大学が夏休みで実家に帰省していた私は退屈しのぎにと母に相談して、兄が残して行った服をメルカリで売ることにした。ひどい妹である。
早速、写真は撮ってみたものの、女性の私には男性の服の説明文がうまく書けない。というか、どこをどう採寸したら買ってもらえるのかがよくわからない。
そこで、個人事務所で仕事中の父に相談してみた。
私がなりゆきを話すと、父は愉快そうに笑って言った、
「女のコは男の服に興味ないからなあ。」
いったい誰のことを言っているのかわからないが、改めて考えてみると、確かにそうだ。
どれどれ、と父は兄のシャツを机の上に広げて、私にメモを取るよう促した。
「まずは首の後ろのタグの写真は必ず載せること。ここに「41―84(襟周りと桁丈)」とあるのがこのシャツの表記サイズだよ。それから脇の内側についている素材表示と生産国のタグも。同じブランドでも、輸入品と国内ライセンス商品ではサイズが大きく違うので。ジャケットだと左の内ポケットの中にあることが多いね。
ただ、今は男でもそれを知らない人が増えてるから、肩幅(直線)と脇下身幅、それと着丈(襟から下ね)くらいは実際に計って載せとくとトラブル防止になるかも。」
ついでに、と父は何枚かシャツをクローゼットから運んできた。これも売ってくれない?売り上げはお小遣いにして構わないので。
その中に、襟に白いラインが入ったオレンジの派手なポロシャツがあった。ああ、それはフレッド・ペリーのM13ティップラインという人気モデルでしかも珍しいお色だから、強気の値段でも大丈夫だよ。
これが?
それが驚いたことに、出品して30分も立たない間にすべて売り切れてしまった。
価格設定が安かったか。中には10代の女の子からの問い合わせもあった。
自然とほくほく顔になっていた私だったが、でもやっぱり、男性の服ってわからないや。
これまであまり考えたことがなかったのだが、僕が生涯で最も回数を聴いた曲はこの、ザ・クラッシュの「トレイン・イン・ヴェイン(スタンド・バイ・ミー)」だと思う。
ロンドンで結成されたパンク・バンドが、1979年初頭に広大なアメリカツアーを体験して音楽性も服装も大きく変わる。
ツアーの前座にはR&Bの巨人というか変人、ボ・ディドリーを起用した。
ボ(中央)とサムアップしてゴキゲンだ!
変化はサード・アルバム「ロンドン・コーリング」に顕著に表れた。そしてその結果として、「ロンドン・コーリング」はのちに「ローリングストーン」誌で「80年代最高のアルバム」に選出されている。
「トレイン・イン・ヴェイン」はアルバムのラストナンバーで、クレジットされていないシークレット・トラックでもあった。
発売当時はクレジットがない理由が不明だったが、「ニュー・ミュージカル・エクスプレス」紙のボーナスソノシートに提供する予定が、企画が流れたためアルバムへ急遽収録したものの、ジャケット印刷の締め切りに間に合わなかったためだ、と歌っているミック・ジョーンズ(リード・ギター)が後年インタビューで明かしている。
曲調というかギターリフは60年代のソウル・ナンバー「バット・イッツ・オールライト」(J・J・ジャクソン)あたりが元ネタかな、と思う。
2013年の素敵なカバー・バージョン。なんだかすごく嬉しかった。
私のお気に入り
トーマス・ピンクのシャツ
ブルックス・ブラザーズのゴールデン・フリース・ポロ
ハミルトンのアメリカン・トラベラー
フレッド・ペリーのポロ
ポール・ウエラー(ザ・ジャム)
ヘレン・カミンスキーをかぶった女性
コール・ハーンのローファー
ラルフ・ローレンを着た女の子
ウエスタンシャツ
ボーダー柄のTシャツ
タンタン&スノーウィ(ミル)
パーカーのボールペン
モレスキンのハードカバー手帳
ステッドラーの鉛筆
デュラレックスのプリズム・マリン(グラス)
ジャクリーヌ・ケネディ(元ファーストレディ)
あのひと-アイリーン・アドラー(「ボヘミアの醜聞」に登場するシャーロック・ホームズの好敵手)
BBC「シャ―ロック」より。
ジャガーXJ(英国車)
キャデラック・コンコース(米国車)
リンカーン・コンチネンタル(米国車)
ロバート・ジョンソン(ブルースシンガー)
ザ・クラッシュ(パンクバンド)
ザ・スペシャルズ(スカバンド)
ニック・ロウ(ロッカー)
イギー・ポップ(ロッカー)
ザ・ビートルズ
ゴフィン&キング(ソングライターチーム)
バディ・ホリー(ロッカー)
シーナ&ロケット(日本のロックバンド)
ルースターズ(日本のロックバンド)
エドワード・ホッパー(画家)
「ピグマリオン」(バーナード・ショーの戯曲、「マイ・フェア・レディ」の原作)
クリフォード・オデッツ(戯曲作家)
テネシー・ウイリアムズ(戯曲作家)
カーソン・マッカラーズ(作家)
トルーマン・カポーティ(作家)
アーウィン・ショー(作家)
ニック・キャラウエイ(小説「ザ・グレート・ギャツビー」の登場人物)
ヘンリー・スレッサー(作家)
アルフレッド・ヒチコック(映画監督)
マーティン・スコセッシ(映画監督)
「グッドフェローズ」(1990年)より、コパカバーナでの長回しシーン。BGMはクリスタルズの「キッスでダウン」(ウォール・オブ・サウンド)だ。
オーソン・ウエルズ(俳優・映画監督)
フランソワ・トリュフォー(映画監督)
パトリシア・ハイスミス(ミステリー作家)
ジーン・ティアニー(女優)
エリナ・パーカー(女優)
「黒い絨毯」出演時のパーカー。衣裳はイディス・ヘッドだ。
レスリー・キャロン(女優)
ジーン・セバーグ(女優)×「星の王子さま」
ブリジット・バルドー(女優)
マリー・ラフォレ(女優・歌手)
「太陽がいっぱい」(パトリシア・ハイスミス原作)より。宗教画家フラ・アンジェリコに関する論文を書いている大学生役。
マリアンヌ・フェイスフル(女優・歌手)
セルジュ・ゲンスブール(歌手・作曲家・映画監督)
ピーター・オトゥール(俳優)
セシル・ビートン(写真家・衣裳デザイナー)
衣裳を手がけた「マイ・フェア・レディ」のセットで。
イディス・ヘッド(衣裳デザイナー)
ジョージ・ガーシュイン(作曲家)
キャメロット(アーサー王伝説に登場する理想国家)
リバティ(イギリスのデパート)
ヨガ
ストーンヘンジ
ボイヤール砦(映画「冒険者たち」の舞台)
タラハウス(「風と共に去りぬ」に登場する建物)
グローブ座(シェイクスピアの座付き劇場)
ウォール・オブ・サウンド(フィル・スペクターが考案した音楽スタイル)
ペーパーウエイト
ティファニー・ブルー
「ゴッドファーザー・サーガ」(映画を再編集したテレビシリーズ)
「さらば青春の光」(映画)
「素晴らしき哉!人生」(映画)
「アラバマ物語」(映画)
「摩天楼」(映画)
ゲイリー・クーパーの慇懃なお辞儀が見事だ(2分52秒)
「ブレードランナー」(映画)
「見知らぬ人でなく」(映画)
「インテリア」(映画)
「オーバー・ザ・レインボウ」(スタンダード・ナンバー)
「アイ・キャント・ヘルプ・マイセルフ」(モータウン・ヒッツ)
ラットパック(フランク・シナトラ一家)
オリーブ・オイル(OYL)のようにひょろひょろの女の子
セルゲイ・ラフマニノフ(作曲家・ピアニスト)
「旅愁」(1950年)より、新進ピアニストのヒロイン(ジョーン・フォンテーン)による「ピアノ協奏曲第二番」の演奏シーン(2:18~)。衣裳デザインはイディス・ヘッドだ。
「ザ・ホワイトハウス」(TVシリーズ)
「ミステリー・ゾーン」(TVシリーズ)
ソール・バス(グラフィック・デザイナー)
フォード・ストック・カンパニー(ジョン・フォード一座=フォード監督作品の常連たちの総称)
「リバティ・バランスを射った男」のセットで。衣裳はイディス・ヘッドだ。
ジャック・ダニエルズ(バーボン)
ダシール・ハメット(ハードボイルド作家)
ジョン・カサヴェテス(俳優・映画監督)
「殺人者たち」(1964年)より。のちの合衆国大統領にパンチを入れている。
ジョゼ・ジョヴァンニ(作家・映画監督)
ツリー・ハウス
88(マイ・ラッキー・ナンバー)
小津安二郎(映画監督)
資生堂パーラー
アップルパイ
ローズ・ギャラリー(花屋)
香蘭社(陶器メーカー)
赤城(航空母艦)
桐島かれん(女優・モデル)
芦川いづみ(女優)
夢野久作(探偵小説作家)
「それから」(夏目漱石の小説)
宮沢賢治(詩人・童話作家)
チャグチャグ馬コ
NPO法人なごみ
地元紙が企画した介護サービス法人特集の敬老の日広告へ、当法人はまた本市出身で在京のプロの漫画家さんに依頼したイラストを掲載しました。
今回は、「おかえりモネ」にも登場した気仙沼の内湾を望むビュースポット「神明崎浮見堂」を描き込んでいただきました。
忘年会を兼ねたNPO法人なごやかの今年最後の管理者会議は、喫茶店アルファヴィルを貸切にして行われた。
職員のほとんどが女性のなごやかには夜にお酒を飲みながら、という文化が一切ない。
なにか話があれば昼間に顔を合わせましょう、退勤後の夜や休日は職員自身とその家族のために使いましょう、というのが理事長の方針で、この忘年会もランチをとりながら今年一年間の無事を祝う、ライトな集まりだった。
カウンターの中の女性オーナーは淡い水色の和服にたすきをかけ、てきぱきと料理を作って出している。
フロアスタッフたちは白いラルフローレンのボタンダウンシャツにブルージーンズ、ダークブラウンのカフェエプロン姿で揃え、給仕に忙しい。
カウンターの隅に腰掛けた理事長はというと、無理やり笑顔を作りながらオーナー特製の青梅の甘露煮を口に運んでいる。
活気にあふれた店内の皆が満足げで、楽しそうだった。
やがて会が終わり、代金を支払った幹事の私と理事長が店の外へ出ると、後を追ってオーナーも見送りに出てきた。
理事長さん、お忙しいでしょうが、来年はもう少し足をお運びくださいね。
いやいや、あまり通い詰めるのもおかしいから。でも、来ますよ。
きっと約束ですよ、と言いながらオーナーがたすきを解くと、袖がするするときれいに波打ちながら腕の上を滑り落ちた。
そしてその腕が二本差し出された。
理事長はためらいながらやはり二本の手を差し伸べた。
私は一瞬、理事長が片膝をつくのではないか、と思った。