20414年元旦、社説のキーワードは、「心・技・体」の三位一体である。
産経は『国民が日本人の精神の芯を「取り戻す」ための活動に取り組む時代が始まることを願う』。と精神論を、日経は『スマートパワー』という言葉で技術論を、読売は『「経済」と「中国」に万全の備えを』と体力論を説いた。
朝日は『投票日だけの「有権者」ではなく、日常的に「主権者」としてふるまうことを再評価する考え方』を説き、毎日は安倍晋三首相の靖国参拝批判に終わった。
以下、2014年元旦の5大紙社説の抄録である。
■朝日新聞(社説):政治と市民―にぎやかな民主主義に
行政府が強くなり、立法府が弱くなる。これは必ずしも新しい問題ではない。しかし近年、海外でもあらためて議論されるようになっている。 背景の一つはグローバル化だ。
たとえば、フランスの民主主義研究の大家ピエール・ロザンヴァロン氏は「カウンター・デモクラシー」という言葉で、議会制民主主義のいわば外側にある仕組みへの注目を促す。 豪シドニー大学のジョン・キーン教授も、行政を監視する市民のネットワークや組織を重視する。最近邦訳が出た「デモクラシーの生と死」という著書で、それを「モニタリング民主主義」と呼んでいる。
いずれも投票日だけの「有権者」ではなく、日常的に「主権者」としてふるまうことを再評価する考え方ともいえる。
そんな活動はもうあちこちに広がっている。新聞やテレビが十分に伝えていないだけだと批判をいただきそうだ。確かに、メディアの視線は選挙や政党に偏りがちだ。 私たち論説委員も視野を広げる必要を痛感する。
場合によってはこれから2年半、国政選挙はない。それを「選挙での多数派」に黙ってついていく期間にはできない。異議申し立てを「雑音」扱いさせるわけにもいかない。 もっとにぎやかな民主主義で応える新年にしたい。
■産経新聞(正論):「日本人に返れ」の声が聞こえる(文芸批評家 都留文科大学教授・新保祐司)
第2次安倍晋三政権の「日本を取り戻す」というスローガンは、実現に向けて着々と政策が打ち出されているが、年頭にあたり、今年こそ国民が日本人の精神の芯を「取り戻す」ための活動に取り組む時代が始まることを強く願う。
出光興産の創業者、出光佐三が昨今話題になっていて、『日本人にかえれ』と題した著作がある。 この40年ほど前の呼びかけは、今日一層の重みを持って日本人の心に響いてくるのではないか。
今や、日本人は精神の芯を大方(おおかた)失ってしまったからである。 文明開化以降150年ほど経過して、特に「戦後民主主義」の下で日本人であることからあまりにも離れてしまった現在の日本人は、改めて「日本人にかえ」らなければならなくなったのである。
出光佐三の言葉に「僕は青年に呼びかける。政治家をあてにするな、教育に迷わされるな、そして祖先の伝統の血のささやきを聞き、自らを頼って言論界を引きずれ、この覚悟をもって自ら鍛錬し、修養せよ、そして、その目標を明治時代の日本人たることに置け」という呼びかけがあるが、この「祖先の血のささやきを聞」くことによって日本人は「日本人にかえ」ることができるのであり、戦後の風習や世上を覆う通念から「脱却」しなければならない。
■日本経済新聞(社説):変わる世界に長期の国家戦略を
大きな戦略を立てて、ちょっと長い視点で、復活への道筋を整えていく必要があるだろう。
世界に影響を及ぼす力がハードだけではなくなっているのも無視できない。 国際社会で信頼を得るには、文化や価値観などのソフトパワーが一段と大事になっているからだ。ハードからソフトへのパワー移行も進んでいる。
日本として、日米同盟というハードと、日本の文化と価値観というソフトのふたつの力をうまく使い分けるスマートパワーで、中国と向き合っていくしかない。そのためにも、国の力の源泉である強い経済の復活が欠かせない。
アベノミクスは経済から入って、国力を取り戻すための短期の国家再生プランである。 金融緩和、財政出動、成長戦略の3本の矢という政策手段を通じてデフレから脱却し、「日本再興」をめざす方向性はまちがっていない。
■毎日新聞(社説):民主主義という木 枝葉を豊かに茂らそう
慌ただしい師走だった。特定秘密保護法、初の国家安保戦略、そして靖国参拝。政権与党と安倍首相の、力の政治がそこにあった。
民主主義とは、納得と合意を求める手続きだ。 いつでも、誰でも、自由に意見を言える国。 少数意見が、権柄ずくの政治に押しつぶされない国。 それを大事にするのが、民主主義のまっとうさ、である。
いまの社会は、どうか。 あらゆる政策を、賛成する側と反対する側に分け、多様な世論を「味方か」「敵か」に二分する政治。対話より対決、説得より論破が、はびこってはいないだろうか。
そんな象徴が、靖国だ。 靖国神社をどう考えるかは、戦没者の追悼のあり方という、国のかたちの根幹にかかわる問題を考えることである。 原発とエネルギー、集団的自衛権や憲法改正などと同様、私たち一人一人の未来を大きく左右するテーマだといっていい。
■読売新聞(社説):「経済」と「中国」に万全の備えを
デフレの海で溺れている日本を救い出し、上昇気流に乗せなければならない。
それには、安倍政権が政治の安定を維持し、首相の経済政策「アベノミクス」が成功を収めることが不可欠である。 当面は、財政再建より経済成長を優先して日本経済を再生させ、税収を増やす道を選ぶべきだ。 そのうえで、年金・医療などの社会保障、安全保障・危機管理、エネルギーなどの政策分野に投資し、中長期的に国力を上昇させていくことが肝要である。
対外的には、アジア太平洋地域の安定が望ましい。
中国が東シナ海とその上空で、強圧的な行動をエスカレートさせている。 日本との間に偶発的衝突がいつあってもおかしくない、厳しい情勢が続く。 日中両国の外交・防衛当局者による対話を重ねつつ、日米同盟の機能を高めることで、軍事的緊張を和らげねばならない。
今年も「経済」と「中国」が焦点となろう。 この内外のテーマに正面から立ち向かわずに、日本が浮上することはない。
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