数理論理教(科学教)の研究

数理論理(科学)はどこから来て、どのような影響を与え、どこに行こうとしているのか、少しでも考えてみたいと思います。人文系

IgG4抗体増加と免疫低下

2023-10-20 11:01:46 | 免疫
1.IgG4とは
 IgGとはB細胞が産出する免疫ブログリン(抗体)の一つで、主に血液中に存在しています。その他にIgE(上皮組織に存在し、花粉症などアレルギー引き起こす)などがあります。
 IgGの中にもまた種類があり、IgG4はその中では比率が一番少なく(通常4%ほど)、免疫活性化は弱いようです。IgG4は抗原の刺激により、主にアレルギー反応に関係するTh2タイプのサイトカインであるIL4、IL-13によって産生誘導されるよです。Th2が優位な状態で、さらにregulatory T細胞(IL-10を産生する)が活性化さされると、IgG4が産生誘導されると考えられています。Th2サイトカインは、IgEや好酸球浸潤を誘導し、またregulatory T細胞はTGFβを産生して線維化を促進します。これらのサイトカインがIgG4関連疾患で見られるIgE高値、好酸球浸潤、病変の線維化に関与すると考えられています。

「ヒトには 4 つの IgG サブクラス (IgG1、2、3、および 4) があり、血清中の存在量の多い順に名前が付けられています (IgG1 が最も豊富です)。 

 IgG サブクラスの相反する特性 (補体を固定するものと固定しないもの、FcR に結合するものと結合しないもの)、およびほとんどの抗原に対する免疫応答には 4 つのサブクラスすべての混合が含まれるという事実を考慮すると、IgG がどのように機能するかを理解することは困難でした。サブクラスは連携して防御免疫を提供できます。2013 年に、ヒト IgE および IgG 機能の時間モデルが提案されました。このモデルは、IgG3 (および IgE) が応答の初期に現れることを示唆しています。IgG3 は親和性が比較的低いですが、外来抗原を除去する際に IgG を介した防御が IgM を介した防御に加わることを可能にします。続いて、より親和性の高い IgG1 および IgG2 が生成されます。形成される免疫複合体におけるこれらのサブクラスの相対的なバランスは、その後の炎症プロセスの強さを決定するのに役立ちます。最後に、抗原が存続すると、高親和性 IgG4 が生成され、FcR 介在プロセスの抑制を助けることで炎症を抑えます。」

2.IgG4関連疾患
 このIgG4ですが、原因不明の全身性・慢性炎症性疾患によりその数値が上昇(IgG4を産生する「IgG4陽性形質細胞」の増加)することから、「IgG4関連疾患」と呼ばれているようです。
 東京理科大学の久保教授らのグループは、マウスを使った実験で、血中にIgG4抗体が存在すると、免疫系の細胞の一つで異物を破壊する能力を持つ「細胞傷害性T細胞」の組織傷害の程度が大きくなり、組織の炎症が増悪することを発見されました。血中にIgG4抗体が存在すると、T細胞と同じく免疫系の細胞の一つであり、体内に侵入した異物の特徴を他の細胞に提示する「樹状細胞」の働きが促進され、そのことによって細胞傷害性T細胞が活性化しやすくなっているとのことです。

「IgG4関連疾患(-かんれんしっかん、英:IgG4-related disease)とは、免疫グロブリンGのサブクラスIgG4が関係する血清IgG4高値と罹患臓器への著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする原因不明の全身性、慢性炎症性疾患である。日本から世界に発信している新しい疾患概念で、血清IgG4上昇を認めることからIgG4疾患とも呼ばれる。 
…IgG4関連疾患は、自己免疫性膵炎やキャッスルマン病を代表とする多彩な臓器疾患を包括する疾病概念で、高IgG4血症(血清IgG4高値)と共に、全身臓器に腫大や結節・肥厚性病変を認め、且つリンパ球、IgG4陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化が生じる疾患と定義される。涙腺、唾液腺、膵臓、後腹膜、腎臓、前立腺、リンパ節などに病変を認めることが多い。患者数は増加傾向にあるが患者そのもののが増加したのでは無く、診断技術・能力の向上により従来は他疾患や診断不能であった患者が、IgG4関連疾患と診断された為である。」 

「IgG4は、健常人では全IgGの5%以下で、IgG1~G3と比べると最も少ない。その濃度は、1-140mg/dlと個人差がある。IgG4のFc領域は、補体(C1q)やFcγ受容体への結合が弱く、免疫活性化における役割は少ないと考えられている。興味深いことにIgG4は、形質細胞より分泌された後、他のIgGと異なり、Fab領域が他のFabと交換され、1分子で異なった2つの抗原を認識(bispecific Ab)できるようになることである。こうしたできたBispecific抗体は抗原を架橋せず、免疫複合体形成能の低下によって抗炎症作用を示すと考えられている。  
 IgG4産生は、抗原刺激下で、主にアレルギー反応に関与するTh2タイプのサイトカインであるIL4、IL-13によって産生誘導される。IgEもTh2タイプのサイトカインで産生誘導を受けるが、IL-10、IL-12、IL-21が存在すると、産生はIgEよりIgG4の方に傾く。Th2優位な状態において、さらにregulatory T細胞(IL-10を産生する)が活性化された状況のときに、IgG4が産生誘導されると考えられている。Th2サイトカインは、IgEや好酸球浸潤を誘導し、またregulatory T細胞はTGFβを産生して線維化を促進する。これらのサイトカインがIgG4関連疾患で見られるIgE高値、好酸球浸潤、病変の線維化に関与すると考えられる。
 IgG4関連疾患において産生されるIgG4の役割についてはよく解っていない。自己免疫として組織障害をおこす自己抗体として産生される、あるいは、炎症性の刺激に反応して産生される、との2つの考えがある。確かに、尋常性天疱瘡や落葉状天疱瘡での抗デスモグレイン抗体、血栓性血小板減少性紫斑病での抗ADAMTS13抗体として、IgG4クラスの自己抗体が報告されている。一方、上記したようなIgG4関連疾患では、確立した自己抗体が見つかっていないことや、IgG4は抗炎症作用を持つとの考えから、炎症性の刺激に対する反応として、IgG4が産生されるとの考えがある。」
「…IgG4は、細菌やウイルスなどの病原体に対して身体が抵抗するためのシステム「免疫」に関わるタンパク質です。身体に侵入した病原体や、病原体に既に侵された細胞などと結合し、病原体を無力化したり、白血球などの免疫細胞が病原体を攻撃する際の目印として働いたりする物質をまとめて抗体と呼びますが、IgG4もこの抗体の一つです。
 IgG4関連疾患の患者では、臓器に腫れがみられるほか、血中のIgG4の濃度が正常値と比べて高くなっており、IgG4を産生する「IgG4陽性形質細胞」が異常に増えて臓器に浸潤しています。逆に言えば、この三つを除いて患者同士で共通する特徴はあまりありません。炎症が起こる臓器は患者によってまちまちで、起きた臓器や炎症の程度によって自覚症状も異なります。ステロイド剤など免疫を抑える薬で症状が改善する場合が多いことから、自己免疫疾患であると考えられていますが、疾患の発生、進行などのメカニズムには不明な点が多く、治療法の開発のためにもメカニズムの解明が待たれていました。
 久保教授らのグループでは、マウスを使った実験で、血中にIgG4抗体が存在すると、免疫系の細胞の一つで異物を破壊する能力を持つ「細胞傷害性T細胞」による、組織傷害の程度が大きくなり、組織の炎症が増悪することを発見しました。血中にIgG4抗体が存在すると、T細胞と同じく免疫系の細胞の一つであり、体内に侵入した異物の特徴を他の細胞に提示する「樹状細胞」の働きが促進され、そのことによって細胞傷害性T細胞が活性化しやすくなっていました。これらのことから、IgG4関連疾患に特徴的な強い炎症はIgG4抗体と細胞傷害性T細胞の相乗効果によるものである可能性が示唆されました。」

3.IgG4増加とmRNAワクチン
 最近の調査でmRNAワクチンを2回以上接種した人のIgG4濃度が異常に高くなっていることが分かってきました。
 IgG4抗体の増加の重要な要因は、過剰な抗原濃度、反復接種、使用したワクチンの種類の3つであると言われています。
 mRNAワクチンの反復接種後のIgG4の増加は、保護メカニズムになるのではなく、むしろ天然の抗ウイルス応答を抑制することにより、SARS-CoV2の感染と複製を阻止できないスパイクタンパク質に対する免疫寛容のメカニズムになってしまうとのことです。また高抗原濃度のmRNAワクチン接種を繰り返すことにより、IgG4合成が増加して、自己免疫疾患の原因となり、感受性の高い人においては、がんの増殖や自己免疫性心筋炎を促進する可能性もあるとのことです。
「概要:コロナウイルスSARS-CoV-2の世界的な出現から1年も経たないうちに、mRNA技術に基づく新しいワクチンプラットフォームが市場に導入されました。世界では、多様なプラットフォームのCOVID-19ワクチン約133億8000万回分が投与されました。現在までに、全人口の72.3%が少なくとも一度はCOVID-19ワクチンを接種しています。これらのワクチンによる免疫力が急速に低下し、合併症を持つ人の入院や重症化を予防する能力が最近疑問視されています。また、他の多くのワクチンと同様に、滅菌免疫が得られず、再感染が頻繁に起こることが示されつつあります。また、最近の調査では、mRNAワクチンを2回以上接種した人のIgG4濃度が異常に高いことが判明しています。
 HIV、マラリア、百日咳の各ワクチンも、通常よりも高いIgG4合成を誘導することが報告されています。全体として、IgG4抗体へのクラス転換を決定する重要な要因は、過剰な抗原濃度、反復接種、使用したワクチンの種類、の3つであるとされています。IgG4レベルの増加は、IgE誘導作用を抑制することにより、アレルゲン特異的免疫療法の成功時に起こるのと同様に、免疫の過剰活性化を防ぐことで保護する役割を持つ可能性が示唆されている。しかし、mRNAワクチンの反復接種後に検出されたIgG4レベルの増加は、保護メカニズムではなく、むしろ、天然の抗ウイルス応答を抑制することにより、SARS-CoV2の感染と複製を阻止できないスパイクタンパク質に対する免疫寛容メカニズムである可能性を示す証拠が登場しています。また、高抗原濃度のmRNAワクチン接種の繰り返しによるIgG4合成の増加は、自己免疫疾患の原因となり、感受性の高い人においては、がんの増殖や自己免疫性心筋炎を促進する可能性があります。」

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免疫(12)獲得免疫 細胞性免疫 キラーT細胞

2023-10-06 09:30:20 | 免疫
 細胞性免疫の主役はT細胞、ヘルパーT細胞と細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)です。液性免疫のB細胞ではIgGなどの「抗体」が病原体を直接攻撃(不活化や複合体形成(マクロファージなどに貪食される))しますが、キラーT細胞は感染された(又は変異した)自己の細胞が表示する標識を認識して、ヘルパーT細胞の指令により、その感染された又は変異した「自己細胞」を攻撃します。
 そのため、キラーT細胞が自己細胞を過剰に攻撃してしまった場合には、自己免疫疾患(関節リュウマチなど)にかかってしまうこともあります。そのことを防御するため、制御性T細胞がキラーT細胞の過剰攻撃を抑制をしています。
 T細胞にもB細胞の免疫グロブリン(抗体)のような多様な病原体を認識できる受容体があります。免疫グロブリンと同じように、定常部と可変部が存在します。抗体は遊離した抗原でも結合できますが、T細胞の受容体は細胞表面に存在する抗原としか結合しません。
 キラーT細胞は、細胞表面に提示された病原体(分解されたもの)・非自己や異常タンパク質とMHCクラスⅠタンパク質との複合体に結合することにより、活性化して増殖を開始します。その後、キラーT細胞が細胞表面に提示を受けたものと同じ病原体等とMHCⅠクラスタンパク質の複合体と結合すると、パフォーリンいう物質を出してその細胞を融解させたり、その細胞のFasという受容体に結合してその細胞をアポトーシス(プログラムされた細胞死)させます。


 
2種類のT細胞にはT細胞受容体が存在する
 B細胞と同じようにT細胞には特異的な膜受容体が存在する。しかし、T細胞受容体は免疫グロブリンではなく、IgGの半分程度の分子量の糖タンパク質である。それぞれ異なった遺伝子によってコードされている2本のペプチド鎖から構成されている。免疫グロブリンと同じように可変部と定常部が存在する。

        

 T細胞受容体をコードする遺伝子は免疫グロブリンの遺伝子と類似しており、進化的には共通の祖先の遺伝子に由来すると想像できる。免疫グロブリンと同じように定常部と可変部が存在し、可変部に特異的に抗原が結合する。免疫グロブリン(抗体)は遊離した抗原でも細胞表面に結合した抗原でも結合するが、T細胞受容体は抗原提示細胞および標的細胞の細胞表面に存在する抗原としか結合しない。
 T細胞が抗原によって活性化されると、増殖を開始してクローン集団が形成される。そして2種類のT細胞に分化していく。
 ■細胞傷害性T細胞(Tc細胞)はウイルスに感染した細胞や変異細胞を認識して、それを溶解して死滅させる。
 ■ヘルパーT細胞(Th細胞)は細胞性免疫応答や液性免疫応答を制御する。
 MHCタンパク質は免疫系に抗原を提示する
 動物の免疫システムは自己細胞を細胞表面のタンパク質で識別している。この過程には数種類のタンパク質が関与しているが、特に大切なのは主要組織適合抗原遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる遺伝子群である。
…MHCがコードするタンパク質は細胞膜糖タンパク質である。ヒトのMHCタンパク質はHLA(ヒト白血球抗原)と、マウスのMHCはH-2タンパク質と呼ばれている。これらのタンパク質の主な機能は、自己抗原と非自己抗原を識別できるようにT細胞受容体に提示することである。MHCタンパク質は2つに大別できる。
 ■MHCクラスⅠタンパク質は動物の細胞核がある細胞のすべて(赤血球や血小板を除く)に存在する。細胞内タンパク質がプロテアソーム(細胞内タンパク質分解酵素複合体)によってペプチド断片に分解されると、MHCクラスⅠタンパク質が結合して細胞膜表面へ移行する。細胞由来のペプチドはMHCクラスⅠタンパク質との複合体として細胞傷害性T細胞に提示される。細胞傷害性T細胞の細胞表面にはMHCクラスⅠタンパク質を認識して結合するCD8というタンパク質が存在する。
 ■MHCクラスⅡタンパク質はB細胞、マクロファージ、その他の抗原提示細胞の細胞表面のみに存在する。抗原提示細胞がウイルスなど非自己抗原を貪食すると、ファゴソーム(異物を分解する細胞内小胞)で分解が行われる。そうして作られた断片にMHCクラスⅡタンパク質が結合し、複合体として細胞表面に移動し、ヘルパーT細胞に提示される。ヘルパーT細胞の細胞表面にはMHCクラスⅡタンパク質を認識して結合するCD4というタンパク質が存在する。
 細胞性免疫応答では細胞傷害性T細胞とMHCクラスⅠタンパク質が主役
 …ウイルスに感染した細胞や変異細胞では、非自己タンパク質や異常タンパク質の断片ペプチドがMHCクラスⅠタンパクと結合する。この複合体は細胞表面に移行し、細胞傷害性T細胞に提示される。細胞性傷害性T細胞は、これを認識してMHCクラスⅠタンパク質ー抗原複合体に結合すると、活性化され増殖を開始する(細胞性免疫応答)。
 細胞性免疫のエフェクター段階では、細胞傷害性T細胞は同じMHCクラスⅠタンパク質ー抗原複合体が表面に存在している細胞に結合する。するとパーフォリンという物質を産出して、その細胞を融解する。さらに、標的細胞のFasという特異的受容体に結合して、その細胞をアポトーシス(プログララムされた細胞死)させる。これら2つの細胞傷害は協調して異常になった自己細胞を除去していく。
 細胞傷害性T細胞は非自己抗原と自己MHCタンパク質との複合体を認識するため、ウイルス感染した自己細胞を除去することができる。また異常になった自己抗原(変異の結果などによる)とMHCタンパク質との複合体を認識することもできるので、遺伝子変異がもたらす異常タンパク質が原因となる腫瘍細胞も除去できる。
 T細胞の活性化には、MHCタンパク質ー抗原複合体と受容体の結合だけでなく、第二のシグナルが必要である。受容体への特異的結合の後に、抗原提示細胞のCD28タンパク質がT細胞受容体と結合することによって、この共刺激シグナルが生じる。この2番目の結合後にT細胞は活性化され、サイトカイン産生や増殖が開始される。また、同時にこれらの事象の抑制因子の産生も開始され、免疫応答が過剰にならないように適切な終結も行われる。この抑制因子は、細胞表面にあるCTLA4というタンパク質であり、CD28と競合し、特に自己抗原の場合に活性化過程を阻止する。
 MHCタンパク質は自己寛容の基盤である
 MHCタンパク質は自己寛容の確立の鍵を握ってる。自己寛容が破綻すると、動物は自分自身の免疫システムによって破綻されてしまうだろう。動物の生涯にわたって、発達過程のT細胞は胸腺で検証される。
①この細胞は自己のMHCタンパク質を認識できるのか?自己MHCを認識できないT細胞は、いかなる免疫反応も行うことが不可能なため、まったく役立たずということになる。このようなT細胞は不合格となり3日以内に死を迎える。
②この細胞は自己MHCタンパク質と自己抗原の複合体と結合するのか?結合するT細胞は生体にとって有害または致死的となる。やはり不合格となりアポトーシスする。
 上記の検証に合格したT細胞は細胞傷害性T細胞あるいはヘルパーT細胞へ成熟していく。
…ヒトではMHCは臓器移植治療の分野で特に重要になっている。MHCがコードするタンパク質は各個人で異なっているため、一卵性双生児間以外の移植では、非自己抗原ということになる。そのため、移植臓器では非自己と認識され免疫応答が惹起され攻撃される(非自己のMHCタンパク質は、T細胞により自己のMHCタンパク質ー非自己抗原複合体と同様に認識されるため、攻撃の対象になる。)(引用終わり)」
 
 
「…免疫細胞は誕生した直後に、胸腺という特殊な組織で身内の「顔」をしっかり記憶し、仲間を決して攻撃しないように教育されている、とかつての免疫学は教えてきた。
 だが、それはいささか楽観的にすぎたようだ。最近の研究では、胸腺にも手抜かりや不手際が少なからずあり、教育不行き届きの免疫細胞を送り出していることがわかってきた。私たちはの体にはわが身を敵とみなす恐ろしい自己反応性の免疫細胞がたくさんうろついて、正常な臓器や組織を攻撃しているのだ。
…免疫細胞たちがそうやって実際に引き起こす病気が、自己免疫疾患なのである。
 骨が溶け、最後には関節まで破壊されてしまう関節リウマチ、膵臓のインスリン生産細胞が破壊されてしまう1型糖尿病、脳や脊髄の神経細胞を覆う膜が攻撃されて多発性の硬い病巣組織ができうる多発性硬化症など枚挙にいとまがない。
 免疫の働きが過剰になったり、自己反応性の免疫細胞が悪さを始めたりしたときに、やりすぎを抑制して「撃ち方やめ」を周知徹底させる役割を担う細胞だ。…制御性T細胞である。
 キラーT細胞もヘルパーT細胞と同様に樹状細胞とつながっていて、抗原提示を受けている。すると、ヘルパーT細胞は近くにいるキラーT細胞に向かって情報伝達分子を放出して増殖を促す。
 ところが、ここに制御性T細胞が現れると、…樹状細胞の上に制御性T細胞がのしかかって、合体して、抗原提示の妨害をするからだ。
 このときの制御性T細胞の武器が、CTLA-4分子。制御性T細胞はこの分子を使って、樹状細胞の表面に出ているB7分子と結びついてしまうのだ。これは、本来であればヘルパーT細胞やキラーT細胞が落ち着くべき場所を、制御性T細胞が横取りしたことにほかならない。
…こうして、制御性T細胞が樹状細胞の表面を覆い尽くしたとしよう。そうなるともはや、ヘルパーT細胞などには樹状細胞と物理的に接触する余地がなくなってしまう。」

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免疫(11)獲得免疫 液性免疫応答 B細胞、抗体 

2023-09-08 09:41:17 | 免疫
 獲得免疫の液性免疫応答の主役はB細胞です。B細胞は造血幹細胞からリンパ系幹細胞に分化したものです。その後B細胞の免疫グロブリン(H鎖とL鎖)において遺伝子組換え(VDJ組換え)が起こり、それぞれの免疫グロブリンの構造が変化して、無限と思えるほどの種類の抗原受容体ができます。ただし、その受容体の中でも自己抗原に反応してしまう(自己免疫反応を起こす)ものは除去されます。当初その受容体はIgMとしてB細胞膜上に発現して、骨髄から末梢へ移行していきます。
 病原体などの抗原が侵入すると、樹状細胞などがその抗原(タンパク質)を取り込み分解して、ヘルパーT細胞に抗原提示(MHCクラスⅡタンパク質ー抗原複合体に結合)します。すると抗原提示を受けたヘルパーT細胞はサイトカインを分泌し、自らの細胞を増殖してクローン集団を形成します。またTOLL様受容体が識別する病原体の核酸や脂質の内容もヘルパーT細胞に伝えられ、ヘルパーT細胞の性質(1型ヘルパーT細胞(細胞性免疫反応)と2型ヘルパーT細胞(液性免疫やアレルギー反応など)の違い)が決まります。
 次に、抗原がB細胞のIgM受容体に結合すると取り込まれて分解されて、ヘルパーT細胞に抗原提示します。ヘルパーT細胞はサイトカインを分泌してそのB細胞の増殖を促進させます。その抗原に特異的なB細胞が増殖されクローン集団を形成し、抗体を産出する形質細胞(エフェクターB細胞)と少数の記憶細胞(ゆっくり分裂を継続してクローンを維持する)となります。
 B細胞が形質細胞になるときには、定常部が変化(クラススイッチ)します。なお可変部(抗原を認識する部分)は変わりません。ウイルスや細菌の場合には抗体の定常部はIgMからIgG(主に血液中に存在)に変化し、またダニや花粉などの場合にはIgE(主に上皮組織に存在)に変化します。IgG抗体はウイルスや細菌を直接攻撃(不活化や複合体形成)できますが、IgE抗体はマスト細胞に結合して、マスト細胞がヒスタミンロイコトリエンなどを放出させることによってアレルギー反応を起こさせます。

 
液性免疫応答
液性免疫応答では、血液、リンパ、組織液中で抗体が病原体の抗原決定基に結合する。動物はその生涯にわたって遭遇しうるほとんどすべての抗原に対して結合可能な驚くほど多種の抗体を産生することができる。
 抗体分子には、水溶性で血液やリンパを自由に流れていくものと、B細胞の膜タンパク質として存在するものがある。ある抗原が体内に最初に侵入してくると、その抗原と結合しうる抗体を細胞表面に備えたB細胞がその抗原を認識して結合する。このようにある抗原が特異的にあるB細胞に結合すると、B細胞は活性化され、その細胞膜抗体と同じ特異性を持つ水溶性抗体を大量に分泌し始める。
…毎日、何十億というB細胞(自己を認識する細胞はクローン除去によってすでに除去されている)が骨髄から血液中に動員されている。B細胞は液性免疫応答の根幹である。
B細胞は状況によって形質細胞となる
…B細胞はその細胞表面に受容体タンパク質として発現しているのと同じ抗体を産生する。…B細胞は、受容体に抗原が結合して活性化されると、メモリー細胞と形質細胞(プラズマ細胞)となる。形質細胞はクローンとして増殖し、それらが産生する抗体は血中に分泌される。
 多くの場合、B細胞が抗体を分泌する形質細胞になるためには、同じ特異性を持つヘルパーT細胞(TH細胞)も同じ抗原に結合する必要がある。したがって、B細胞は…抗原提示細胞としても機能することなる。B細胞の細胞分裂と増殖はTH細胞から化学情報を受容することにより促進される。
 形質細胞になる過程で、細胞質のリボソームと粗面小胞体は著しく増加していく。これらの増加によって、大量に抗体を合成して分泌することが可能になる。1秒間に2000分子ともいわれている。ある1個のB細胞に由来するクローン集団の形質細胞からは、同じ抗体分子、つまり元のB細胞に結合したのと同じ抗原決定基のみに結合する抗体が産生される。したがって、B細胞がクローン的に増殖する場合には抗体の特異性は確保されるのである。
抗体分子の抗原結合特異性は多様であるが、基本構造は共通である
 抗体は免疫グロブリンというグループに属するタンパク質である。免疫ブログリンは数種類存在するが、4本のポリペプチド鎖からなるテトラマー(四量体)構造が基本である。この4個のポリペプチド鎖の2本ずつは同じで、それぞれH鎖(重鎖、長い)、L鎖(軽鎖、短い)と呼ばれている。それぞれのポリペプチド鎖には、抗体分子間でほとんど変化のない「定常部」と、抗原に応じて変化する「可変部」が存在する。
 ■定常部のアミノ酸配列はそれぞれの免疫グロブリンに特異的となる。アミノ酸配列の違いにより、抗原結合部位の三次元構造が異なり、特定の抗原のみに特異的に結合する。
 ■可変部のアミノ酸配列はそれぞれの免疫ブログリンに特異的となる。アミノ酸配列の違いにより、抗原結合部位の三次元構造が異なり、特定の抗原のみに特異的に結合する。
 各抗体分子の2カ所の抗原抗体結合部位は同一である。したがって、抗体と抗原の結合能は二価ということになる。1つの分子に同時に2個の抗原分子が結合できるために、抗体と抗原がお互いに手を繋ぐように数珠繋ぎになり強大な凝集体を形成する。このような巨大抗原ー抗体複合体は目立ちやすくなり、貪食細胞や補体によって効率よく破壊される。



抗体のクラス
 可変部はそれぞれの抗原に特異的に結合するために変化する領域であるが、H鎖の定常部は大まかに5種類存在し、それによって抗体分子は5種のクラスに分類される。各クラスで構造や機能が異なり、例えば膜受容体として機能するもの、血中に豊富に存在するもの、外分泌されるもの、アレルギーの原因になるものなどに分類される。


 
MHCタンパク質は免疫系に抗原を提示する
 動物の免疫システムは自己細胞を細胞表面のタンパク質で識別している。この過程には数種類のタンパク質が関与しているが、特に大切なのは主要組織適合抗原遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる遺伝子群である。MHCは液性免疫、細胞免疫、そして免疫寛容に重要な役割を担っている。
 MHCがコードするタンパク質は細胞膜糖タンパク質である。
…MHCクラスⅡタンパク質はB細胞、マクロファージ、その他の抗原提示細胞の細胞表面のみ存在する。抗原提示細胞がウイルスなど非自己抗原を貪食すると、ファゴソーム(異物を分解する細胞内小胞)で分解が行われる。 そうして作られた断片にMHCクラスⅡタンパク質が結合し、複合体として細胞表面に移動し、ヘルパーT細胞に提示される。
 ヘルパーT細胞の細胞表面にはMHCクラスⅡタンパク質を認識して結合するCD4というタンパク質が存在する。
液性免疫応答に関与するヘルパーT細胞とMHCクラスⅡタンパク質
 ヘルパーT細胞は抗原提示マクロファージに結合するとサイトカインを分泌し、そのサイトカインによって自分自身が刺激され、その抗原を認識するヘルパーT細胞のクローンが生み出される。この段階が液性免疫応答の活性化段階であり、リンパ組織で行われる。その次のエフェクター(効果)段階では、ヘルパーT細胞は同じ抗原を認識するB細胞を活性化して、その抗原と結合する抗体の産生を開始させる。
 B細胞は抗原提示細胞でもある。B細胞は細胞表面の免疫グロブリン受容体に結合した抗原をエンドサイトーシスにより取り込み、分解し、MHCⅡタンパク質と結合させて提示する。ヘルパーT細胞は、B細胞表面に提示されたMHCクラスⅡタンパク質ー抗原複合体に結合すると、サイトカインを分泌してB細胞を増殖させて形質細胞のクローン集団を形成させる。最終的には形質細胞から抗体が分泌され、液性免疫応答のエフェクター段階が完了する。
定常部の変化によるクラススイッチ
…IgMの産生からIgGに切り替えるというように、クラススイッチによって1個のB細胞がある時点から別のクラスの抗体を産生するようになる。
 B細胞は初期にはIgMを産生する。IgMはある抗原決定基を認識するための受容体として機能する。この時期には、抗体H鎖の定常部は可変部遺伝子(V、D、J遺伝子)直下のμ遺伝子がコードしている。その後、液性免疫応答によりB細胞が形質細胞に変化すると、その細胞のゲノムDNAに欠落が生じて、可変部近傍のμ遺伝子よりも遠方の定常部遺伝子が組み込まれるようになる。このようなDNA欠損により最終的な抗体分子の定常部は異なったものとなり、その機能も変化する。しかし、可変部は以前のものと同じであり、抗原に対する特異性は変化しない。IgM以外のクラスは、IgA、IgD、IgE、IgGの4種類であり、それぞれ定常部が異なっている。(引用終わり) 

 
「獲得免疫系の第一の目的は、無限に存在するかもしれない外来微生物等の抗原を、いかにきちんと認識するのかという基本的な仕組みを確立することである。このためには、抗原受容体の種類がきわめて多種類存在することが必要である。限られた遺伝情報の中から、どうやって何千万、何億もの種類の抗原受容体を生み出すことができるのであろうか。この謎に対する答えとしては、遺伝子の断片の組み合わせによって新たな遺伝子を生み出すという巧妙な方法が、利根川進らによって明らかにされた。
 「VDJ組換え」と呼ばれるこの遺伝子組換えの仕組みは、抗体遺伝子(B細胞受容体)とT細胞受容体遺伝子の両方に用いられており、この組換えを行うRAG1とRAG2という酵素もBリンパ球とTリンパ球に共通である。
 このような遺伝子組換えが起こる仕組みは、脊椎動物のかなり早い時期に始まったと思われる。しかし、脊椎動物の祖先系と考えられる脊椎動物である
ヤツメウナギやメクラウナギなどには、この仕組みは存在しない。またRAG1とRGA2の遺伝子にはイントロンがなく、遺伝子の組換えを行う仕組みが決まったDNA配列を目印とした断片のつなぎ合わせ様式となっている。これらの特徴が、トランスポゾンと呼ばれる自ら遺伝子改変を行う仕組みときわめて似ていることから、その進化の原点はトランスポゾンが脊椎動物の祖先系に侵入したことに起源があるのではないかと考えられている。つまり、今日地球上に存在する脊椎動物の祖先のどこかで、このようなトランスポゾンの感染が生殖細胞に起こり、今日地球上に存在する脊椎動物はすべてその子孫であるという驚くべき推論であるが、今日それが多くの研究者の支持を受けている。
…抗体を作るBリンパ球の中では、抗原刺激によってAID(活性化誘導性シチジンデアミナーゼ)という分子の発現が誘導される。AIDの発現により、抗体遺伝子に2つの遺伝的な変異が導入される。第一は、抗体の可変部、すなわち抗原認識部位に塩基の置換(体細胞突然変異)が導入され、抗原と結合力の高い抗体を作り出す。先のVDJ組換えによって作り出された抗体レパートリーの中から、抗原を認識した細胞がAIDを発現し、その細胞の抗体遺伝子に、さらに細かい塩基の変異が導入される。
…AIDの発現により第二の変化は、抗体のクラスを変えることである。通常のBリンパ球は免疫ブログリン(Ig)のうちIgMを産生しているが、抗原刺激によってIgG、IgE、IgAなどの抗体を産生する細胞に変わる。この変化は「クラススイッチ」と呼ばれ、この際には遺伝子の大幅な欠失を伴うDNAの組換えが起こる。このようなクラスの変化(クラススイッチ)は、結合した抗原をどのような仕組みで処理するかという、抗体の効果の多様性を生み出す。また体の特定な場所に特化した機能を生み出す。
…AIDの誕生は、RAG1、RAG2より進化の上で古いことが明らかになった。すなわち、脊索動物であるヤツメウナギやメクラウナギにすでにAIDの祖先型が存在している。興味深いことに、これらの生物における抗原受容体は、RAG1、RAG2によって作られる今日型の抗原受容体とまったく異なる構造をし、非常に強い接着性を持ったVLRと呼ばれる分子であることがクーパーらによって明らかにされた。VLRは、AID祖先型分子により遺伝子断片の情報をつなぎ合わせる遺伝子変換と呼ばれる遺伝子再構成を用いながら抗原受容体を作り上げていたのである。
 この仕組みは、今日、AID自身の働きにも引き継がれており、体細胞突然変異や遺伝子変換、クラススイッチにおける遺伝子切断などの仕組みは、おそらく基本的に同じものであったと考えられる。
…VLRの消失の理由は、先に述べたRAG1、RAG2を含むトランスポゾンの感染が脊椎動物の初期段階で起こったことにより、新しい免疫受容体の多様化機構が生じたことによると思われる。(引用終わり)」

 
「…樹状細胞の量を増やすと、抗体をつくるB細胞が大幅に増大したことがわかる。一方、マクロファージの数を増やしても、抗体をつくるB細胞はほとんど増加しなかった。
 …稲葉の実験は、T細胞に異物の断片を見せる抗原提示の主役は樹状細胞であることを雄弁に物語っていた。マクロファージに抗原提示の働きがないとまではいわない。しかしマクロファージの働きは弱く、樹状細胞のそれはとても強かったのだ。」

 
「…ヘルパーT細胞は、刺激を受けると、活性化され、Th1細胞と、Th2細胞などに分化します。
 Th1細胞は、インターロイキン2(IL-2)やインターフェロンγなどのサイトカインを作り、自然免疫細胞や…キラーT細胞を刺激します。特に、キラーT細胞に対してはウイルス感染細胞を殺すように促します。
 一方、Th2細胞はインターロイキン4、5、6(IL-4、IL5、IL-6)などのサイトカインを作り、B細胞を刺激して抗体を作るように促します。


 (引用終わり)」

 
「…樹状細胞が抗原提示したとき、同時にエンドトキシンなどの細菌やウイルスの成分(アジュバンド)で刺激された場合、つまり細菌感染やウイルス感染の場合は、細菌やウイルスの核酸や脂質成分を認識するTOLL様受容体を介して樹状細胞はインターロイキン12を分泌します。また、その膜構造に変化が生じます。その結果、樹状細胞と接触しているナイーブ細胞はサイトカインとしてインターフェロンγを分泌し始めます。
 つまり、TOLL様受容体が認識するのは抗原やアレルゲンなどのタンパク質ではなく、細菌のウイルスに存在する特有の構造を持つ核酸や脂質などのアジュバンドなのです。このアジュバンドの作用により樹状細胞の膜構造などの変化を経て、ナイーブT細胞はインターフェロンγを分泌する1型ヘルパー細胞に変身しながら増殖していきます。
 樹状細胞がアレルゲンと遭遇し、アレルゲン構造物をナイーブT細胞に提示したときにプロスタンという物質で同時刺激された場合は、細菌やウイルス由来のアジュバントにTOLL様受容体を刺激されたときとは別な膜構造を持つようになります。その結果、樹状細胞と接触するナイーブ細胞は先ほどのインターフェロンγではなく、今度はインターロイキン4を分泌し始めます。つまり、ナイーブ細胞はインターロイキン4を分泌する2型ヘルパー細胞に変身しながら増殖します。
…1型ヘルパー細胞はB細胞に働き、細菌・ウイルスを効率よく撃退するためにIgG抗体を作らせます。IgG抗体は細菌を破壊したり、ウイルスが細胞に感染しないようにしたりします。このとき活躍した1型ヘルパー細胞とB細胞は増殖して長くリンパ節にとどまるので、二度目の細菌・ウイルスの侵入ではすばやく反応し、大量のIgG抗体が作られます。そのため細菌やウイルスは最初の感染のときよりも迅速に撃退されます。
 ダニや花粉などのアレルゲンは細菌やウイルスと違い、通常は粘膜上皮細胞のバリアーを壊して侵入することはありません。しかし、…バリアー機能が低下したときに、ダニや花粉などのアレルゲンを吸い込むと体の中に入り込んでしまうのです。
…細菌やウイルスの成分が混じっていない場合、樹状細胞はその異物が有害でないと判断し、情報を2型ヘルパー細胞に伝えます。…そして、2型ヘルパー細胞からB細胞が情報を受け取り、IgG抗体を作ります。
…IgG抗体が細菌やウイルスを攻撃するとの違って、IgE抗体には直接アレルゲンを攻撃する働きはありません。
…マスト細胞の表面にはIgEと強く結合するIgE受容体が非常に多数(1万から20万)存在していて、アレルゲンが二回目以降に体に侵入するとマスト細胞の表面に結合しているIgE抗体と結合します。すると、IgE受容体が刺激されることにことにより、マスト細胞はヒスタミンやロイコトリエンを含んだ顆粒を放出してアレルギー反応をおこすのです。(引用終わり)」

「1965年、オハイオ州立大学のBruce Glickは孵化したばかりのニワトリのファブリキウス嚢 (Bursa Fabricii) を除去すると抗体の産生が起こらないことを発見した。その後、マックス・クーパーとRobert A. Goodにより鳥類における抗体産生の前駆細胞の分化成熟に必要であることが証明され、器官の頭文字を取ってB細胞と命名された。哺乳動物にはこの器官は存在せず、骨髄 (bone marrow) でつくられることが確認された。偶然にも頭文字が同じであることから、そのままB細胞という名称が定着した。 
…抗体は特定の分子にとりつく機能を持った分子で、その働きによって病原体を失活させたり、病原体を直接攻撃する目印になったりする。そのため、抗体を産生するB細胞は免疫系の中では間接攻撃の役割を担っており、その働きは液性免疫とも呼ばれる。
 B細胞は細胞ごとに産生する抗体の種類が決まっている。自分の抗体タイプに見合った病原体が出現した場合にのみ活性化して抗体産生を開始することになる。また、いったん病原体が姿を消しても、それに適合したB細胞の一部は記憶細胞として長く残り、次回の侵入の際に素早く抗体産生が開始できるようになる。この働きによっていわゆる「免疫が付く」(免疫記憶)という現象が起きており、予防接種もこれを利用したもの。
 哺乳動物においては、B細胞は骨髄に存在する造血幹細胞から分化したのち、脾臓などの二次リンパ組織に移動し、抗原に対する反応に備える。 また一部のB細胞には、消化管上皮、粘膜組織など、外来抗原との接触頻度の高い組織に移動する集団も存在する。
 細胞表面の抗原レセプターとして細胞膜結合形の免疫グロブリン(Ig)を発現しており、これによって自分に適合した抗原の出現を察知する。抗原が適合した場合には、それを細胞内に取り込んだ後、抗原提示する。提示された抗原をヘルパーT細胞が認識すると、ヘルパーT細胞からの刺激を受け、形質細胞に分化することになる。形質細胞に分化すると分泌形の免疫グロブリンを抗体として産生するようになる。
 細胞表面の抗原レセプターとして細胞膜結合形の免疫グロブリン(Ig)を発現しており、これによって自分に適合した抗原の出現を察知する。抗原が適合した場合には、それを細胞内に取り込んだ後、抗原提示する。提示された抗原をヘルパーT細胞が認識すると、ヘルパーT細胞からの刺激を受け、形質細胞に分化することになる。形質細胞に分化すると分泌形の免疫グロブリンを抗体として産生するようになる。 
 B細胞を始めとした全ての血球細胞は、骨髄中の造血幹細胞が分化したものである。始めに造血幹細胞はリンパ系幹細胞へ分化する。次いでプロB細胞を経てH鎖の遺伝子再構成が起きる。完成したH鎖とSL鎖(V-preB・lambda5)とともにpre-BCRを形成、大型プレB細胞となる。そこでpre-BCRシグナルにより一度増殖した後に、L鎖の遺伝子再構成が引き起こされ、やがて小型プレB細胞へと分化する。完成したL鎖はH鎖とともにIgMを形成して、細胞膜上に発現する。そしてIgMとともに同じ抗原特異性をもつIgDも発現し、B細胞は骨髄から末梢へと移行し、脾臓において成熟B細胞となる。B細胞は、抗原の存在下で抗体を産生するべく、形質細胞(プラズマ細胞、plasma cell)へと最終的に分化する。 
…B細胞の活性化には一般に、B細胞受容体、B細胞補助受容体、およびCD4陽性T細胞からのシグナルの3つが必要である。
 成熟ナイーブB細胞は表面にIgMを発現しており、これらが微生物表面の抗原により架橋されることによりB細胞内へシグナルが伝達される。B細胞膜において、IgMはIgαおよびIgβと呼ばれる膜貫通タンパクと会合しており、これらの会合体が機能的なB細胞抗原受容体 (B cell receptor, BCR) である。このIgβの細胞質部分に存在するチロシン残基がリン酸化されることにより、シグナル伝達経路が始動する。
 B細胞補助受容体はCD21 (補体受容体2、CR2)、CD19、およびCD81からなる。ある種の病原体表面は補体を分解する特性を持っている。このため、補体断片C3dが沈着することになるが、CD21はこの分子と結合することができる。このようにしてB細胞受容体とB細胞補助受容体が同時に会合すると、Igαに細胞質部分で会合したチロシンキナーゼによってCD19がリン酸化され、シグナル伝達経路が始動する。
 さらに、胸腺非依存性抗原を除く抗原による活性化においてはCD4陽性T細胞の分泌するサイトカインが必要である。B細胞はB細胞抗原受容体により受容体介在性エンドサイトーシスにより抗原を取り込むことができる。取り込んだ抗原を提示したMHC IIとCD4陽性T細胞が相互作用すると、B細胞表面のCD40とT細胞表面のCD40Lの結合、およびT細胞から産生されるサイトカインの刺激によりB細胞が活性化される。」

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免疫(10)獲得免疫 特異的生体防御システムの特徴

2023-09-05 09:52:12 | 免疫
 獲得免疫は脊椎動物が持つ「特異的生体防御システム」です。獲得免疫の主役はリンパ球のB細胞T細胞であり、それぞれ液性免疫応答と細胞性免疫応答と呼ばれています。液性免疫応答は、B細胞が作る「抗体」(血液中に分泌され体内を循環する)により抗原を認識して攻撃します。細胞性免疫応答は、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)が感染された又は変性した自己細胞を認識することによりその自己細胞を攻撃します。またヘルパーT細胞はキラーT細胞やB細胞の制御の役割をします。
 特異的生体防御システムの特徴は以下のようです。
(1)特異性
 T細胞受容体とB細胞受容体及び抗体は、抗原(病原体などの標識)を個別具体的に認識します。その方法は、抗原が例えばタンパク質であれば、多数存在するアミノ酸の数個の配列の局所領域を認識するものです。このような認識する局所領域を「抗原決定基」(エピトープ)といいます。抗原のタンパク質には複数の抗原決定基があることがあり、その中でも特に強く免疫応答を示す部分のものを「主要抗原決定基」といいます。
(2)自己と非自己の識別
 獲得免疫システムは、ヒトの体内に何万個もの自己抗原である異なったタンパク質もあるため、自己と非自己(異性化した自己含め)を正確に認識して、自己抗原を攻撃しないような厳格なシステムがあります。胸腺での未熟T細胞の選別(自己抗原を攻撃しないような)では、作られた多種類のT細胞のうち生き残れるのは2、3%とされています。
(3)多様性
 T細胞受容体とB細胞受容体(抗体)は、様々な非自己抗原である病原体、異物、ウイルス、細菌などの抗原決定基を個別具体的に認識するために、遺伝子組換え(VDJ組換え)や抗体遺伝子への変異導入(AID 活性化誘導シチジンデアミナーゼ )により、無限ともいえる(通説では10億種類)非自己抗原に適合できるような多種の細胞が用意されています。そのため、どのような非自己抗原が侵入してきても、その抗原決定基に適合するT細胞受容体やB細胞受容体(抗体)が準備されています。
(4)免疫記憶
 ある病原体が最初に侵入すると、それに適合したT細胞やB細胞が活性化(細胞増殖)されますが、攻撃用の細胞(短期間(数日)でなくなる)の他に、記憶用の細胞も作られてゆっくり分裂を継続します(数十年以上)。その記憶細胞があるため、二度目にその病原体が侵入したときは、即時に免疫システムが発動するようになります。


 「獲得免疫系の第一の目的は、無限に存在するかもしれない外来微生物等の抗原を、いかにきちんと認識するのかという基本的な仕組みを確立することである。このためには、抗原受容体の種類がきわめて多種類存在することが必要である。限られた遺伝情報の中から、どうやって何千万、何億もの種類の抗原受容体を生み出すことができるのであろうか。この謎に対する答えとしては、遺伝子の断片の組み合わせによって新たな遺伝子を生み出すという巧妙な方法が、利根川進らによって明らかにされた。
 「VDJ組換え」と呼ばれるこの遺伝子組換えの仕組みは、抗体遺伝子(B細胞受容体)とT細胞受容体遺伝子の両方に用いられており、この組換えを行うRAG1とRAG2という酵素もBリンパ球とTリンパ球に共通である。
 このような遺伝子組換えが起こる仕組みは、脊椎動物のかなり早い時期に始まったと思われる。しかし、脊椎動物の祖先系と考えられる脊椎動物である
ヤツメウナギやメクラウナギなどには、この仕組みは存在しない。またRAG1とRGA2の遺伝子にはイントロンがなく、遺伝子の組換えを行う仕組みが決まったDNA配列を目印とした断片のつなぎ合わせ様式となっている。これらの特徴が、トランスポゾンと呼ばれる自ら遺伝子改変を行う仕組みときわめて似ていることから、その進化の原点はトランスポゾンが脊椎動物の祖先系に侵入したことに起源があるのではないかと考えられている。つまり、今日地球上に存在する脊椎動物の祖先のどこかで、このようなトランスポゾンの感染が生殖細胞に起こり、今日地球上に存在する脊椎動物はすべてその子孫であるという驚くべき推論であるが、今日それが多くの研究者の支持を受けている。
…抗体を作るBリンパ球の中では、抗原刺激によってAID(活性化誘導性シチジンデアミナーゼ)という分子の発現が誘導される。AIDの発現により、抗体遺伝子に2つの遺伝的な変異が導入される。第一は、抗体の可変部、すなわち抗原認識部位に塩基の置換(体細胞突然変異)が導入され、抗原と結合力の高い抗体を作り出す。先のVDJ組換えによって作り出された抗体レパートリーの中から、抗原を認識した細胞がAIDを発現し、その細胞の抗体遺伝子に、さらに細かい塩基の変異が導入される。
…AIDの発現により第二の変化は、抗体のクラスを変えることである。通常のBリンパ球は免疫ブログリン(Ig)のうちIgMを産生しているが、抗原刺激によってIgG、IgE、IgAなどの抗体を産生する細胞に変わる。この変化は「クラススイッチ」と呼ばれ、この際には遺伝子の大幅な欠失を伴うDNAの組換えが起こる。このようなクラスの変化(クラススイッチ)は、結合した抗原をどのような仕組みで処理するかという、抗体の効果の多様性を生み出す。また体の特定な場所に特化した機能を生み出す。
…AIDの誕生は、RAG1、RAG2より進化の上で古いことが明らかになった。すなわち、脊索動物であるヤツメウナギやメクラウナギにすでにAIDの祖先型が存在している。興味深いことに、これらの生物における抗原受容体は、RAG1、RAG2によって作られる今日型の抗原受容体とまったく異なる構造をし、非常に強い接着性を持ったVLRと呼ばれる分子であることがクーパーらによって明らかにされた。VLRは、AID祖先型分子により遺伝子断片の情報をつなぎ合わせる遺伝子変換と呼ばれる遺伝子再構成を用いながら抗原受容体を作り上げていたのである。
 この仕組みは、今日、AID自身の働きにも引き継がれており、体細胞突然変異や遺伝子変換、クラススイッチにおける遺伝子切断などの仕組みは、おそらく基本的に同じものであったと考えられる。
…VLRの消失の理由は、先に述べたRAG1、RAG2を含むトランスポゾンの感染が脊椎動物の初期段階で起こったことにより、新しい免疫受容体の多様化機構が生じたことによると思われる。(引用終わり)」
 

「V(D)J遺伝子再構成(英:V(D)J recombinationまたはsomatic recombination)は、免疫システム内の免疫グロブリン(Ig)・TCR(T細胞受容体)生成の初期ステージにおける遺伝子再構成の仕組み。初期のリンパ組織(骨髄ではB細胞、胸腺ではT細胞)で起こる。
V(D)J遺伝子再構成は、骨髄や胸腺でのリンパ球の遺伝子断片(V、D、J)のランダムな組み合わせである。抗体やTCRをコードするDNAは多数の断片として染色体の上に並んでいる。これらのDNA断片はリンパ球の分化の過程で連結され、完全なDNAとなる。いろんな遺伝子をランダムに選べるので、いろんなタンパク質をつくり、いろんな抗原(バクテリア、ウイルス、寄生菌、腫瘍、花粉など)に対抗することができる。」

「活性化誘導シチジンデアミナーゼ(かっせいかゆうどうシチジンデアミナーゼ、Activation-Induced (Cytidine) Deaminase、AID)は、DNA中のシチジン基からアミノ基を取り除く(脱アミノ)、24 kDaの酵素である。
AIDは現在、二次抗体多様化のマスター制御因子であると考えられている。AIDがその開始に関与しているのは、3つに分かれた免疫グロブリン(Ig)多様化プロセス、体細胞超変異(SHM)、クラススイッチ組換え(CSR)、遺伝子変換(GC)である。」

第16話_いろいろな生物の免疫の仕組み 
「まず動物のおおまかな分類を解説する。 構造的に、口がないもの(海綿動物)、口が肛門を兼ねるもの(腔腸動物)、口と肛門があるものに分けられ、口と肛門のある ものの中では発生過程で口が先にできる のが前口動物で、後にできるのが後口動物 である(図 1)。 
  全ての動物は自然免疫系を有するが、獲得免疫系を有するのは脊椎動物だけで、種の数としては動物界全体の数%にすぎな い。ほとんどの無脊椎動物は自然免疫系だ けで生きているのである。 
…軟骨魚類以上の脊椎動物は、すべて同じ タイプの獲得免疫系を有している。種による違いをみていこう。全ての種において T 細胞は胸腺でつくられており、T 細胞系は 大枠ではほぼ同じである。
…一方 B 細胞のつくられ方は、種による違 いが大きい。…マウス やヒトでは
遺伝子断片がランダムに組み 換えられる様式で多様性がつくられる。しかしニワトリでは多様性は組み換えでは 生じず、遺伝子変換と体細胞超変異でつくられる。前者は一度できた抗体遺伝子の一部分を後で入れ替えるという様式で、後者は点突然変異を誘導するという様式である。哺乳類でもウサギ、ウシのように主に遺伝子変換と体細胞超変異で多様性を得る種もいる。つくられる場所も、マウスや ヒトでは骨髄だが、ニワトリではファブリキウス嚢という肛門の近くの器官、ウサギ では虫垂、ヒツジでは腸管のパイエル板と、 大きく異なっている。




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免疫(9)白血球の種類、血液細胞の起源はマクロファージ?

2023-09-02 10:48:59 | 免疫
1.白血球の種類 
 白血球とは、外部から侵入した異物(細菌・ウイルスなど)や自己の細胞が変異(腫瘍細胞や老化細胞など)したものを排除・分解する免疫細胞で、ヒトでは造血幹細胞から作られます。
 種類としては以下のようなものがあります。
(1)単球
 単球は、最も大きなタイプの白血球であり、マクロファージ(食細胞、抗原提示も行う)や樹状細胞(抗原提示細胞)に分化します。単球の外観はアメーバのようであり、細胞の中には大量の抗菌物質などの顆粒が入っています。ヒトでの単球の白血球に占める割合は2%から10%で、免疫機能において複数の役割を果たします。
 単球は骨髄の単芽球と呼ばれる造血幹細胞の前駆細胞から作られ、血流中を約1-3日間循環した後、通常は体内の組織に移動して、マクロファージ又は樹状細胞に分化します。また単球の半数は、脾臓に予備として貯蔵されているようです。
 免疫系において、単球(マクロファージ、樹状細胞)は以下のような機能を果します。
●食作用
 単球はパターン認識受容体からの情報や病原体に結合した抗体や補体を目印として、病原体を取り込み消化・破壊します。
●抗原提示
 単球は食作用によって分解された病原体の断片をMHC分子を介して細胞表面に提示して、それを認識したTリンパ球を活性化させ、獲得免疫(液性免疫(抗体)・細胞性免疫(キラーT細胞))を始動させます。
 単球は警戒情報のサイトカイン(情報伝達物質)を産出して放出します。
 
(2)好中球
 顆粒球(抗菌物質などを含む)と呼ばれるものの一つで、侵入した細菌や真菌類を貪食(取り込み)して殺菌します。白血球全体の60~65%を占め、最も多く存在する食細胞です。
 細菌などが侵入するとまずマクロファージや肥満細胞が対応して、警戒情報のサイトカインを放出して、感染細胞を炎症化させます。好中球はその警戒情報をキャッチして、血管を遊走し、炎症化した細胞に行って食作用を行います。細菌類を食作用した好中球はやがて死んで、その死体が膿になります。膿はマクロファージなどが処理します。
 
 (3)好塩基球
 好塩基球は白血球の中で占める割合が0.5%にすぎず、少し前まではその役割が良く分かっていなかったようです。
 好塩基球も顆粒球の一つで、顆粒の中にはヒスタミンセロトニンヘパリン(血液凝固阻害)が含まれています。 好塩基球はいろいろな炎症性反応に関係しているようで、アレルギー反応を引き起こします。

「好塩基球は慢性アレルギー炎症を誘導する細胞だった!!
 …好塩基球がIgE依存的慢性アレルギー炎症をひきこす主役であることをつきとめました(Immunity, 2005)
 好塩基球はアナフィラキシー・ショックにも関係していた!!
 …私たちの最近の研究により、IgEが関与する全身性アナフィラキシーにおいてはマスト細胞が、IgGが関与する全身性アナフィラキシーにおいては好塩基球が重要であり、即時型アレルギー反応である全身性アナフィラキシーにおいて、好塩基球はマスト細胞とは明らかに異なる役割を果たしていることが判明しました(Immunity, 2008)
 外部寄生虫であるマダニに対する免疫に好塩基球が重要だった!!
                  (引用終わり)」
(4)好酸球
 好酸球は顆粒球の1つであり、I型アレルギーや寄生虫の感染などで増殖します。好酸球は好中球と同じように走行し、抗菌物質(顆粒球)を放出したりします。なお好酸球はサイトカイン(IL-10など)を放出して免疫反応を調節しているとも見られいます。 
 なおI型アレルギーとは、IgEというタイプの免疫ブログリン(抗体)が肥満細胞や好塩基球に結合し、そこに抗原が結合すると、好塩基球などからヒスタミンやセロトニンが放出されることによって、血管拡張・血管透過性亢進などが引き起こされ、浮腫や掻痒などの即時反応型のアレルギー症状が出るものです。
 
(5)リンパ球
 リンパ球には、獲得免疫を担うT細胞(司令塔のヘルパーT細胞・細胞性免疫のキラーT細胞)やB細胞液性免疫の抗体を産出)、また自然免疫であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)があります。
 獲得免疫は脊椎動物が持つ高度特異的(病原体の個別具体的な特徴を認識できる)な免疫システムです。一度、病原体(抗原)が侵入すると、その病原体の標識に合致した細胞(T細胞・B細胞)がコピー保存(記憶)され、再度の侵入のときは即時に免疫システムを発動できます。
 NK細胞は、大型の顆粒性(抗菌物質を内蔵する)リンパ球であり、独自に細胞の異常(腫瘍細胞、癌細胞など)を認識する複数の受容体を持ち、それらの情報から異常細胞を攻撃します。NK細胞は自己細胞を傷害するため、誤って正常な自己細胞を攻撃しないように厳密に制御されているようです。NK細胞はサイトカイン(インターフェロンなど)の放出などにより活性化されるようです。 

2.白血球など血液細胞の起源はマクロファージ?
 この複雑な白血球はどのようにできたのでしょうか?それについて、すべての動物が持つマクロファージが起源なのではないかとの研究もあるようです。
 全ての動物ではCEBPαという転写因子(DNAに結合するタンパク質で遺伝子の転写を調整する)が唯一共通してあり、それが発現するとマクロファージになってしまうので、高等動物では様々な血液細胞を作るためにCEBPαが抑制されているとのことです。
「赤血球や血小板、好中球、マクロファージ(食細胞)、リンパ球など、体内には様々な血液の細胞が存在しますが、その進化的起源については不明な部分が多く、マクロファージはほぼ全ての動物にも存在することから、「マクロファージが起源であろう」と漠然と推測されてきただけでした。本研究では、マウスから単細胞生物にまで渡る広範な生物種の遺伝子発現状態を包括的に比較し、血液細胞の起源がマクロファージであること、その遺伝学的特徴が単細胞生物から保存されていることを突き止めました。 


…脊椎動物において、赤血球や T 細胞などの多様な血液細胞がいかにして出現したのかの解明に挑み ました。赤血球や、巨核球、T 細胞、B 細胞では、CEBPαが発現すると、もとの状態を失ってマクロファージ へと転換してしまいます。したがって、これらの血液細胞では、CEBPαは抑制され続けなければなりません。 どうやって CEBPαが抑制されているのかをマウスを用いて調べたところ、赤血球や、巨核球、T 細胞、B 細胞 に共通して、ポリコーム複合体 が抑制していることが明らかとなりました。マウスの血液細胞で、ポリコ ーム複合体の構成蛋白である Ring1A と Ring1B を欠失させてポリコーム複合体の機能を失わせると、赤血球、 巨核球、T 細胞、B 細胞において CEBPαの発現が上昇し、マクロファージへと転換してしまうことがわかり ました。
(引用終わり)」
「造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう; hematopoietic stem cell - HSC)とは血球系細胞に分化可能な幹細胞である。ヒト成体では主に骨髄に存在し、白血球(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、マクロファージ)、赤血球、巨核球、血小板、肥満細胞、樹状細胞を生み出す。血球芽細胞、骨髄幹細胞ともいう。幹細胞の定義として、一個の細胞が分裂の結果2種類以上の細胞系統に分化 (differentiation) 可能であると同時に幹細胞自体にも分裂可能であり(self renewal: 自己複製)結果として幹細胞が絶える事なく生体内の状況に応じて分化、自己複製を調整し必要な細胞を供給している事になる。この過程を造血という。 
 血球系の細胞には寿命があり、造血組織より供給されなくなると徐々に減って行く。この寿命は血球の種類によって異なり、ヒトでは赤血球(約120日)、リンパ球(数日から数十年)、好中球(約1日)、血小板(3~4日)などである。ヒトの造血組織は骨髄内に存在するが、全ての骨の骨髄で造血が行われる訳ではなく、胸骨、肋骨、脊椎、骨盤など体幹の中心部分にある、扁平骨や短骨で主に行われる。その他の長管骨の骨髄では出生後しばらくは造血機能を持つが、青年期以降は造血機能を失い、加齢とともに徐々に辺縁部位が脂肪組織に置き換わって行く。最長の大腿骨でも25歳前後で造血機能を失う。なお、発生直後から骨髄で造血されているわけではなく、骨髄造血が始まるのは胎生4ヶ月頃からである。それ以前は初期は卵黄嚢で、中期は肝臓と脾臓で造血される。なお、肝臓と脾臓は造血機能を完全に失うわけではなく、血液疾患時には造血が見られることもある。骨髄には造血細胞だけでなく、脂肪細胞、マクロファージ、間葉幹細胞などが存在し、造血細胞の中にも、分化した上記血球系細胞およびそれらの前駆細胞が存在している。多分化能を保った造血幹細胞はこれらの中のごく一部であり、最新の学説においては、骨組織と骨髄の境界領域に高頻度に存在し、骨組織内の骨芽細胞(osteoblast)との接触がその維持に重要と考えられている。(造血幹細胞ニッチ) 」

「白血球(はっけっきゅう、英: white blood cellあるいは英: leukocyte)とは、生体防御に際した免疫を担当する細胞である単球(マクロファージ)、リンパ球、好中球、好塩基球、好酸球の5種類を含んだ総称的物質を指す。
この細胞成分は、外部から体内に侵入した細菌・ウイルスなどの異物の排除や、腫瘍細胞・役目を終えた細胞の排除及び分解殺失などを役割とする造血幹細胞由来の細胞である。
 血液検査などではWBCと表されることが多い。
 大きさは6から30µm(マクロファージはそれ以上)。数は、男女差はなく、正常血液3,500~9,500/μL(1 µLあたり、3,500から9,500個)程度である。
…末梢血内には顆粒球・リンパ球・単球があり、顆粒球はギムザ染色による染色のされ方の違いによって好中球、好酸球、好塩基球の3つに分類される[1]。
したがって末梢血内の白血球は通常、好中球・好酸球・好塩基球・リンパ球・単球の5種類とされる。
 顆粒球は骨髄で産出され、末梢血内の白血球の半分から3/4程度を占める[。細胞質には殺菌作用を持つ顆粒が存在する。リンパ球は末梢血内の20から40%を占め、単球は3から6%ほどを占める。
 組織内には単球の分化が進み組織ごとに適応し、異物の呑食・不要になった体細胞の処理、体液性免疫細胞への抗原提示、サイトカインの放出などさまざまな役割を果たすマクロファージが存在する。」

「単球は、アメーバのような外観で、顆粒を細胞質にもつ。アズール顆粒(azurophil granules)をもつ単核の白血球の1つである。単球の核の典型的な形状は楕円形であり、豆あるいは、腎臓のような形をしている。この特徴で顆粒球と見分けられる。単球は、人体の全ての白血球の2%から10%を占め、免疫機能において複数の役割を果たす。単球の役割には
  1. 通常の条件下で常在マクロファージを補充すること
  2. 組織内の感染部位からの炎症に応答して約8-12時間以内に移動していくこと
  3. マクロファージまたは樹状細胞への分化
が含まれる。成人では、単球の半数は脾臓に備蓄されている[2]。 単球は、一般に、大きな腎臓のような核が染色されることで同定される。これらは適切な組織に入った後にマクロファージに変化する。その後、血管の内皮で泡沫細胞(foam cells)となる場合ある。
 単球は、骨髄の単芽球と呼ばれる前駆細胞から生産される。単芽球は、造血幹細胞から分化する。単球は血流中で約1-3日間循環し、次いで通常は体内の組織に移動する。単球は、血液中の白血球の3-8%を占める。単球の半数は、脾臓の中の「red pulp's Cords of Billroth(脾臓の中の一部の名称)」でかたまって、予備として貯蔵されている[2]。単球はいろいろな組織で、異なるタイプのマクロファージに成熟する。単球は、血液に含まれる最大の細胞である。
血流から他の組織に移動する単球は、組織に常在するマクロファージまたは樹状細胞に分化する。マクロファージは組織を異物から保護する役割を担っているが、心臓や脳などの重要な器官の形成にも重要であると考えられている。マクロファージは、大きな平滑な核をもち、細胞質が広い領域を占め、異物を処理するために多くの小胞を細胞内部にもっている。
 単球およびマクロファージ、樹状細胞は、免疫系において3つの主要な機能を果たす。 食作用、抗原提示、およびサイトカイン産生である。 食作用では、微生物および粒子を取り込み、その物質の消化および破壊をする。 単球は、病原体を認識するパターン認識受容体を介して直接微生物に結合することに加えて、病原体に結合する抗体または補体などの中間タンパク質を目印に食作用ができる。 そのように標識されることをオプソニン化という。単球は、抗体依存性細胞障害の細胞毒性を使って感染宿主細胞を死滅させることもできる。Vacuolization(異物が入っている小胞)は、異物を食作用で取り込んで間もない細胞に存在する。
 …食作用での消化の後に残っている微生物断片は、抗原として役立ち得る。断片はMHC分子に取り込まれ、単球(およびマクロファージおよび樹状細胞)の細胞表面に輸送される。この過程は抗原提示と呼ばれ、Tリンパ球の活性化をもたらし、Tリンパ球が抗原に対する特異的免疫応答を行う。他の病原体の成分は、単球を直接活性化することができ、まずは炎症性サイトカインの、そして後に抗炎症性サイトカインの生成をもたらす。 単球によって産生される典型的なサイトカインは、TNF、IL-1、およびIL-12である。
 
ヒトの血液中には、少なくとも3つのタイプの単球が存在する
  1.  古典的単球は、CD14細胞表面受容体の高レベル発現によって特徴付けられる(CD14++ CD16-単球)。
  2. 非古典的単球は、CD14の低レベルの発現、およびCD16受容体の発現を示す(CD14+ CD16++単球)。[4]
  3. CD14の高レベル発現およびCD16の低レベル発現を伴う中間単球(CD14++ CD16+単球)。」
「顆粒球は多形核白血球とも呼び、好中球・好酸球・好塩基球が含まれる。顆粒球の特徴は、微生物を殺したり組織を消化する成分を含む顆粒を持つことである。
 顆粒球のもつ顆粒には、アズール顆粒(一次顆粒)と特異顆粒(英語版)(二次顆粒。好中球の場合は三次顆粒もある)がある。特異顆粒は顆粒球のみにみられるもので、特異顆粒の染色上の挙動により、顆粒球は、好中球(微細な赤褐色の顆粒)、好酸球(粗大な橙赤色の顆粒)、好塩基球(粗大な青黒色の顆粒)の三種に分けられている。
 全ての顆粒球に、一次顆粒とよばれるアズール顆粒が存在する。 
 一次顆粒は、各種の抗菌物質を大量に含有しており、食胞と融合して貪食された微生物を殺すのに重要な役割を果たしている。例をあげる:
  • ミエロペルオキシダーゼ:過酸化水素と塩素イオンから次亜塩素酸イオンを生成して殺菌作用を発揮する。好中球の乾燥重量の5%程度存在を占め、膿が緑色に見える原因。
  • ディフェンシン:陽イオン性の蛋白で各種の細菌、真菌、ウイルスを殺す作用があり、好中球の蛋白のほぼ5%程度を占める。
  • リゾチーム:細菌細胞壁のペプチドグリカンを分解する(リゾチームは特異顆粒にも含まれている)。
  • アズロシジン:抗菌・抗真菌活性を持つ。
 一次顆粒は、その他、好中球エラスターゼ、カテプシンG、などのプロテアーゼ(蛋白分解酵素)も含んでおり、細胞外に放出されて、病原体の除去や局所の炎症過程の制御に関与する。」

第7話_自然免疫系の仕組み
「自然免疫系の仕組み
 免疫は、大きく自然免疫系と獲得免疫系に分けられ る。自然免疫とは、体に最初から備わって いる仕組みのことで、病原体が侵入して来 たらすぐに働けるのが特徴である。自然免疫系では、細菌に共通の成分だとか、ウイルスに共通する成分などと結合できる分子が用いられている。
…自然免疫系の仕組みは、 脊椎動物、無脊椎動物を問わず動物界に広くみられるものである。最前線で働いているのは、抗菌ペプチドやリゾチームなどの ような、異物の認識能力と攻撃能力を兼ね備えた分子である。主に上皮系の細胞によって産生され、血液中や粘液中 に存在している。次は自然免疫系の主役、 食細胞である。食作用においては、食べる べきものかどうかを見分けるためのレセ プターや、病原体側にくっついて「味付け役」をする分子が働いている(図2-2、 図2-3)。他に、ナチュラルキラー(NK)細胞という、他の細胞を殺す事ができる細胞も働いている(図2-4)。この細胞は、 感染などで傷害を受けた細胞を見分ける レセプターを出している。
自然免疫系と獲得免疫系をつなぐ仕組み
 自然免疫系の仕組みの中には、病原体のセンサーとして働いて、「病原体来襲」の 警報を出す事に貢献する分子がある。1990 年代後半に発見されたトル様受容体 (TLR)という分子群は、主に食細胞が出している。10 種類くらいあり、 バクテリアやウイルスの成分を分業して 感知している。一方、食細胞を含む体の多くの細胞は、細胞内に病原体の存在を感知するレセプターを持っている(図2-6)。 NLR や、RLR と呼ばれる分子群である。
 これらの センサー系は自然免疫系の反応の中で働 くだけでなく、獲得免疫反応の始動役としても働く。

自然免疫系と獲得免疫系の連携  
…ある病原体が感染し たとき、まず抗菌物質が作用し、さらに食細胞が貪食する。感染細胞は NK 細胞が殺傷する。抗原を取り込んだ樹状細胞は TLR などのセンサー分子 で活性化され、活性化さ れた樹状細胞は、その病原体に特異的に反応できるキラーT 細胞 とヘルパーT 細胞を活性化する。キラーT 細胞は抗原特異的に感染細胞を殺す。 ヘルパーT 細胞は、食細胞と B 細胞を「抗 原特異的に」活性化する。これは第5回で 述べたとおり、抗原を取り込んだ食細胞や B 細胞だけを活性化するからである。ヘル パーT細胞はNK細胞やキラーT細胞も活性 化するが、こちらは必ずしも抗原特異的で はない。これらのうち食細胞や NK 細胞に 働きかける部分は、自然免疫系の反応を増 強する作用であるといえる。 活性化された B 細胞は、抗体を産生する。 抗体は病原体に結合して感染能力を無くしてしまえるので、それは獲得免疫系だけ で完結した反応といえよう。一方、抗体は 病原体と結合することで食細胞に食べて もらうための味付け役をしたり、補体とい う分子を呼び込んで細菌を殺傷したりも する。この時は、最終的には自然免疫系の 仕組みが使われている事になる。 」

免疫学入門 | Rebirthel
第16話_いろいろな生物の免疫の仕組み
「まず動物のおおまかな分類を解説する。 構造的に、口がないもの(海綿動物)、口が肛門を兼ねるもの(腔腸動物)、口と肛門があるものに分けられ、口と肛門のある ものの中では発生過程で口が先にできる のが前口動物で、後にできるのが後口動物 である(図 1)。 全ての動物は自然免疫系を有するが、獲得免疫系を有するのは脊椎動物だけで、種の数としては動物界全体の数%にすぎな い。ほとんどの無脊椎動物は自然免疫系だ けで生きているのである。
…軟骨魚類以上の脊椎動物は、すべて同じ タイプの獲得免疫系を有している。種による違いをみていこう。全ての種において T 細胞は胸腺でつくられており、T 細胞系は 大枠ではほぼ同じである。
…一方 B 細胞のつくられ方は、種による違いが大きい。…マウス やヒトでは遺伝子断片がランダムに組み 換えられる様式で多様性がつくられる。しかしニワトリでは多様性は組み換えでは 生じず、遺伝子変換と体細胞超変異でつく られる。前者は一度できた抗体遺伝子の一 部分を後で入れ替えるという様式で、後者は点突然変異を誘導するという様式である。哺乳類でもウサギ、ウシのように主に 遺伝子変換と体細胞超変異で多様性を得 る種もいる。つくられる場所も、マウスや ヒトでは骨髄だが、ニワトリではファブリ キウス嚢という肛門の近くの器官、ウサギ では虫垂、ヒツジでは腸管のパイエル板と、 大きく異なっている。」





















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