エッセイでも小説でもルポでも嘘でもなんでも書きます
無名藝人




自分は自宅で仕事をしているからエアコンが効いて快適だけど、この炎天下に外で仕事をしている人たちは大変だろうなと思いながら窓の下を見ると、雪ダルマが、うちのマンションの表玄関から入るところが見えた。
しばらくするとチャイムが鳴ったのでインターフォンに出ると、宅配便だという。ハンコをもって玄関のドアを開けたら、溶けかかった雪ダルマが紙の箱を小脇に抱えて立っていた。
人件費削減のつもりなのか知らないが雪ダルマを使うことはないだろう、しかもこの暑い時期に、とかなんとか思いながら、雪水を吸ってフレンチトーストのようにふやけた荷物を受け取ると、雪ダルマは無表情で「毎度どうも」と言って立ち去った。
毎度もなにも、雪ダルマの宅配は初めてだ。

このあいだ注文した商品だろう、と差出人も確認せずにガムテープをはがすと、ビックリ箱のように受話器が飛び出してきた。反射的にそれをキャッチすると、誰かが話している声が聞こえるので耳にあてた。
「…で、こっちに来てもらえないかな。カラープロファイルが埋め込まれてなくてさ、困っちゃって…」
 意味の分らないことを一方的にしゃべっている。
「あの、どちらにおかけですか?」
「え、村田さんじゃないの?」
「ちがいますけど」
相手は何も言わずに切ってしまった。

その電話マナーの悪さには腹が立ったが、こんな失礼な間違い電話を配達した雪ダルマにも腹が立ったので、荷物を突っ返してやろうと後を追いかけた。
しかしこの暑さだ。もうかなり溶けていたらしく、雪ダルマの通った跡が水たまりのように濡れていたので、すぐに見つかったが、そのときは、熱く焼けた舗装道路の上で、すでに頭の上半分だけになっていた。
その姿が哀れだったが、とにかく荷物は返さなければいけないので、これ違いますよといって渡すと「すいませんね」 といいながら溶けてしまった。

「やはり雪景色におけ雪ダルマ」
どこかで聞いたことのあるようなないような言葉が浮かんだ。

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