数理論理教(科学教)の研究

数理論理(科学)はどこから来て、どのような影響を与え、どこに行こうとしているのか、少しでも考えてみたいと思います。人文系

免疫(12)獲得免疫 細胞性免疫 キラーT細胞

2023-10-06 09:30:20 | 免疫
 細胞性免疫の主役はT細胞、ヘルパーT細胞と細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)です。液性免疫のB細胞ではIgGなどの「抗体」が病原体を直接攻撃(不活化や複合体形成(マクロファージなどに貪食される))しますが、キラーT細胞は感染された(又は変異した)自己の細胞が表示する標識を認識して、ヘルパーT細胞の指令により、その感染された又は変異した「自己細胞」を攻撃します。
 そのため、キラーT細胞が自己細胞を過剰に攻撃してしまった場合には、自己免疫疾患(関節リュウマチなど)にかかってしまうこともあります。そのことを防御するため、制御性T細胞がキラーT細胞の過剰攻撃を抑制をしています。
 T細胞にもB細胞の免疫グロブリン(抗体)のような多様な病原体を認識できる受容体があります。免疫グロブリンと同じように、定常部と可変部が存在します。抗体は遊離した抗原でも結合できますが、T細胞の受容体は細胞表面に存在する抗原としか結合しません。
 キラーT細胞は、細胞表面に提示された病原体(分解されたもの)・非自己や異常タンパク質とMHCクラスⅠタンパク質との複合体に結合することにより、活性化して増殖を開始します。その後、キラーT細胞が細胞表面に提示を受けたものと同じ病原体等とMHCⅠクラスタンパク質の複合体と結合すると、パフォーリンいう物質を出してその細胞を融解させたり、その細胞のFasという受容体に結合してその細胞をアポトーシス(プログラムされた細胞死)させます。


 
2種類のT細胞にはT細胞受容体が存在する
 B細胞と同じようにT細胞には特異的な膜受容体が存在する。しかし、T細胞受容体は免疫グロブリンではなく、IgGの半分程度の分子量の糖タンパク質である。それぞれ異なった遺伝子によってコードされている2本のペプチド鎖から構成されている。免疫グロブリンと同じように可変部と定常部が存在する。

        

 T細胞受容体をコードする遺伝子は免疫グロブリンの遺伝子と類似しており、進化的には共通の祖先の遺伝子に由来すると想像できる。免疫グロブリンと同じように定常部と可変部が存在し、可変部に特異的に抗原が結合する。免疫グロブリン(抗体)は遊離した抗原でも細胞表面に結合した抗原でも結合するが、T細胞受容体は抗原提示細胞および標的細胞の細胞表面に存在する抗原としか結合しない。
 T細胞が抗原によって活性化されると、増殖を開始してクローン集団が形成される。そして2種類のT細胞に分化していく。
 ■細胞傷害性T細胞(Tc細胞)はウイルスに感染した細胞や変異細胞を認識して、それを溶解して死滅させる。
 ■ヘルパーT細胞(Th細胞)は細胞性免疫応答や液性免疫応答を制御する。
 MHCタンパク質は免疫系に抗原を提示する
 動物の免疫システムは自己細胞を細胞表面のタンパク質で識別している。この過程には数種類のタンパク質が関与しているが、特に大切なのは主要組織適合抗原遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる遺伝子群である。
…MHCがコードするタンパク質は細胞膜糖タンパク質である。ヒトのMHCタンパク質はHLA(ヒト白血球抗原)と、マウスのMHCはH-2タンパク質と呼ばれている。これらのタンパク質の主な機能は、自己抗原と非自己抗原を識別できるようにT細胞受容体に提示することである。MHCタンパク質は2つに大別できる。
 ■MHCクラスⅠタンパク質は動物の細胞核がある細胞のすべて(赤血球や血小板を除く)に存在する。細胞内タンパク質がプロテアソーム(細胞内タンパク質分解酵素複合体)によってペプチド断片に分解されると、MHCクラスⅠタンパク質が結合して細胞膜表面へ移行する。細胞由来のペプチドはMHCクラスⅠタンパク質との複合体として細胞傷害性T細胞に提示される。細胞傷害性T細胞の細胞表面にはMHCクラスⅠタンパク質を認識して結合するCD8というタンパク質が存在する。
 ■MHCクラスⅡタンパク質はB細胞、マクロファージ、その他の抗原提示細胞の細胞表面のみに存在する。抗原提示細胞がウイルスなど非自己抗原を貪食すると、ファゴソーム(異物を分解する細胞内小胞)で分解が行われる。そうして作られた断片にMHCクラスⅡタンパク質が結合し、複合体として細胞表面に移動し、ヘルパーT細胞に提示される。ヘルパーT細胞の細胞表面にはMHCクラスⅡタンパク質を認識して結合するCD4というタンパク質が存在する。
 細胞性免疫応答では細胞傷害性T細胞とMHCクラスⅠタンパク質が主役
 …ウイルスに感染した細胞や変異細胞では、非自己タンパク質や異常タンパク質の断片ペプチドがMHCクラスⅠタンパクと結合する。この複合体は細胞表面に移行し、細胞傷害性T細胞に提示される。細胞性傷害性T細胞は、これを認識してMHCクラスⅠタンパク質ー抗原複合体に結合すると、活性化され増殖を開始する(細胞性免疫応答)。
 細胞性免疫のエフェクター段階では、細胞傷害性T細胞は同じMHCクラスⅠタンパク質ー抗原複合体が表面に存在している細胞に結合する。するとパーフォリンという物質を産出して、その細胞を融解する。さらに、標的細胞のFasという特異的受容体に結合して、その細胞をアポトーシス(プログララムされた細胞死)させる。これら2つの細胞傷害は協調して異常になった自己細胞を除去していく。
 細胞傷害性T細胞は非自己抗原と自己MHCタンパク質との複合体を認識するため、ウイルス感染した自己細胞を除去することができる。また異常になった自己抗原(変異の結果などによる)とMHCタンパク質との複合体を認識することもできるので、遺伝子変異がもたらす異常タンパク質が原因となる腫瘍細胞も除去できる。
 T細胞の活性化には、MHCタンパク質ー抗原複合体と受容体の結合だけでなく、第二のシグナルが必要である。受容体への特異的結合の後に、抗原提示細胞のCD28タンパク質がT細胞受容体と結合することによって、この共刺激シグナルが生じる。この2番目の結合後にT細胞は活性化され、サイトカイン産生や増殖が開始される。また、同時にこれらの事象の抑制因子の産生も開始され、免疫応答が過剰にならないように適切な終結も行われる。この抑制因子は、細胞表面にあるCTLA4というタンパク質であり、CD28と競合し、特に自己抗原の場合に活性化過程を阻止する。
 MHCタンパク質は自己寛容の基盤である
 MHCタンパク質は自己寛容の確立の鍵を握ってる。自己寛容が破綻すると、動物は自分自身の免疫システムによって破綻されてしまうだろう。動物の生涯にわたって、発達過程のT細胞は胸腺で検証される。
①この細胞は自己のMHCタンパク質を認識できるのか?自己MHCを認識できないT細胞は、いかなる免疫反応も行うことが不可能なため、まったく役立たずということになる。このようなT細胞は不合格となり3日以内に死を迎える。
②この細胞は自己MHCタンパク質と自己抗原の複合体と結合するのか?結合するT細胞は生体にとって有害または致死的となる。やはり不合格となりアポトーシスする。
 上記の検証に合格したT細胞は細胞傷害性T細胞あるいはヘルパーT細胞へ成熟していく。
…ヒトではMHCは臓器移植治療の分野で特に重要になっている。MHCがコードするタンパク質は各個人で異なっているため、一卵性双生児間以外の移植では、非自己抗原ということになる。そのため、移植臓器では非自己と認識され免疫応答が惹起され攻撃される(非自己のMHCタンパク質は、T細胞により自己のMHCタンパク質ー非自己抗原複合体と同様に認識されるため、攻撃の対象になる。)(引用終わり)」
 
 
「…免疫細胞は誕生した直後に、胸腺という特殊な組織で身内の「顔」をしっかり記憶し、仲間を決して攻撃しないように教育されている、とかつての免疫学は教えてきた。
 だが、それはいささか楽観的にすぎたようだ。最近の研究では、胸腺にも手抜かりや不手際が少なからずあり、教育不行き届きの免疫細胞を送り出していることがわかってきた。私たちはの体にはわが身を敵とみなす恐ろしい自己反応性の免疫細胞がたくさんうろついて、正常な臓器や組織を攻撃しているのだ。
…免疫細胞たちがそうやって実際に引き起こす病気が、自己免疫疾患なのである。
 骨が溶け、最後には関節まで破壊されてしまう関節リウマチ、膵臓のインスリン生産細胞が破壊されてしまう1型糖尿病、脳や脊髄の神経細胞を覆う膜が攻撃されて多発性の硬い病巣組織ができうる多発性硬化症など枚挙にいとまがない。
 免疫の働きが過剰になったり、自己反応性の免疫細胞が悪さを始めたりしたときに、やりすぎを抑制して「撃ち方やめ」を周知徹底させる役割を担う細胞だ。…制御性T細胞である。
 キラーT細胞もヘルパーT細胞と同様に樹状細胞とつながっていて、抗原提示を受けている。すると、ヘルパーT細胞は近くにいるキラーT細胞に向かって情報伝達分子を放出して増殖を促す。
 ところが、ここに制御性T細胞が現れると、…樹状細胞の上に制御性T細胞がのしかかって、合体して、抗原提示の妨害をするからだ。
 このときの制御性T細胞の武器が、CTLA-4分子。制御性T細胞はこの分子を使って、樹状細胞の表面に出ているB7分子と結びついてしまうのだ。これは、本来であればヘルパーT細胞やキラーT細胞が落ち着くべき場所を、制御性T細胞が横取りしたことにほかならない。
…こうして、制御性T細胞が樹状細胞の表面を覆い尽くしたとしよう。そうなるともはや、ヘルパーT細胞などには樹状細胞と物理的に接触する余地がなくなってしまう。」

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