内容(「BOOK」データベースより)
清流とゆたかな木立にかこまれた城下組屋敷。普請組跡とり牧文四郎は剣の修業に余念ない。淡い恋、友情、そして非運と忍苦。苛烈な運命に翻弄されつつ成長してゆく少年藩士の姿を、精気溢れる文章で描きだす待望久しい長篇傑作!
(Amazon.解説より)
今から10年程前、連続ドラマ初プロデュースした時の事。僕は脚本家のKさんと出会った。Kさんは、僕の好きな「テレビ版『幸福の黄色いハンカチ』(菅原文太主演)の脚本を山田洋次さんと一緒に書いた人でもある。
仕事をしているうちに親しくなり、御自宅に伺ったり、一緒に飲んだりした記憶がある。原稿待ちの為、御自宅の2階、執筆する部屋で、Kさんの横に座り、原稿が一枚一枚書き上がると、僕に読ませてくれ、意見を訊かれた事もあった。Kさんの師匠は映画監督・木下恵介。普通、連続ドラマでは、まず10話なら、全体の流れを作り、そして各回の「大バコ(ラフな構成案)」を、そして、プロデューサーと打ち合わせして、「小バコ(細かいシーンの順番・登場人物の気持ちの流れ等を書いたもの)」を作って、それから書き出すというのが一般的なやり方。
しかし、Kさんは、師匠の木下監督からの教えで、「最後までの構成を作ってしまうと、脚本が予定調和になってしまう」という考えを持っていて、ペラ(ドラマや映画の脚本を書く時に使う20文字×10行=200字詰めの原稿用紙)に、3Bの鉛筆で、構成を立てずアタマから書いていく。Kさん曰く、「書いていくうちに、登場人物そのものが動き出し、それに合わせて、物語を作っていくのがベスト」。
前置きが長くなったが、そのKさんは、映画監督でもある。そして、僕に一冊の脚本をくれたのである。藤沢周平原作「蝉しぐれ」。まだ、当時、映画化の目途もたっていなかったが、いつか必ず映画化するという事で、原作者の藤沢周平氏に、映像化の許諾を頂き、脚本を執筆したとの事。
それから8年位経った一昨年、NHKの連続ドラマで、「蝉しぐれ」はテレビドラマになった。脚本はもちろんK氏。
そして、K氏自らが監督し、「蝉しぐれ」は松竹で映画化された。僕はその映画をまだ観ていないが、K氏の「ものづくりに対する執念」に、尊敬の念を持った。未だに、K氏から頂いた10年前の「蝉しぐれ」の脚本は、うちの本棚にある。先日の「向田邦子賞」の「贈賞式のパーティー」でお会いできるかと思っていたが、お越しになっていなかった。
僕も10年前、「蝉しぐれ」の原作を読み、「日本的・・・素敵な世界」に惹き込まれ、心が本当に清清しくなったのを憶えている。







