数理論理教(科学教)の研究

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RNA干渉、マイクロRNAの制御 植物ウイルス学者がウイルスと植物との壮絶な戦いで見つけた遺伝子制御機構

2023-06-27 14:34:56 | 核酸、ゲノム
1.植物ウイルス学者がウイルスと植物との壮絶な戦いで見つけた遺伝子制御機構、RNAサイレンシング(RNA干渉)
 植物ウイルス学者が植物のウイルス感染の防御方法を研究していたところ、RNAサイレシンング(RNA干渉)という「細胞内のウイルスのRNAが消去されてしまう」驚くべきシステムがあることに気が付きました。

  
「…植物には…強力な自己防衛システムがあります。とりわけ重要なのは主にウイルスをターゲットとしたRNAサイレイシングとよばれる機構です。RNAサイレンシングはRNA干渉ともよばれますが、バクテリアを除くほとんどの生物がこの機構をもっています。
…この生命現象を最初に発見したのは植物ウイルス学者でした。「細胞内でRNAが特異的に減少していく現象が存在する」。この発見は、植物学者による2つの研究の中で、ほぼ同時に報告されました。
…これらの発見から、生物には特定のRNAが特異的に抑制される現象があるということがわかりましたが、その詳細の機構は謎のままでした。 
…1998年になって、「RNAサイレンシングの引き金が2本鎖RNAである」ことが線虫を用いた実験によって発見されると、RNAサイレンシングが真核生物に普遍的に存在することが世界で認知されるようになりました。線虫にターゲット遺伝子と同じ配列をもった2本鎖RNAを食べさせるだけで、ターゲット遺伝子のRNAが分解されてしまったのです。(『植物たちの戦争』より引用)」

2.RNAサイレンシング機構の仕組み
 植物の対ウイルス兵器であるRNAサイレシング(RNA干渉)とは以下のような仕組みになっています。
(1)まず植物のあるタンパク質(DCL(ダイサー))が「ウイルスRNA」を捕まえてバラバラに(21~24塩基の短いRNAに断片化)します。
(2)そのウイルスRNAの断片とある植物タンパク質が複合体(RISC(RNA誘導サイレンシング複合体))を構成します。
(3)その複合体が細胞内をパトロールして、そのRNA断片と同じRNA(つまりウイルスRNA)を見つけると、そのウイルスRNAを切断して破壊してしまいます。

      

 RNAサイレイシングの機構は、細胞内にさまざまな理由で生じた2本鎖RNAを細胞が認識するところから始まります(①)(1本鎖RNAでも内部の塩基どうしの結合によって形成される折畳み構造は部分的に2本鎖RNAとなることがあります。)このような2本鎖RNAは、細胞内で異物として認識され、ダイサー(DCL)とよばれる2本鎖RNAを特異的に分解する酵素によって、21~24塩基程度の短いRNA(siRNA)に切断されます(②)。
 この短い2本鎖のRNAは、アルゴノート(AGO)とよばれるタンパク質に取り込まれ、そこで1本鎖になり、他の細胞内タンパク質とともにRISC(リスク、RNA誘導サイレンシング複合体)とよばれるタンパク質複合体を形成します(③)。RISC複合体は細胞内をパトロールし、取り込んだ1本鎖siRNAと相補的な配列をもっているRNAを発見して(④)、RISC複合体中のAGOにあるスライサー活性によってそのRNAを特異的に切断します(⑤)。この切断されたRNAは、機能を失い消滅します。
…細胞における基本的な遺伝子の発現経路、いわゆるセントラルドグマの流れには2本鎖RNAは必要ありません。一方、RNAウイルスが複製するときには、複製中間体として2本鎖RNAが必ず出現します。このウイルスの存在に伴い出現し、自己の細胞には基本的に存在しない2本鎖RNAという分子を、植物細胞がウイルス侵入のアラーム、つまりPAMPとして認識し、抵抗性機構(ここではRS)を活性化するのは、とても理にかなっています。(『植物たちの戦争』より引用)」

3.ウイルスの「反撃兵器」のRNAサイレンシングサプレッサー
 しかし、ウイルスもRNAサイレンシングに対してのカウンター兵器として、RNAサイレンシングサプレッサー(RSS)を開発しています。
 このRSSは、RNAサイレンシングシステムのいくつかの段階で、それらの機能を阻害するウイルス側のタンパク質群(RNAサイレンシングサプレッサー、RSS)です。

「…ウイルスが繰り出すカウンターの「迎撃ミサイル」がウイルスのRNAサイレンシングサブレッサー(以下RSS)とよばれるタンパク質です。このRSSという名称はRSを阻害するという機能をもつ複数のウイルスタンパク質の総称であり、個々のウイルスが作り出すRSSは、siRNA経路の異なった過程を阻害することが知られています。
 

 …多くのウイルスのRSSはsiRNAに直接結合して、その働きを「消去」する機能をもっています。…それだけではなく、たとえばAGOに結合して、その機能を阻害するものやAGOやDCLの遺伝子発現量を抑制してしまうものも存在します。(『植物たちの戦争』より引用)」

4.ウイルスはRSSを用い植物のmiRNA(マイクロRNA)も制御する
 さらにウイルスはRSSを用いて、植物(というか生物)が持つ遺伝子制御の伝達役である「miRNA(マイクロRNA)」をも阻害してしまうようです。
 miRNAとは20~25塩基の微小なRNAで、各遺伝子への指令書(促進や抑制させる)のようなもので、生物の分化や成長に必須なものです。
 ウイルスは、自らのRANの断片(siRNA)とこのmiRNAが似ているものなので、RSSシステムを利用して、siRNAのときの抑制機構をmiRNAにも応用しているようです。
 植物のmiRNAがウイルスのRSSにより抑制された場合には、植物は分化や成長を阻害されて病気になってしまいす。
 なお現在、医学(人間)でも、このmiRNAがエクソソーム(細胞膜由来の脂質やタンパク質でできた配送用の小胞体)に包まれて、全身に遺伝子制御の指令書を送っていることが分かり、それを応用した「核酸医薬」という新たな創薬につながっているようです。なお癌の転移にもこのmiRNA(エクソソームで包まれた)が関与しているようです(次回の記事で取り上げたいと思います)。


…miRNAは核DNAから転写されて1本鎖の前駆体RNAとして出現します(①)。この前駆体は、同一分子内の相補的な塩基どうしの結合によって折り畳まれ(②)、一部2本鎖RNA構造をとるため、核内でその部分をダイサーが認識して図にあるようにトリミングします(③)。
 その後、miRNAは核から細胞質に移動します(④)。成熟した2本鎖RNAはアルゴノート(AGO)タンパク質に結合し、1本鎖になり(⑤)、片方のみが複合体に残ります(⑥)。その他の細胞因子も集合したRISC複合体が、miRNAの配列をガイドとして、標的となるRNAを探しだします。RISC複合体に捕捉された植物の標的mRNAは、AGOによって切断されます(⑦)。このためターゲット遺伝子のmRNAの蓄積量が減少して、遺伝の発現が抑制されることになります。
 それにしても、植物たちはなぜ自らのRNAを切断するようなシステムを作り上げたのでしょうか。実は、植物たちは、養分吸収機構の維持やストレス応答、さらには、根、茎、葉そして花などの分化に関連するさまざまな遺伝子の発現をmiRNAによって調節しています。
…ウイルスは、このmiRNA経路のさまざまなステップをRSSによって阻害しようとします。厳密には、miRNA経路とsiRNA経路では、DCLやAGOn種類が異なるのですが、RSSは複数の同じ機能のタンパク質を認識して、それに作用することができるのです。…このウイルスのRSSの作用によってsiRNA経路と主要な因子を共有して生成されるmiRNAの蓄積量が大きく変動してしまうことです。 
 これにより植物の分化・生長に異常が現れます。ウイルスと植物の攻防戦の影響でmRNAの発現が混乱した結果が「病徴」と言えます。(『植物たちの戦争』より引用)」

「miRNA (microRNA, マイクロRNA) は、ゲノム上にコードされ、多段階的な生成過程を経て最終的に20から25塩基長の微小RNAとなる機能性核酸である。
 この鎖長の短いmiRNAは、機能性のncRNA (non-coding RNA, ノンコーディングRNA, 非コードRNA: タンパク質へ翻訳されないRNAの総称) に分類されており、ほかの遺伝子の発現を調節するという、生命現象において重要な役割を担っている。」


「エクソソームは、タンパク質やRNAなど、起源細胞に由来するさまざまな分子的構成要素を含んでいる。エクソソームのタンパク質組成は起源となった細胞や組織によって異なるが、大部分のエクソソームは進化的に保存された共通のタンパク質分子のセットを含んでいる。タンパク質のサイズや形状、詰め込みのパラメータを考慮すると、1つのエクソソームに含まれるタンパク質は約20,000分子と推定される。エクソソーム中にmRNAやmiRNAの積み荷が存在することはスウェーデンのヨーテボリ大学の研究で初めて発見された[26]。この研究では、細胞中とエクソソーム中のmRNA、miRNA含量の差異が記載され、エクソソーム中のmRNAの機能性についても記載された。また、エクソソームは二本鎖DNAを運搬することも示されている。 」
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