仁左衛門日記

The Diary of Nizaemon

たそがれ清兵衛

2018年11月15日 | ムービー
『たそがれ清兵衛』(2002年/山田洋次監督)を見た。
物語は、「幕末。東北の庄内地方にある七万石の小藩・海坂藩。御蔵役を務める井口清兵衛(真田広之)は、夕刻の終業の太鼓を聞くと同僚の酒の誘いも断り、真っ直ぐ自宅に帰ることから、影で"たそがれ清兵衛"と呼ばれていた。帰宅後は、認知症を抱える老母・きぬ(草村礼子)と幼い二人の娘・萱野(伊藤未希)、以登(橋口恵莉奈)の世話、そして労咳で死んだ妻の薬代や葬儀などで嵩んだ借金を返済するため、家事と内職にいそしんでいたからだった。日々の暮らしに追われる貧乏生活で身なりが薄汚れていく清兵衛だったが・・・」という内容。
着ている物は綻びや穴だらけで、風呂にも入らず臭いも酷い。
そんな様子を憂いた上司・久坂長兵衛(小林稔侍)に、清兵衛の同僚・矢崎(赤塚真人)が「清兵衛の祿高は五十石だが、お借り米を引かれて手取りは三十石。内職しに嫁に行くような所に後妻など来ない」と説明する。
それでも縁談を勧めようとする本家の井口藤左衛門(丹波哲郎)に、「この暮らしは、考えられているほど惨めだとは考えていない。二人の娘が日々育っていく様子を見るのは実に楽しい」と言う清兵衛。
夜、行灯の明かりと囲炉裏の火を頼りに鳥かごを作る内職をしながら娘達と本音で話す様子は、ほのぼのとして楽しそうに見えた。
いずれ天下が変わると言う飯沼倫之丞(吹越満)に、御所警護の人手が足りないから京都へ行こうと誘われても、天下が変わった時は侍をやめて百姓になると答えた清兵衛。
まるで欲がない男で、それが、飯沼の妹・朋江(宮沢りえ)とのせっかくの話を上手く進めることができなかった理由でもあったのだが、飯沼家は四百石、朋江が嫁いでいた甲田豊太郎(大杉漣)の家は千二百石。
その辺りの一連のエピソードも含め、どうにも切ない物語だった。

シン・ゴジラ

2018年03月08日 | ムービー
『シン・ゴジラ』(2016年/庵野秀明総監督、樋口真嗣監督・特技監督)を見た。
物語は、「2016年。東京湾羽田沖で大量の水蒸気が噴出すると同時に、東京湾アクアラインでは亀裂事故が発生し、通行車両に被害が出た。政府は、巨大生物の存在を示唆する矢口蘭堂内閣官房副長官(長谷川博己)の意見を取り合わず、事故原因を海底火山か熱水噴出孔の発生と見て対応を進める。しかし、巨大生物の尻尾がテレビ報道されたことで、政府は対処方針を生物の駆除とし、上陸した未知の巨大生物に対し、自衛隊の害獣駆除を目的とした防衛出動が決定したのだが・・・」という内容。
東京に上陸した謎の生命体(ゴジラ)が作品内で進化し続けるのが、『ゴジラ』(1954年/本多猪四郎監督)以来、30作以上も制作されたこれまでのシリーズ作品と違う所で、さらには、主要な登場人物もこれまでは科学者や新聞記者であることが多かったのだが、本作では大河内清次内閣総理大臣(大杉漣)をはじめとする内閣の主要閣僚や各中央省庁の役人、多くの自衛隊員が出ずっぱりなのが特徴だ。
総理官邸の廊下で、「会議を開かないと動けないことが多すぎる」と嘆く官僚の台詞が面白い。
また、静観、捕獲、駆除の選択肢から"駆除"を選んだ際に問題になったのが、自衛隊の出動を"治安出動"にするか、"防衛出動"にするか。
総理大臣執務室で、花森麗子防衛大臣(余貴美子)、赤坂秀樹内閣総理大臣補佐官(竹野内豊)、郡山肇内閣危機管理監(渡辺哲)等から進言を受ける大河内首相がうろたえ、東竜太内閣官房長官(柄本明)から「総理、ご決断を」を決定を促された際には、「今ここで決めるのか!?聞いてないぞ」と、実に頼りない。
この辺りに政治家や官僚に対する監督のイメージが現れていると思うのだが、演出の最高傑作は、「おっしゃるとおりです」と言う安西政務担当秘書官(中脇樹人)だと思う。
(^_^)

僕と妻の1778の物語

2017年05月30日 | ムービー
『僕と妻の1778の物語』(2011年/星護監督)を見た。
物語は、「SF小説しか書かない作家・牧村朔太郎(サク/草彅剛)の妻・節子(竹内結子)は、彼の良き理解者だった。ある秋の休日、家事をこなしていた節子は突然の腹痛に苦しむ。大家の野々垣佳子(佐々木すみ江)はおめでたではないかと喜んだのだが、病院で虫垂炎と診断され、緊急手術を受けることになった。ところが、担当医・松下照夫(大杉漣)が執刀してみると、随分と進行した大腸ガンが見つかった。"病状の進行からみて、一年先のことを考えるのは難しい"と妻の余命を宣言されたサクは・・・」という内容。
医師からの説明があった翌朝、サクは節子に病気のことを話すのだが、「そうかぁ。あたし治るの?」と割とあっけらかんとした口調で聞く節子には、「5年後の生存率は0%」と言われたことは話せなかった。
まぁ、それはそうだよなぁ・・・。
(-_-;)
そして、自宅で闘病を続けることになる節子に対し自分は何ができるのだろうと考えたサクは、「自分は小説家なので小説を書くことしかできない」との結論に達し、「笑うことで免疫力が上がることがある」との松下医師の助言もあって、「妻一人のために毎日、原稿用紙3枚以上の笑える短編小説を書く」と決めた。
しかし、親友であり、妻・美奈(吉瀬美智子)を含め家族同士の付き合いをしている同じSF作家の滝沢蓮(谷原章介)は、「その小説が終わる時がどんな時か分かっているのか」と言う。
確かに、それを始める前から、つらい結末が倍以上の威力になってサクを襲うことは間違いないと分かっているのだから、「切りが良いところでやめるべきだ」という滝沢の言葉にも一理あるような気もした。
すでに第50話「ある夜の夢」は、サクの深層心理が表れたような内容であり、いつまで節子を笑わせるものが書けるか、実は自分自身が不安に思っていたのだろう。
これは、『僕の生きる道』(2003年/全11話)に始まる草彅剛主演による一連のテレビドラマの延長上にあるような映画作品で、大杉漣、谷原章介のほか、小日向文世(新聞の集金人役)、浅野和之(玩具店の店主役)など続けての共演者や、製作スタッフも多いようだ。
BGMの多用がなく静かな場面が多かったり、タイトルのデザインも『僕の生きる道』と同様のロゴだったり、随分と意識されているようだった。
冒頭、銀行で突然に火星人の話を始めたサクに、窓口係の節子が驚きもせず対応している場面も面白かったし、病院の食堂での執筆作業中、奇声をあげたり意味不明な動作をすることから、看護師や患者達から遠巻きに見られていたサクが、事情を理解した清掃係のおじいさん(高橋昌也)のおかげで皆に受け入れられるようになったりと、ほのぼのしたエピソードも多い内容ではあったのだが、やはり随分と切ない物語なのだった。

赤々煉恋

2017年04月22日 | ムービー
『赤々煉恋(せきせきれんれん)』(2013年/小中和哉監督)を見た。
物語は、「突然に引きこもり生活を始め、やはり突然に自殺をしてしまった女子高生・樹里(土屋太鳳)は、成仏することができず、どうして死にたいと思ったのかも思い出せないまま、この世をさまよい続けていた。生きている人達は樹里の姿に気がつくことはなく、人も物も樹里の体を通り抜けていくし、樹里もどんな物体であっても触ったり掴むことができないのだった。樹里を死んでいる存在だと分かっているのは、"虫男"と呼んでいる不気味な怪物(大杉漣/声)だけだが、飛び降りたマンションの玄関屋根に座っていると、乳母車を押している女性(吉田羊)が自分を見ている気がして・・・」という内容。
通っていた学校の教室や体育館に入ったり、カフェでもめているカップルに話しかけたりもするのだが、やはり誰も樹里の存在には気がつかない。
霊感が強いという一人の女子高生だけは、樹里が立てた大きな足音に何かを感じ取ったようではあったのだが、ただそれだけだった。
親切心から、落としたリンゴを拾ってあげようとしてもリンゴをつかめない。
随分と切ない展開の連続であり、りんご(西野瑠菜)と母・祥子(有森也実)のエピソードも悲しかった。
引きこもり生活を始め、「私、変わっちゃったかな?」と母親・保子(秋本奈緒美)に聞いた時が、唯一の転換点になりえる局面だったような気がしたが、このタイミングを逃してしまったのは両者ともに不幸だった。
「人が多い所って昔はうざいって思ってたんだけど、今は何だか暖かく思える。知らない人ばかりなのに、笑っている人を見ると何だか安心するんだ」という樹里。
死んで永遠に独りぼっちというのは寂しくて仕方がないようだ。
(-_-;)
調べてみると、『赤々煉恋』(2006年/朱川湊人著)という(ホラー小説)短編集の一編『アタシの、いちばん、ほしいもの』を改題して映画作品化したもののようだったが、これは改題しないほうが良かったんじゃないかと思う。
とはいえ、そこそこ面白い作品だった。

ニンゲン合格

2015年05月24日 | ムービー
『ニンゲン合格』(1999年/黒沢清監督)を見た。
物語は、「とある病院の一室。目を覚ました吉井豊(西島秀俊)は立ち上がることができず、ベッドから転げ落ちてしまう。それを見て驚く看護師。彼は14歳の時の交通事故が原因で10年間に及ぶ昏睡状態から突然目覚めた男なのだった。彼のその入院中に家族は離散したらしく、目覚めて以来、病室には父の友人・藤森岩雄(役所広司)が10年間の出来事を記録したビデオテープや雑誌を持っては訪ねてきた。退院後は、吉井家を借りて釣堀を営んでいる藤森と同居を始めた豊だったが・・・」という内容。
豊が永い眠りから目を覚ましてから退院するまでの間、どれくらいの日数があったのかは描かれていなかったが、その間家族は誰一人として姿を現さなかった。
病院へやってきたのは藤森ともう一人、交通事故の加害者・室田(大杉漣)という男だけで、どうやら彼は入院中の費用負担をしていたらしく、もうこれで最後にしてくれと数十万円の現金を置いて去っていく。
加害者という立場のこの男の10年間にわたる苦悩が上手に表現されていたように思う良い台詞だ。
豊は24歳にもなるので身体はすっかり大人だが、精神年齢は14歳のままなのだろう。
家に引きこもりがちになるし、時々出掛けた際には店先に積んであるダンボールを踏みつけたり、ゲームセンターで暴れたり、遠くまで歩いたり走ったりと、これまで発散できなかったエネルギーを一気に解き放ったりしている様子である。
自分が置かれている現実を理解したり、何もできなかった過去を諦めたり、自分の気持ちと現状との折り合いをつけていくにはやはり時間が必要なのだろう。
かつて、父・真一郎(菅田俊)と母・幸子(りりィ)が営んでいたポニー牧場を再興し、自分が14歳だった頃に一度時間を戻そうと考えたのは懸命だ。
ほとんど詳細な説明がされないままに坦々と物語が進んでいく展開だが、突然に笑いを誘う演出があったりと、どこか北野武監督作品と似たところが感じられる。
少し不思議な感じの面白い作品だった。