ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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“悪魔の弁護人” カトリック教会とゾンビに学ぶ少数意見の効用

2017-11-03 22:58:22 | 時事
国会のことが話題になっています。

臨時国会を開くか開かないか、そして、質問時間の配分を変えるか変えないか……

前回の記事でも書きましたが、ここには「反対意見が出ないところで物事を決めて大丈夫か」という問題がひそんでいます。

今回は、この問題を私なりにもう少し掘り下げてみたいと思います。


唐突ですが、カトリックの聖人の話をしましょう。

カトリック教会は“聖人”というものを認定していますが、ある人を聖人として認めるかどうかは会議で決められます。その会議の際に、かつて“悪魔の弁護人”というものを置いていたそうです。

“悪魔の弁護人”に選ばれた人は、必ず反対意見を述べなければなりません。

反対意見が出ないところで物事を決めるのは危険だという認識があるからでしょう。反対意見というのは、無理をしてでもひねり出すべきものなんです。

この“悪魔の弁護人”と似た考え方が出てくる映画があります。

『ワールドウォーZ』という映画です。

これはいわゆるゾンビ映画ですが、この作品の中で、ゾンビウィルスが蔓延する世界の安全なシェルターとしてイスラエルが出てきます。
登場人物の語るところでは、過去の中東戦争の経験から、イスラエルでは、意思決定の際に必ず反対意見を述べる人を作るようにしたのだそうです(イスラエルに実際にそういう仕組みがあるのかは知りませんが……)。
その人は、どんなに馬鹿げていたとしても、何かしら少数意見を述べなければいけません。
そして、この映画においては、その「馬鹿げた少数意見」が結果としてイスラエルを救うことになります(もっとも、最終的にはゾンビの侵入を許してしまいますが)。

少数意見の重要性というのは、そういうことです。

無理してでも少数意見をひねり出す。それによって、多くの人が気づかなかった問題点に気づくことができるかもしれませんし、ふつうなら想定外の事態も想定に入れることができるようになるかもしれません。

ひところ日本でブームになったサンデル教授も、たとえどんなに正しそうにみえる意見に対しても何か反論を提示するように受講者に促していました。

健全な話し合いであるためには、そういうことが必要なんです。

反対意見は絶対に必要です。たとえそれが「反対のための反対」であったとしても。反対意見が出ないところで物事を決めるのは、とても危険だからです。

そういうい見方からすると、ちかごろ、この国のいろんなところで反対意見を排除した意思決定が行われているようにみえることに、とても危うい感じをおぼえずにいられません。

手塚治虫『三つ目がとおる』

2017-11-03 15:06:46 | 漫画
今日11月3日は何の日でしょうか?

文化の日……

もちろんそうなんですが、じつは手塚治虫の誕生日でもあります。

というわけで、今回は、手塚治虫について書きます。

拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』の川出正樹さんの解説に「怪奇系本格ミステリと漫画とロックを滋養とする村上暢」とあるように、私は名作漫画の数々にも大きく影響を受けています。なので、このブログで漫画のことなんかも書いていこうかと。


手塚治虫といったら名作がいくつもあるわけですが……そのなかで今回ピックアップするのは、『三つ目がとおる』です。

 

この作品を取り上げる理由は三つほどあります。

まず一つは、あまり有名な作品でもあれなんで、手塚作品のなかでそこまでメジャーではないものを……ということです。
アニメ化もされた有名な作品ではありますが、『鉄腕アトム』とか『火の鳥』とかに比べれば、そこまでメジャーではないでしょう。

二つ目は、この作品はミステリーを志向しているということです。

この漫画の主人公である写楽保介と、ヒロインである“和登サン”の名前は、某有名ミステリー作品からとられています。

わかるでしょうか?

そう……シャーロック・ホームズと、ワトソンです。

ちょっと苦しいのでわかりづらいんですが、そういうことなんです。
わたくしもミステリーを書く人間ですから、ミステリーの元祖とも目されるホームズから名前をとっているこの作品がふさわしいんじゃないかと思った次第です(実際には、描いているうちに方針が変化してしまったようで、あまりミステリー的な作品にはなっていないんですが……)。


さて最後に、三つ目の理由はなんなのか……
ということはちょっと脇において、作品の内容を紹介します。


『三つ目がとおる』は、1970年代にマガジンで連載されていた漫画です。

この作品に登場する“和登サン”こと和登千代子は、自分のことを「ボク」と呼ぶ、いわゆる“ボクっ娘”の元祖とされています。そういう意味でも、漫画史上に残る名作ですね。
ちなみにこれを連載しているときに、手塚治虫はチャンピオンにも連載を持っていました。
それが、あの『ブラックジャック』です。
『三つ目がとおる』だけでも名作ですが、それを描く一方でもう一つ連載をもっていて、しかもそのもう片方がブラックジャックだというんですから、手塚先生は神すぎです。

主人公の写楽は、超古代文明を築いた“三つ目族”の末裔で、額に第三の目を持っています。
ふだんはさえない中学生ですが、三つ目の力を解放すると、超能力を発揮するのです。
しかし、三つ目族である彼は、人間の考えるような善悪の観念を超越していて、しばしば暴走します。それがあまりに危険なので、ふだんは絆創膏で第三の目を隠しています。
そんな写楽と和登サンが、古代文明の謎をめぐって冒険する……というのが、大まかな筋です。

超古代文明というオカルトチックな設定がこの漫画の一つの見所ですが……

しかし、それ以上に和登サンというキャラが素晴らしい。

手塚作品の魅力的なヒロインたちのなかでも、和登サンは屈指の名ヒロインといっていいでしょう。作中の扱いをみても、手塚治虫が彼女に並々ならぬ愛着を持っていたことがうかがえます。この和登サンというキャラによって、『三つ目がとおる』は名作になっているんだと思います。
現代のコードからするとNGとされてしまうような描写も少なからずありますが、そこは時代の違いということでスルーしましょう。とにかく、『三つ目がとおる』は、漫画史上にその名を刻む名作なんです。

で、三つ目の理由なんですが……

それは、ちょっと長い話になりそうなので、また、回をあらためて書こうと思います。