セゾングループの総帥堤清二氏を取り上げた書籍は枚挙にいとまがないが、「セゾン 堤清二が見た未来」(2018年刊)はその多くがテーマにしている、異母弟堤義明オーナーとの葛藤(死闘)でも、バブル崩壊後のグループ解体のドラマでもなく、セゾンが生み出した企業にそれぞれ章を割き、それらがいかに先進的で魅力的だったかを描いていて、80年代を東京の最底辺で苦学生・貧乏サラリーマンとして過ごした僕にはとても面白く読めた。
西武百貨店、西友、無印良品、PARCO、LOFT、WAVE(レコードショップ)、ファミリーマート、JーWAVE、リブロ(書店)、チケットセゾン。
これらの企業が他社の手に渡りながらも存続している、あるいは人々の記憶に生き生きと残っているのは、いまだ毀誉褒貶相半ばする堤氏が強い意志を持って創った、魅力ある(価値ある)ものだったからに相違ない。そこが同じように解体され、ローソンと「オレンジページ」くらいしか残らなかったダイエーとの大きな違いだ。
ウッディ・アレンを起用して(1981年、作 糸井重里)
十代の頃、城山三郎の経済小説「価格破壊」を繰り返し読んだ。
NHKでドラマ化されたもの(1981年)もリアルタイムで観た。
主人公のモデルはダイエーの中内功会長。
戦後神戸の闇市からダイエーを興して一大チェーンストアに育て上げ、自らも経団連副会長にまでのし上がったものの、拡大路線が行き詰まり、手にしたすべてを失った悲しき大巨人だ。
小説は会社の勃興期、規制に抗い妨害を跳ね除けながら成長の坂道をエネルギッシュに駆け上がって行く主人公の軌跡を非常にシンプルな筆致で描いていて、どこから読み返しても面白い。
その後、中内ダイエーが終焉を迎えようとしていた1998年に出版され、700ページ近いドキュメンタリーとしては異例のベストセラーとなった佐野眞一の「カリスマ—中内功とダイエーの『戦後』」も読んだ。こちらも興味深いエピソードが満載だが、中内に疎まれて会社を去った幹部たちの証言が多く盛り込まれていることから、彼のキャリアを意図的に貶める記述が目立つ(佐野の著書の特徴なのだろうが)。
介護給付費の不正請求で表舞台から強制退場させられたコムスンの折口社長が時代の寵児として華々しくマスコミに取り上げられていた頃、NHKのニュース番組でのインタビューを観ていたら、(応接室か社長室か、)背後の書棚に「カリスマ」が並んでいた。学ぶべき立志伝中のヒーローだったのか、それとも、反面教師か。
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「僕は典型的な夜型で、深夜遅くまで仕事をしては、一区切りつくと決まってテレビを点ける。ニュースの最終版や外国ドラマの再放送を少し観て気分を変え、そこからまた仕事。
それが最近、妙なのだ。
いつテレビを点けても、『ハワイアンFIVE-O(ファイヴ・オー)』が放映されている。ハワイを舞台に60年代後半から13年間続いた長寿ドラマシリーズを、2010年から10年に渡ってリメイクした、これまた長寿シリーズ。
『一体、週に何回放送してるんだ?』と画面にツッコミを入れるのだが、もちろん、週1回で、僕の月日の流れの体感が早くなっているだけなのだ。
このドラマに準主役で出演しているスコット・カーン(「オーシャンズ11」のメンバー)はジェームズ・カーン(「ゴッドファーザー」の長男ソニー役)の息子。
そのジェームズ・カーンが探偵役でゲスト出演していたのには少し驚いたし、スコット・カーンの両親役がトム・べレンジャーとメラニー・グリフィスという豪華なキャスティングだったのにも、驚いたよ。」
出張先で時間調整のため、古い雑居ビルの二階にあるビストロに入ってみた。
ランチタイムの終わりまであと5分というタイミングだったので、ドアを開けながらまだ大丈夫ですか?と店内をのぞき込むと、白米は終わっちゃいましたが、ケチャップライスでよければ、と厨房から声が返って来た。
広くない店内には女性が二組と、カウンターになじみ客らしい中年男性が一人。僕はカウンターの反対側の端に座って、本日の魚料理セットをオーダーした。
オーナーシェフが調理から配膳まで一人でこなしており、それでも料理を出すたび必ず一言添えている。
僕の前にはまずトマトの冷製ポタージュが運ばれてきた。
そのあとメインはマグロのフライの夏野菜ソース添え。三枚も?とそのボリュームに驚いていると、ケチャップライスがまた大盛りで、体のわりに小食な僕は内心焦りを感じていた。
テイクアウトの弁当も、そろそろ出なくなってきましてね。
話し好きらしいオーナーが言う。
このライスはお弁当用か。
先客たちが出て行くと、さらにオーナーはいろいろ話してくれた。
先週、この店をオープンして5周年だったんですが、こんなコロナの状況にか、と恨めしく思いましたよ。
私はSホテル(東北で最初の洋式ホテル)で仕事を始めまして、それから34年間、飽きないように色々メニューを変えながら料理を作っています。
お客さん、初めての方ですが、お味はいかがですか?
「ええ、非常においしいです、ボリュームもあって。」
そう答えると、彼はいい表情で笑った。
ボリューム感は大事にしてるんで。
ぜひまたいらしてくださいね、と名刺を差し出された。
デザートはクリームブリュレと、蒸しケーキにバニラアイスクリームを添えて。コーヒーメーカーのホットコーヒーはセルフサービスで飲み放題とのこと。
この日は客がもう僕一人だったので、オーナーが出してくれた。
これで850円?!
オーナー、大丈夫ですか?という僕の問いかけに、彼は再度快活に笑った。
満腹過ぎてそのあとの打ち合わせに支障が出るほどだったけれど、思いがけずとても楽しいひとときを過ごせた。きっとまた行こう。