数理論理教(科学教)の研究

数理論理(科学)はどこから来て、どのような影響を与え、どこに行こうとしているのか、少しでも考えてみたいと思います。人文系

資本主義とは宗教的な「行為義認」なのか(2) 神の民とカルヴァン派

2023-11-07 10:59:09 | 資本主義
※あくまで個人的な考えを記事にしました。

1.カルヴァン派(ピューリタン)と神の民の宗教は本質的に同じなのか? 
 資本主義の宗教的な側面は、カルヴァン派と「神の民の宗教」の考え方に強く影響を受けていたのではないかと考えていましたが、ヴェルナー・ゾンバルトの『ユダヤ人と経済生活』を読んだところ、どうもその二つの宗教は本質的には同じものなのではないかということが主張されていました。
 なおカルヴァン派は、フランスではユグノー、オランダではゴイセン、スコットランドではプレスビテリアン(長老派)、イングランドではピューリタン(新教徒)と呼ばれていました。 




 「…マックス・ヴェーバーが行った資本主義にとってのピューリタニズムの意義に関する研究は、わたしのユダヤ研究を大いに刺激した。それというのも、とりわけ資本主義の発展にとって意義あるピューリタニズムの主な理念が、実は、ユダヤ教のなかで、一層きびしく、そして当然のことながら、はるか早期に形成されていたという印象を受けたからである。
…ユダヤ教の考え方と、ピューリタニズムの考え方の事実上ほとんど完全な一致が明らかにされるに違いない。すなわち、宗教的関心の優位、試練の考え、(とくに!)生活態度の合理化、世俗内的禁欲、宗教的観念と利益獲得への関心と結合、罪の問題の数量的なあつかい、…
…ピューリタニズムはユダヤ教である。
 ヴェーバーとわたしの記述に基づけば、両者の精神的関連、いやそればかり両者の精神的一致を確定させることは、それほど困難ではないと思われる。」
「…宗教改革時代に、ユダヤ教と多くのキリスト教の宗派との間に形づくられた密接な関係はよく知られているし、当時ヘブライ語やユダヤ教の研究が、流行の学問として愛好されたことも周知の事実だ。しかし、とりわけ十七世紀にユダヤ人がイギリス人、とくにピューリタンに熱狂的に尊敬されたことも、よくわかっている。それはたんに、オリヴァー・クロムウェルのような指導者の宗教的な考え方が、全く旧約聖書を足がかりにしていたということばかりではない。クロムウェルは、旧約聖書と新約聖書との和解、ユダヤの神の民と、イギリスのピューリタンの神の会衆の内面的結合を夢見ていたのだ。
…公的生活と教会の説教は、まさにイスラエル的色彩を帯びていた。
…クロムウェルの将校たちは、彼にユダヤの模範組織シンヘドリストの構成員の数にならって七十人のメンバーからなる国家評議会をつくるように提案した。
 その頃は旧約聖書のみならず、ラビ文献がキリスト教の聖職者とキリスト教の平信徒のサークルで、熱心に読まれていたという事実がある。したがってピューリタンの教義が、ユダヤ教の教義から直接導かれたということも十分にありうる。」

2.カルヴァン派とルター派とは考え方が違う?
 長く続くローマカトリック教会の体制下では、免罪符売買や教会の私物化(教会税を集金する権利を宗教関係者でなく支配層が専有する)ということがが横行したりすることにより、それに対して不満を持つ人たちが立ち上がるようになり、ドイツではマルティン・ルターらにより宗教改革が始りました。
 この宗教改革から生まれた宗派をプロテスタントと言いますが、プロテスタントの中でも、ドイツのルター派とカルヴァン派とでは相当考え方が違っていたようです。
 ルター派の考えは、カトリック教会のものから信条や儀式などを多少変更したとはいえ、教えそのものについてはカトリックのものとそれほど変わっていなかったようです。それぞれの教会をローマ教会の支配から切り離して、自主的な自治組織にしようとしたようです。これにローマ教会の支配を排除したいと思っていた地元支配層(貴族層)の利害も絡んで、その改革運動は広がっていったようです。そのため、ルター派の考え方はすごく保守的で、聖書などをその言葉通りに忠実に守っていこうということが重要視されていると思います。
 それに対して、カルヴァン派の「全的堕落の極端な見方」や「予定説」といった考え方は、ルター派の考え方と相当違っていたようです。

 
「ルター主義の神学者たちが同じ改革者であっても、カルヴァンをはじめスイスの宗教改革者たちとの違いを感じ、彼らが批判したのは聖餐の理解をめぐる問題であった。ルターたちの改革では、教会が伝統的に制度化していた七つの秘跡のうち、聖書的な根拠にとぼしい五つのサクラメントは排除され、最終的に洗礼と聖餐が残された。この点についてはスイスの改革者たちも基本的には同じ考えであった。洗礼は、罪の赦しのためだけに一回だけ行われるサクラメントであるのに対して、聖餐は、キリストの犠牲によって人類が救済されたことを想起するために、繰り返し行われる儀式で、「キリストの身体」と呼ばれるパンと「キリストの血」と呼ばれるぶどう酒を授かる。
 …スイスの改革者たちは、より厳密な解釈を要求し、ルターやその支持者たちと論争になった。彼らは聖餐に残る魔術的な要素、たとえば聖餐においてパンとぶどう酒に変化を生じさせるような呪文、このパンとぶどう酒の中に復活したキリストが何らかの神秘的な仕方で宿っているという解釈を拒否し、この儀式を徹底的に象徴的に解釈しようとした。
 …スイスの改革者たちは、カトリック教会の伝統の中にあった魔術的要素、反聖書的要素などと彼らが考えたものを徹底的に排除しようとした。そのために礼拝の順序も変えられ、礼拝堂からもそれらのものはすべて排除された。十字架像さえも偶像に属するとして排除された。それに対してルターとその支持者たちは基本的にはカトリックの伝統的な教会の礼拝様式や会堂建築を継承した。今日でもルター派の教会はカトリックとそれほど変わらない様式を保持している。」

3.カルバン派の全的堕落と予定説は神の民の考えと親和性がある?
(1)全的堕落と神の絶対的支配 
 全的堕落の考え方は、プロテスタントの各派では一般的に受け入れられていたようですが、カルヴァン派は特に極端な考え方をしていたようです。
 カルヴァン派の全的堕落の見方は、全知全能の神の絶対的な支配ということに重点が置かれていたと思います。そしてそれは、絶対的な神の「規則(神が作った法則)」に忠実に生きるということが使命になり、いついかなる時でも「神の支配」は満ちているので、規則(法則)に従って律儀に行動し続けないといけないということなります。また神の作った「法則」を忠実に守るということは、その「神の法則」を知ろうとすることにもつながり、人間や自然(神の造物)を様々な抽象的な思考実験を行って分析するということに向かい、科学的な思考と親和性が高くなったのではないかと思います。近代数学の創始者のベルヌーイ一族やオイラーらはカルヴァン派でした。


 一方、「神の民の宗教」でも神は絶対的で唯一な存在であり、新約聖書で語られているようなキリスト(神の子)の贖いにより誰でも(人間ごときが)救済されるということはありえず、すべては神の支配するところであり、選ばれた神の民だけがその神の規則を忠実に従うことにより救われるという考え方になっていると思います。人間も自然も神の造った「造物」なので、その規則(法則)によりどのように造られているのかを探求することは、この民にとっても理にかなっていたと思います。この民にとっては、人間や自然の見方はすごく唯物的(抽象的な論理物)になると思います。
(2)予定説
 そして予定説、神の救済にあずかる者はあらかじめ決まっているという考え方は、一種の選民思想(神の民だけが救われる)にもつながることになると思います。そして神に救われる者の証は、禁欲的で具現的な勤労の結果である労働価値の多寡にあると考えるようになると、「産めよ増やせよ」の考え方にも近いような気がします。

「すべての人間の堕落
人は、アダムの創造主である神への反逆、すなわち堕罪ゆえに、その結果として「全的に堕落」したとするもので、ここに「全的」とは、二重の意味を持つ。第一に、その「堕落」が全人類に広がりアダムの末裔である限り、その「堕落」から逃れた者はいない、という「堕落」普遍性を示すことばであり、第二に、人格のすべての領域にその「堕落」が及んでいると言う意味において「全的」なのである。つまりすべての人間は堕落しており、また人間の人格もすべて堕落しているという意味である。「神学の第一原理は、人間の堕落、人間の罪である。」と言われている。」

「予定説(預定説、よていせつ、英語: Predestination)は、聖書からジャン・カルヴァンによって提唱されたキリスト教の神学思想。カルヴァンによれば、神の救済にあずかる者と滅びに至る者が予め決められているとする(二重予定説)。神学的にはより広い聖定論に含まれ、その中の個人の救済に関わる事柄を指す。全的堕落と共にカルヴァン主義の根幹を成す。
予定説を支持する立場からは、予定説は聖書の教えであり正統教理とされるが、全キリスト教諸教派が予定説を認めている訳ではなく、予定説を認める教派の方がむしろ少数派である。
 内容
 予定説に従えば、その人が神の救済にあずかれるかどうかはあらかじめ決定されており、この世で善行を積んだかどうかといったことではそれを変えることはできないとされる。例えば、教会にいくら寄進をしても救済されるかどうかには全く関係がない。神の意思を個人の意思や行動で左右することはできない、ということである。これは、条件的救いに対し、無条件救いと呼ばれる。神は条件ではなく、無条件に人を選ばれる。神の一方的な恩寵である。
救済されるのは特定の選ばれた人に限定され、一度救済にあずかれた者は、罪を犯しても必ず神に立ち返るとされる[1]。これは、聖徒の堅忍と信仰後退者の教理である。」
 
(創世記 9:1-17)
『聖書 聖書協会共同訳』より
「神はノアとその息子たちを祝福して言われた。「産めよ、増えよ、地に満ちよ。
あらゆる地の獣、あらゆる空の鳥、あらゆる地を這うもの、あらゆる海の魚はあなたがたを恐れ、おののき、あなたがたの手に委ねられる。
命のある動き回るものはすべて、あなたがたの食物となる。あなたがたに与えた青草と同じように、私はこれらすべてをあなたがたに与えた。
ただ、肉はその命である血と一緒に食べてはならない。
また、私はあなたがたの命である血が流された場合、その血の償いを求める。あらゆる獣に償いを求める。人に、その兄弟に、命の償いを求める。
人の血を流す者は
人によってその血を流される。
神は人を神のかたちに造られたからである。
あなたがたは、産めよ、増えよ。
地に群がり、地に増えよ。」

4.マックスヴェーバーの『プロテスタンティズムと資本主義の精神』は、神の民の考え方を基にするとよく理解できる?
 ヴェーバーのこの考え方は、カルヴァン派と「神の民の宗教」を融合して見直してみると、何かすっきり理解できるようになりました。結局、資本主義とは「宗教的な行為義認」であり、私たちもその中に放り込まれ、日々「利益」追及に駆り立てられているということになるのでしょうか?
 後ウマイヤ朝で栄えたスペインの地に移住した神の民は「スファラディ」と呼ばれますが、カトリック全盛期には迫害されて、ポルトガル→オランダ→イギリス・アメリカに移住していったようです。この移住先ではどこも商業的に繁栄しました。そしてイギリス・アメリカでは本格的な資本主義は勃興することになりました。

 
「予定説と資本主義
マックス・ヴェーバーは論文「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」の中で、カルヴァン派の予定説が資本主義を発達させた、という論理を提出した。
救済にあずかれるかどうか全く不明であり、現世での善行も意味を持たないとすると、人々は虚無的な思想に陥るほかないように思われる。現世でどう生きようとも救済される者は予め決まっているというのであるなら、快楽にふけるというドラスティックな対応をする者もありうるはずだ。しかし人々は実際には、「全能の神に救われるように予め定められた人間は、禁欲的に天命(ドイツ語で「Beruf」だが、この単語には「職業」という意味もある)を務めて成功する人間のはずである」という思想を持った。そして、自分こそ救済されるべき選ばれた人間であるという証しを得るために、禁欲的に職業に励もうとした。すなわち、暇を惜しんで少しでも多くの仕事をしようとし、その結果増えた収入も享楽目的には使わず更なる仕事のために使おうとした。そしてそのことが結果的に資本主義を発達させた、という論理である。」



 
「…ポルトガルへ脱出し、さらにはオランダへ逃れていった人々もいた。ポルトガルに逃れた人びとのなかには、生き残り、世を渡るためにキリスト教へ改宗した者も多かったといわれる。彼らは「コンヴェルソ」と呼ばれた(「マラーノ」はその蔑称である)。コンヴェルソの家庭では、母親を通じて子供へのユダヤ教の信仰が密かに引き継がれていった。いわば潜伏ユダヤ教徒である彼らは、異端審問と虐殺から身を守ると同時に、長い間をかけて国外の安全な場所を探求し、周到な計画のもとに移住を企てた。その行き先が新興国オランダであった。
 十七世紀、ウエストファリア条約で独立を果たしたオランダは、信仰の自由を掲げて大航海時代をリードしはじめていた。オランダに無事にたどり着いてたコンヴェルソの人びとは、ユダヤ教へ再改宗すると、アムステルダムを中心にユダヤ社会を形成していった。…高い言語能力を活かして交易の担い手となることで、受け入れ先の国の繁栄に貢献していった。
 オランダでは、ユダヤ人の交易支配がスペインからの不当な扱いを受けたことに対抗し、1658年、ユダヤ人にオランダ市民権を付与して国際貿易上の便宜を図ることにまでした。この決定はやがて、ユダヤ人が西欧諸国で市民権を獲得する新たな道を開くことになる。…西欧諸国が重商主義の時代を迎えるなか、それまではもっぱら迫害と追放の対象だったユダヤ人が、西欧のキリスト社会でも生きられるようになったのである。
 北米大陸へのユダヤ人移民がコンヴェルソから始まっていることも注目すべき点であろう。またユダヤ人の移住によって国力を増強したオランダは、ピューリタン革命を指導したクロムウェルにも影響を与え、1290年の追放以来、長らくユダヤ人を拒んできたイギリスで門戸開放が実現する。そして、ロンドンを拠点とするユダヤ人商人のなかから北米へ入植する者が現れ、1730年にはニューヨークのマンハッタンに、アメリカで初めてのシナゴーグが建設されるのである。」






 

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IgG4抗体増加と免疫低下

2023-10-20 11:01:46 | 免疫
1.IgG4とは
 IgGとはB細胞が産出する免疫ブログリン(抗体)の一つで、主に血液中に存在しています。その他にIgE(上皮組織に存在し、花粉症などアレルギー引き起こす)などがあります。
 IgGの中にもまた種類があり、IgG4はその中では比率が一番少なく(通常4%ほど)、免疫活性化は弱いようです。IgG4は抗原の刺激により、主にアレルギー反応に関係するTh2タイプのサイトカインであるIL4、IL-13によって産生誘導されるよです。Th2が優位な状態で、さらにregulatory T細胞(IL-10を産生する)が活性化さされると、IgG4が産生誘導されると考えられています。Th2サイトカインは、IgEや好酸球浸潤を誘導し、またregulatory T細胞はTGFβを産生して線維化を促進します。これらのサイトカインがIgG4関連疾患で見られるIgE高値、好酸球浸潤、病変の線維化に関与すると考えられています。

「ヒトには 4 つの IgG サブクラス (IgG1、2、3、および 4) があり、血清中の存在量の多い順に名前が付けられています (IgG1 が最も豊富です)。 

 IgG サブクラスの相反する特性 (補体を固定するものと固定しないもの、FcR に結合するものと結合しないもの)、およびほとんどの抗原に対する免疫応答には 4 つのサブクラスすべての混合が含まれるという事実を考慮すると、IgG がどのように機能するかを理解することは困難でした。サブクラスは連携して防御免疫を提供できます。2013 年に、ヒト IgE および IgG 機能の時間モデルが提案されました。このモデルは、IgG3 (および IgE) が応答の初期に現れることを示唆しています。IgG3 は親和性が比較的低いですが、外来抗原を除去する際に IgG を介した防御が IgM を介した防御に加わることを可能にします。続いて、より親和性の高い IgG1 および IgG2 が生成されます。形成される免疫複合体におけるこれらのサブクラスの相対的なバランスは、その後の炎症プロセスの強さを決定するのに役立ちます。最後に、抗原が存続すると、高親和性 IgG4 が生成され、FcR 介在プロセスの抑制を助けることで炎症を抑えます。」

2.IgG4関連疾患
 このIgG4ですが、原因不明の全身性・慢性炎症性疾患によりその数値が上昇(IgG4を産生する「IgG4陽性形質細胞」の増加)することから、「IgG4関連疾患」と呼ばれているようです。
 東京理科大学の久保教授らのグループは、マウスを使った実験で、血中にIgG4抗体が存在すると、免疫系の細胞の一つで異物を破壊する能力を持つ「細胞傷害性T細胞」の組織傷害の程度が大きくなり、組織の炎症が増悪することを発見されました。血中にIgG4抗体が存在すると、T細胞と同じく免疫系の細胞の一つであり、体内に侵入した異物の特徴を他の細胞に提示する「樹状細胞」の働きが促進され、そのことによって細胞傷害性T細胞が活性化しやすくなっているとのことです。

「IgG4関連疾患(-かんれんしっかん、英:IgG4-related disease)とは、免疫グロブリンGのサブクラスIgG4が関係する血清IgG4高値と罹患臓器への著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする原因不明の全身性、慢性炎症性疾患である。日本から世界に発信している新しい疾患概念で、血清IgG4上昇を認めることからIgG4疾患とも呼ばれる。 
…IgG4関連疾患は、自己免疫性膵炎やキャッスルマン病を代表とする多彩な臓器疾患を包括する疾病概念で、高IgG4血症(血清IgG4高値)と共に、全身臓器に腫大や結節・肥厚性病変を認め、且つリンパ球、IgG4陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化が生じる疾患と定義される。涙腺、唾液腺、膵臓、後腹膜、腎臓、前立腺、リンパ節などに病変を認めることが多い。患者数は増加傾向にあるが患者そのもののが増加したのでは無く、診断技術・能力の向上により従来は他疾患や診断不能であった患者が、IgG4関連疾患と診断された為である。」 

「IgG4は、健常人では全IgGの5%以下で、IgG1~G3と比べると最も少ない。その濃度は、1-140mg/dlと個人差がある。IgG4のFc領域は、補体(C1q)やFcγ受容体への結合が弱く、免疫活性化における役割は少ないと考えられている。興味深いことにIgG4は、形質細胞より分泌された後、他のIgGと異なり、Fab領域が他のFabと交換され、1分子で異なった2つの抗原を認識(bispecific Ab)できるようになることである。こうしたできたBispecific抗体は抗原を架橋せず、免疫複合体形成能の低下によって抗炎症作用を示すと考えられている。  
 IgG4産生は、抗原刺激下で、主にアレルギー反応に関与するTh2タイプのサイトカインであるIL4、IL-13によって産生誘導される。IgEもTh2タイプのサイトカインで産生誘導を受けるが、IL-10、IL-12、IL-21が存在すると、産生はIgEよりIgG4の方に傾く。Th2優位な状態において、さらにregulatory T細胞(IL-10を産生する)が活性化された状況のときに、IgG4が産生誘導されると考えられている。Th2サイトカインは、IgEや好酸球浸潤を誘導し、またregulatory T細胞はTGFβを産生して線維化を促進する。これらのサイトカインがIgG4関連疾患で見られるIgE高値、好酸球浸潤、病変の線維化に関与すると考えられる。
 IgG4関連疾患において産生されるIgG4の役割についてはよく解っていない。自己免疫として組織障害をおこす自己抗体として産生される、あるいは、炎症性の刺激に反応して産生される、との2つの考えがある。確かに、尋常性天疱瘡や落葉状天疱瘡での抗デスモグレイン抗体、血栓性血小板減少性紫斑病での抗ADAMTS13抗体として、IgG4クラスの自己抗体が報告されている。一方、上記したようなIgG4関連疾患では、確立した自己抗体が見つかっていないことや、IgG4は抗炎症作用を持つとの考えから、炎症性の刺激に対する反応として、IgG4が産生されるとの考えがある。」
「…IgG4は、細菌やウイルスなどの病原体に対して身体が抵抗するためのシステム「免疫」に関わるタンパク質です。身体に侵入した病原体や、病原体に既に侵された細胞などと結合し、病原体を無力化したり、白血球などの免疫細胞が病原体を攻撃する際の目印として働いたりする物質をまとめて抗体と呼びますが、IgG4もこの抗体の一つです。
 IgG4関連疾患の患者では、臓器に腫れがみられるほか、血中のIgG4の濃度が正常値と比べて高くなっており、IgG4を産生する「IgG4陽性形質細胞」が異常に増えて臓器に浸潤しています。逆に言えば、この三つを除いて患者同士で共通する特徴はあまりありません。炎症が起こる臓器は患者によってまちまちで、起きた臓器や炎症の程度によって自覚症状も異なります。ステロイド剤など免疫を抑える薬で症状が改善する場合が多いことから、自己免疫疾患であると考えられていますが、疾患の発生、進行などのメカニズムには不明な点が多く、治療法の開発のためにもメカニズムの解明が待たれていました。
 久保教授らのグループでは、マウスを使った実験で、血中にIgG4抗体が存在すると、免疫系の細胞の一つで異物を破壊する能力を持つ「細胞傷害性T細胞」による、組織傷害の程度が大きくなり、組織の炎症が増悪することを発見しました。血中にIgG4抗体が存在すると、T細胞と同じく免疫系の細胞の一つであり、体内に侵入した異物の特徴を他の細胞に提示する「樹状細胞」の働きが促進され、そのことによって細胞傷害性T細胞が活性化しやすくなっていました。これらのことから、IgG4関連疾患に特徴的な強い炎症はIgG4抗体と細胞傷害性T細胞の相乗効果によるものである可能性が示唆されました。」

3.IgG4増加とmRNAワクチン
 最近の調査でmRNAワクチンを2回以上接種した人のIgG4濃度が異常に高くなっていることが分かってきました。
 IgG4抗体の増加の重要な要因は、過剰な抗原濃度、反復接種、使用したワクチンの種類の3つであると言われています。
 mRNAワクチンの反復接種後のIgG4の増加は、保護メカニズムになるのではなく、むしろ天然の抗ウイルス応答を抑制することにより、SARS-CoV2の感染と複製を阻止できないスパイクタンパク質に対する免疫寛容のメカニズムになってしまうとのことです。また高抗原濃度のmRNAワクチン接種を繰り返すことにより、IgG4合成が増加して、自己免疫疾患の原因となり、感受性の高い人においては、がんの増殖や自己免疫性心筋炎を促進する可能性もあるとのことです。
「概要:コロナウイルスSARS-CoV-2の世界的な出現から1年も経たないうちに、mRNA技術に基づく新しいワクチンプラットフォームが市場に導入されました。世界では、多様なプラットフォームのCOVID-19ワクチン約133億8000万回分が投与されました。現在までに、全人口の72.3%が少なくとも一度はCOVID-19ワクチンを接種しています。これらのワクチンによる免疫力が急速に低下し、合併症を持つ人の入院や重症化を予防する能力が最近疑問視されています。また、他の多くのワクチンと同様に、滅菌免疫が得られず、再感染が頻繁に起こることが示されつつあります。また、最近の調査では、mRNAワクチンを2回以上接種した人のIgG4濃度が異常に高いことが判明しています。
 HIV、マラリア、百日咳の各ワクチンも、通常よりも高いIgG4合成を誘導することが報告されています。全体として、IgG4抗体へのクラス転換を決定する重要な要因は、過剰な抗原濃度、反復接種、使用したワクチンの種類、の3つであるとされています。IgG4レベルの増加は、IgE誘導作用を抑制することにより、アレルゲン特異的免疫療法の成功時に起こるのと同様に、免疫の過剰活性化を防ぐことで保護する役割を持つ可能性が示唆されている。しかし、mRNAワクチンの反復接種後に検出されたIgG4レベルの増加は、保護メカニズムではなく、むしろ、天然の抗ウイルス応答を抑制することにより、SARS-CoV2の感染と複製を阻止できないスパイクタンパク質に対する免疫寛容メカニズムである可能性を示す証拠が登場しています。また、高抗原濃度のmRNAワクチン接種の繰り返しによるIgG4合成の増加は、自己免疫疾患の原因となり、感受性の高い人においては、がんの増殖や自己免疫性心筋炎を促進する可能性があります。」

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免疫(12)獲得免疫 細胞性免疫 キラーT細胞

2023-10-06 09:30:20 | 免疫
 細胞性免疫の主役はT細胞、ヘルパーT細胞と細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)です。液性免疫のB細胞ではIgGなどの「抗体」が病原体を直接攻撃(不活化や複合体形成(マクロファージなどに貪食される))しますが、キラーT細胞は感染された(又は変異した)自己の細胞が表示する標識を認識して、ヘルパーT細胞の指令により、その感染された又は変異した「自己細胞」を攻撃します。
 そのため、キラーT細胞が自己細胞を過剰に攻撃してしまった場合には、自己免疫疾患(関節リュウマチなど)にかかってしまうこともあります。そのことを防御するため、制御性T細胞がキラーT細胞の過剰攻撃を抑制をしています。
 T細胞にもB細胞の免疫グロブリン(抗体)のような多様な病原体を認識できる受容体があります。免疫グロブリンと同じように、定常部と可変部が存在します。抗体は遊離した抗原でも結合できますが、T細胞の受容体は細胞表面に存在する抗原としか結合しません。
 キラーT細胞は、細胞表面に提示された病原体(分解されたもの)・非自己や異常タンパク質とMHCクラスⅠタンパク質との複合体に結合することにより、活性化して増殖を開始します。その後、キラーT細胞が細胞表面に提示を受けたものと同じ病原体等とMHCⅠクラスタンパク質の複合体と結合すると、パフォーリンいう物質を出してその細胞を融解させたり、その細胞のFasという受容体に結合してその細胞をアポトーシス(プログラムされた細胞死)させます。


 
2種類のT細胞にはT細胞受容体が存在する
 B細胞と同じようにT細胞には特異的な膜受容体が存在する。しかし、T細胞受容体は免疫グロブリンではなく、IgGの半分程度の分子量の糖タンパク質である。それぞれ異なった遺伝子によってコードされている2本のペプチド鎖から構成されている。免疫グロブリンと同じように可変部と定常部が存在する。

        

 T細胞受容体をコードする遺伝子は免疫グロブリンの遺伝子と類似しており、進化的には共通の祖先の遺伝子に由来すると想像できる。免疫グロブリンと同じように定常部と可変部が存在し、可変部に特異的に抗原が結合する。免疫グロブリン(抗体)は遊離した抗原でも細胞表面に結合した抗原でも結合するが、T細胞受容体は抗原提示細胞および標的細胞の細胞表面に存在する抗原としか結合しない。
 T細胞が抗原によって活性化されると、増殖を開始してクローン集団が形成される。そして2種類のT細胞に分化していく。
 ■細胞傷害性T細胞(Tc細胞)はウイルスに感染した細胞や変異細胞を認識して、それを溶解して死滅させる。
 ■ヘルパーT細胞(Th細胞)は細胞性免疫応答や液性免疫応答を制御する。
 MHCタンパク質は免疫系に抗原を提示する
 動物の免疫システムは自己細胞を細胞表面のタンパク質で識別している。この過程には数種類のタンパク質が関与しているが、特に大切なのは主要組織適合抗原遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる遺伝子群である。
…MHCがコードするタンパク質は細胞膜糖タンパク質である。ヒトのMHCタンパク質はHLA(ヒト白血球抗原)と、マウスのMHCはH-2タンパク質と呼ばれている。これらのタンパク質の主な機能は、自己抗原と非自己抗原を識別できるようにT細胞受容体に提示することである。MHCタンパク質は2つに大別できる。
 ■MHCクラスⅠタンパク質は動物の細胞核がある細胞のすべて(赤血球や血小板を除く)に存在する。細胞内タンパク質がプロテアソーム(細胞内タンパク質分解酵素複合体)によってペプチド断片に分解されると、MHCクラスⅠタンパク質が結合して細胞膜表面へ移行する。細胞由来のペプチドはMHCクラスⅠタンパク質との複合体として細胞傷害性T細胞に提示される。細胞傷害性T細胞の細胞表面にはMHCクラスⅠタンパク質を認識して結合するCD8というタンパク質が存在する。
 ■MHCクラスⅡタンパク質はB細胞、マクロファージ、その他の抗原提示細胞の細胞表面のみに存在する。抗原提示細胞がウイルスなど非自己抗原を貪食すると、ファゴソーム(異物を分解する細胞内小胞)で分解が行われる。そうして作られた断片にMHCクラスⅡタンパク質が結合し、複合体として細胞表面に移動し、ヘルパーT細胞に提示される。ヘルパーT細胞の細胞表面にはMHCクラスⅡタンパク質を認識して結合するCD4というタンパク質が存在する。
 細胞性免疫応答では細胞傷害性T細胞とMHCクラスⅠタンパク質が主役
 …ウイルスに感染した細胞や変異細胞では、非自己タンパク質や異常タンパク質の断片ペプチドがMHCクラスⅠタンパクと結合する。この複合体は細胞表面に移行し、細胞傷害性T細胞に提示される。細胞性傷害性T細胞は、これを認識してMHCクラスⅠタンパク質ー抗原複合体に結合すると、活性化され増殖を開始する(細胞性免疫応答)。
 細胞性免疫のエフェクター段階では、細胞傷害性T細胞は同じMHCクラスⅠタンパク質ー抗原複合体が表面に存在している細胞に結合する。するとパーフォリンという物質を産出して、その細胞を融解する。さらに、標的細胞のFasという特異的受容体に結合して、その細胞をアポトーシス(プログララムされた細胞死)させる。これら2つの細胞傷害は協調して異常になった自己細胞を除去していく。
 細胞傷害性T細胞は非自己抗原と自己MHCタンパク質との複合体を認識するため、ウイルス感染した自己細胞を除去することができる。また異常になった自己抗原(変異の結果などによる)とMHCタンパク質との複合体を認識することもできるので、遺伝子変異がもたらす異常タンパク質が原因となる腫瘍細胞も除去できる。
 T細胞の活性化には、MHCタンパク質ー抗原複合体と受容体の結合だけでなく、第二のシグナルが必要である。受容体への特異的結合の後に、抗原提示細胞のCD28タンパク質がT細胞受容体と結合することによって、この共刺激シグナルが生じる。この2番目の結合後にT細胞は活性化され、サイトカイン産生や増殖が開始される。また、同時にこれらの事象の抑制因子の産生も開始され、免疫応答が過剰にならないように適切な終結も行われる。この抑制因子は、細胞表面にあるCTLA4というタンパク質であり、CD28と競合し、特に自己抗原の場合に活性化過程を阻止する。
 MHCタンパク質は自己寛容の基盤である
 MHCタンパク質は自己寛容の確立の鍵を握ってる。自己寛容が破綻すると、動物は自分自身の免疫システムによって破綻されてしまうだろう。動物の生涯にわたって、発達過程のT細胞は胸腺で検証される。
①この細胞は自己のMHCタンパク質を認識できるのか?自己MHCを認識できないT細胞は、いかなる免疫反応も行うことが不可能なため、まったく役立たずということになる。このようなT細胞は不合格となり3日以内に死を迎える。
②この細胞は自己MHCタンパク質と自己抗原の複合体と結合するのか?結合するT細胞は生体にとって有害または致死的となる。やはり不合格となりアポトーシスする。
 上記の検証に合格したT細胞は細胞傷害性T細胞あるいはヘルパーT細胞へ成熟していく。
…ヒトではMHCは臓器移植治療の分野で特に重要になっている。MHCがコードするタンパク質は各個人で異なっているため、一卵性双生児間以外の移植では、非自己抗原ということになる。そのため、移植臓器では非自己と認識され免疫応答が惹起され攻撃される(非自己のMHCタンパク質は、T細胞により自己のMHCタンパク質ー非自己抗原複合体と同様に認識されるため、攻撃の対象になる。)(引用終わり)」
 
 
「…免疫細胞は誕生した直後に、胸腺という特殊な組織で身内の「顔」をしっかり記憶し、仲間を決して攻撃しないように教育されている、とかつての免疫学は教えてきた。
 だが、それはいささか楽観的にすぎたようだ。最近の研究では、胸腺にも手抜かりや不手際が少なからずあり、教育不行き届きの免疫細胞を送り出していることがわかってきた。私たちはの体にはわが身を敵とみなす恐ろしい自己反応性の免疫細胞がたくさんうろついて、正常な臓器や組織を攻撃しているのだ。
…免疫細胞たちがそうやって実際に引き起こす病気が、自己免疫疾患なのである。
 骨が溶け、最後には関節まで破壊されてしまう関節リウマチ、膵臓のインスリン生産細胞が破壊されてしまう1型糖尿病、脳や脊髄の神経細胞を覆う膜が攻撃されて多発性の硬い病巣組織ができうる多発性硬化症など枚挙にいとまがない。
 免疫の働きが過剰になったり、自己反応性の免疫細胞が悪さを始めたりしたときに、やりすぎを抑制して「撃ち方やめ」を周知徹底させる役割を担う細胞だ。…制御性T細胞である。
 キラーT細胞もヘルパーT細胞と同様に樹状細胞とつながっていて、抗原提示を受けている。すると、ヘルパーT細胞は近くにいるキラーT細胞に向かって情報伝達分子を放出して増殖を促す。
 ところが、ここに制御性T細胞が現れると、…樹状細胞の上に制御性T細胞がのしかかって、合体して、抗原提示の妨害をするからだ。
 このときの制御性T細胞の武器が、CTLA-4分子。制御性T細胞はこの分子を使って、樹状細胞の表面に出ているB7分子と結びついてしまうのだ。これは、本来であればヘルパーT細胞やキラーT細胞が落ち着くべき場所を、制御性T細胞が横取りしたことにほかならない。
…こうして、制御性T細胞が樹状細胞の表面を覆い尽くしたとしよう。そうなるともはや、ヘルパーT細胞などには樹状細胞と物理的に接触する余地がなくなってしまう。」

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免疫(11)獲得免疫 液性免疫応答 B細胞、抗体 

2023-09-08 09:41:17 | 免疫
 獲得免疫の液性免疫応答の主役はB細胞です。B細胞は造血幹細胞からリンパ系幹細胞に分化したものです。その後B細胞の免疫グロブリン(H鎖とL鎖)において遺伝子組換え(VDJ組換え)が起こり、それぞれの免疫グロブリンの構造が変化して、無限と思えるほどの種類の抗原受容体ができます。ただし、その受容体の中でも自己抗原に反応してしまう(自己免疫反応を起こす)ものは除去されます。当初その受容体はIgMとしてB細胞膜上に発現して、骨髄から末梢へ移行していきます。
 病原体などの抗原が侵入すると、樹状細胞などがその抗原(タンパク質)を取り込み分解して、ヘルパーT細胞に抗原提示(MHCクラスⅡタンパク質ー抗原複合体に結合)します。すると抗原提示を受けたヘルパーT細胞はサイトカインを分泌し、自らの細胞を増殖してクローン集団を形成します。またTOLL様受容体が識別する病原体の核酸や脂質の内容もヘルパーT細胞に伝えられ、ヘルパーT細胞の性質(1型ヘルパーT細胞(細胞性免疫反応)と2型ヘルパーT細胞(液性免疫やアレルギー反応など)の違い)が決まります。
 次に、抗原がB細胞のIgM受容体に結合すると取り込まれて分解されて、ヘルパーT細胞に抗原提示します。ヘルパーT細胞はサイトカインを分泌してそのB細胞の増殖を促進させます。その抗原に特異的なB細胞が増殖されクローン集団を形成し、抗体を産出する形質細胞(エフェクターB細胞)と少数の記憶細胞(ゆっくり分裂を継続してクローンを維持する)となります。
 B細胞が形質細胞になるときには、定常部が変化(クラススイッチ)します。なお可変部(抗原を認識する部分)は変わりません。ウイルスや細菌の場合には抗体の定常部はIgMからIgG(主に血液中に存在)に変化し、またダニや花粉などの場合にはIgE(主に上皮組織に存在)に変化します。IgG抗体はウイルスや細菌を直接攻撃(不活化や複合体形成)できますが、IgE抗体はマスト細胞に結合して、マスト細胞がヒスタミンロイコトリエンなどを放出させることによってアレルギー反応を起こさせます。

 
液性免疫応答
液性免疫応答では、血液、リンパ、組織液中で抗体が病原体の抗原決定基に結合する。動物はその生涯にわたって遭遇しうるほとんどすべての抗原に対して結合可能な驚くほど多種の抗体を産生することができる。
 抗体分子には、水溶性で血液やリンパを自由に流れていくものと、B細胞の膜タンパク質として存在するものがある。ある抗原が体内に最初に侵入してくると、その抗原と結合しうる抗体を細胞表面に備えたB細胞がその抗原を認識して結合する。このようにある抗原が特異的にあるB細胞に結合すると、B細胞は活性化され、その細胞膜抗体と同じ特異性を持つ水溶性抗体を大量に分泌し始める。
…毎日、何十億というB細胞(自己を認識する細胞はクローン除去によってすでに除去されている)が骨髄から血液中に動員されている。B細胞は液性免疫応答の根幹である。
B細胞は状況によって形質細胞となる
…B細胞はその細胞表面に受容体タンパク質として発現しているのと同じ抗体を産生する。…B細胞は、受容体に抗原が結合して活性化されると、メモリー細胞と形質細胞(プラズマ細胞)となる。形質細胞はクローンとして増殖し、それらが産生する抗体は血中に分泌される。
 多くの場合、B細胞が抗体を分泌する形質細胞になるためには、同じ特異性を持つヘルパーT細胞(TH細胞)も同じ抗原に結合する必要がある。したがって、B細胞は…抗原提示細胞としても機能することなる。B細胞の細胞分裂と増殖はTH細胞から化学情報を受容することにより促進される。
 形質細胞になる過程で、細胞質のリボソームと粗面小胞体は著しく増加していく。これらの増加によって、大量に抗体を合成して分泌することが可能になる。1秒間に2000分子ともいわれている。ある1個のB細胞に由来するクローン集団の形質細胞からは、同じ抗体分子、つまり元のB細胞に結合したのと同じ抗原決定基のみに結合する抗体が産生される。したがって、B細胞がクローン的に増殖する場合には抗体の特異性は確保されるのである。
抗体分子の抗原結合特異性は多様であるが、基本構造は共通である
 抗体は免疫グロブリンというグループに属するタンパク質である。免疫ブログリンは数種類存在するが、4本のポリペプチド鎖からなるテトラマー(四量体)構造が基本である。この4個のポリペプチド鎖の2本ずつは同じで、それぞれH鎖(重鎖、長い)、L鎖(軽鎖、短い)と呼ばれている。それぞれのポリペプチド鎖には、抗体分子間でほとんど変化のない「定常部」と、抗原に応じて変化する「可変部」が存在する。
 ■定常部のアミノ酸配列はそれぞれの免疫グロブリンに特異的となる。アミノ酸配列の違いにより、抗原結合部位の三次元構造が異なり、特定の抗原のみに特異的に結合する。
 ■可変部のアミノ酸配列はそれぞれの免疫ブログリンに特異的となる。アミノ酸配列の違いにより、抗原結合部位の三次元構造が異なり、特定の抗原のみに特異的に結合する。
 各抗体分子の2カ所の抗原抗体結合部位は同一である。したがって、抗体と抗原の結合能は二価ということになる。1つの分子に同時に2個の抗原分子が結合できるために、抗体と抗原がお互いに手を繋ぐように数珠繋ぎになり強大な凝集体を形成する。このような巨大抗原ー抗体複合体は目立ちやすくなり、貪食細胞や補体によって効率よく破壊される。



抗体のクラス
 可変部はそれぞれの抗原に特異的に結合するために変化する領域であるが、H鎖の定常部は大まかに5種類存在し、それによって抗体分子は5種のクラスに分類される。各クラスで構造や機能が異なり、例えば膜受容体として機能するもの、血中に豊富に存在するもの、外分泌されるもの、アレルギーの原因になるものなどに分類される。


 
MHCタンパク質は免疫系に抗原を提示する
 動物の免疫システムは自己細胞を細胞表面のタンパク質で識別している。この過程には数種類のタンパク質が関与しているが、特に大切なのは主要組織適合抗原遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる遺伝子群である。MHCは液性免疫、細胞免疫、そして免疫寛容に重要な役割を担っている。
 MHCがコードするタンパク質は細胞膜糖タンパク質である。
…MHCクラスⅡタンパク質はB細胞、マクロファージ、その他の抗原提示細胞の細胞表面のみ存在する。抗原提示細胞がウイルスなど非自己抗原を貪食すると、ファゴソーム(異物を分解する細胞内小胞)で分解が行われる。 そうして作られた断片にMHCクラスⅡタンパク質が結合し、複合体として細胞表面に移動し、ヘルパーT細胞に提示される。
 ヘルパーT細胞の細胞表面にはMHCクラスⅡタンパク質を認識して結合するCD4というタンパク質が存在する。
液性免疫応答に関与するヘルパーT細胞とMHCクラスⅡタンパク質
 ヘルパーT細胞は抗原提示マクロファージに結合するとサイトカインを分泌し、そのサイトカインによって自分自身が刺激され、その抗原を認識するヘルパーT細胞のクローンが生み出される。この段階が液性免疫応答の活性化段階であり、リンパ組織で行われる。その次のエフェクター(効果)段階では、ヘルパーT細胞は同じ抗原を認識するB細胞を活性化して、その抗原と結合する抗体の産生を開始させる。
 B細胞は抗原提示細胞でもある。B細胞は細胞表面の免疫グロブリン受容体に結合した抗原をエンドサイトーシスにより取り込み、分解し、MHCⅡタンパク質と結合させて提示する。ヘルパーT細胞は、B細胞表面に提示されたMHCクラスⅡタンパク質ー抗原複合体に結合すると、サイトカインを分泌してB細胞を増殖させて形質細胞のクローン集団を形成させる。最終的には形質細胞から抗体が分泌され、液性免疫応答のエフェクター段階が完了する。
定常部の変化によるクラススイッチ
…IgMの産生からIgGに切り替えるというように、クラススイッチによって1個のB細胞がある時点から別のクラスの抗体を産生するようになる。
 B細胞は初期にはIgMを産生する。IgMはある抗原決定基を認識するための受容体として機能する。この時期には、抗体H鎖の定常部は可変部遺伝子(V、D、J遺伝子)直下のμ遺伝子がコードしている。その後、液性免疫応答によりB細胞が形質細胞に変化すると、その細胞のゲノムDNAに欠落が生じて、可変部近傍のμ遺伝子よりも遠方の定常部遺伝子が組み込まれるようになる。このようなDNA欠損により最終的な抗体分子の定常部は異なったものとなり、その機能も変化する。しかし、可変部は以前のものと同じであり、抗原に対する特異性は変化しない。IgM以外のクラスは、IgA、IgD、IgE、IgGの4種類であり、それぞれ定常部が異なっている。(引用終わり) 

 
「獲得免疫系の第一の目的は、無限に存在するかもしれない外来微生物等の抗原を、いかにきちんと認識するのかという基本的な仕組みを確立することである。このためには、抗原受容体の種類がきわめて多種類存在することが必要である。限られた遺伝情報の中から、どうやって何千万、何億もの種類の抗原受容体を生み出すことができるのであろうか。この謎に対する答えとしては、遺伝子の断片の組み合わせによって新たな遺伝子を生み出すという巧妙な方法が、利根川進らによって明らかにされた。
 「VDJ組換え」と呼ばれるこの遺伝子組換えの仕組みは、抗体遺伝子(B細胞受容体)とT細胞受容体遺伝子の両方に用いられており、この組換えを行うRAG1とRAG2という酵素もBリンパ球とTリンパ球に共通である。
 このような遺伝子組換えが起こる仕組みは、脊椎動物のかなり早い時期に始まったと思われる。しかし、脊椎動物の祖先系と考えられる脊椎動物である
ヤツメウナギやメクラウナギなどには、この仕組みは存在しない。またRAG1とRGA2の遺伝子にはイントロンがなく、遺伝子の組換えを行う仕組みが決まったDNA配列を目印とした断片のつなぎ合わせ様式となっている。これらの特徴が、トランスポゾンと呼ばれる自ら遺伝子改変を行う仕組みときわめて似ていることから、その進化の原点はトランスポゾンが脊椎動物の祖先系に侵入したことに起源があるのではないかと考えられている。つまり、今日地球上に存在する脊椎動物の祖先のどこかで、このようなトランスポゾンの感染が生殖細胞に起こり、今日地球上に存在する脊椎動物はすべてその子孫であるという驚くべき推論であるが、今日それが多くの研究者の支持を受けている。
…抗体を作るBリンパ球の中では、抗原刺激によってAID(活性化誘導性シチジンデアミナーゼ)という分子の発現が誘導される。AIDの発現により、抗体遺伝子に2つの遺伝的な変異が導入される。第一は、抗体の可変部、すなわち抗原認識部位に塩基の置換(体細胞突然変異)が導入され、抗原と結合力の高い抗体を作り出す。先のVDJ組換えによって作り出された抗体レパートリーの中から、抗原を認識した細胞がAIDを発現し、その細胞の抗体遺伝子に、さらに細かい塩基の変異が導入される。
…AIDの発現により第二の変化は、抗体のクラスを変えることである。通常のBリンパ球は免疫ブログリン(Ig)のうちIgMを産生しているが、抗原刺激によってIgG、IgE、IgAなどの抗体を産生する細胞に変わる。この変化は「クラススイッチ」と呼ばれ、この際には遺伝子の大幅な欠失を伴うDNAの組換えが起こる。このようなクラスの変化(クラススイッチ)は、結合した抗原をどのような仕組みで処理するかという、抗体の効果の多様性を生み出す。また体の特定な場所に特化した機能を生み出す。
…AIDの誕生は、RAG1、RAG2より進化の上で古いことが明らかになった。すなわち、脊索動物であるヤツメウナギやメクラウナギにすでにAIDの祖先型が存在している。興味深いことに、これらの生物における抗原受容体は、RAG1、RAG2によって作られる今日型の抗原受容体とまったく異なる構造をし、非常に強い接着性を持ったVLRと呼ばれる分子であることがクーパーらによって明らかにされた。VLRは、AID祖先型分子により遺伝子断片の情報をつなぎ合わせる遺伝子変換と呼ばれる遺伝子再構成を用いながら抗原受容体を作り上げていたのである。
 この仕組みは、今日、AID自身の働きにも引き継がれており、体細胞突然変異や遺伝子変換、クラススイッチにおける遺伝子切断などの仕組みは、おそらく基本的に同じものであったと考えられる。
…VLRの消失の理由は、先に述べたRAG1、RAG2を含むトランスポゾンの感染が脊椎動物の初期段階で起こったことにより、新しい免疫受容体の多様化機構が生じたことによると思われる。(引用終わり)」

 
「…樹状細胞の量を増やすと、抗体をつくるB細胞が大幅に増大したことがわかる。一方、マクロファージの数を増やしても、抗体をつくるB細胞はほとんど増加しなかった。
 …稲葉の実験は、T細胞に異物の断片を見せる抗原提示の主役は樹状細胞であることを雄弁に物語っていた。マクロファージに抗原提示の働きがないとまではいわない。しかしマクロファージの働きは弱く、樹状細胞のそれはとても強かったのだ。」

 
「…ヘルパーT細胞は、刺激を受けると、活性化され、Th1細胞と、Th2細胞などに分化します。
 Th1細胞は、インターロイキン2(IL-2)やインターフェロンγなどのサイトカインを作り、自然免疫細胞や…キラーT細胞を刺激します。特に、キラーT細胞に対してはウイルス感染細胞を殺すように促します。
 一方、Th2細胞はインターロイキン4、5、6(IL-4、IL5、IL-6)などのサイトカインを作り、B細胞を刺激して抗体を作るように促します。


 (引用終わり)」

 
「…樹状細胞が抗原提示したとき、同時にエンドトキシンなどの細菌やウイルスの成分(アジュバンド)で刺激された場合、つまり細菌感染やウイルス感染の場合は、細菌やウイルスの核酸や脂質成分を認識するTOLL様受容体を介して樹状細胞はインターロイキン12を分泌します。また、その膜構造に変化が生じます。その結果、樹状細胞と接触しているナイーブ細胞はサイトカインとしてインターフェロンγを分泌し始めます。
 つまり、TOLL様受容体が認識するのは抗原やアレルゲンなどのタンパク質ではなく、細菌のウイルスに存在する特有の構造を持つ核酸や脂質などのアジュバンドなのです。このアジュバンドの作用により樹状細胞の膜構造などの変化を経て、ナイーブT細胞はインターフェロンγを分泌する1型ヘルパー細胞に変身しながら増殖していきます。
 樹状細胞がアレルゲンと遭遇し、アレルゲン構造物をナイーブT細胞に提示したときにプロスタンという物質で同時刺激された場合は、細菌やウイルス由来のアジュバントにTOLL様受容体を刺激されたときとは別な膜構造を持つようになります。その結果、樹状細胞と接触するナイーブ細胞は先ほどのインターフェロンγではなく、今度はインターロイキン4を分泌し始めます。つまり、ナイーブ細胞はインターロイキン4を分泌する2型ヘルパー細胞に変身しながら増殖します。
…1型ヘルパー細胞はB細胞に働き、細菌・ウイルスを効率よく撃退するためにIgG抗体を作らせます。IgG抗体は細菌を破壊したり、ウイルスが細胞に感染しないようにしたりします。このとき活躍した1型ヘルパー細胞とB細胞は増殖して長くリンパ節にとどまるので、二度目の細菌・ウイルスの侵入ではすばやく反応し、大量のIgG抗体が作られます。そのため細菌やウイルスは最初の感染のときよりも迅速に撃退されます。
 ダニや花粉などのアレルゲンは細菌やウイルスと違い、通常は粘膜上皮細胞のバリアーを壊して侵入することはありません。しかし、…バリアー機能が低下したときに、ダニや花粉などのアレルゲンを吸い込むと体の中に入り込んでしまうのです。
…細菌やウイルスの成分が混じっていない場合、樹状細胞はその異物が有害でないと判断し、情報を2型ヘルパー細胞に伝えます。…そして、2型ヘルパー細胞からB細胞が情報を受け取り、IgG抗体を作ります。
…IgG抗体が細菌やウイルスを攻撃するとの違って、IgE抗体には直接アレルゲンを攻撃する働きはありません。
…マスト細胞の表面にはIgEと強く結合するIgE受容体が非常に多数(1万から20万)存在していて、アレルゲンが二回目以降に体に侵入するとマスト細胞の表面に結合しているIgE抗体と結合します。すると、IgE受容体が刺激されることにことにより、マスト細胞はヒスタミンやロイコトリエンを含んだ顆粒を放出してアレルギー反応をおこすのです。(引用終わり)」

「1965年、オハイオ州立大学のBruce Glickは孵化したばかりのニワトリのファブリキウス嚢 (Bursa Fabricii) を除去すると抗体の産生が起こらないことを発見した。その後、マックス・クーパーとRobert A. Goodにより鳥類における抗体産生の前駆細胞の分化成熟に必要であることが証明され、器官の頭文字を取ってB細胞と命名された。哺乳動物にはこの器官は存在せず、骨髄 (bone marrow) でつくられることが確認された。偶然にも頭文字が同じであることから、そのままB細胞という名称が定着した。 
…抗体は特定の分子にとりつく機能を持った分子で、その働きによって病原体を失活させたり、病原体を直接攻撃する目印になったりする。そのため、抗体を産生するB細胞は免疫系の中では間接攻撃の役割を担っており、その働きは液性免疫とも呼ばれる。
 B細胞は細胞ごとに産生する抗体の種類が決まっている。自分の抗体タイプに見合った病原体が出現した場合にのみ活性化して抗体産生を開始することになる。また、いったん病原体が姿を消しても、それに適合したB細胞の一部は記憶細胞として長く残り、次回の侵入の際に素早く抗体産生が開始できるようになる。この働きによっていわゆる「免疫が付く」(免疫記憶)という現象が起きており、予防接種もこれを利用したもの。
 哺乳動物においては、B細胞は骨髄に存在する造血幹細胞から分化したのち、脾臓などの二次リンパ組織に移動し、抗原に対する反応に備える。 また一部のB細胞には、消化管上皮、粘膜組織など、外来抗原との接触頻度の高い組織に移動する集団も存在する。
 細胞表面の抗原レセプターとして細胞膜結合形の免疫グロブリン(Ig)を発現しており、これによって自分に適合した抗原の出現を察知する。抗原が適合した場合には、それを細胞内に取り込んだ後、抗原提示する。提示された抗原をヘルパーT細胞が認識すると、ヘルパーT細胞からの刺激を受け、形質細胞に分化することになる。形質細胞に分化すると分泌形の免疫グロブリンを抗体として産生するようになる。
 細胞表面の抗原レセプターとして細胞膜結合形の免疫グロブリン(Ig)を発現しており、これによって自分に適合した抗原の出現を察知する。抗原が適合した場合には、それを細胞内に取り込んだ後、抗原提示する。提示された抗原をヘルパーT細胞が認識すると、ヘルパーT細胞からの刺激を受け、形質細胞に分化することになる。形質細胞に分化すると分泌形の免疫グロブリンを抗体として産生するようになる。 
 B細胞を始めとした全ての血球細胞は、骨髄中の造血幹細胞が分化したものである。始めに造血幹細胞はリンパ系幹細胞へ分化する。次いでプロB細胞を経てH鎖の遺伝子再構成が起きる。完成したH鎖とSL鎖(V-preB・lambda5)とともにpre-BCRを形成、大型プレB細胞となる。そこでpre-BCRシグナルにより一度増殖した後に、L鎖の遺伝子再構成が引き起こされ、やがて小型プレB細胞へと分化する。完成したL鎖はH鎖とともにIgMを形成して、細胞膜上に発現する。そしてIgMとともに同じ抗原特異性をもつIgDも発現し、B細胞は骨髄から末梢へと移行し、脾臓において成熟B細胞となる。B細胞は、抗原の存在下で抗体を産生するべく、形質細胞(プラズマ細胞、plasma cell)へと最終的に分化する。 
…B細胞の活性化には一般に、B細胞受容体、B細胞補助受容体、およびCD4陽性T細胞からのシグナルの3つが必要である。
 成熟ナイーブB細胞は表面にIgMを発現しており、これらが微生物表面の抗原により架橋されることによりB細胞内へシグナルが伝達される。B細胞膜において、IgMはIgαおよびIgβと呼ばれる膜貫通タンパクと会合しており、これらの会合体が機能的なB細胞抗原受容体 (B cell receptor, BCR) である。このIgβの細胞質部分に存在するチロシン残基がリン酸化されることにより、シグナル伝達経路が始動する。
 B細胞補助受容体はCD21 (補体受容体2、CR2)、CD19、およびCD81からなる。ある種の病原体表面は補体を分解する特性を持っている。このため、補体断片C3dが沈着することになるが、CD21はこの分子と結合することができる。このようにしてB細胞受容体とB細胞補助受容体が同時に会合すると、Igαに細胞質部分で会合したチロシンキナーゼによってCD19がリン酸化され、シグナル伝達経路が始動する。
 さらに、胸腺非依存性抗原を除く抗原による活性化においてはCD4陽性T細胞の分泌するサイトカインが必要である。B細胞はB細胞抗原受容体により受容体介在性エンドサイトーシスにより抗原を取り込むことができる。取り込んだ抗原を提示したMHC IIとCD4陽性T細胞が相互作用すると、B細胞表面のCD40とT細胞表面のCD40Lの結合、およびT細胞から産生されるサイトカインの刺激によりB細胞が活性化される。」

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免疫(10)獲得免疫 特異的生体防御システムの特徴

2023-09-05 09:52:12 | 免疫
 獲得免疫は脊椎動物が持つ「特異的生体防御システム」です。獲得免疫の主役はリンパ球のB細胞T細胞であり、それぞれ液性免疫応答と細胞性免疫応答と呼ばれています。液性免疫応答は、B細胞が作る「抗体」(血液中に分泌され体内を循環する)により抗原を認識して攻撃します。細胞性免疫応答は、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)が感染された又は変性した自己細胞を認識することによりその自己細胞を攻撃します。またヘルパーT細胞はキラーT細胞やB細胞の制御の役割をします。
 特異的生体防御システムの特徴は以下のようです。
(1)特異性
 T細胞受容体とB細胞受容体及び抗体は、抗原(病原体などの標識)を個別具体的に認識します。その方法は、抗原が例えばタンパク質であれば、多数存在するアミノ酸の数個の配列の局所領域を認識するものです。このような認識する局所領域を「抗原決定基」(エピトープ)といいます。抗原のタンパク質には複数の抗原決定基があることがあり、その中でも特に強く免疫応答を示す部分のものを「主要抗原決定基」といいます。
(2)自己と非自己の識別
 獲得免疫システムは、ヒトの体内に何万個もの自己抗原である異なったタンパク質もあるため、自己と非自己(異性化した自己含め)を正確に認識して、自己抗原を攻撃しないような厳格なシステムがあります。胸腺での未熟T細胞の選別(自己抗原を攻撃しないような)では、作られた多種類のT細胞のうち生き残れるのは2、3%とされています。
(3)多様性
 T細胞受容体とB細胞受容体(抗体)は、様々な非自己抗原である病原体、異物、ウイルス、細菌などの抗原決定基を個別具体的に認識するために、遺伝子組換え(VDJ組換え)や抗体遺伝子への変異導入(AID 活性化誘導シチジンデアミナーゼ )により、無限ともいえる(通説では10億種類)非自己抗原に適合できるような多種の細胞が用意されています。そのため、どのような非自己抗原が侵入してきても、その抗原決定基に適合するT細胞受容体やB細胞受容体(抗体)が準備されています。
(4)免疫記憶
 ある病原体が最初に侵入すると、それに適合したT細胞やB細胞が活性化(細胞増殖)されますが、攻撃用の細胞(短期間(数日)でなくなる)の他に、記憶用の細胞も作られてゆっくり分裂を継続します(数十年以上)。その記憶細胞があるため、二度目にその病原体が侵入したときは、即時に免疫システムが発動するようになります。


 「獲得免疫系の第一の目的は、無限に存在するかもしれない外来微生物等の抗原を、いかにきちんと認識するのかという基本的な仕組みを確立することである。このためには、抗原受容体の種類がきわめて多種類存在することが必要である。限られた遺伝情報の中から、どうやって何千万、何億もの種類の抗原受容体を生み出すことができるのであろうか。この謎に対する答えとしては、遺伝子の断片の組み合わせによって新たな遺伝子を生み出すという巧妙な方法が、利根川進らによって明らかにされた。
 「VDJ組換え」と呼ばれるこの遺伝子組換えの仕組みは、抗体遺伝子(B細胞受容体)とT細胞受容体遺伝子の両方に用いられており、この組換えを行うRAG1とRAG2という酵素もBリンパ球とTリンパ球に共通である。
 このような遺伝子組換えが起こる仕組みは、脊椎動物のかなり早い時期に始まったと思われる。しかし、脊椎動物の祖先系と考えられる脊椎動物である
ヤツメウナギやメクラウナギなどには、この仕組みは存在しない。またRAG1とRGA2の遺伝子にはイントロンがなく、遺伝子の組換えを行う仕組みが決まったDNA配列を目印とした断片のつなぎ合わせ様式となっている。これらの特徴が、トランスポゾンと呼ばれる自ら遺伝子改変を行う仕組みときわめて似ていることから、その進化の原点はトランスポゾンが脊椎動物の祖先系に侵入したことに起源があるのではないかと考えられている。つまり、今日地球上に存在する脊椎動物の祖先のどこかで、このようなトランスポゾンの感染が生殖細胞に起こり、今日地球上に存在する脊椎動物はすべてその子孫であるという驚くべき推論であるが、今日それが多くの研究者の支持を受けている。
…抗体を作るBリンパ球の中では、抗原刺激によってAID(活性化誘導性シチジンデアミナーゼ)という分子の発現が誘導される。AIDの発現により、抗体遺伝子に2つの遺伝的な変異が導入される。第一は、抗体の可変部、すなわち抗原認識部位に塩基の置換(体細胞突然変異)が導入され、抗原と結合力の高い抗体を作り出す。先のVDJ組換えによって作り出された抗体レパートリーの中から、抗原を認識した細胞がAIDを発現し、その細胞の抗体遺伝子に、さらに細かい塩基の変異が導入される。
…AIDの発現により第二の変化は、抗体のクラスを変えることである。通常のBリンパ球は免疫ブログリン(Ig)のうちIgMを産生しているが、抗原刺激によってIgG、IgE、IgAなどの抗体を産生する細胞に変わる。この変化は「クラススイッチ」と呼ばれ、この際には遺伝子の大幅な欠失を伴うDNAの組換えが起こる。このようなクラスの変化(クラススイッチ)は、結合した抗原をどのような仕組みで処理するかという、抗体の効果の多様性を生み出す。また体の特定な場所に特化した機能を生み出す。
…AIDの誕生は、RAG1、RAG2より進化の上で古いことが明らかになった。すなわち、脊索動物であるヤツメウナギやメクラウナギにすでにAIDの祖先型が存在している。興味深いことに、これらの生物における抗原受容体は、RAG1、RAG2によって作られる今日型の抗原受容体とまったく異なる構造をし、非常に強い接着性を持ったVLRと呼ばれる分子であることがクーパーらによって明らかにされた。VLRは、AID祖先型分子により遺伝子断片の情報をつなぎ合わせる遺伝子変換と呼ばれる遺伝子再構成を用いながら抗原受容体を作り上げていたのである。
 この仕組みは、今日、AID自身の働きにも引き継がれており、体細胞突然変異や遺伝子変換、クラススイッチにおける遺伝子切断などの仕組みは、おそらく基本的に同じものであったと考えられる。
…VLRの消失の理由は、先に述べたRAG1、RAG2を含むトランスポゾンの感染が脊椎動物の初期段階で起こったことにより、新しい免疫受容体の多様化機構が生じたことによると思われる。(引用終わり)」
 

「V(D)J遺伝子再構成(英:V(D)J recombinationまたはsomatic recombination)は、免疫システム内の免疫グロブリン(Ig)・TCR(T細胞受容体)生成の初期ステージにおける遺伝子再構成の仕組み。初期のリンパ組織(骨髄ではB細胞、胸腺ではT細胞)で起こる。
V(D)J遺伝子再構成は、骨髄や胸腺でのリンパ球の遺伝子断片(V、D、J)のランダムな組み合わせである。抗体やTCRをコードするDNAは多数の断片として染色体の上に並んでいる。これらのDNA断片はリンパ球の分化の過程で連結され、完全なDNAとなる。いろんな遺伝子をランダムに選べるので、いろんなタンパク質をつくり、いろんな抗原(バクテリア、ウイルス、寄生菌、腫瘍、花粉など)に対抗することができる。」

「活性化誘導シチジンデアミナーゼ(かっせいかゆうどうシチジンデアミナーゼ、Activation-Induced (Cytidine) Deaminase、AID)は、DNA中のシチジン基からアミノ基を取り除く(脱アミノ)、24 kDaの酵素である。
AIDは現在、二次抗体多様化のマスター制御因子であると考えられている。AIDがその開始に関与しているのは、3つに分かれた免疫グロブリン(Ig)多様化プロセス、体細胞超変異(SHM)、クラススイッチ組換え(CSR)、遺伝子変換(GC)である。」

第16話_いろいろな生物の免疫の仕組み 
「まず動物のおおまかな分類を解説する。 構造的に、口がないもの(海綿動物)、口が肛門を兼ねるもの(腔腸動物)、口と肛門があるものに分けられ、口と肛門のある ものの中では発生過程で口が先にできる のが前口動物で、後にできるのが後口動物 である(図 1)。 
  全ての動物は自然免疫系を有するが、獲得免疫系を有するのは脊椎動物だけで、種の数としては動物界全体の数%にすぎな い。ほとんどの無脊椎動物は自然免疫系だ けで生きているのである。 
…軟骨魚類以上の脊椎動物は、すべて同じ タイプの獲得免疫系を有している。種による違いをみていこう。全ての種において T 細胞は胸腺でつくられており、T 細胞系は 大枠ではほぼ同じである。
…一方 B 細胞のつくられ方は、種による違 いが大きい。…マウス やヒトでは
遺伝子断片がランダムに組み 換えられる様式で多様性がつくられる。しかしニワトリでは多様性は組み換えでは 生じず、遺伝子変換と体細胞超変異でつくられる。前者は一度できた抗体遺伝子の一部分を後で入れ替えるという様式で、後者は点突然変異を誘導するという様式である。哺乳類でもウサギ、ウシのように主に遺伝子変換と体細胞超変異で多様性を得る種もいる。つくられる場所も、マウスや ヒトでは骨髄だが、ニワトリではファブリキウス嚢という肛門の近くの器官、ウサギ では虫垂、ヒツジでは腸管のパイエル板と、 大きく異なっている。




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