モーツァルト@宇奈月

湯の街ふれあい音楽祭 モーツァルト@宇奈月
scince2010年秋。毎年9月に音楽祭を開催しております。

オペラ魔笛全幕演奏

2015年09月08日 | プログラム
オペラを観たことがあるという人は、クラシック音楽好きに限られるのかもしれません。オペラハウスに代表されるように荘厳でな彩りのあり、重厚で豪華な舞台や演奏、観客などを想像される場合も少なくないと思います。
2年前、第4回の音楽祭で、山梨県北杜市のオペラ愛好グループの「オペラ・ルスティカーナ」のみなさんが、「フィガロの結婚」の全幕を上演されました。セレネの大ホールを使ってオーケストラによる全幕上演は、オペラへの思い込みを払拭し、その素晴らしさに音楽観さえ変えてしまうほどの出会いでした。
オペラの全幕を通してみる機会はなかなかありません。地方に暮らしているとそうした講演の機会が少ない上に、どこか敷居の高さを感じていたら躊躇することもありました。この音楽祭なら無料の上演だし、とセレネの大ホールへ。
序曲から圧倒されました。
「フィガロの結婚」の序曲は有名な曲で、その曲だけを聴くことも多いのです。しかし、まだ無人の舞台に仄かな灯りが差し込み、ピットからあふれる響きに期待感がふくらむのを感じます。これからやってくるドラマへの誘いなのですね。驚きました。そして、そこからめくるめくように展開される音楽世界に、「フィガロの結婚」がもつ風刺性と諧謔もあって圧倒されました。全く、自分がオペラに対して大きな思い違いをしていたことに気付きました。
日本には、歌舞伎があります。歌舞伎には、各地の伝統芸能や風俗が取り込まれ、その時々の時代性を折り込みながら、時に素朴に、時に絢爛豪華に、オペラと同様、風刺や諧謔、人のくらしの様々な喜怒哀楽を表現しながら展開します。歌舞伎から派生した芸能も多く、現在、テレビや舞台で目にする劇や芝居、コントのようなものにまで、歌舞伎や歌舞伎に関連した芸事の影響が見えます。
オペラもそうなのでしょう。場面や展開には、私たちが目にする映画や舞台のもとになった形をたくさん見つけることができました。さらに、これまで見聞きしてきた楽曲が、全幕の構成の中で演奏され演じられることで、本来持っていた楽曲の意味合いが見えてきます。これまで以上に、深く広く楽曲を受け止め、味わうことができるようになったとも感じられました。
オペラ・ルスティカーナのみなさんはプロではありませんが、十分な表現の技術をお持ちです。そして、何よりも音を奏で、歌い、演じることに、本当にうれしそうな表情をみせられるのです。音楽とは、楽しむことなんだ。楽しめることを喜ぶことなんだと、まったく当たり前のことを、もう一度深く確かめさせていただきました。
そのみなさんが、前回の上演から2年間。しっかりと作り上げてきた歌劇「魔笛」の全幕を上演されます。
歌劇「魔笛」は、アマデウスの最後のオペラ作品で、しかも、最晩年のものです。オペラの中でも、ジングシュピールと呼ばれる台詞を用いて進行する歌芝居、一般の市民にもわかりやすい大衆演劇の要素をもった作品です。初演は、1791年。シカネーダーと旅一座などの興業に関わっていた人に依頼され、ウィーン校外のフライハウス(免税店)のヴィーデン劇場で上演されました。ミュージカルのような大衆性をもち、だれもが楽しめるオペラとして、ジングシュピールの傑作とされています。
オペラは、私たちが思い込んでいたように、特定の上流階層のものであった時代があります。横島勝人さんがモーツァルトの人生を楽曲で辿る「プレミアムトーク」では、アマデウスがオペラの大衆化を意図していたことが話されています。音楽の楽しさは生きることの楽しさ、市民にこそ、この楽しさを感じて欲しい。感じることは喜びで、喜びにあふれたくらしこそすばらしいものはない。そういうことだと解釈しています。まさしく、その意味では、この「魔笛」こそアマデウスの目指した音楽世界のひとつなのだろうと思います。
オペラ・ルスティカーナのみなさんは、昨年は、「魔笛のつまみぐい」として、「魔笛」のいくつかの場面をロビーコンサートなどで上演してくださっています。ひとつひとつが実に味わい深く楽しそうで、それらの場面が全幕の中でどんな位置付けになっているのか、実に楽しみです。
今回の上演では、地元黒部市の子どもたちが参加します。今年3月に惜しまれながら活動を終了した「雪ん子劇団」と、黒部市国際文化センターコラーレを拠点に活動する「ドラマキッズ」の子どもたちが7月、8月とルスティカーナのみなさんに指導を受けて練習してきました。きっと、オペラは初出演でしょうね。
「雪ん子劇団」も「ドラマキッズ」も、多様な表現活動を通して子どもたちの成長を促すものとして活動してきました。思い切り笑う、心の底から感情を出す、全身を使って表現することなどを通して、自分を見つめ、人とかかわってきました。オペラの出演が、子どもたちのさらなる成長につながると思います。
オペラ・ルスティカーナの歌劇「魔笛」(全幕)の上演は、音楽祭初日9月19日14:00~17:00、セレネ大ホールです。入場は無料です。オペラをご覧になったことのない方にはいよいよオススメです。どこか一幕だけでも、きっとみなさんの音楽の楽しみが豊かになるものと思います。

画像は、「フィガロの結婚」リハーサルに置かれた衣装。何だか、この静謐な様子も含めて、全幕の楽しみとはこういうものかと深く考えさせられた音の(音はありませんでしたが)風景です。

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