管理者を務めるなめとこデイサービスの、スタッキングチェアの買い替えに関する伺い書が決裁されたとの連絡を受けて、私はお礼かたがたNPO法人なごやか理事長の執務室を訪ねた。
「繁盛店は備品が痛みやすいからね。」
理事長は添付したカタログのコピーに目を落とした。
「座面の色がたくさんあるようだけれど、どれにするの?」
併設するあおぞら認知症デイサービスから揃えて行くつもりなので、ブルーにしようと思います。
「ああ、いいね。
ブルーで全部揃えても、ルービック・キューブのように別の色が何脚かずつ混在しても、面白い。要は、選んだひとにコンセプトがあるかどうかだろうね。」
「ずいぶんに秋保温泉方面へドライブに行った時のこと、道路沿いの古い平屋の民家をそのまま使い看板だけ建てた訪問看護事業所を見かけた。
土曜日でお休みなのか、玄関先に営業用の軽自動車が三台並んでいたのだけれど、それがね、緑、黄、赤なんだ。
営業車が3台となると、普通は色を揃えたくなるけれど、その事業所はちょっとふざけたかったのだろう。
それを見て僕は、ああ、こういうのもアリなんだ、と思った。そしてそのユーモアをNPOなごやかでも実践している。」
利用者様ならびに家族様各位
令和3年1月吉日
特定非営利活動法人なごやか
なめとこデイサービス 管理者
新型コロナウイルス感染症にかかる対応について(お願い)
拝啓 大寒を迎え、寒さが厳しさを増しておりますが、皆様にはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。また、日頃より当事業所の運営にご理解とご支援を賜り、深く感謝申し上げます。
さて、本市でも新型コロナウイルスの感染に関する新聞報道等が目立ち、不安な状況が続いております。当事業所においても、現在できる限りの対策は行なっておりますが、市内他法人施設でクラスターが発生したことから、更に細心の予防が必要になっております。つきましては、当事業所利用に際し、皆様に下記の通りのご協力を賜りたく、なにとぞよろしくお願い申し上げます。
なお、ご不明な点がございましたら、当事業所までお気軽にお問い合わせ下さい。
敬具
記
【なめとこデイサービスの利用について】
- 利用時の検温、マスク着用のお願い
利用時には、お手数ですが体調確認をはじめ検温とマスク着用を引き続きお願い致します。発熱、咳や体調不良があった際には利用をお控えください。PCR検査を受けた際には、検査結果に関わらず事業所にご連絡くださいますようお願い致します。
- 感染者多発地域への外出について
感染者多発地域へ外出の際には感染防止対策を実施していただき、また利用前に当事業所への連絡をお願い致します。状況に応じて自宅での健康観察をお願いする場合もございますのであらかじめご了承ください。
- 感染多発地域からの帰省親族の接触について
感染多発地域からの帰省親族との長時間の接触があった利用者様におかれましては、自宅にて5日間の健康観察を、その方が同居の場合は自宅にいらしてから14日間の健康観察を、それぞれ行なった上での利用のご協力をお願い致します。
【発熱や咳等、体調不良時の対応】
季節の変わり目による体調不良、風邪の罹患などでも「咳」や「発熱」の症状がある場合は集団感染予防のため、利用を控えて頂きますようご協力をお願い致します。
以上
「施設の中にある福祉用具のハンドルやダイヤルが緩んでいないか、確認のため触ってみるのだけれど、そんな時、無意識にあたりを見回してしまう。すっかり癖になっているのだ。
若いころ、大工棟梁と一緒にモノづくりに精を出していた時のことだ、部材を取り付けた後、それがしっかり接着されたか、念のため軽く揺すってみたところ、棟梁に声を掛けられた。一度取り付けたものはそんなに揺さぶらないものだ、それは無粋ってやつだよ、と。
そして棟梁は弟子時代の思い出話を聞かせてくれた。
ある時彼が在籍していた組(工務店)が旅館を請負って、職人がそれぞれ一部屋ずつ任された。建物が大きかったため他の組の大工たちも応援に来ており、棟梁の隣の部屋は、運悪く他の組の名人と呼ばれる方にあたってしまった。
負けず嫌いの棟梁は初日から午前10時と午後3時のタバコ(おやつ)の時間も休まず、昼食も早々に切り上げるなど無茶をした。
となりの名人も鳴りやまない玄能(かなづち)の音を聞きつけて、通りすがりを装って入り口からチラチラ中をのぞいて行く。
次の日も競争のようになったのだが、3時のタバコの時間に名人は棟梁の部屋に入ってくると、おう、フジムラさん、少し息をつこうぜ、と声を掛けてくれた。
それから仲が良くなって、タバコも昼の弁当も一緒にとり、名人の滋味深い話をたくさん聞かせてもらった。骨の折れる天井の造作などは二人で協力して行なった。すべてが血肉になった。
それが仕事も終わりに近づいたころ、棟梁が午前中に糊付けしたたたみ寄せ(壁とたたみを見切る部材)がしっかり接着しているかどうか、軽く揺すってみたところ、それを見逃さなかった名人から笑いながら先のような指摘をいただいたのだそうだ。
自分が取り付けたものに自信を持て、という意味なのだろう。
無粋と言われては、僕もやめるしかない。
でもやっぱり、利用者様の安全を考えると、今日もまたこっそりやってしまうのだ。」
昨朝(1月17日付)の朝日新聞の県内版に、菅原茂気仙沼市長の復興に関するインタビューが掲載されていた。この方は本物のインテリで紳士だ。
復興で人口減に歯止めはかからなかった。どうすればよかったでしょう、という記者の問いに対して、「(前略)この10年近く忙殺されたのは、まちづくりを中心とした復興事業をなんとか国に認めてもらうための、刹那的な交渉ばかり。夢の話をできる状況じゃなかった」と答えていた。
大震災からの10年を振り返った時の、僕の感想もまさにこの通りで、決して場当たり的な姿勢ではなかったものの、ロール・プレイング・ゲームか早差し将棋のように次から次へと現れる障害を倒し、駒を進めて行く。
最善の手なのか悪手なのかわからないが、直感で進める。
その中でうまく行ったものもあれば大失敗もある。
そしてそれを甘受する、の繰り返しだった。
その結果として、目指した地点、ゴールに届いたのか、それももうよくわからなくなったが、受け入れている。
でも、今年はもう少し長期的な視点でことを進められたらと願っている。
一手30秒以内の早差しが、せめて2分くらいの持ち時間になってくれたら。
1990年頃、二紙あった地元紙の小さい方に懇願されて、僕は紙面の穴埋めのためのコラムを週に3本ほど書きなぐった。
おもにアメリカ文学や映画についてだったが、ワンパターンになるのを避けるためにと時々創作も混ぜた。
それが2008年の映画「オンディーヌ 海辺の恋人」を観て驚いた。冒頭の30分がかつて自分の書いたものと同じだったから。ニール・ジョーダン(アイルランド出身の監督)と同じ発想かあ、とあまり嬉しくなかったが。
孤独な漁師が漁網を巻き上げると、そこには美女がかかっていて、ゆっくりと物語が動いて行く。
いい映画だった。
ニール・ジョーダンの初期の作品はかなり苦手だけれど、書いておかなければならないのは、「クライング・ゲーム」(1992年)の中に「サソリとカエルの話」が引用されていることだ。
IRAの闘士と、誘拐・監禁された英国軍兵士の会話(1分25秒頃から)
2019年製作のドラマシリーズ「アフター・ライフ」でも使われていた。ニュアンスが違ってきているが。