このたびの東日本大震災で被災された多くの皆様へ、謹んでお見舞い申し上げます。
大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。
また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。
売れない演歌歌手だった私は、地方を慌ただしく回り、ショッピングセンターや日帰り温泉の特設ステージで歌っては自分のCDを手売りする毎日だった。
ある日、初老のマネージャーのNさんの紹介で介護施設の秋祭りを訪問すると、思いのほか大勢の入居者の方々が集まってくださっていた。
それに気を良くしたせいか私はいつもより声が出て、珍しく満足の行くステージができた。
ただ、前の出し物が長引いて私の出番が押してしまったため、次のイベントへの移動の時刻が迫り、せっかくいい雰囲気になった会場でCDの手売りができなくなった。
Nさんはホールの後ろの方でステージを観ていてくれた経営者のもとへ行き、耳打ちすると、私を手招いた。
「皆さんに買っていただいている時間がないので、理事長さんにまとめての購入をお願いしたから。10枚ね。」
私はNさんが開けてくれた小さなアタッシュケースから10枚CDを取り出し、その方に渡した。
受け取った彼は財布から代金をNさんに支払うと、私にCDを2枚、返した。
「多いみたいですよ。」
でも、ちゃんと数えましたが。
いいから、受け取っておきなさい—Nさんが笑いながら言った。
「頑張って歌い続けるのですよ。ぜひまたいらっしゃい。」
若かった私は少し時間がたってから、その厚意がやっと呑み込めた。