ研ぐことはできるが、指で押さえ辛くなってきている。残りの人生分位は使えるだろうか。
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5/3 温又柔(Wen Yuja)『魯肉飯(ロバプン)のさえずり』読了

2025-05-03 21:56:02 | 読書
 台湾人の母親と日本人の父親の間に生まれ、3歳から日本で暮らす。日本語が主体だが台湾語、中国語も使える。2000年代から小説を書いている。私は以前この作家の本を読んでいるが、著作リストの名前を見てもそれがどれかは認識できない。
 この小説は著者と同じ台日の両親のもとに生まれた少女の成長物語だ。日本人の友達もいるが、自分の出自を自覚させられることが多い。そんな葛藤を抱えながら日本人のエリートサラリーマンと結婚する。その家族からの「早く孫を」の圧力や夫の古い日本人的な家庭支配がだんだん苦痛になる。彼女がやせてゆく様を母親は心配する。離婚して帰ってきた娘に父親は「この結婚には初めから反対だったんだ」と喜ぶ。普通の家庭などはない。それぞれの家庭があるのだ。

 バラが大分開き始めた。

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5/2村田紗耶香『コンビニ人間』読了

2025-05-02 23:19:10 | 読書
 この本は2016年芥川賞を受賞している。その時に読んだ。30代の女性がコンビニで学生時代から続けて16年働き続けている。そこにへんてこな男が入ってきて、そのあまりに協調性のなさに馘になる。その男がルームシェアしている部屋を家賃負担分を払えないと追い出されそうになる。それなら私の部屋に来ればと、同居を始める。この大まかな筋は記憶にあった。しかし細部の登場人物の描写だとか展開は覚えていない。その後この小説は世界中で翻訳出版されている。最近彼女の『世界99』という作品が出て、これが書評界の話題になっているのを知った。ただそれらの書評を読んでみるとすぐに手に取りたいと言う気にはなれない。そこで図書館の棚で目に入ったこれをもう一度読んでみる気になった。
 主人公の古倉恵子は所謂どこかおかしい人間だ。自己認識の仕方が独特だ。例えば、小学生の時男子生徒が取っ組み合いのけんかをしていて、女子生徒たちが止めようと必死になっている。一人は泣きながら先生を呼びに走る。恵子はそれを見て手近にあったスコップでその男子生徒の頭を殴る。男子生徒はびっくりして喧嘩が止まる。そこへ到着した教師がそれを見て悲鳴を上げる。恵子をしかりつける。彼女はみんなが止めろと言うから止めたのになぜ怒られているのかがわからない。かように自分がしていること、話すことがこの世界ではおかしく思われているらしいのを自覚し始める。大学生の時にコンビニのアルバイトを始めると、店長が丁寧に接客の仕方を教えてくれる。話す言葉、お辞儀の仕方、笑顔の作り方まで。彼女はどうすれば問題が起こらず、周りが喜ぶかを初めて知る。もう問題を起こすことはなくなった。さて、この小説は芥川賞らしく面白く読んだが、彼女の他の作品や今話題の新作を読むかは今のところ分からない。
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