「なんや雨か。....刺身にしたろか」
最近聞いた独り言のなかで、いちばん印象に残っているのがこれです。
昼の2時ころだったでしょうか、大阪市内にある扇町公園で、私の隣のベンチを占領して昼寝をしていたホームレスと思われる男性が、急に降ってきた雨に目を覚まして、不機嫌そうに体を起こしながら漏らした言葉です。
そういえば、黒澤明監督の『用心棒』のなかで主人公の浪人(三船敏郎)が、奪われた刀の代わりに包丁を持ち、「刺身にしてやる」と言いながら敵のいる宿場町に向かうシーンがありました。
ひょっとしたらこの人は、ホームレスになる前は映画好き、なかでも三船敏郎の出演している黒澤映画にはちょっとうるさい大企業のエリートだったのかもしれません。
そして、今、ホームレスの世界に身を落としている彼を、かつていた世界とまだつなげているもの、それが三船敏郎、つまり刺身なのかもしれません。
きっとホームレスになって以来、通行人にジロジロ見られると「なに見とんねん。刺身にすんぞ、こら」、拾った段ボールがどれもカネになりそうなモノでないと「くそ、こいつらみんな刺身にしたる」、大阪市がホームレスを公園から追い出して宿泊施設に入れようとすると、「どんな施設か知らんけど、そんなもん刺身にしたら」と、毒づいてきたのでしょう。
「なんや雨か。....刺身にしたろか」
これは、雨を刺身にしてやるとか、雨というものを創造した神を刺身にしてやるとか言っているのではなく、かつての世界への未練を断ち切れない自分を刺身にしてやると言っているのでしょう。
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