郷土料理をぜいたくに
村のホテル住吉屋
下高井郡野沢温泉村
住吉屋7代目当主の河野正人社長
野沢温泉名物の麻釜。村の台所ともいわれる麻釜で 茹でた野菜は一味違うという。野沢温泉は山の麓から中腹に広がる坂の村。温泉情緒を感じさせる狭くて急な石畳の道を上っていくと、頂上近くにもうもうと湯煙を上げる麻釜がある。その麻釜の前が老舗旅館の住吉屋。打ち水で清められた玄関に立つと、田舎の親戚へでも来たような温かさと親しみやすさが感じられる宿だ。
ロビーや喫茶室、廊下などにさりげなく飾られた絵画や骨董、季節の花はもちろん、客室からの麻釜のたたずまいや北信濃の風景など住吉屋ならではのおもてなしは数多い。なかでも泊まった人が一番にあげるのが食事。腕利きの料理長の手による和風料理のコースとともに野沢温泉に伝わる取り回し鉢で田舎料理が味わえるからだ。取り回し鉢というのは、冠婚葬祭など人寄せの時に出されるもてなし料理。大一座の宴席で、煮物や和え物などを大鉢に盛って、各自好きなものを小皿に取って順に回していくことから名付けられたものだ。
「取り回し鉢を取り入れたのは、お客様から『旅館料理はどこへいっても変わり映えしない、その土地ならではのものが食べたい』と希望があったこと、長期滞在の常連さんが家の者のおかずを喜んで食べてくれたことから…」と当主の河野正人さんは振り返る。以来三十年余り、取り回し鉢で出す「村のおかず」は住吉屋の看板料理になった。
蔵座敷の食事処。百年以上もの風雪に耐えた柱や梁が 落ち着いた雰囲気をかもしだしている
味わいのある染め付け鉢に盛り付けられた「村のおかず」あれこれ。取り回し鉢は、豆やじゃがいもなど 保存のきく野菜や塩漬けしておいた山菜・きのこを使った料理で、先人の知恵が生きている 料理を担当するのは料理方ではなく、地元のおばちゃん達だ。皮付きの小いもを飴色になるまで煮込んだしょうに(塩煮)いも、しゃきしゃきした歯触りのいもなます、きのこやゼンマイの煮物、煮豆、麻釜で湯がいた季節のおひたしなどなど。それらを毎夕の献立とは別に2~3品用意する。「お客様に出す料理長からのメニューにも『取り回し鉢いろいろ』と案内し、食卓へは前もって並べておいて係の者が説明します。初めての方は驚きもし、とても喜んでくれます」という。
山の温泉宿として海の魚の刺身や天ぷらなどは出さない、野沢菜漬けをはじめとする漬物や味噌は自家製を使うという見識を貫いている住吉屋。地元に伝わる家庭料理を骨董の大鉢に盛り付けて、見事におもてなし料理に昇華させている。これも遠来のお客様に心からくつろいでもらいたい、野沢温泉の良さを十二分に味わってもらいたいという心意気の表われだ。詳しくは↓
http://www.ne.jp/asahi/onsen/banzai/SUMIYOSHIYA.htm
都会を離れ、素朴な田舎の料理を食べ、星が降ってくるような夜空をしばらく眺めていたい心境・・・です。