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数理論理教(科学教)の研究

数理論理(科学)はどこから来て、どのような影響を与え、どこに行こうとしているのか、少しでも考えてみたいと思います。人文系

ウイルスとは何か(5)ウイルスの種類 カリシウイルス科 ノロウイルス

2023-07-05 16:30:20 | ウイルス
1.ウイルスの種類
(1)RNAウイルス
(ⅰ)一本鎖RNA
    カリシウイルス
 この科には、ヒトの食虫毒(感染性胃腸)で有名な「ノーウォークウイルス(ノロウイルス)」や猫の風邪の原因である「猫カシリウイルス」などが属しており、宿主は、脊椎動物・爬虫類・両生類などのようです。
 ノンエンベロープウイルス(脂質等の膜で包まれていない)なので、コロナウイルスのようにアルコール消毒はあまり効きません。そのためノロウイルスには加熱と正しい手洗いが有効のようです。
 ノロウイルスはGIからGVの遺伝子群に分かれ、ヒトに感染するのはそのうちGⅠとGⅡタイプですが、さらにGⅠでは14種類(GI/1~GI/14)、GⅡでは21種類(GII/1~GII/21)の遺伝子型があるようです。ゲノムの組み換えにより、抗原性の違うタイプのものを作れるようです。まるで乱数製造装置のようなので、これでは抗体防御も難しいと思います。


「 カリシウイルス科(カリシウイルスか、Family Caliciviridae)とはウイルスの分類におけるピコルナウイルス目に属する一科で、2019年現在、11属13種に分類されている。カリシウイルス科に属するウイルスは直径30 - 38 nmの正二十面体構造のビリオンを形成し、単一のプラス鎖一本鎖RNAをゲノムに持ち、2 - 3種類のORFが存在する。エンベロープを持たないためクロロホルムやエーテルに対する耐性を持つ。酸(pH3-5)によって不活化される。ネガティブ染色による電子顕微鏡観察ではビリオンは「ダビデの星」と呼ばれる特徴的な形態を示す。
 宿主は脊椎動物で、ヒト、ウシ、ブタ、ネコ、イルカ、ニワトリ、爬虫類、両生類などが知られている。代表的な種としては、ヒトなどの感染性胃腸炎の原因となるノーウォークウイルス、ネコの呼吸器疾患を引き起こす猫カリシウイルス、ウサギに出血病を起こす兎出血病ウイルスが挙げられる。」

  ベシウイルス属
  猫カリシウイルス
 猫の一般的な風邪の原因となるウイルスのようです。
 猫の感染症には以下のものがあるようです。

「ネコカリシウイルス(英: feline calicivirus, FCV)は、ネコの感染症「ネコカリシウイルス感染症」の病原体となるカリシウイルス科のウイルス。 
 FCVはネコのかかる代表的な呼吸器感染症の1つであり、初期には高熱やくしゃみ、鼻水やよだれを垂らす、食欲減退などの症状を起こす。症状が長引くと舌や口に潰瘍が出来たり、口内炎が出来るときもある。また潰瘍や口内炎の二次感染として肺炎を起こし、最悪の場合死に至る。
 ウイルスの感染力は強く、感染したネコと直接触れ合ったことによる感染、感染したネコのくしゃみ等による空気感染、感染したネコと人間との接触を介しての感染など多岐にわたる。実験では、乾燥した環境下にウイルスを置いた場合、3~4週間もの間ウイルスが生存していることが確認されている。
 子ネコの場合は、生後3 - 9週間程度までは母ネコから受け継いだ免疫によって守られるが、それ以降、生後10週間以降の子ネコは受け継いだ免疫がなくなってしまうためFCVに感染しやすくなり、症状が重くなることも多い。ただし3歳を過ぎる頃になると、発症しても軽微な症状のみか、感染しても発症しないことが多い。」

  ラゴウイルス属
「ウサギ出血病ウイルス(ウサギしゅっけつびょうウイルス、Rabbit haemorrhagic disease virus:RHDV)とはカリシウイルス科ラゴウイルス属のタイプ種。同義語としてウサギカリシウイルス(rabbit calicivirus:RCV)。ウサギ出血病ウイルスはウサギに高い伝染性を有する疾病であるウサギ出血病を引き起こす重要な病原体である。ウサギ出血病ウイルスはウサギにのみ感染し、ウサギの生息数の管理のためにいくつかの国で使用されたことがある。 」
「兎出血病(うさぎしゅっけつびょう、英: rabbit hemorrhagic disease)とは、兎出血病ウイルス感染を原因とする兎の感染症。
 国際獣疫事務局においてリストB疾病に指定されている。日本では家畜伝染病予防法において届出伝染病に指定されており、対象動物は兎。なお、日本獣医学会の提言で法令上の名称が「兎ウイルス性出血病」から「兎出血病」に変更された。」

 ノロウイルス属 
 食中毒の原因はノロウイルスとレオウイルス科のロタウイルス(2本鎖RNA)が主なもののようです。
「ノロウイルス(英語: Norovirus)は、もっとも一般的な胃腸炎の原因である。感染者の症状は、非血性下痢、嘔吐、胃痛が特徴である。発熱や頭痛も発生する可能性がある。症状は、通常ウイルス曝露後12〜48時間で発症し、回復は通常1〜3日以内である。合併症はまれだが、特に若人、年配者、他の健康上の問題を抱えている人では、脱水症状が起こることがある。ノロウイルス属による集団感染は世界各地の学校や養護施設などで散発的に発生している。「NV」や「NoV」と略される。俗称は「冬の嘔吐虫(Winter vomiting bug)」。
 ウイルスは通常、糞口経路によって伝播し、汚染された食品や水、または人と人との接触による可能性がある。汚染された物体の表面を介したり、感染者の嘔吐物からの空気を介して広がることもある。リスクファクターには、不衛生な食事の準備、密集した場所の共有がある。診断は一般的に症状に基づいて行われる。検査は通常なされないが、発生時に公衆衛生機関によって実施される場合がある。
 予防には、適切な手洗いと、ウイルス汚染された表面の消毒がある。消毒用アルコールはノロウイルスに対して効果的ではない。ノロウイルスへのワクチンや、特別な治療法は存在しない。管理には、十分な水分や静脈内輸液を飲むなどの支持療法である。経口補水液は摂取に好ましい水分であるが、カフェインやアルコールを含まない他の飲み物も役立つ。
 世界では、年間約6億8500万件のノロウイルス発症者と、20万人の死亡をもたらしている。先進国と発展途上国の両方で一般的である。5歳未満の人が最も罹患しやすく、発展途上国ではこの人口グループにおいて約50,000人が死亡している。ノロウイルス感染症は、冬季により多く発生する。ときにアウトブレイクを起こし、それは人口密集地で起こることが多い。米国においては食中毒ケースの約半分がノロウイルスであった。
…ノロウイルス属(ノーウォークウイルス種)はヒトに経口感染して十二指腸から小腸上部で増殖し、伝染性の消化器感染症(感染性胃腸炎)を起こす。
毒素は分泌せずに、十二指腸付近の小腸上皮細胞を脱落させ、特有の症状を発生させる。死に至る重篤な例はまれであるが、苦痛がきわめて大きく、まれに十二指腸潰瘍を併発することもある。特異的な治療法は確立されていない。感染から発病までの潜伏期間は12時間 - 72時間(平均1 - 2日)で、症状が収まった後も便からのウイルスの排出は1 - 3週間程度続き、7週間を超える排出も報告されている。年間を通じて発症するが、11-3月の発症が多く報告される。また、感染しても典型的な食中毒症状を呈さない不顕感染の比率は不明であったが、2015年に新潟医療福祉大学などの研究グループは 1% 程度の不顕感染者がいることを報告している。
 2007年5月に報告された厚生労働省食中毒統計による2006年の食中毒報告患者数は、71%がノロウイルス属(ノーウォークウイルス種)感染症である。

 ノロウイルスは感染すると十二指腸から小腸上部で増殖するようですが、細胞の表面にあるタンパク質CD300lf, CD300ldがレセプターのようです。
「細胞の表面にあるタンパク質CD300lf, CD300ldがマウスノロウイルスレセプターであることを発見しました。 」

 ノロウイルスはゲノム組み換えなどにより、粒子表面のアミノ酸配列が変異するなど、変幻自在でその正体を突き詰めることが難しいようです。ウイルスというのは本当に精巧にできていると思います。
 
「ノーウォークウイルス種は約7.6kbの1本鎖(+)RNAをゲノムとして持っています。その塩基配列の相同性によりGIからGVの遺伝子群に分類されています。このうち,ヒトに感染するのはGI,GIIおよびGIVの3つの遺伝子群のウイルスで,ヒトの感染症や食中毒から検出されるノロウイルスの大半はGIとGIIに属しています。GIIIはウシから検出されたウイルスで,近年ノロウイルス属に含まれるウイルスの中で唯一培養細胞での増殖に成功したマウスノロウイルスはGVに属しています。
 GIおよびGIIの各遺伝子群は,それぞれ少なくても14種類(GI/1~GI/14),21種類(GII/1~GII/21)の遺伝子型に分類されています。異なる遺伝子型は基本的に抗原性が異なります。後述のように,近年全世界的に流行しているノロウイルスは遺伝子型GII/4に属しています。
 ノロウイルスのゲノムには,ORF1(ウイルスの複製に関与する非構造蛋白質をコード),ORF2(構造蛋白質VP1をコード)およびORF3(VP2をコード)の3つの読み取り枠が存在しています。VP1はウイルス粒子を構成する主要な蛋白質で,その粒子表面に位置するP-ドメインのアミノ酸配列は多様性に富み,流行の中で変異を繰り返しています。また,ノロウイルスはORF1とORF2のジャンクション領域で,ゲノムの組み換えを起こします。組み換えを起こしているウイルスはキメラウイルスと呼ばれています。 」

「ノロウイルスはRdRp領域とVP1領域の間でゲノムの組換え(リコンビネーション)を起こすことが知られている。この領域はORF1,2 junctionと呼ばれており、リコンビネーションのホットスポットとして認知されている(4, 9)。ノロウイルスのゲノムリコンビネーションは、ノロウイルスの宿主への適合やウイルス病原性の変化等を理解する上で重要な現象なのだが、ノロウイルスのゲノタイピングを混沌とした状態に陥れている元凶の一つでもある。つまり、ORF1,2 junction上流のRdRp領域を用いたゲノタイピングと、下流のVP1領域を用いたゲノタイピングで異なる結果を与えるリコンビナント株が存在するためである。厳密に言えば、ノロウイルスの場合、分子時計が算出できていないので、リコンビナントが元株なのか、元株がリコンビナントなのか断定できない。つまり、どちらが祖先で、どちらが子孫か分からないのである。
 ノロウイルスは、現在までにVP1領域のゲノタイピングを用いて、36種類以上のタイプが報告されている(7, 13, 14)。やっかいなことに、ノロウイルスは予想以上に多数のリコンビナント株が存在することに加え、新しいタイプを報告した研究者が、独自に命名したゲノタイプ番号を新しいゲノタイプに付けるため、混沌とした状況に陥っている。」

 食パン工場の検品時に、感染していた作業員からノロウイルスが食パンに付いてしまったようです。作業員はビニール手袋やマスクや作業着を着用して、始業前には手などの消毒もしていたとのことです。これだと防ぐのはなかなか難しいと思いました。

 サポウイルス属 
「1977年、日本・北海道札幌市で幼児に集団発生した胃腸炎から、古典的なカリシウイルスとして知られるラゴウイルス(Lagovirus )に似た構造の小型球形ウイルスが確認され、「サッポロウイルス」と名付けられた。」

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ウイルスとは何か(4)ウイルスの種類  ビルガウイルス科 小麦・タバコモザイクウイルス、ジャガイモ モップトップ ウイルス

2023-06-24 10:11:24 | ウイルス
1.ウイルスの種類
(1)RNAウイルス
(ⅰ)一本鎖RNA
  ビルガウイルス
 この科のウイルスは、植物(小麦、ジャガイモ、トマトなど)を宿主にしています。棒状の単一分子のタンパク質でできた殻(螺旋状につながり鞘のようになっている)の中にRNAが入っています。また植物の細胞間を移動するタンパク質なども持っています。
 この科には、世界で初めて発見されたウイルスである、タバコモザイクウイルスが属しています。研究(実験)材料ととして重宝がられているようです。
 感染方法としては、土壌性の菌類や寄生性の原生生物などを媒介にするものもいるようです。それにしても、ウイルスの宿主、媒介生物や形状などは千差万別といいいましょうか、カオスなような多様性があると思います。

「ビルガウイルス科は、プラス鎖 RNA ウイルスのファミリーです。植物は自然宿主として機能します。この科のウイルスはすべて棒状であるため、この科の名前はラテン語のvirga (桿) に由来しています。現在、この科には 59 種があり、7 属に分かれています。 
 ビルガウイルス科のウイルスはエンベロープを持たず、硬い螺旋状の棒状の幾何学的形状を持ち、螺旋対称性を持っています。直径は約 20 ~ 25 nm で、ビリオンには中央の「運河」があります。ゲノムは、 3'-tRNA 様構造を持ち、ポリ A テールを持たない、直鎖状の一本鎖ポジティブセンス RNA です。属に応じて、1 つ、2 つ、または 3 つのセグメントに分かれる場合があります。コートタンパク質は約 19 ~ 24キロダルトンです。 」

 この属のウイルスは小麦などに主に感染するようです。農業の収穫収量を減らし、経済的な損失につながっているようです。
「フロウイルスは、ビルガウイルス科のウイルスの属です。イネ科、冬小麦、小麦、ライコムギ、エンバク、モロコシ、植物が自然宿主となる。この属には 6 つの種があります。この属に関連する病気には以下が含まれます: (SBWMV): 緑色と黄色のモザイク。 
  • 中国小麦モザイクウイルス
  • 日本の土壌伝染性コムギモザイクウイルス
  • オーツ麦ゴールデンストライプウイルス
  • 土壌伝染性穀物モザイクウイルス
  • 土壌伝染性小麦モザイクウイルス
  • ソルガム萎黄斑点ウイルス                                  
 フロウイルス属のウイルスはエンベロープがなく、棒状の幾何学的形状を持ち、螺旋対称性を持っています。直径は約20nm、長さは260〜300nmです。ゲノムは線状でセグメント化されており、長さは約 3.5 ~ 3.6 kb です。」 

「土壌伝染性小麦モザイクウイルスは現在、米国東部および中部の大部分に分布しています。1960年にヨーロッパで初めて報告されて以来、このウイルスはヨーロッパ大陸に急速に広がり、フランス、ドイツ、イタリア、イギリスで蔓延しています。土壌伝染性コムギモザイクウイルスの初期研究によると、ロゼット発育阻害の影響を受けやすい宿主遺伝子型が一般的であり、収量損失が 50% 以上記録されています。

 土壌性の小麦ウイルスはカビ類により伝染されるようです。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphytopath/80/100th_Anniversary/80_S143/_pdf/-char/ja
「菌類により媒介される土壌伝染性ウイルスは,ネコブカビ類とツボカビ類によって伝搬されるウイルスに大別され る.両媒介生物はいずれも植物の根に活物寄生し,同じよう な生活環,感染過程を示す.」

 この属のウイルスは小麦・大麦などを宿主としていますが、このウイルスに対して耐性をもっている宿主もいるようです。
 植物と病原体の戦いには凄まじいものがあるようです。

 「植物の主な病原体となっているのは、真核生物の真菌(植物の病原菌は菌糸を形成するものがほとんどであうため糸状菌という用語が使われることが多い)、原核生物の細菌、そしてウイルスの3つです。
…この植物と病原微生物のせめぎ合いは、「分子レベルの軍拡競争」に喩えられ、あたかも植物と病原微生物が互いに権謀術数をめぐらして、いかに相手を出し抜か競っているかのようです。(『植物たちの戦争』から)」
 どこもかしこも「戦争」だらけ? 

「ホルデイウイルス属のウイルスはエンベロープがなく、棒状の形状をしています。直径は約 20 ~ 25 nm、長さは 20 ~ 25 nm です。ゲノムは線状でセグメント化されており、三部分または四部分に分かれており、長さは約 3.3 kb です。 」
「ホルデウイルス属の大麦縞モザイク ウイルス(BSMV)は、主な宿主が大麦と小麦である RNA ウイルス性植物病原体です。BSMV の一般的な症状は、黄色の縞や斑点、モザイク、葉、成長阻害などです。これは主に感染した種子を介して広がりますが、感染した宿主と感染していない宿主の機械的移入によっても広がる可能性があります。BSMV に感染した植物は、気温が高いほど症状が現れやすくなります。耐性宿主と器具の滅菌は、病原体の蔓延を制御する最良の方法です。BSMV は大麦の収量を最大 25% 減少させることが知られていますが、大麦には抵抗性品種があるため、大きな問題ではありません。 」
 
 このウイルスは寄生性の原生生物(真核生物のうち菌界・植物界・動物界にも属さない生物の総称)(ネコブカビ類 )を媒介にして、ジャガイモに感染するようです。
 「ジャガイモ モップトップ ウイルス (PMTV) は、ジャガイモに影響を及ぼすベクターSpongospora subterraneaを介して伝播する植物病原性ウイルスです。PMTV は、ビルガウイルス科およびポモウイルス属( Po tato mo p-top ウイルス)に属しますこのウイルスは 1966 年に英国のカルバートとハリソンによって初めて確認され、現在では米国、カナダ、中国、パキスタン、日本、南米諸国および多くの地域を含む世界の他の多くのジャガイモ栽培地域で報告されています。」


  この科のウイルスは広範囲な植物(アブラナ科・ウリ科・アオイ科・ナス科)に感染するようです。 

「トバモウイルスは、ビルガウイルス科のプラス鎖 RNA ウイルスの属です。タバコ、ジャガイモ、トマト、カボチャなどの多くの植物が自然宿主として機能します。この属に関連する病気には以下が含まれます: 葉の壊死性病変。トバモウイルスという名前は、最初に発見されたウイルス (タバコモザイクウイルス) の宿主と症状に由来しています。
 この属には 4 つの非公式のサブグループがあります。これらは、アブラナ科、ウリ科、アオイ科、およびナス科の植物に感染するトバモウイルスです。これらのグループ間の主な違いは、ゲノム配列とそれぞれの宿主植物の範囲です。この属には 37 種があります。」

「タバコモザイクウイルス(tobacco mosaic virus、TMV)は、タバコモザイク病を引き起こす病原体となる1本鎖+鎖型RNAウイルス。初めて可視化に成功したウイルスで、ウイルスの解明の初期の研究に大きな意義をもたらした。 
…TMVのウイルス粒子は棒状の外観を示し、長さ約300 nm、直径約18 nm。外側のカプシド(コート)は莫大な数の同一タンパク質分子からなり、らせん状(1周あたり16.3タンパク質分子)に結合して棒状構造を形成している。このタンパク質分子は158アミノ酸からなり(アミノ酸配列は最後に示す)、4本のαヘリックスがループ(ウイルス粒子軸の側に突き出る)を介して連結している。
 ウイルス粒子は内部に直径約4 nmの孔をもつ筒状であることが電子顕微鏡により示されている。RNAはその中の半径約6 nmの位置にらせんを作り、カプシドタンパク質により細胞のもつ酵素の攻撃から守られている。カプシドタンパク質1分子にRNAの3ヌクレオチドが結合している。
 RNA上にはカプシドのほか、RNAポリメラーゼ、植物内移動に関与するタンパク質などがコードされている。
 TMVは大量に得ることができ、数本のタバコ植物から簡単な操作でグラム単位のTMVが得られる。また動物には感染しない。これらの利点から、ウイルス粒子の会合・解離などに関する膨大な構造生物学・分子生物学的研究が行われてきた。」 

 どうも植物ウイルスは、傷口や媒介生物(昆虫・菌類等)により感染すると、細胞間を移動タンパク質により移行して、導管である維管束系に侵入して、全身へと広がっていくようです。
 必要最低限の遺伝子からこのようなパフォーマンスができるとは本当に驚異的です。物質・ウイルス・植物・動物(昆虫含む)は一つの複雑怪奇な生態系になって存在していうようです。

「植物ウイルスは植物体表面についた傷や昆虫などの媒介生物により植物細胞に侵入します。するとウイルスは直ちに植物細胞の翻訳機構を利用してウイルスタンパク質を翻訳し、ウイルスゲノムの『複製』を開始します。初期感染細胞で増殖したウイルスは、細胞間移行と呼ばれるステップに移りプラズモデスマータを介して隣の細胞に移行します。そして植物ウイルスは複製と細胞間移行を繰り返すことで周囲の細胞へと拡がったのちに、維管束系へと侵入し植物体全身へと拡大するのです(『長距離移行』)。 植物ウイルスは、『複製』・『細胞間移行』・『長距離移行』のすべてのステップで、自身のゲノムにコードされる限られた数の遺伝子を駆使し、植物細胞の代謝系に依存しながら植物タンパク質を巧妙に利用していると考えられています。 」

「植物ウイルスの伝染
 樹液を通して
 昆虫
 線虫
 ネコブカビ類」

「…CMVなどのモザイク病はアブラムシやハダニ、アザミウマなどの害虫がウイルスを運ぶことで発症するため、あらかじめ害虫の飛来を防ぐ工夫をしましょう。植物は、幼い苗の段階から防虫ネットや不織布(ふしょくふ)、寒冷紗(かんれいしゃ)をかぶせると防虫の効果があります。
 また、光るものを嫌うアブラムシの習性を利用し、植えつけの際にシルバーマルチを使用したり、株元にアルミホイルを敷く方法もおすすめです。そのほか、害虫を寄せつける粘着テープなども販売されているので、環境に合わせて試してみてください。」
 時々見かける「防虫ネット」や「寒冷紗」は、防虫が目的ですが、それが媒介するウイルスを防ぐ目的もあるようです。
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ウイルスとは何か(3)ウイルスの種類、レトロウイルス科 ヒト免疫不全ウイルス(HIV )、 ヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV)

2023-06-19 14:12:29 | ウイルス
1.ウイルスの種類
(1)RNAウイルス
(ⅰ)一本鎖RNA
 RNAウイルスで逆転写酵素を持つ種類のもので、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)やヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV)などが含まれます。感染するとRNAから逆転写酵素でDNAに変換して、宿主のDNAに紛れ込んでしまうようです。そして長期間潜伏して、宿主に病気を発症させるようですが、中には宿主の生存中まったく発症させないこともあるようです。
 それにしても、宿主を殺してしまうのはウイルスにとってもマイナスなのではないかと思うのですが、飛沫感染でもできなければすぐに他の宿主に乗り移ることも難しいと思います。何か進化上のメリットでもあるのでしょうか?
 なお、ヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV)(HIVではありません)のキャリアーは日本人に多くて、約100万人もいるとのことです(縄文人系に多とも言われています)。他にもまだ見つかっていない病気を発症させるウイルスがいて、すでに我々に潜伏感染していているということも考えられるかもしれません。
 なおレトロウイルスが生殖細胞に感染しない限り、遺伝としては引き継がれません。それにしても内在性ウイルスはどのように生殖細胞に感染できたのでしょうか?

「生殖細胞への感染 卵細胞にレトロウイルスが感染した場合、その卵細胞が受精して発生して誕生し た子のゲノムにはウイルスが内在化しています。一方で例えば、体細胞である白血球にレトロウイル スが感染しても、その白血球から子ができるわけではないのでウイルスの内在化は起こりません。ウ イルスの生殖細胞への感染と内在化したウイルスのゲノムへの固定は短期的には非常にまれな現象だ と考えられています。 」

 
「…ヒトに感染するレトロウイルスとして最初に発見されたのが、…「ヒト細胞白血病ウイルス」である。その名の通り、ヒト(成人)のT細胞に感染し、血液のがんといわれる「白血病」をもたらすウイルスだ。
…このウイルスは、T細胞のうち、特に細胞表面に「CD4」と呼ばれるタンパク質をつけているT細胞に感染する。こうしたT細胞は「ヘルパーT細胞」と呼ばれ、私たちの免疫システムの「司令塔」としてはたらく極めて重要な細胞である。
 そして、逆転写酵素を使って自らのRNAからDNAを合成し、それをT細胞のDNAに組み込んでしまう。こうして組み込まれたウイルス由来のDNAを「プロウイルス」という。
 ウイルスが感染してプロウイルスとして細胞中に存在しているにもかかわらず、かなり長い期間(およそ10~50年)、宿主たる本人は病気を発症しないのである。このような状態を「キャリアー」という。
 日本人にはこのキャリアーがじつに多く、およそ100万人ものヒトがHTLVのキャリアーであると考えられている。そして、この多数のキャリアーのうち、年間およそ1000人に1人程度が、実際に成人T細胞白血病を発症するのだあという。
 …飛沫感染などせず、基本的には性行為による男女間感染、授乳による親子感染がメインであるため、HLTVの感染と血縁関係との相関が強く、特に日本人の文化人類学研究に利用されることがある。

…HIVは、後天性免疫不全症候群、いわゆる「エイズ」を引き起こす原因ウイルスである。
…HIVも…HTVLと同様に「CD4」をつけているT細胞、すなわちヘルパーT細胞に感染する。
 ヘルパーT細胞は、「インターロイキン」と呼ばれるタンパク質を分泌することで、これを受け取ったT細胞(細胞傷害性T細胞)や、免疫応答の飛び道具として知られる「抗体」を作るはたらきをもつB細胞が活性化され、免疫反応が促進されるというのだから、ヘルパーT細胞が免疫の司令塔と呼ばれるのもうなずけるものだ。
 HIVはこの「司令塔」に感染し、そのはたらきをブロックしてしまうんだから、宿主としてはたまったものではない。
 しかも、ヘルパー細胞だけでなく、HIVは「マクロファージ」と呼ばれる細胞にも感染する。マクロファージは「食細胞」と呼ばれる白血球の一種で。とにかく何でも喰らう免疫細胞として知られるが、侵入してきた外敵の情報をヘルパーT細胞に提供するという重要な役割をもつため、HIVによるマクロファージへの感染とその破壊は、免疫系にとって大きなダメージとなる。(『新しいウイルス入門』より)」

 なおエドワード・フーパーEdward HooperのThe riverという本では、HIV
の起源はポリオワクチン作成中に誤ってチンパンジーのサル免疫不全ウイルス(SIV) が混入してしまったのではないかと推論をしているようです。
「 …さまざまな方法で調べてみた結果、人間が最初にHIV-1に感染したのは1950年代で、その場所はコ ンゴのキンシャサ・レオポルドビルであること、そしてそこでは1957年から1960年にかけてポリオワクチンの接種試験が実施されていたこととドラマチックに関連するということです。ワクチン接種の行われた場所と初期のエイズ患者の発生地域を比較した地図も示されています。
 ポリオワクチンにチンパンジーのSIVが入りこんだ経路については、ワクチンの製造用のサルの腎臓細胞の中には チンパンジーの腎臓も含まれていて、それに潜在感染していたSIVcpzがポリオワクチンに入った可能性をとりあげています。そしてチンパンジーの腎臓が実際に使用されたかどうかについては、徹底的に事実関係を調べています。 しかし、記録が不十分ではっきりした結論は得られていません。一方、チンパンジー の腎臓が使用されなかったという具体的証拠も関係者から示されてはいないことをフーパーは強調しています。」

「レトロウイルス科(Retroviridae)とは、RNAウイルス類の中で逆転写酵素を持つ種類の総称。プラス鎖ゲノムの一本鎖RNA(ssRNA)から成る。単にレトロウイルスと呼ばれることも多い。
 尚、逆転写酵素を持つものは、必ずしもRNAウイルスであるとは限らず、DNAウイルスであるB型肝炎ウイルス (HBV)がその一例である。 B型肝炎ウイルスは転写でプレゲノムRNAを生成したのちに逆転写によってDNAを合成している。
…レトロウイルス科のウイルスは直径約100nmの球状の形をしており、脂質のエンベロープに覆われている。ウイルス粒子のコアには逆転写酵素と通常2組の同一なRNAゲノムを持つ。共通の遺伝子としては、プロモーター活性のある2つのLTR(long terminal repeat)と呼ばれる塩基配列の繰り返し領域に挟まれて、gag(構造タンパク質をコード)、pro(プロテアーゼをコード)、pol(逆転写酵素などをコード)、env(エンベロープのタンパク質をコード)を持っている。 」


「逆転写酵素(ぎゃくてんしゃこうそ、英: reverse transcriptase、EC 2.7.7.49)は、RNA依存性DNAポリメラーゼ (RNA-dependent DNA polymerase) のこと。逆転写反応 (reverse transcription) を触媒する酵素。1970年、ハワード・マーティン・テミンとデビッド・ボルティモアによるそれぞれ別の研究により見出された。
 この酵素は一本鎖RNA を鋳型として DNA を合成(逆転写)するもので、レトロウイルスの増殖に必須の因子として発見された。それまで、DNA は DNA自身の複製によって合成され、遺伝情報は DNA から RNA への転写によって一方向にのみなされると考えられていた(セントラルドグマ)が、この酵素の発見により遺伝情報は RNA から DNA へも伝達されうることが明らかとなりセントラルドグマの例外とも言われていた…」

 このレトロウイルスは過去頻繁にヒトの遺伝子に混入していて、痕跡を残しているようです。このレトロウイルスのゲノムは、ヒトにおいて、生命活動に必須のタンパク質発現に関わるゲノムの約5倍もあるとのことです。

「実はヒトのゲノムのうち、およそ8%がレトロウイルスに由来する「内在性レトロウイルス」、すなわちウイルス由来の遺伝配列である。これに対してヒトゲノムでタンパク質の発現に関わる「遺伝子」領域は、全ゲノムの約1.5%に過ぎない。単純計算でヒトゲノム上でウイルス由来の配列が占める領域は、遺伝子領域の5倍以上もあるわけだ。 」

  ヒト免疫不全ウイルス (HIV: human immunodeficiency virus) -1,2
  サル免疫不全ウイルス (SIV: Simian Immuno-deficiency Virus)
  猫免疫不全ウイルス (FIV: feline immunodeficiency virus)
  馬伝染性貧血ウイルス(EIA: Equine infectious anemia virus)

「レンチウイルスは、ヒトおよび他の哺乳類において、長い潜伏期間を特徴とする、慢性で致命的な疾患を引き起こすレトロウイルス科のー属。エイズを引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)もこの属に含まれる。レンチウイルスは世界中に分布し、類人猿、牛、山羊、馬、猫、羊のほか、近年、サル、キツネザル、マレーヒヨケザル、ウサギ、フェレットで発見され、いくつかの哺乳類を宿主とすることが確認されている。
 レンチウイルスは、宿主細胞のDNAにウイルスcDNAを大量に組み込むことができ、非分裂細胞にも効率よく感染できるため、最も効率的な遺伝子導入法の1つである。また、レンチウイルスは宿主の生殖細胞系列ゲノムに組み込まれ、内在性(ERV)になり、ウイルスは宿主の子孫に受け継がれることもある。」

「アルファレトロウイルス属(Genus Alpharetrovirus)とはレトロウイルス科の1属。アルファレトロウイルス属は形態学的にC型粒子に分類される。 アルファレトロウイルス属のウイルスは野生鳥類や家禽、ラットに肉腫やその他の腫瘍、貧血を引き起こすことがある。 」
 
 ガンマレトロウイルスは、遺伝子治療や遺伝子導入のためのベクター(外来遺伝物質を別の細胞に人為的に運ぶために利用されるDNAまたはRNA)として利用されているようです。 
「ガンマレトロウイルスは、レトロウイルス科の一属。マウス白血病ウイルスやネコ白血病ウイルスが含まれ、哺乳類、爬虫類、鳥類にさまざまな肉腫、白血病、免疫不全を引き起こす。 
…ガンマレトロウイルスは、実験研究で非常によく用いられるレトロウイルスベクターであり、遺伝子治療や遺伝子導入に不可欠である。ガンマレトロウイルスが非常に有用である理由は、ゲノムが非常に単純で使いやすいことと、宿主細胞のゲノムへの組み込み能力が非常に高いことからゲノムの長期発現が可能なことによる。特にレトロウイルスベクターとして一般的に使用されているガンマレトロウイルスは、モロニーマウス白血病ウイルスである。
 遺伝子治療に利用可能なベクターとして、ガンマレトロウイルスは、レンチウイルスベクターとして用いられるHIVに比べていくつかの利点を持つ。具体的には、ガンマレトロウイルスのパッケージングシステムは、gag、polやアクセサリー遺伝子のコード配列と重複する配列を組み込む必要がない 」 

デルタレトロウイルス属(Genus Deltaretrovirus)とはレトロウイルス科オルトレトロウイルス亜科レトロウイルス科の1属。デルタウイルス属のウイルスにはいくつかの哺乳類の群に水平感染するものが含まれる。
デルタレトロウイルス属のウイルスとして牛白血病ウイルスやヒトTリンパ球好性ウイルスなどがある。」
「ヒトTリンパ好性ウイルス(ヒトティーリンパこうせいウイルス、Human T-lymphotropic Virus、Human T-cell Leukemia Virus、HTLV)は、レトロウイルスの一種。1型から4型(HTLV-I, II, III, IV)までがある。1型は成人T細胞白血病 (ATL) の原因ウイルスである。 ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒトTリンパ球向性ウイルス、ヒトTリンパ向性ウイルスとも表記される。
…HTLV-1は腫瘍ウイルスのひとつで、ウイルス保持者(キャリアと呼ぶ)は生涯の何れかの時点でATL(=adult T-cell leukemia, 成人T細胞白血病)を発症する可能性がある。
 1977年に、京都大学の内山卓、高月清らによって、日本の九州出身の白血病患者には特有のT細胞性白血病が多いことから成人T細胞性白血病 (adult T-cell leukemia; ATL) という疾患概念を提唱した。その後、1981年に、京都大学の日沼頼夫らによってレトロウイルスが分離され「ATL virus (ATLV)」とした。これは1980年にアメリカ国立衛生研究所のロバート・ギャロらが菌状息肉症患者から分離した、ヒトから初めて発見されたレトロウイルスと同一のウイルスとのちに判明し、名称はHuman T-cell leukemia virus type 1 (HTLV-1) と改められた。」

「…ATL(成人T細胞白血病)のウイルスキャリアが日本人に多数存在することは知られていたが、東アジアの周辺諸国ではまったく見出されていない。いっぽうアメリカ先住民やアフリカ、ニューギニア先住民などでキャリアが多い。日本国内の分布に目を転じると、南九州や沖縄、アイヌに特に高頻度で見られ、四国南部、紀伊半島の南部、東北地方の太平洋側、隠岐の島壱岐島壱岐島、五島列島などの僻地や離島に多いことが判明している。九州、四国、東北の各地方におけるATLの好発地域を詳細に検討すると、周囲から隔絶され交通の不便だった小集落でキャリアは高率に温存されている。東京、大阪、名古屋、福岡などで観察される患者の90%以上は沖縄県・南九州・長崎県などのATL好発地帯からの移動者で占められていた。 以上より、日沼頼夫はこのウイルスのキャリア好発地域は、縄文系の人々が高密度で残存していることを示していると結論付けた[23]。HTLVはかつて日本列島のみならず東アジア大陸部にも広く分布していたが、激しい淘汰が繰り返されて大陸部では消滅し、弥生時代になってウイルス非キャリアの大陸集団が日本列島中央部に多数移住してくると、列島中央部でウイルスが薄まっていったが、列島両端や僻地には縄文系のキャリア集団が色濃く残ったものと考えられる。 」
 

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ウイルスとは何か(2) ウイルスの構造 エンベロープウイルスとノンエンベロープウイルス

2023-06-16 14:34:34 | ウイルス
1、ウイルスの構造
 ウイルスの構造は、基本的には「自己の遺伝子(DNAかRNA)」と「必要最低限の制御用タンパク質」と「それを覆うカプシド(タンパク質の殻)」からできていているようです。それに加えて、エンベロープ(エンベロープタンパク質+宿主細胞膜の断片)を持つものもいるようです。
「…核酸がタンパク質の殻(カプシド)に包まれた形というのは、あくまで最も単純なウイルスの形であって、…ウイルスにも多様性がある。
 子どもにポリオという病気をもたらす「ポリオウイルス」や、風邪などの原因となる「ライノウイルス」は、核酸がカプシドに包まれた単純な形をしているが、カプシドの周りに、さらに「エンベロープ」と呼ばれる膜のようなもを持ったウイルスもいる。
…エンベロープは、ウイルスが作り出すタンパク質(エンベロープータンパク質)とウイルスが感染していた宿主の細胞から飛び出したときに連れてきた、細胞の「細胞膜」の断片からできている。
 エンベロープをもたないウイルスを総称して「ノンエンベロープウイルス」、エンベロープをもつウイルスを総称して「エンベロープウイルス」という。(『新しいウイルス入門』より)」

 
「ウイルスの基本構造
 ウイルスは他の微生物とは大きく異なり,細胞壁,細胞膜,細胞質,核等の構造を持たない。(例 細菌の構造)
 ウイルスは遺伝子である核酸(DNAかRNA)を中心にして,その周囲を蛋白の殻(カプシッド capsid)で包んだ構造からできている(この構造をヌクレオカプシッドという)。
 ウイルスの種類によっては,ヌクレオカプシッドの外側にさらに脂質と糖タンパクからなる被膜(エンベロープ envelope)が存在する。 
 各部の機能
  1. 核酸
     ウイルスはゲノムとしてDNAかRNAどちらか一方の核酸をもつ
     ウイルスの複製に必要な遺伝情報がゲノムにコードされている。
     タンパク質合成系のないウイルスがrRNAやtRNAをもつことやこれらのRNAをコードする遺伝子を持つことはない
     ウイルスによっては、細胞に感染し、自身のタンパク質を合成する前に、ゲノムの複製が必要となることがある。このようなウイルスでは、複製に関与する酵素をウイルス粒子にパッケージしている。
  2. カプシッド(capsid)
     カプシッド(タンパク質の殻)はゲノムを包み、各種酵素(核酸分解酵素)からゲノムを保護する。
  3. エンベロープ (envelope)
     ウイルス粒子の感受性細胞への付着に関与する

     エンベロープ 内のタンパク質はウイルス自体の産物であるが、脂質は宿主細胞由来であり、エンベロープの脂質は宿主細胞の膜等に類似する。
     エンベロープは脂質二重層からなる膜で、細胞内で作られたヌクレオカプシッドが細胞から出芽し、完全な子ウイルス粒子(感染性を有する完全なウイルス粒子をビリオンと呼ぶ)に成熟し、形成される。
     エンベロープの獲得部位は細胞膜、小胞体膜、ゴルジ体膜、核膜のいずれかで、ウイルスによりことなる。 一般にエンベロープをもつウイルスはアルコールや石鹸など脂質を溶解する消毒薬に対して感受性が高く、逆にエンベロープをもたないウイルスは不活化されにくい。
     経口感染するウイルスは腸管内で胆汁酸に溶解されないためにエンベロープを持たない。(引用終わり」
「ウイルスの基本構造は、粒子の中心にあるウイルス核酸と、それを取り囲むカプシド (英: capsid) と呼ばれるタンパク質の殻から構成された粒子である。ウイルス核酸とカプシドを併せたものをヌクレオカプシド (英: nucleocapsid) と呼ぶ。ウイルスの形状はカプシドの形によって基本的には正20面体型(立方対称型)と螺旋対称型に分けられる。ウイルスによっては、エンベロープ (英: envelope) と呼ばれる膜成分など、ヌクレオカプシド以外の物質を含むものがある。これらの構成成分を含めて、そのウイルスにとって必要な構造を全て備え、宿主に対して感染可能な「完全なウイルス粒子」をビリオンと呼ぶ。 
…カプシド (英: capsid) は、ウイルス核酸を覆っているタンパク質であり、ウイルス粒子が細胞の外にあるときに内部の核酸をさまざまな障害から守る「殻」の役割をしていると考えられている。ウイルスが宿主細胞に侵入した後、カプシドが壊れて(脱殻、だっかく)内部のウイルス核酸が放出され、ウイルスの複製がはじまる。
 カプシドは、同じ構造を持つ小さなタンパク質(カプソマー)が多数組み合わさって構成されている。この方式は、ウイルスの限られた遺伝情報量を有効に活用するために役立っていると考えられている。小さなタンパク質はそれを作るのに必要とする遺伝子配列の長さが短くてすむため、大きなタンパク質を少数組み合わせて作るよりも、このように小さいタンパク質を多数組み合わせる方が効率がよいと考えられている。

…エンベロープ (英: envelope) は、単純ヘルペスウイルスやインフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなど一部のウイルス粒子に見られる膜状の構造のこと。これらのウイルスにおいて、エンベロープはウイルス粒子(ビリオン)の最も外側に位置しており、ウイルスの基本構造となるウイルスゲノムおよびカプシドタンパク質を覆っている。エンベロープの有無はウイルスの種類によって決まっており、分離されたウイルスがどの種類のものであるかを鑑別する際の指標の一つである。
 エンベロープは、ウイルスが感染した細胞内で増殖し、そこから細胞外に出る際に細胞膜あるいは核膜などの生体膜を被ったまま出芽することによって獲得されるものである。このため、基本的には宿主細胞の脂質二重膜に由来するものであるが、この他にウイルス遺伝子にコードされている膜タンパク質の一部を細胞膜などに発現した後で膜と一緒にウイルス粒子に取り込み、エンベロープタンパク質としてビリオン表面に発現させている。これらのエンベロープタンパク質には、そのウイルスが宿主細胞に吸着・侵入する際に細胞側が持つレセプターに結合したり、免疫などの生体防御機能を回避したりなど、様々な機能を持つものが知られており、ウイルスの感染に重要な役割を果たしている。
 細胞膜に由来するエンベロープがあるウイルスでは、エンベロープタンパク質が細胞側のレセプターに結合した後、ウイルスのエンベロープと細胞膜とが膜融合を起こすことで、エンベロープ内部に包まれていたウイルスの遺伝子やタンパク質を細胞内に送り込む仕組みのものが多い。」

「このコロナウイルスは、豪奢な糖の衣をまとっている。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のトレードマークであるスパイクタンパク質の1つをコンピューター・シミュレーションで見たRommie Amaroは、目を見張った。ウイルスの表面から突き出すスパイクタンパク質には、糖鎖がびっしりと巻き付いていたのである。
 カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)の計算生物物理化学者であるAmaroは、「これだけの糖鎖で覆われていたら、ほとんど認識できません」と言う。
 実際、外側のタンパク質を糖鎖で覆い、羊の皮をかぶった狼のように私たちの免疫系の監視の目を欺いているウイルスは多い。」

2.ウイルス(エンベロープ又はノンエンベロープ型)の侵入の方法
 エンベロープを持つウイルスと持たないウイルスでは、宿主の細胞に侵入する方法が異なるようです。
 最近有名になったスパイクタンパク質(エンベロープから出ているトゲトゲ(糖タンパク質))には、細胞の受容体と結合して細胞膜と融合するためのトリガー機能があるようです。
「エンベロープウイルスの場合、エンベロープそのものが宿主の細胞膜と同じ脂質二重膜でできているから、その進入時には、エンベロープと細胞膜が融合し、中身(タンパク質ならびに核酸)だけが細胞内部に侵入する。HIVが、この方式で侵入するものの代表だろう。
 また別のエンベロープウイルスでは、エンベロープが細胞膜と融合せず、エンベロープごと細胞膜によって覆われるようにして侵入する。そうして細胞膜に覆われてあぶくのような状態になったものを「エンドソーム」と言う。インフルエンザウイルスが、この方式で侵入するものの代表だ。
 ノンエンベロープウイルスでは、細胞膜表面にペタペタと吸着したウイルスは、「被覆ピット」と呼ばれる細胞膜の「くぼみ」の中にたまっていき、やがてそのくぼみが細胞質側にくびれることで、ウイルスは細胞内へと侵入する。言ってみれば、細胞によって、「食べられる」のだ。
 細胞のこうした「食べる」行動を、「細胞内取り込み(エンドサイトーシス)」という。(『新しウイルス入門』より)」


 インフルエンザウイルスはエンドソーム内で酸性になり破壊される前に、その酸性状態を利用して脱殻してしまうようです(なんて巧妙な!)。

「インフルエンザウイルスは、糖タンパク質のシアル酸と結合することにより宿主細胞膜表面に吸着し、エンドサイトーシスによりエンドソームに取り込まれます。 その後、エンドソーム内のpHは、徐々に弱酸性まで低下します。
 A型インフルエンザウイルスの表面にはM2タンパク質と呼ばれる 97 アミノ酸残基から成る膜タンパク質が存在します。 このタンパク質は、4量体となり、H+を通過させるプロトンチャネルを形成します。 ウイルス粒子の外側のpHが低下すると、プロトンチャネルのゲートが開き、H+が粒子内に取り込まれます。 これを契機として、ウイルス粒子の脱殻が生じ、ウイルスの遺伝子であるRNAが細胞内に放出されます。
 このようにして、インフルエンザウイルスは、エンドソーム内pHの酸性化を利用することで、自己の遺伝子を宿主細胞内に送り込みます。」 
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ウイルスとは何か(1) ウイルスはどのくらいるのか?生物と共生している?ネオウイルス学

2023-06-13 09:44:07 | ウイルス
 巷で騒がれている騒動(戦争?)から何か怖いイメージのある「ウイルス」ですが、その実態を見てみると、単なる「病原体」という姿だけでなく、生物にとてつもなく(良い・悪いの両面で)影響を及ぼしている物質(生物の基礎的要素)だと思えてきました。
 
1.ウイルスはどのくらいいるのか?
 ウイルスはどのくらいの数いるのでしょうか。
「1989年、ノルウェーのベルゲン大学のブラッドバクらが科学誌『ネイチャー』に発表した論文には、…なんと天然の水の中に、1ミリリットルあたりおよそ「2億5000万個!」のウイルスがいる場合がある、というのである。…この数字がはじき出されたのは、ドイツにあるプルスゼー湖という湖の水の中だった。
…一方、海水サンプルからは、1ミリリットルあたり500万~1500万個のウイルスが検出された。
…海水に存在するウイルスは、たいていの場合、海水中に豊富に存在するバクテリアに感染するファージであったり、やはり海水中にいる原生生物や藻類に感染するウイルスであったりするわけで、私たちヒトに感染して病気を引き起こすようなものではないから、海水浴をしてもマッタク問題ない、というわけである。(『新しいウイルス入門』より引用)」

 
 
 「…現時点で生物学者たちは380兆個のウイルスがあなたの体の表面や内部で生息していると見積もっている。この数は体内の細菌数の10倍にのぼる。病気を引き起こすウイルスもいるが,多くは単にあなたと共存しているだけだ。例えばペンシルベニア大学の研究者たちは2019年後半,気道でレドンドウイルスに分類される19種類のウイルスを発見した。いくつかは歯周病や肺疾患に関連していたが,他のウイルスはむしろ呼吸器疾患を抑えているようだった。」
 
 ウイルスは、とんでもない数(ヒト一人当たり380兆個?、地球全体では?細菌にも寄生しているらしいですから)いるようで、どうも生物とは共生しているらしいです。そう言えば、ウイルスが宿主をすべて殺してしまったら、元も子もないですからね(ウイルスだけでは自己複製できないですからね)。
 その物凄い種類と数のうちのごく一部がわれわれ人間に重篤な疾病を引き起こすウイルス種(病原体)になるようです。

2.ウイルスは宿主の環境適合を促進する?
 なおウイルスの病原体としての研究だけではなく、生物の共生や進化を探る研究を「ネオウイルス学」というらしいです。

「…英国のグループからは、ウイルスが感染した植物にはミツバチが多く集まり、受粉率が高まるという報告がありました。植物ウイルスは病気を起こすだけではなく、植物に有益な働きもしていうのです。
 といっても、ウイルス自体が植物に利益を与えようと考えているわけでなく、自己を増やすことがウイルスの唯一の目的です。乾燥耐性を報告した米国のグループの研究では、ウイルスに感染した植物はよくアブラムシを引きつけることも確かめられています。アブラムシはウイルスを運ぶ役目をしますが、アブラムシがたくさんウイルスを運んでくると、ウイルスとしては仲間を増やすという意味で優位になるわけです。(『ネオウイルス学』より引用)」

 
 このように見てくると、ウイルスというのは生物間を自由に行き来できて、宿主の力も借りて(共生して)、自ら(遺伝論理性)をひたすら増殖させるというとんでもなく効率の良い物資(生物と論理の融合?)なのかもしれません。
 どうも「利己的遺伝子」という本を思い出します。

 
「利己的遺伝子論(りこてきいでんしろん)とは、進化学における比喩表現および理論の一つで、自然選択や生物進化を遺伝子中心の視点で理解すること。遺伝子選択説もほぼ同じものを指す。1970年代の血縁選択説、社会生物学の発展を受けてジョージ・ウィリアムズ、E・O・ウィルソンらによって提唱された。イギリスの動物行動学者リチャード・ドーキンスが1976年に、『The Selfish Gene』(邦題『利己的な遺伝子』)で一般向けに解説したことが広く受け入れられるきっかけとなったため、ドーキンスは代表的な論者と見なされるようになった。 」

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