数理論理教(科学教)の研究

数理論理(科学)はどこから来て、どのような影響を与え、どこに行こうとしているのか、少しでも考えてみたいと思います。人文系

遺伝子制御の指令書のマイクロRNA(miRNA)、配送用小胞のエクソソーム、がん転移

2023-06-30 14:34:29 | 核酸、ゲノム
1.ノンコーディングゲノムの中に遺伝子制御の指令書となるマイクロRNA(miRNA)という暗号があった

 
 ヒトの遺伝子の中で、最も重要な構成要素となるタンパク質の複製に関わる部分(比率)はたったの1.4%しかなく、後の訳の分からない部分は少し前までジャンクDNAと呼ばれ、役に立たないものとみなされていました。
 しかし、その後の研究で、このジャンクDNA⇒ノンコーディングDNAは、タンパク質複製に関わるDNA(基本プラグラム)を制御する巨大な応用プログラムのシステムであることが分かってきました。
 そして、その応用プログラムの一つにマイクロRNA(遺伝子制御の指令書のようなもの)がありました。
 なお細菌では、このノンコーディングDNAという応用プログラムの領域は12%くらいしかないようです。そうしますと、複雑な分化などを繰り返す高等な生物では、この応用プラググラムによる遺伝子制御が決定的に重要になっているのではないでしょうか。

「非コード DNA ( ncDNA ) 配列は、タンパク質配列をコードしない生物のDNAの構成要素です。一部の非コード DNA は、機能的な非コード RNA分子 (トランスファーRNA、マイクロ RNA、piRNA、リボソーム RNA、および調節 RNAなど) に転写されます。非コード DNA 画分の他の機能領域には、遺伝子発現を制御する制御配列が含まれます。足場取り付け領域; DNA複製の起点。セントロメア ; そしてテロメア。イントロン、偽遺伝子、遺伝子間DNA、トランスポゾンやウイルスの断片など、一部の非コード領域はほとんど機能していないように見えます。 
…細菌では、コード領域は通常ゲノムの 88% を占めます。残りの 12% はタンパク質をコードしていませんが、その多くはRNA 転写物が機能する遺伝子(非コード遺伝子) および調節配列を通じて依然として生物学的機能を持っています。 」

  
「…ゲノム全体、約30億対ある塩基配列のうち、たんぱく質の複製に使われる部分はわずか1.4%しかない。あとの98.6%は、たんぱく質に翻訳されない(これを分子生物学では「コードしない」といいます)ゲノムだったのです。…この部分をのゲノムを「ノンコーディング」領域と呼びます。
 …RNAのなかにも、メッセンジャーRNAだけでなく、さまざまな役割をもったものがある。ノンコーディングゲノムを写し取って単独で機能をもつものが存在することもわかってきました。そしてその一つが、マイクロRNA。わずか22塩基で構成されるごく小さなRNAです。
…マイクロRNAにはさまざまな種類があり(いまでは2600種類あることがわかっています)、それぞれに機能があります。たとえば、あるマイクロRNAは正常な状態では発現しません。しかし、細胞に何らかのストレスが加わると動き出します。すると、ある特定の遺伝子と結合して、そのはたらきを抑えたり、ときには活性化したりします。(『「がん」は止められる』より引用)」

 マイクロRNAは細胞ごとに作られるようですが、その細胞だけのために働くのではなく、エクソソームという配送用小胞体に包まれることによって、血管を通じて他の細胞にも送られ、その他の細胞にも指令を出すことができるようです。
 そしてこのエクソソームというのは、体内だけにとどまらずに、広く生物の間でもやり取りされているとのことです。
 現在、このエクソソームは核酸医薬のデリバリーとして注目を集めており、もの凄い開発競争が行われているようです。

「エクソソーム(Exosome、エキソソームとも呼ばれる)は細胞から分泌される直径50-150 nm(ナノメートル:10億分の1メートル)の顆粒状の物質です。その表面は細胞膜由来の脂質、タンパク質を含み、内部には核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)やタンパク質など細胞内の物質を含んでいます。エクソソームは細胞外小胞(Extracellular vesicle)の一種とされており、細胞外小胞にはエクソソームのほかにマイクロベシクル、アポトーシス小体があり、それぞれ産生機構や大きさが異なります。 」

 何かウイルスのエンベロープそっくりのような気がします。
 

 どうも「がん細胞」もこのマイクロRNAとエクソソームを利用しているようです。「がんの転移」というのは、エクソソームで運ばれるマイクロRNAなどの働きによるところが大きいようです。
 がん細胞が「血管を作ってよこせ」というマイクロRNAの指令書を作りエクソソームで送り出します。そして血管をどんどん作って、栄養を独占したり、その血管を通って移動するようです。
 この「がん細胞」の戦法を逆手に取って、そのがん細胞の送り出すエクソソームを阻害する研究も行われていて、動物実験などでは実証されているようです。
 またエクソソームはDNAをも運び、レトロトランスポゾンというゲノム断片を組み込む酵素の因子も持っていて、他の細胞のDNAに組み込むことができるようです。

(『「がん」は止められる』より引用)」
 
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RNA干渉、マイクロRNAの制御 植物ウイルス学者がウイルスと植物との壮絶な戦いで見つけた遺伝子制御機構

2023-06-27 14:34:56 | 核酸、ゲノム
1.植物ウイルス学者がウイルスと植物との壮絶な戦いで見つけた遺伝子制御機構、RNAサイレンシング(RNA干渉)
 植物ウイルス学者が植物のウイルス感染の防御方法を研究していたところ、RNAサイレシンング(RNA干渉)という「細胞内のウイルスのRNAが消去されてしまう」驚くべきシステムがあることに気が付きました。

  
「…植物には…強力な自己防衛システムがあります。とりわけ重要なのは主にウイルスをターゲットとしたRNAサイレイシングとよばれる機構です。RNAサイレンシングはRNA干渉ともよばれますが、バクテリアを除くほとんどの生物がこの機構をもっています。
…この生命現象を最初に発見したのは植物ウイルス学者でした。「細胞内でRNAが特異的に減少していく現象が存在する」。この発見は、植物学者による2つの研究の中で、ほぼ同時に報告されました。
…これらの発見から、生物には特定のRNAが特異的に抑制される現象があるということがわかりましたが、その詳細の機構は謎のままでした。 
…1998年になって、「RNAサイレンシングの引き金が2本鎖RNAである」ことが線虫を用いた実験によって発見されると、RNAサイレンシングが真核生物に普遍的に存在することが世界で認知されるようになりました。線虫にターゲット遺伝子と同じ配列をもった2本鎖RNAを食べさせるだけで、ターゲット遺伝子のRNAが分解されてしまったのです。(『植物たちの戦争』より引用)」

2.RNAサイレンシング機構の仕組み
 植物の対ウイルス兵器であるRNAサイレシング(RNA干渉)とは以下のような仕組みになっています。
(1)まず植物のあるタンパク質(DCL(ダイサー))が「ウイルスRNA」を捕まえてバラバラに(21~24塩基の短いRNAに断片化)します。
(2)そのウイルスRNAの断片とある植物タンパク質が複合体(RISC(RNA誘導サイレンシング複合体))を構成します。
(3)その複合体が細胞内をパトロールして、そのRNA断片と同じRNA(つまりウイルスRNA)を見つけると、そのウイルスRNAを切断して破壊してしまいます。

      

 RNAサイレイシングの機構は、細胞内にさまざまな理由で生じた2本鎖RNAを細胞が認識するところから始まります(①)(1本鎖RNAでも内部の塩基どうしの結合によって形成される折畳み構造は部分的に2本鎖RNAとなることがあります。)このような2本鎖RNAは、細胞内で異物として認識され、ダイサー(DCL)とよばれる2本鎖RNAを特異的に分解する酵素によって、21~24塩基程度の短いRNA(siRNA)に切断されます(②)。
 この短い2本鎖のRNAは、アルゴノート(AGO)とよばれるタンパク質に取り込まれ、そこで1本鎖になり、他の細胞内タンパク質とともにRISC(リスク、RNA誘導サイレンシング複合体)とよばれるタンパク質複合体を形成します(③)。RISC複合体は細胞内をパトロールし、取り込んだ1本鎖siRNAと相補的な配列をもっているRNAを発見して(④)、RISC複合体中のAGOにあるスライサー活性によってそのRNAを特異的に切断します(⑤)。この切断されたRNAは、機能を失い消滅します。
…細胞における基本的な遺伝子の発現経路、いわゆるセントラルドグマの流れには2本鎖RNAは必要ありません。一方、RNAウイルスが複製するときには、複製中間体として2本鎖RNAが必ず出現します。このウイルスの存在に伴い出現し、自己の細胞には基本的に存在しない2本鎖RNAという分子を、植物細胞がウイルス侵入のアラーム、つまりPAMPとして認識し、抵抗性機構(ここではRS)を活性化するのは、とても理にかなっています。(『植物たちの戦争』より引用)」

3.ウイルスの「反撃兵器」のRNAサイレンシングサプレッサー
 しかし、ウイルスもRNAサイレンシングに対してのカウンター兵器として、RNAサイレンシングサプレッサー(RSS)を開発しています。
 このRSSは、RNAサイレンシングシステムのいくつかの段階で、それらの機能を阻害するウイルス側のタンパク質群(RNAサイレンシングサプレッサー、RSS)です。

「…ウイルスが繰り出すカウンターの「迎撃ミサイル」がウイルスのRNAサイレンシングサブレッサー(以下RSS)とよばれるタンパク質です。このRSSという名称はRSを阻害するという機能をもつ複数のウイルスタンパク質の総称であり、個々のウイルスが作り出すRSSは、siRNA経路の異なった過程を阻害することが知られています。
 

 …多くのウイルスのRSSはsiRNAに直接結合して、その働きを「消去」する機能をもっています。…それだけではなく、たとえばAGOに結合して、その機能を阻害するものやAGOやDCLの遺伝子発現量を抑制してしまうものも存在します。(『植物たちの戦争』より引用)」

4.ウイルスはRSSを用い植物のmiRNA(マイクロRNA)も制御する
 さらにウイルスはRSSを用いて、植物(というか生物)が持つ遺伝子制御の伝達役である「miRNA(マイクロRNA)」をも阻害してしまうようです。
 miRNAとは20~25塩基の微小なRNAで、各遺伝子への指令書(促進や抑制させる)のようなもので、生物の分化や成長に必須なものです。
 ウイルスは、自らのRANの断片(siRNA)とこのmiRNAが似ているものなので、RSSシステムを利用して、siRNAのときの抑制機構をmiRNAにも応用しているようです。
 植物のmiRNAがウイルスのRSSにより抑制された場合には、植物は分化や成長を阻害されて病気になってしまいす。
 なお現在、医学(人間)でも、このmiRNAがエクソソーム(細胞膜由来の脂質やタンパク質でできた配送用の小胞体)に包まれて、全身に遺伝子制御の指令書を送っていることが分かり、それを応用した「核酸医薬」という新たな創薬につながっているようです。なお癌の転移にもこのmiRNA(エクソソームで包まれた)が関与しているようです(次回の記事で取り上げたいと思います)。


…miRNAは核DNAから転写されて1本鎖の前駆体RNAとして出現します(①)。この前駆体は、同一分子内の相補的な塩基どうしの結合によって折り畳まれ(②)、一部2本鎖RNA構造をとるため、核内でその部分をダイサーが認識して図にあるようにトリミングします(③)。
 その後、miRNAは核から細胞質に移動します(④)。成熟した2本鎖RNAはアルゴノート(AGO)タンパク質に結合し、1本鎖になり(⑤)、片方のみが複合体に残ります(⑥)。その他の細胞因子も集合したRISC複合体が、miRNAの配列をガイドとして、標的となるRNAを探しだします。RISC複合体に捕捉された植物の標的mRNAは、AGOによって切断されます(⑦)。このためターゲット遺伝子のmRNAの蓄積量が減少して、遺伝の発現が抑制されることになります。
 それにしても、植物たちはなぜ自らのRNAを切断するようなシステムを作り上げたのでしょうか。実は、植物たちは、養分吸収機構の維持やストレス応答、さらには、根、茎、葉そして花などの分化に関連するさまざまな遺伝子の発現をmiRNAによって調節しています。
…ウイルスは、このmiRNA経路のさまざまなステップをRSSによって阻害しようとします。厳密には、miRNA経路とsiRNA経路では、DCLやAGOn種類が異なるのですが、RSSは複数の同じ機能のタンパク質を認識して、それに作用することができるのです。…このウイルスのRSSの作用によってsiRNA経路と主要な因子を共有して生成されるmiRNAの蓄積量が大きく変動してしまうことです。 
 これにより植物の分化・生長に異常が現れます。ウイルスと植物の攻防戦の影響でmRNAの発現が混乱した結果が「病徴」と言えます。(『植物たちの戦争』より引用)」

「miRNA (microRNA, マイクロRNA) は、ゲノム上にコードされ、多段階的な生成過程を経て最終的に20から25塩基長の微小RNAとなる機能性核酸である。
 この鎖長の短いmiRNAは、機能性のncRNA (non-coding RNA, ノンコーディングRNA, 非コードRNA: タンパク質へ翻訳されないRNAの総称) に分類されており、ほかの遺伝子の発現を調節するという、生命現象において重要な役割を担っている。」


「エクソソームは、タンパク質やRNAなど、起源細胞に由来するさまざまな分子的構成要素を含んでいる。エクソソームのタンパク質組成は起源となった細胞や組織によって異なるが、大部分のエクソソームは進化的に保存された共通のタンパク質分子のセットを含んでいる。タンパク質のサイズや形状、詰め込みのパラメータを考慮すると、1つのエクソソームに含まれるタンパク質は約20,000分子と推定される。エクソソーム中にmRNAやmiRNAの積み荷が存在することはスウェーデンのヨーテボリ大学の研究で初めて発見された[26]。この研究では、細胞中とエクソソーム中のmRNA、miRNA含量の差異が記載され、エクソソーム中のmRNAの機能性についても記載された。また、エクソソームは二本鎖DNAを運搬することも示されている。 」
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RNA、DNAとは? 三重・四重らせん構造もある?RNAワールド、タンパク質ワールド?

2023-06-10 14:46:42 | 核酸、ゲノム
 最先端の医薬品は、タンパク質の記号構造的な解析と最新のバイオテクノロジーにより作られた人工的な物質(拮抗剤など)によるものだと思っていましたが、どうもその先を行っているようです。

 
 それは、人工的に作られたRNAをベクター(脂質ナノ粒子など)で包み、直接細胞に送り込んで治療効果のあるタンパク質を細胞のリボソームで作ってしまおうというものらしいです。これは何かコロナワクチンとそっくりの手法のようにも思えますが、こういった創薬が主流になろうとしているようです。
 また人工的なRNAを使って、細胞のDNAを書き換える(治療用タンパク質のコードを挿入する)方法もあるようです。

核酸医薬 - Wikipedia
「核酸医薬(英: oligonucleotide therapeutics)とは天然型ヌクレオチドまたは化学修飾型ヌクレオチドを基本骨格とする薬物であり、遺伝子発現を介さずに直接生体に作用し、化学合成により製造されることを特徴とする。代表的な核酸医薬にはアンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAi、アプタマー、デコイなどがあげられる。核酸医薬は化学合成により製造された核酸が遺伝子発現を介さずに直接生体に作用するのに対して、遺伝子治療薬は特定のDNA遺伝子から遺伝子発現させ、何らかの機能をもつ蛋白質を産出させる点が異なる。核酸医薬は高い特異性に加えて、従来の医薬品では狙えないmRNAやnon-coding RNAなど細胞内の標的分子を創薬ターゲットにすることが可能であり、一度プラットフォームが完成すれば比較的短時間で規格化しやすいという特徴がある。そのため核酸医薬は低分子医薬、抗体医薬に次ぐ次世代医薬であり癌や遺伝性疾患に対する革新的医薬品としての発展が期待されている。」

 まあ医薬が進んでいるというか、一歩間違えると大変なリスクにもなると思えますが。

 そのRNA、DNAとは、そもそもどんなものでしょうか?

1.核酸(RNA、DNA)とは
 核酸(RNA、DNA)は、「核酸塩基(Baseと呼ばれる)」、「リン酸」と「糖」から組み立てられています。


 RNAでは「糖」がリボース(上記の5角形のところ)になっていますが、DNAではリボースの2位のOHがH(水素基)に置換されたれています(2-デオキシリボース)。RNAはリボースのOHが加水分解されてしまうので、反応性が高く、不安定になります。

●リボ核酸(RNA)⇒糖(リボース)+リン酸+核酸塩基
●デオキシリボ核酸(DNA)⇒糖(2-デオキシリボース)+リン酸+核酸塩基

 糖と核酸塩基が結合した1単位のものをヌクレオシド、ヌクレオシドにリン酸が結合したもの1単位のものをヌクレオチドといいます。
 このヌクレオチドは核酸以外にも、例えば体内エネルギー通貨であるATP(アデノシン三リン酸 )などでも使われています。どうも生命の基本骨格(記号)であり、RNA起源の研究でも注目を集めているようです。

「原始環境を模倣してヌクレオシド5'-トリリン酸を原料としてRNAが生成するかどうかを調べた.しかし,RNAは生成しなかった.過去にも調べた研究者もあったが,生成しないので論文としもほとんど報告されていない.オーゲルは活性化ヌクレオチドとして,リン酸基3コの代わりに,1コのリン酸基にイミダゾールがついた物質を活性化ヌクレオチドとして使えば,鋳型ポリヌクレオチドが存在すればRNAが生成することをみいだした.しかし,この反応では,ポリシチジル酸鋳型存在下でオリゴグアニル酸が生成するが,鋳型と活性化ヌクレオチドの種類を入れ替えると進まない.またアデニンとウラシルとの組み合わせでも反応は進まない. 
…オーゲルがみつけた活性化ヌクレオチドを使うと,粘土鉱物を触媒とすれば15鎖長ぐらいのRNAが生成する.この反応のメカニズムを解析した.粘土はマイナスに帯電しているがそこにヌクレオチドがマグネシウムイオンを介して結合する.(引用終わり)」

 核酸のヌクレオチドがホスホジエステル結合(リン酸を介しての糖と糖との結合)により多数重合したものをリボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)といいます。
 そしてそれらが二次・三次・四次構造化して高次の機能を持つものになります。 
 三次構造化は二重螺旋構造などが有名ですが、三重・四重螺旋構造も取ることができるようです。
「近年、三重鎖RNAの生物学的機能の研究が多くなされている。三重鎖RNAの生物学的役割としては安定性や翻訳の増大、リガンドの結合や触媒への影響などがある。三重らせんによってリガンドの結合が影響を受ける例としては、SAM-IIリボスイッチがある。SAM-IIリボスイッチでは、三重らせんによってS-アデノシルメチオニンの結合部位が形成される。テロメア(DNAの末端)の複製を担うリボヌクレオタンパク質複合体であるテロメラーゼには三重鎖RNA構造が含まれ、テロメラーゼの適切な機能に必要であると考えられている。MALAT1やカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(英語版)のPAN RNAなどの長鎖ノンコーディングRNAの3'末端に位置する三重らせんは、ポリアデニル化テールを脱アデニル化から保護してRNAを安定化し、ヒトでの複数のがんやウイルスの病原性における機能に影響を与える。さらに、RNA三重鎖はポリアデニル化テールの3'末端の結合ポケットを形成することでmRNAを安定化する。」 
 どうも遺伝子制御はタンパク質(クロマチンなど)だけではなく、mRNA自身でも行っているようです。
「…この四重らせん構造は、細胞の分裂期など、必要とされるときだけに形成されることがわかりました。
すなわちガン細胞のような一部の調節能力が失われた細胞では、常に四重らせんである一方で、通常の細胞では活動期以外は二重らせん構造に収まっているようなのです。
…四重らせん構造はタンパク質の増産を予約する一方で、メチル化(抑制)の標的部位であることが判明しました。 
…実はヒトの遺伝子数が2万個である一方で、全DNA内部で四重らせん構造をとる部位は70万カ所も存在することが知られています。
ヒトのDNAは思った以上に、四本らせん構造の制御を受けているのでしょう。」
 どうも四重螺旋DNAは細胞の分裂促進などに使われるようで、その生成はエピジェネテックスな方法により制御されているようです。


 そして四次構造化は、核酸タンパク質複合体であるリボソームクロマチンなどの構造体になります。生命にとって極めて重要な機能(タンパク質生産や遺伝子制御)を果たすものになります。

核酸 - Wikipedia
「核酸(かくさん、英: nucleic acid)は、リボ核酸 (RNA)とデオキシリボ核酸 (DNA)の総称で、塩基と糖、リン酸からなるヌクレオチドがホスホジエステル結合で連なった生体高分子である。糖の部分がリボースであるものがRNA、リボースの2'位の水酸基が水素基に置換された2-デオキシリボースであるものがDNAである。RNAは2'位が水酸基であるため、加水分解を受けることにより、DNAよりも反応性が高く、熱力学的に不安定である。糖の 1'位には塩基(核酸塩基)が結合している。さらに糖の 3'位と隣の糖の 5'位はリン酸エステル構造で結合しており、その結合が繰り返されて長い鎖状になる。転写や翻訳は 5'位から 3'位への方向へ進む。

一次構造
 核酸の一次構造とは、(デオキシ)ヌクレオシド成分がホスホジエステル結合によって、連続的に連結され、枝分かれのない、ポリヌクレオチド(ヌクレオチドの重合体。核酸と区別して、20程度の短いものを指すことがある)鎖を形成させるような(デオキシ)ヌクレオシド配列である。
二次構造
 核酸の二次構造とは、一本鎖の主にホモポリヌクレオチド(塩基成分が同一のヌクレオチド重合体)の場合には、塩基間の相互作用によって規定されるヌクレオシド成分の空間的配置をさす。2本の相補鎖の場合には、同一の鎖の隣接塩基間の相互作用と、互いに平行している鎖の対向塩基間の水素結合により安定化された規則的な二重螺旋(DNAには三重、四重螺旋も存在する)を意味する。
三次構造
 核酸の三次構造は、固定化された二重螺旋とそれ以外のタイプの配列で形成される。
四次構造
 核酸の四次構造は、リボソームやヌクレオソームのような核蛋白質と相互作用している高分子の空間的配置を意味する。特に、ポリヌクレオチドとポリペプチドの相互依存による高分子構造を指す(引用終わり)」

リボ核酸 - Wikipedia
「リボ核酸(RNA: Ribonucleic acid)は、リボースを糖成分とする核酸である。リボヌクレオチドが多数重合したもので、一本鎖をなし、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルの四種の塩基を含む。 一般にDNA(デオキシリボ核酸)を鋳型として合成され、その遺伝情報の伝達やタンパク質の合成を行う。 」

「DNAはデオキシリボース(五炭糖)とリン酸、塩基 から構成される核酸である。塩基はプリン塩基であるアデニン(A)とグアニン(G)、ピリミジン塩基であるシトシン(C)とチミン(T)の4種類がある。2-デオキシリボースの1'位に塩基が結合したものをデオキシヌクレオシド、このヌクレオシドのデオキシリボースの5'位にリン酸が結合したものをデオキシヌクレオチドと呼ぶ。 」

2.核酸の構成要素
(1)リボース
「リボース(ribose)は、単糖の1種で、炭素鎖の長さが5つのアルドースである。 」  
 単糖とは、それ以上加水分解されない糖類で、一番基本となる記号単位です。この単糖が多数連結するとデンプンなどになります。
 糖質とは、炭水化物のことです。つまり炭素(C)と水(H₂O)だけからなる物質です。この単純な元素の組み合わせによる糖の種類は多様であり、生命の重要な「基本記号体系」(動物のエネルギー産生の源)になっています。
 
 「アルドース (aldose) は糖質をその構造により分類する際に用いられる化学の用語で、鎖の末端にホルミル基を1つ持ち、CnH2nOn (n ≥ 3) の化学式を持つ単糖類を指す。 」
 ホルミル基とは終端にアルデヒド基が付くものです。
 
「糖鎖(とうさ、英語: glycan)とは、各種の糖がグリコシド結合によってつながりあった一群の化合物を指す。結合した糖の数は2つから数万まで様々であり、10個程度までのものをオリゴ糖とも呼ぶ。 」

(2)リン酸
 リン酸はエネルギーの蓄積・放出、核酸の結合などに用いられていて、生命にとって重要な物質です。
「リン酸(リンさん、燐酸、英: phosphoric acid)は、リンのオキソ酸の一種
で、化学式 H3PO4 の無機酸である。 
 …ATPのリン酸基の加水分解や転位反応は、正味の自由エネルギーの減少を伴うエネルギー放出反応であり、あたかもATPのリン酸基同士の結合の切断が生体内の化学反応の実質的な推進力であるかのように見えるため、この意味において、この結合は「高エネルギーリン酸結合」と呼ばれており、これはリン原子が3つ繋がった状態である。」 
「オキソ酸(オキソさん、Oxoacid)とは、何らかの原子にヒドロキシ基 (-OH) とオキソ基 (=O) が結合しており、かつ、そのヒドロキシ基がプロトンを供与できる化合物を指す。」
 リン酸はヌクレオシド(糖と核酸塩基の1単位)の間を結合(ホスホジエステル結合)して重合させます。



 生態学ではこのリン化合物の量が生物の現存量を制御しているとのことです。
「生態学において、リンの化合物 (phosphate) は環境における重要な制御因子とみなされている。生物のエネルギー代謝に不可欠なATPやDNAは、リン酸を分子の一部に含むヌクレオチドからできており、生物の現存量(バイオマス)は環境中から得られるリン酸の量から大きく制約を受けている。 」
 そしてリン肥料の原料のリン鉱石は今枯渇しつつあるとのことです。
「人類が紀元前3000年の頃から始めた農業の歴史上、不足し続けているのがリン酸である。その原料のリン鉱石の枯渇がいま心配されている。リン鉱石の80%が肥料用に使用されており、イギリス硫黄誌 (British Sulphur Publishing) によると、最悪のシナリオとして、過去の消費から年3%の伸びを見込むと、消費量は2060年代には現在の約5倍になり、経済的に採掘可能なリン鉱石は枯渇してしまう。 」
 植物は菌類と共生してリンを獲得しているようです。

(3)核酸塩基
 窒素塩基としても呼ばれ、 次の5つのものがある。
 ●アデニン(A)
「アデニン (adenine) は核酸を構成する5種類の主な塩基のうちのひとつで、生体内に広く分布する有機化合物である。
 プリン骨格は糖ともアミノ酸とも異なる独特の形状をしているにもかかわらず、アデニン、グアニンの他、コーヒーや茶に含まれるカフェイン、ココアに含まれるテオブロミン、緑茶に含まれるテオフィリンなどを構成し、また最近ではプリン体をカットしたビールなども販売されるほどありふれた有機物である。アデニンはシアン化水素とアンモニアを混合して加熱するだけで合成されるため、原始の地球でもありふれた有機物であったと考えられる。」
 糖のリボースと結合したものをアデノシン 、2-デオキシリボースと結合したものをデオキシアデノシン といいます。
 ●シトシン(C)
   糖のリボースと結合したものをシチジン、2-デオキシリボースと結合したものをデオキシシチジンといいます。
 ●グアニン(G)
 糖のリボースと結合したものをグアノシン、2-デオキシリボースと結合したものをデオキシシチジンといいます。
 ●チミン(T)
 糖のリボースと結合したものを5‐メチルウリジン 、2-デオキシリボースと結合したものをチミジンといいます。
 ●ウラシル(U)
 糖のリボースと結合したものをウリジン  、2-デオキシリボースと結合したものをデオキシウリジンといいます。

 そしてこの核酸塩基のA、C、G、T、Uを組み合わせる「暗号体系」が我々生命の源(タンパク質を作るアミノ酸の記号)を形作っています。そしてDNAの二重螺旋構造(データ保管庫のようなもの?)では、A-TとG-C が相補的に結合していて安定な構造になっています。

 

「核酸塩基(かくさんえんき、英: nucleobase)はヌクレオシドを形成する窒素含有生体分子で、窒素塩基としても知られ、多くの場合単に塩基(base)と呼ばれる。ヌクレオシドはヌクレオチドの構成要素であり、ヌクレオチドは核酸の基本的な構成単位である。塩基対を形成し、互いに積み重なる(スタッキング)核酸塩基の性質は、リボ核酸(RNA)やデオキシリボ核酸(DNA)などの長鎖らせん構造をもたらす。
アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)、ウラシル(U)の5つの核酸塩基が主要な(primary)または標準的な(canonical)核酸塩基と呼ばれる。これらは遺伝暗号の基礎的な単位として機能し、DNAではA、G、C、Tがみられ、RNAではA、G、C、Uがみられる。チミンとウラシルは、Uに存在しないメチル基がTに存在する点を除いて同一である。
 アデニンとグアニンはプリンに由来する縮合環構造を持ち、そのためプリン塩基と呼ばれる。プリン塩基は、アデニンの場合C6位に、グアニンの場合C2位に1つのアミノ基を持つことで特徴づけられる。同様に、シトシン、ウラシル、チミンはピリミジンに由来する単環構造を持ち、そのためピリミジン塩基と呼ばれる。典型的なDNA二重らせんの塩基対はプリンとトピリミジンによって構成され、AはTと対合し、CはGと対合する。これらのプリン-ピリミジン対は相補的な塩基対と呼ばれ、二重らせんの2つの鎖をつないでおり、はしごの段によく例えられる。プリンとピリミジンの対合はDNAらせんに寸法上の制約を課し、それらの組み合わせによって一定の幅を持つDNAらせんの幾何学的形状が可能となる。A-TとG-Cの対合は、相補的な塩基のアミンとカルボニル基の間で2つまたは3つの水素結合を形成するように機能する。」 

プリン塩基 - Wikipedia
「プリン塩基(プリンえんき、英: purine base)は、プリン骨格を持った核酸塩基である。つまり、プリン環を基本骨格とする生体物質で核酸あるいはアルカロイドの塩基性物質である。プリン体(プリンたい)とも総称される。
核酸塩基であるアデニン(図1.2)、グアニン(図1.3)などヌクレオシド/ヌクレオチド以外にもNADやFADの成分として、あるいはプリンアルカロイドのカフェイン(図1.7)、テオブロミン(図1.6)などが知られている。」

 このプリン体は、痛風の原因(代謝物の乳酸が溜まる)とのことで巷では話題になっています。
「プリン (purine) は、分子式 C5H4N4、分子量 120.1 の複素環式芳香族化合物の一種である。中性の水には溶けにくく、酸性あるいはアルカリ性にすると良くとける。アルコール等の極性溶媒によく溶けるが無極性溶媒には溶けにくい。4つのアミノ酸と二酸化炭素によって生合成されるが、工業的に生産することもできる。 
…アデニンやグアニンなどの、核酸やヌクレオチドの骨格を構成する核酸塩基として広く生物中に存在する。生化学や栄養学ではアデニンやグアニンを中心とした、プリンを部分構造として持つ生合成・代謝産物を総称してプリン体と呼ぶ。
 プリン体は代謝されると尿酸となる。尿酸は強力な抗酸化物質でありヒト体内において酸素が関与する有害な反応を減弱もしくは除去する働きがある一方で、尿酸が体内で析出して結晶ができると痛風発作を誘発する。痛風患者がプリン体を過剰摂取すると病状が悪化すると言われる」

「具体的には、ピリミジン塩基はチミン,シトシン,ウラシル,5‐メチルシトシン,5‐(ヒドロキシメチル)シトシンのいずれかを指し、DNA 中ではシトシンとチミンが,RNA 中ではシトシンとウラシルが含まれる。 」
「ピリミジン (pyrimidine) は、有機化合物の一種で、ベンゼンの1,3位の炭素が窒素で置換されたものである。分子式 C4H4N2、分子量 80.09 の複素環式芳香族化合物のアミンの一種で、特有の刺激臭を持つ。窒素原子の位置が異なる構造異性体にピラジンとピリダジンがある。 」

3.DNAセントラルドクマ、RNAワールド、タンパク質ワールド
(1)DNAセントラルドクマ
 一昔前(今でも?)までは、DNAが遺伝暗号(生命の源)の主体であり、RNAはそのたんなる補助的な役割(タンパク質生産のためのmRNAtRNAなど)を行っているに過ぎないとみられていました。
(2)RNAワールド
 しかし、そもそも進化的にはまずRNAが先に出来て、後でそれを保管するためのデータ庫としてDNAが出来たのではないかと考えられるようになりました。そうすると、生命の遺伝暗号(生命の源)の主役はRNAなのであり、DNAは単なる補助的な役割(データ保管庫)でしかなとみなされるようなりました。
「RNA ワールドとは原始地球上に存在したと仮定される、RNA からなる自己複製系のこと。また、これがかつて存在し、現生生物へと進化したという仮説を RNA ワールド仮説と呼ぶ。RNAワールドという学名は1986年、ウォルター・ギルバートによって提唱された。 
…現在の生物は、酵素を触媒としてDNAやRNAといった核酸を合成し、核酸の配列を基に酵素を合成している。このどちらが起源なのかは長らくの疑問であった。
 しかし、酵素ではなくRNAでありながら自己スプライシング機能を持つリボザイムやRNAを基にDNAを合成する逆転写酵素が発見されたことで、RNAが酵素(ポリペプチド)と遺伝情報(DNA)両方の起源となりうることが証明され、RNAワールド仮説が提唱されるようになった」

(3)GADVタンパク質ワールド 
 さらにRNAより先にそもそもタンパク質のアミノ酸のコードが遺伝の役割ををしていたするもののようです。この仮説は日本人の池原健二先生が提唱されています。
「生命は遺伝子が形成されるよりも前に、GNC(グアニン、任意、シトシンからなるコドン)がコードする4つのアミノ酸(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、バリン。これらをアミノ酸の一文字記号で表したものが、それぞれG、A、D、Vである)からなるGADVタンパク質の擬似複製によって形成されたGADVタンパク質ワールドから生まれたとの仮説である。 
…GADV仮説は池原健二(当時奈良女子大学教授)によって提唱された。同じく池原健二が提唱するGNC-SNS原初遺伝暗号仮説(GNC仮説)を一つの根拠としている。
 GNC仮説では、現在の普遍遺伝暗号(標準遺伝暗号ともいう)は4つのGGC, GCC, GAC, GUC遺伝暗号がそれぞれグリシン、アラニン、アスパラギン酸、バリンをコードするGNC原初遺伝暗号を起源とし、16種の遺伝暗号が10種のアミノ酸をコードするSNS原始遺伝暗号(Sはグアニン(G)またはシトシン(C)を意味する)を経て形成されたと考える」
 
 現在、タンパク質の構造と機能の研究が加速度的に進展しているようで、タンパク質とRANやタンパク質と糖鎖の複合体の研究が注目を集めているようです。

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エピジェネティクス、基本ゲノムを制御する応用ソフトウェア ?小保方さんの研究との関連?兵器としての応用?

2021-07-25 12:43:28 | 核酸、ゲノム
 『エピゲノムと生命』太田邦史著 講談社ブルーバックスを読了しました。
 
 この本を読んで、細胞(核の)の中の「DNAの基本のプログラム(生体を構成するすべての細胞になることができる)」を制御(ある部分を抑制しある部分は発現させる)する「たんぱく質やRNAなどの応用プログラム」があることが分かりました。
 そのため、この応用プログラムであるたんぱく質やRNAなどに変異が生じると、基本プログラムの正常な抑制・発現の制御ができなくなり、様々な病状が出てくることになるようです。
 そして、この応用プログラムは、内外の環境の変化をセンサーのような機能で感受して、基本プログラムの発現・抑制などを行っているようです。
  
 上記の本の大まかな内容は以下のようです。
「DNA配列以上に、育った環境が異なる双子に違いを産む大きな原因こそ、…DNA配列だけによらない遺伝のしくみ、「エピジェネティクス(Epigenetics)」の違いなのです。たとえば、長期間違う環境で育って成人となった一卵性双生児(50歳)と、幼児の一卵性双生児(3歳)のDNAメチル化(DNAの一部にメチル基が付く反応で、エピジェネティクスに関与)を調べると、前者にのみ双子間の顕著な差異が認められます。つまり、異なる環境で育つ期間がながいほど、年を経るごとにDNAメチル化の数や位置の差が拡大していくのです。」
「細胞は基本的に(例外はありますが)すべて同一のゲノムDNAを持っています。同じDNAを持っているのに、なぜ細胞によって遺伝子の使われ方が異なるのでしょうか。実はDNAの配列だけでは理解できない、通常の遺伝子のしくみとは異なる細胞記憶の機構があるのです。
 …1960年代になると、「DNAや遺伝子の変化」を扱う「遺伝学、ジェネティクス(Genetics)」に対して、それだけで説明できない細胞記憶を扱う学問に対して、「エピジェネティクス」」という言葉が使われようになりました。元来は発生学の用語出会った「エピジェネティクス」が、遺伝学と並ぶような新しい概念に変化し、今ではこの新しい考え方が主流になっています(引用終わり)」
 同じオールマイティーな基本プログラム(DNA)を持つ細胞が、なぜ異なった機能を持つ細胞に分化していくのか?それは、それをコントロールしている制御機能(応用プログラム)があり、その応用プログラムも細胞記憶されるようです。



2、ジャンクDNAから非コードDNAへ
「ヒトのゲノム配列のうち、実際にタンパク質や、リボソームRNAなど機能を持つRNAに翻訳される部分というのは、全体の1.5パーセントに過ぎません。残りの部分は、イントロンの転写制御領域が20パーセントくらいで、残りの80弱は一見すると遺伝子と関係なさそうな領域です。
 そのため、以前この部分のDNAは「ジャンクDNA」と言われていました。」…最近は、この領域が結構重要なことをしているのではないかと注目を集めています。…「非コードDNA領域」と呼ばれています。(引用終わり)」
 全ゲノムの中で、基本プログラムに関係しないコードは約8割もあるようです。以前はジャンクと見られ無視されていましたが、そこは応用プラグラムが書かれている重要な領域だったようです。

3、ヒトゲノムDNAの8割は何らかの意味を持っている 
「2012年9月、『ネイチャー』誌にENCODE(Encyclopedia of DNA Elements)」コンソーシアム(特定の目的を持って作られる共同研究グループ)による解析結果が報告されました。これは、ヒトゲノムDNA上の転職部位、転写因子の結合部位、エンハンサーやブロモーター、…クロマチン構造やピストン・DNA修飾を網羅的に明らかにする巨大プロジェクトです。
…ENCODEで得られた結果は、ヒトゲノムの実に80.4パーセントが、RNAもしくはクロマチンレベルで何らかの機能を果たしているというものでした。また、ヒトゲノムの95パーセントの領域が、その近くに何らかのDNA結合タンパク質の結合部位を持っていること、99パーセントの領域がごく近くで何らかの生化学的現象を引き起こしており、実に多くの領域が重要な役割を果たしていることがわかりました。
(引用終わり)」

4、偽装するDNA(クロマチン)
「酵母からヒトに至る細胞核を持つ生物のゲノムDNAは、細胞内である種のタンパク質に覆われた状態で存在しています。このような構造を「クロマチン」と呼びます。クロマチンは幾重にも折りたたまれて、より高次の構造を作り、最終的には染色体構造を作ります。
 …クロマチンには、…非ヒストン・タンパク質や、転写制御因子やDNA複製・修復・組換えなどに関与する多数のタンパク質が結合しています。
 …クロマチンには陰と陽の二つのタイプがあります。陰は「ヘテロクレマチン」で遺伝子発現が抑制されます。陽は「ユーロクロマチン」といい、活性な遺伝子が多く含まれます。」

「クロマチンとは、元来『細胞核内の染色されやすい物質』を指す語として、ヴァルター・フレミング(Walther Flemming)によって初めて導入された[1]。日本語では染色質と訳される。クロマチンと共によく使われる語に染色体(chromosome)があるが、染色体とは元来、有糸分裂期の細胞においてクロマチンが構造変換して作り出される棒状の構造体を指す。このように原義をたどると、chromatinが不可算名詞であるのに対してchromosomeが可算名詞であることは理解しやすい。
その後の研究の発展と共にクロマチンという語のもつ意味合いは変わってきた。クロマチンに含まれるDNAが遺伝情報の担体であると認識されてからは、その貯蔵形態としての役割が強調されてきたが、最近では、遺伝子の発現・複製・分離・修復等、DNAが関わるあらゆる機能の制御に積極的な役割を果たしていると考えられるようになってきた。」
 
「ヒト二倍体細胞に納められているDNAの総延長はおよそ2 mに達する。これを直径約10 μmの核に収納するための構造がクロマチンである。クロマチンを構築するうえで最も基本となる構造が、ヌクレオソーム(nucleosome)である。まず、4種類のコアヒストン(H2A、H2B、H3、H4)が2コピーずつ集まって八量体(オクタマー)を形成し、その周りを約146bpのコアDNAが約1.65回左巻きに巻きつく(ヒストンおよびDNA超らせんの項参照)。この構造はヌクレオソームコア粒子(core particle)と呼ばれる。2つのヌクレオソーム(コア粒子)の間を繋ぐDNAがリンカーDNA(linker DNA)、そこに結合するヒストンがリンカーヒストンである。多数のヌクレオソームがリンカーDNAを介してアレイ状につながった構造を電子顕微鏡で観察すると、いわゆる beads-on-a-string 状の形態が観察される。この構造は、その直径から10-nm ファイバー(10-nm fiber)と呼ばれる。また、ヌクレオソーム・リンカーDNA・リンカーヒストンの複合体をひとつのユニットとしてクロマトソーム(chromatosome)と呼ぶことがある。 」
「さらに巨視的に眺めた場合、クロマチンは凝集の度合いによりヘテロクロマチン(heterochromatin)とユークロマチン(euchromatin)に分類される。遺伝子密度が低い領域や遺伝子発現が抑制されている領域は、強く折り畳まれてヘテロクロマチンを形成する傾向にある。一方、遺伝子の転写が活発な領域のクロマチンは比較的緩んでおり、ユークロマチンと呼ばれる。細胞分裂期にはいると、クロマチンは組織的に折り畳まれて、よりコンパクトな棒状の構造体(すなわち染色体)に変換される。この過程は染色体凝縮と呼ばれ、姉妹染色分体を正確に分離するために重要な過程である。(引用終わり) 」

以上のことから(不十分ですが)以下のように思いました。
1.小保方さんのSTAP細胞の研究は、細胞の初期化についてのエピジェネティクスな研究の応用だったのではないでしょうか。
 小保方さんの研究は、環境を人為的に変化させ(過酷な環境下に晒し)、細胞を初期化しようとしていたようです。
 これは過酷な環境下におくと、栄養状態?何らかのセンサーが感受して、細胞再生のためのシステムが発動するのではないか。それまで基本プログラム(DNA)の発現を抑制していた応用プログラム(クロマチン)に、何らかの情報が伝わり、抑制システムが解除させられ、細胞の初期化(すべての基本プログラムが使える状態)になるのではないでしょうか。
「理化学研究所と米国ハーバード大学など研究チームは、マウスの体細胞を弱酸性の液体に漬けて刺激するだけで、あらゆる細胞に再生できる“万能細胞”(多能性細胞)を作り出すことに成功したと発表した。細胞や組織などの再生技術には、未受精卵への核移植(クローン技術)のほか、受精卵初期のES細胞(胚性幹細胞)や体細胞に4つの遺伝子(山中因子)を入れたiPS細胞(人工多能性幹細胞)を利用する方法があるが、今回の方法はより簡単に効率よく多能性細胞が作れる。それを基に神経や筋肉、腸などの細胞を作ったほか、これまでの技術では不可能だった胎盤(たいばん)組織を作ることもできたという。 (引用終わり)」
 今となっては「幻」となってしまったようですが、どうも何かありそうな気がします。

「リプログラミングとは、DNAメチル化などのエピジェネティックな標識の消去・再構成を指す 。
…世界で初めて人工的なリプログラミングに成功したのはジョン・ガードンである。彼は、1962年に分化した体細胞は胚性の状態にリプログラムすることができることを、オタマジャクシの腸上皮細胞を除核したカエルの卵に移植することで実証した。この業績により、2012年にノーベル賞を受賞した。共同受賞者の山中伸弥は、ガードンが発見した体細胞の核移植または卵母細胞に基づいたリプログラミングが起こる要因となる明確な遺伝子を特定しiPS細胞を作成することに成功した。 (引用終わり)」

2.エピジェネティクス応用兵器?
 この応用プラグラムを利用して、生物兵器にしたら、さぞ巧妙に攻撃できるかもしれませんね。あるタンパク質やRNAにより細胞が変異して悪影響を与える(病気なる)。狂牛病というのがありましたが、あれはある変異タンパク質が脳のグリアに悪影響を与えてしまっているようです。
 いずれにしても、エピジェネティクスを兵器に応用すれば、サイレントキラー、知らないうちに皆が病気になっていたというようになるかもしれません?

「ミクログリアの機能低下が認知症の病態進行の鍵となる」  
参考:『もうひとつの脳』R・ダグラス・フュールズ著 講談社ブルーバックス
 
 神経細胞の絶縁材に過ぎないと思われていたグリア細胞が、実はその神経細胞を制御する重要な役割を担っていたとのことです。グリア細胞がやられると、神経細胞ネットワークは正常に機能しなくなるようです。


「イギリスで発生したのは、飼料として与えた汚染肉骨粉が感染源と考えられている。なお、日本での発生原因は完全には解明されていないが、肉骨粉と同時に牛用代用乳がその原因として疑われてい。
ウイルスなど核酸を有した病原体による病気ではなく、プリオンと呼ばれるタンパク質のみで構成された物質が原因だとする見解が主流であるが、有力な異論・異説も少数ながらあり、プリオン原因説は完全な定説とはなっていない。健康体の牛などの体内には正常プリオン蛋白が発現しているが、BSEの原因となるプリオンは、正常プリオン蛋白とは立体構造が異なる異常プリオン蛋白から構成されている。
異常プリオン蛋白は、二次構造や細胞内局在において、正常プリオン蛋白とはかなり違った性質を示す。たとえば、正常なプリオンにはαヘリックス構造が多く含まれるのに対して、異常プリオンではβシート構造が多くなっている。この異常プリオン蛋白により構成されたプリオンが人工飼料などを介して牛などの体内に入ると、徐々に正常プリオン蛋白が異常プリオン蛋白に変えられていってしまう。この仕組みについては未解明な部分も多い。
2008年9月11日、アメリカ合衆国農務省(英語略:USDA)動物病センター(英語:National Animal Disease Center/UADC)[2]で研究を行った、カンザス州立大学のユルゲン・リヒト(Jurgen Richt)教授は、BSEの病原体である異常プリオンは、外部から感染しなくとも牛の体内での遺伝子の異変によって作られ、BSEを発症する例につながると発表した。この発表は2006年アラバマ州でBSEを発症した約10歳の雌牛の遺伝子の解析から、異常プリオンを作る異変が初めて見つかったことによる。人間でも同様の異変が知られ、クロイツフェルト・ヤコブ病を起こす[3]。(引用終わり)」
狂牛病に関しては未解明な点も多いようですが、変異したタンパク質が何らかの原因と見られているようです。

参考『ヒトの神経細胞の発生を調節するタンパク質の機能を発見』
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