数理論理教(科学教)の研究

数理論理(科学)はどこから来て、どのような影響を与え、どこに行こうとしているのか、少しでも考えてみたいと思います。人文系

免疫(1)自然免疫と獲得免疫 生物進化との関係

2023-07-21 15:15:31 | 免疫
 免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」があります。
1.自然免疫
 「自然免疫」は植物・菌類・昆虫・原始的な多細胞生物が持っている古くからある防御システムで、「獲得免疫」と比べると原始的であるかのようにも言われています。
 しかし「自然免疫」は、様々な抗菌物質(抗微生物ペプチドなど)やRNA干渉なども用いて行われており、そのシステムは相当巧妙にできています。まだ解明(発見)されてない自然免疫システムもあるようで、現在まだ研究中のものも多いようです。
 例えば医薬品の抗菌薬として用いられている「抗生物質」は、元々は微生物が他の微生物などを抑制するために編み出した化学物質であり、それをヒトが偶然発見して、借用しているものです。
 ほとんどの生物は貪食細胞としてのマクロファージを持っていますが、特に脊椎動物では進化して様々な血液細胞(白血球など)になり、ヒトなどでは「自然免疫」の主要な防御システムとなっています。
 なお「自然免疫」での病原体の認識の仕方は、病原体に共通する構成部分(例えば細菌のべん毛の一般的なタンパク質配列の一部など)を探知するパターン認識によりよるものです。このパターン認識は遺伝子レベルで識別されているため、生まれながらにして持っているものです。ヒトでは白血球がこのパターン認識能力を持っていると考えられてきましたが、研究が進んだことにより、ほぼすべての身体中の細胞にこの能力が備わっているということが分かってきました。

2.獲得免疫
 一方「獲得免疫」を持っているのは、脊椎動物だけです。閉鎖血管系の脊椎動物では、マクロファージから進化したと考えられる血液細胞(白血球・赤血球・T細胞・B細胞など)が発達しています。
「獲得免疫(主役はT細胞やB細胞)」は病原体を(パターン認識ではなくて)個別具体的な特徴(新型コロナウイルスならそれが固有に持つ構成部分)により認識して、それを抗体やキラーT細胞が攻撃し、またその個別具体的な特徴を記憶(少数のコピー細胞を残存)することができます。
 T細胞やB細胞が無限のようにいる病原体の個別具体的な特徴を認識できるのは、乱数製造装置のような仕方で、自己遺伝子をランダムに改変することができるシステムがあるからです。そのため病原体・自己細胞や食物などすべての個別具体的な特徴に適合する認識記号を持つ細胞を予め作り出して待ち構えています。遺伝子には乱数製造システムそのものの設計はありますが、生まれた後にそのシステムが稼働して獲得免疫を作り出します。その後に胸腺などで、自己の細胞や食物などの特徴を持つ認識細胞(獲得免疫)は不要なため(自己免疫反応を起こしてしまうため)、細胞死に至らせ、未知の病原体だけに対する迎撃態勢を敷いています。ただし近年の研究で、自己免疫反応を起こす獲得免疫はすべて排除されるのではなく、結構残存してしまうことが分かったそうです。
 なお脊椎動物では「自然免疫」と「獲得免疫」の両方を持っていますが、それぞれの免疫システムは連携して働いています。

「赤血球や血小板、好中球、マクロファージ(食細胞)、リンパ球など、体内には様々な血液の細胞が存在しますが、その進化的起源については不明な部分が多く、マクロファージはほぼ全ての動物にも存在することから、「マクロファージが起源であろう」と漠然と推測されてきただけでした。本研究では、マウスから単細胞生物にまで渡る広範な生物種の遺伝子発現状態を包括的に比較し、血液細胞の起源がマクロファージであること、その遺伝学的特徴が単細胞生物から保存されていることを突き止めました。
 
 
…脊椎動物において、赤血球や T 細胞などの多様な血液細胞がいかにして出現したのかの解明に挑み ました。赤血球や、巨核球、T 細胞、B 細胞では、CEBPが発現すると、もとの状態を失ってマクロファージ へと転換してしまいます。したがって、これらの血液細胞では、CEBPは抑制され続けなければなりません。 どうやって CEBPが抑制されているのかをマウスを用いて調べたところ、赤血球や、巨核球、T 細胞、B 細胞 に共通して、ポリコーム複合体 が抑制していることが明らかとなりました。マウスの血液細胞で、ポリコ ーム複合体の構成蛋白である Ring1A と Ring1B を欠失させてポリコーム複合体の機能を失わせると、赤血球、 巨核球、T 細胞、B 細胞において CEBPの発現が上昇し、マクロファージへと転換してしまうことがわかり ました。 
(引用終わり)」


「…驚くべき事実は、これらの種々の病原体センサー分子が、じつは白血球だけでなく、身体中のほとんどの細胞が発現いているということでした。」

「抗生物質(こうせいぶっしつ、英語: antibiotic)は、微生物が産生する、他の微生物や細胞に作用してその発育などを抑制する作用を持つ物質のことである。これまでに200種類以上の抗生物質が細菌感染症の治療と予防に広く使用されている。また、抗生物質の抗菌作用を利用した薬剤の総称として抗生剤と呼ばれることもある。抗生物質は細菌に対して作用する抗菌薬として使用されるのみならず、真菌や寄生虫、腫瘍に対して用いられることもある。
…抗生物質を合成の観点から捉えると、抗生物質は放線菌などの微生物が、生存に必須な一次代謝産物を基に合成する二次代謝産物である。これまでに臨床的に使用されてきた抗生物質の約60%は放線菌に由来し、抗生物質は土壌から抗生物質を産生する放線菌のような微生物を分離することで発見されてきた。ほとんどの抗生物質は化学的に合成することが困難な構造を持つため、その生産は発酵によって成し遂げられる。また、発酵により産生した抗生物質はさらに化学的な修飾を加えることで、半合成の抗生物質として用いられることもある。このように生産された抗生物質はヒトの医療用途で治療・予防に使用されるほか、動物や植物に対して使用されることもある。」


「抗微生物ペプチド(こうびせいぶつペプチド;宿主防御ペプチド[しゅくしゅぼうぎょペプチド]とも呼ばれる)は、進化的に保存された自然免疫反応の1種として機能するペプチドの総称であり、あらゆる種類の生命で認められる。原核生物と真核生物の細胞には基本的な違いがあり、それは抗微生物ペプチドの標的の違いを表しているのかもしれない。これらのペプチドは薬効を持ち、広いスペクトルをもつ抗生物質であり、新規治療薬としての可能性を示している。抗微生物ペプチドはグラム陰性およびグラム陽性細菌(通常の抗生物質に耐性のある種を含む)、マイコバクテリウム属 (結核菌を含む)、エンベロープを持つウイルス、真菌、および濃度によっては哺乳類細胞でさえ殺すことが示されている。通常の抗生物質の多くとは異なり、抗微生物ペプチドは 免疫調節薬として機能することで免疫力を高めることができるようにみえる。 」

「抗菌ペプチドとは、名前から想像できるように「菌に抗(あらが)うペプチド」のことを指します。抗菌ペプチドは、タンパク質の最小単位であるアミノ酸が約十~数十個連なって形成されており、我々ヒトを含めた哺乳類や植物、昆虫などあらゆる多細胞生物に菌と戦うための生体防御の機能として備わっている物質です。ペニシリンに代表される抗生物質が菌のDNA合成を阻害したり、タンパク質の生成を阻害したりするのに対し、抗菌ペプチドは菌の細胞膜を直接攻撃することで殺菌作用を発揮します。その作用は、抗生物質のような耐性菌を生み出しにくいことから、有用性が着目されています。
 ヒトでは、外部と接触する皮膚や口腔、消化器、泌尿器など、ありとあらゆる部位で抗菌ペプチドが産生されており、菌の増殖を抑制することで生体と菌との共生関係の維持に大いに関係しています。抗菌ペプチドの減少や欠如が疾患と関係する事例もあることから、抗菌ペプチドが生体防御にとっていかに重要であるかがわかります。 」

「かつて、カエルの皮膚の切開手術をしていた科学者がいました。彼は、傷口に特別な処置をしないままカエルを飼育水中に戻しても、元気に生き続けることを経験的に知っていました(筆者も同じ頃、同じことに気付いていました)。ある時、その科学者はこのことを不思議に思い、ひょっとしたらカエルの皮膚には細菌の感染を抑制する物質が存在するのではないかという考えを持ちました(筆者も同じことを思いました)。そして彼は、ゼノパスの皮膚からMagaininという抗菌性を有する物質を、ペプチドとして単離することに成功しました。抗菌活性を有するペプチドが初めて単離された瞬間でした。 
…抗菌ペプチドの発見が何ゆえエキサイティングであるかというと、抗菌活性がペプチドの構造に由来するものであり、広い範囲の微生物に作用する点にあります。これが、ピンポイントで効く抗生物質と大きく異なる点です。私たち哺乳動物は異物の侵入に対し働く免疫系がよく発達していますが、カエルではあまり発達していません。まして我々と同じような免疫系をもたない生物もたくさんいます。このような生物では我が身を守る手段として、抗菌ペプチドが重要な役割を果たしています。 
 平たくいうと、抗菌ペプチドはカエルの体外に分泌されるとバネのようならせん状構造になり、またプラスの電荷を帯びます。ターゲットである微生物の細胞膜はマイナスに荷電しているので、両者は引き合います。加えて、これらのペプチドやタンパク質中に見られるらせん構造は、細胞膜中の脂質と馴染み、膜を突き抜け易い、という化学的な性質があるので、その結果、抗菌ペプチドが大量に集積した部分では、微生物の細胞膜に穴があく、というわけです。 」


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