エッセイでも小説でもルポでも嘘でもなんでも書きます
無名藝人




「ぱど」というフリーペーパーが、毎週、郵便受けに入っていて、いつもむさぼるように読んでいる。
というのは、そのなかに「地元でお仕事」という求人コーナーがあるからだが、電車の清掃とか、梱包作業とか、経験がなくてもできる仕事はけっこうあるものの、たいていは年齢で採用条件から外れてしまう。
 
困った。 
 
日本人男性の平均寿命からすると、私はあと30年ほど生きなければならないことになるが、それは断るつもりだ。どう考えても、これから私の経済状態が好転するだろうと予想できる材料が何ひとつないからだ。
周囲からは、もう人生の半分以上をクリアしているのだから、あとひと踏ん張りして生きてみては、と勧められるのだが、ひと踏ん張りで生きるには30年は長すぎる。
できるなら、今すぐにでも人生を解除したいところだが、まだ母親が生きているので、私ももう暫くは生きていなくてはならない。親より先に死んだら成仏できないと、アサヒ芸能にも書いてあった。
 
とにかく今は、一時しのぎでも、カネを稼がなければならない。仕事は見つからないが、それは人に雇ってもらおうなんて考えるからだ。元手のいらない事業主になればいいのだ。

そんなわけで、大道芸をして投げ銭をもらうことにした。
といってもジャグリングなんかできないし、歌もダンスもトークもダメだから、声態模写でもするしかない。
私のレパートリーは、田中角栄、いかりや長介、横山やすし、の三人である。

「ま、しょの~」
「だめだこりゃ」
「怒るで、しかし」

おそらく前フリを入れても、1分以内で全部終るだろう。これでは話にならないのでレパートリーを増やさなければならない。
最もナウなヤングにウケる声態模写といったら何だろう。光源氏、渋柿隊、近畿キッズ、ブイシックスあたりだろうか。
しかし集客を考えると、ナウなヤングだけでなく、あらゆる年齢層にウケるものをしなければならない。ただ、ガキにはウケなくていい。カネをもっていないからだ。
また、主婦、学生、医者、役人、セールスマン、ホステス、軍事アナリスト、魚屋など、さまざまな分野の人に人気のある人物の声態模写をマスターして客層を広げようと考えている。
以下は、これから話し方をマスターしようと思っている有名人だ。
 
・足立紘子
・谷坂ひとみ
・木戸川絵里
・内山ミキ
・李章子
・森崎瑞枝
・エミコ・グリーンバーグ
・垂ノ峰はん子

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