今回は、音楽批評の記事です。
前回は、イーグルスの「エデンからの道、遥か」を取り上げましたが、それに通ずるところがあるように感じられる、ジャクソン・ブラウンの「カジノ・ネイション」という曲を取り上げます。
この曲は、ジャクソン・ブラウンが2002年に発表したアルバム『ネイキッド・ライド・ホーム』に収録されています。
ジャクソン・ブラウンがイーグルスと深いつながりを持っていて、アメリカ社会に対する問題意識もかなりの程度まで共有しているということは以前も書きました。そういう背景もあって、この曲は、イーグルスの「エデンからの道、遥か」とベクトルを共有しているように思われるのです。
砂漠のような荒涼とした曲調もそうですし、歌詞の内容もそうです。
キリストの名のもとに兵器を製造する国で
自由世界の名高いるつぼで
カメラクルーは破片の山のなかに手がかりをさがす
アメリカに対する辛辣なまなざしが感じられます。
自由世界の名高いるつぼで
カメラクルーは破片の山のなかに手がかりをさがす
アメリカに対する辛辣なまなざしが感じられます。
あらゆる場所で 善人たちは永久戦争にそなえ
兵器がその計画を練るのにまかせている
兵器がその計画を練るのにまかせている
ジャクソン・ブラウンという人は、もう何十年も前からアメリカの影の部分を告発してきました。
そして、時代が変わっても、程度の差はあれ、そうしたスタンスはなくなっていません。
それは、彼の姿勢がぶれていないということなのですが、また同時に、アメリカの暗部が暗部のままであり続けているということでもあります。そうであるから、ジャクソン・ブラウンはそれを告発しないわけにはいかないのです。
もちろん、告発しているばかりではなく、変化への希望を歌ってもいます。
たとえば、このアルバムでいえば、About My Imagination という歌があります。
僕は目を開けたままで 見ようとした
目の前で起きていることの意味を
目の前で起きていることの意味を
と始まるこの歌は、「そんなに長いあいだ目を開けたままにしておくなんて僕は愚かだったんでしょうか」と歌ったごく初期の歌 Doctor My Eyes への応答のようでもあります。
はじめに過去形で語られたこのフレーズは、中盤では現在形に変わります。
僕は目を開けたまま 見ようとしている
この人生の可能性を
たくさんの変化、悪いほうへの変化のなかでも
頭をあげていなきゃいけないよ ベイビー
ゆりかごから墓場までね
この人生の可能性を
たくさんの変化、悪いほうへの変化のなかでも
頭をあげていなきゃいけないよ ベイビー
ゆりかごから墓場までね
そして終盤では、People get ready というどこかで聞いたような言葉も出てきて「みんな船に乗る準備をするんだ」と歌われます。この歌にはこういう本歌取り的なところがあって、About My Imagination というタイトルも、ひょっとしたら「イマジン」を意識しているのかもしれません。
歌の最後は、こうしめくくられます。
僕は祈っている
奮い立ちながら
もっと光を もっと愛を
もっと真実を もっと革新を
奮い立ちながら
もっと光を もっと愛を
もっと真実を もっと革新を
こう聞いていると、尾崎豊っぽいところがありますが、尾崎豊も、ジャクソン・ブラウンからかなり影響を受けていると語っています。そういうところにも影響を与えている人なんです。
……と、ここまで歌詞のことばかり書いてきました。
ジャクソン・ブラウンというとどうしても歌詞のことが注目されるんですが、もちろん音楽的にも高い評価を受けています。
“ウェストコーストの弦の魔術師”と呼ばれるデヴィッド・リンドレイと活動をともにすることがよくあり、マニアックな弦楽器を曲中に使ったりしていますし、近年はアメリカ先住民のミュージシャンとともに活動していたりもするそうです。そういう方向への探求は、彼が根底に持っている価値観と密接に結びついています。そういう確固とした芯を持っているために、ジャクソン・ブラウンはレジェンド的存在であり続けているのだと思います。