以下は、7月11日に開催された「同志社大学リエゾンオフィス・知的財産センター開設10周年記念フォーラム」における妖艶なエコノミスト・浜矩子の基調講演の抄録である。
演題は、~ 日本経済の動向と産官学連携の有用性 ~ であり、本語録は次の3編に記録し、本編はその(2)である。
(161)日本経済はファウスト症候群、(162)ストック大国日本を世界が注視、(163)日本は輸出立国ではない
~・~ 勢いがあった頃の日本経済の事を我々はフローの経済と呼びました。 ストックとフローという考え方でいくと「日本は、ストックはないけれどもフローがある経済だよな」と、1970年代の半ばあたりまで盛んに言っておりました。
この場合のストックといえば「蓄え」でございまして、フローは「勢い」ですね。 「日本は戦後の焼け跡経済で富の蓄積は全くない、だけれども、それを補って余りある成長力がある」と自慢していたわけです。 そういう自己認識を日本は持って、世界中はそれを認めていたわけです。
しかし、その時代のイメージと今の日本はあまりにも違う。 180度違うところに我々は到達して来たと言って宜しいかと思います。
かつての日本は、ストックがない、蓄えがない、富がない。 フローはある、成長力という勢いは著しかった。 今我々はそれを懐かしんでいる。 願わくば、そこに戻りたい。 そこにいたいというファウスト症候群に陥っているわけでございますが、実際に我々が到達しているこの場所は、これまでの姿とは180度違います。
今の日本は確かにフローがなく、勢いが著しいとは言えなくなってきていることは間違いない。 しかし今まで蓄積してきたストック、蓄えの大きさ、懐の深さというものは驚くべきものがあるわけで、日本は今や最大の債権国でございます。 経済の規模は中国に抜かれて世界で3位ということになりましたが、あんな巨大で育ち盛りの中国に抜かれることは当たり前の時代のことでございまして、なんら驚くに値しないのでございます。
一方において、日本は世界最大の債権大国、借金分を差し引いた純貯蓄において世界で一番大きい。 こういうレベルでみると日本は世界で最大の経済でございます。 ひらたく言えば日本は世界で一番リッチな一番裕福な経済、ということになってきた訳でございます。
この豊かさというものをどう認識し、どう使って行くか? このことが日本に課せられた最大の課題であると言って過言ではございません。
かつてフローであって日本が、180度異なるストックの経済に今やなっていることをまず認識することから始めなければなりません。
そうすれば、これからの日本経済をどういうふうにして行くのか、どこに問題があって、そこにどのように手を付ければ閉塞感なるものから脱却することができるのか、どこを軸に産官学の間で提携をして行けば新たな大地に足を踏み込むことができるのか、という事が見えて来るのでございます。
それが見えるためには、まずはファウスト症候群から脱却しなければどうしようもありません。
「成長よ再び。勢いよ再び」ということに拘泥すればするほど次の事は見えてこない。 昨日の夢ほど明日の夢の邪魔になるものはありません。
日本経済に対する認識のずれ、ミスマッチは色々なところで見られます。 たとえば円高が進行していると「輸出大国の日本には非常に悪い-材料だ、何とかしないと」と話が展開することになるわけですが、実際に間の当たりで円高が進行することですぐさま辛い現状になる型がたくさんいらっしゃることはもちろん私も承知しておりますけれども。 念のために申し上げれば、1ドル50円の世界はそこまで来ているという現状でございますので、その発想でご準備をなさることが重要な事でございます。 1ドル50円はすぐそこに、ユーロという通貨が消滅する時もそこに迫って来ているわけでございますから、そのような観点から今の状況を見ていただく事が重要なことでございます。
特に、ユーロという通貨なくなった場合に備えて17カ国のユーロ以前の通貨名を思い出しておいたほうが宜しいかと存じます。 (中略)~・~ 以下、次編
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