これは、短編集で「刺青」「少年」「幇間」「秘密」「異端者の悲しみ」「二人の稚児」「母を恋うる記」が納められている。
刺青(しせい):たぶん江戸時代の比叡山刺青師が美女に刺青をする話で、作者の意図がよくわからなかった。
少年:主人公の少年が毎日金持ちの友人の家に遊びに行き、その姉をいじめているうちに立場が逆転してしまう物語で、いじめに対する戒めが主題だろうか。
幇間(ほうかん}:明治時代の男芸者のような幇間という職業の男の物語で、そんな仕事もあって大変だったとしか感想はない。
幇間:浅草に隠遁生活しながら毎晩に女装しながら出歩く主人公が、偶然に昔に関係があった娼婦に会い再び関係を持つようになるが逢瀬の場所は隠されたままだった。それを暴いた結果として冷めて女を捨てる話で、何かのきっかけで秘密が明らかになると、また人はリセットしてしまう虚しさを感じました。
異端者の悲しみ:貧乏で友人への借金を踏み倒す悪徳学生の物語で、読んでいるうちに腹が立ってきた。自己中心的な最低の人間で、結末で小説家に転身するように書かれているがそんなうまくいくとは思えません。
二人の稚児:比叡山の上人に預けられた二人の少年が、一人は欲望を我慢できずに山を下りて世俗の人になってしまう一方で、もう一人は欲望を我慢して仏行に専心する物語で果たしてどちらがいいかはわかりませんが両方の生き方は共にありだと思いました。
母を恋うる記:主人公がなぜか放浪していて、どうしてか全くわからなかったが、結末で亡くなった母を思慕して夢をみていた。母を未だに慕う気持ちがよくわかりました。
少年、異端者の悲しみ、母を恋うる記は、谷崎潤一郎の実体験のように思えてならない。どれもはっきりと主題がわかりにくい重い短編集という印象です。