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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

君子

2013-11-25 08:19:03 | 詩集・空の切り絵

人知らずしてうらみず、また君子ならずや。(論語・学而)

  ***

孔子の言葉には諦観がある。
どんなに努力しても、人はみんな、決して自分を認めないだろう。
だが結局はみんな、自分に頼ってくるだろう。

  ***

ゆくものはかくのごときか、昼夜をおかず。(論語・子罕)

  ***

それでも、わたしはやっていくのだろうな。
ほんとうに馬鹿だなあ。


孔子はこういうやつだ。



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ミルクスープの聖母子

2013-11-25 03:21:00 | 虹のコレクション・本館
No,15
ヘラルド・ダーフィット、「ミルクスープの聖母子」、15世紀ネーデルランド、フランドル派、ブリュッゲ派。

これもまた美しい。聖母マリアは、永遠の母性のイメージだ。太古のヴィーナスから始まり、絶え間なく描かれる人間の、母に対する永遠のあこがれの象徴である。

処女で母であるというのは、人間の男の、究極のわがままを兼ね備えた存在と言える。可憐なる少女であり、恋人であり、母であるという、あり得ない女性のイメージだ。男はマリアに永遠に憧れを持つ。だが、その思いは届くことはない。決して汚してはいけない女性なのだ。

これはまた、永遠にかなうことのない恋でもある。男は、女に、永遠にかなうことのない恋をしているのだともいえる。

男はこれからも、聖母のイメージを描き続けることだろう。

この画家の描く聖母は、清らかにも美しい。男は、母はこういうものであってほしいと、願っているのだ。




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ミカエル

2013-11-24 09:16:31 | 詩集・空の切り絵

悪い子は いないか
悪い子は いないか
馬鹿なことを すると
痛い目に あうぞ

地獄というを
甘く見るな
落ちたものが
どんなことになるか
わかってはいまい

馬鹿を教育するに
ひつようなものは
たんと ある

悪いやつは どこだ
悪いやつは どこだ
あぶってやる
腐っているやつは だれだ
きつい目に あわせてやる

地獄というを
甘くみるでないぞ



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聖ゲオルギウス

2013-11-24 05:25:52 | 虹のコレクション・本館
No,14
カルロ・クリヴェリ、「聖ゲオルギウス」、15世紀イタリア、初期ルネサンス。

この特異な個性を持つ画家も好きだ。ほかに似たものがめったにいない作風というのがよい。
クリヴェリは、聖母やマグダラのマリアなどの美しい女性像も多く描いているが、このカテゴリで選ぶ絵に、男性像が少ないので、これを選んだ。

装飾性がばらばらでなく画面に統一性があり、強いエネルギーを発している。とてもよい。




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アフロディテ

2013-11-23 09:01:54 | 詩集・空の切り絵

わたしを
動かさないで
わたしは 今
ひとりで
産んでいるの

ほら
不思議でしょう
おかしいでしょう
でも
大切なことなのよ
これは

かわいい
すきとおった泡の中で
踊る 小さな夢
いくつも いくつも

わたしを
動かさないで
わたしは 今
ひとりで
産んでいるの



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マリア・マダレーナ・バロンチェリ

2013-11-23 05:38:44 | 虹のコレクション・本館
No,13
ハンス・メムリンク、「マリア・マダレーナ・バロンチェリ」、15世紀フランドル、初期フランドル絵画、ブリュッゲ派。

北方ルネサンスの画家が描く女性たちはみなどこか似通っているが、それぞれに静謐な美しさがある。宗教の檻にとじこめられた女性性が返って透き通った宝石のような美しさを醸し出す。

細部まで徹底的に細やかに描くやり方は、芸術家というより職人仕事だ。それが美しい。絵が芸術家の仕事となってから、絵はみょうに苦しいものになった。美しいが、それなりに「わかる」やつが見ないといけないというような、堅苦しいものになっていった。この絵はそういうことを考えずに、ただただ職人の技術のすばらしさに見惚れることができる。

良い仕事である。




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夕陽

2013-11-22 08:40:12 | 詩集・空の切り絵

夕陽は落涙なる乎
腹に蔵す業虫の夢
惜恨歌朗たりと雖も
青藍の男子は石す

夜半柱廊の会
険しく騒ぐ泣女の怪
月神の嘆は重く垂れて
老祖の丘に横臥す

魂魄を痛するは愛失
喪心を補ふに足らず
鬼神に請ふ蜜薬
美玉悉く灰と化す



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サロメ

2013-11-22 05:17:17 | 虹のコレクション・本館
No,12
ルーカス・クラーナハ(父)、「サロメ」、16世紀ドイツ、北方ルネサンス。

この惨い女性をこれほど美しく描けるのは、画家の力量であろう。恐ろしい女性である。ユディトでも同じ構図の絵を描いているが、この絵の方が美しい。

男の首を荷物のようにどんと前に置き、妖艶な微笑みをしてこちらを見ている。いや、背筋がぞっとするね。男がこれを描いているということは、男もたまには女に殺されてみろということだろう。

男を殺す女を、これほど美しく描くということは、人類の男の、女性に対する一つの願望が現れていると言える。




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絶声

2013-11-21 08:29:16 | 詩集・空の切り絵

花顔の友は声を絶ち
野に起こる蒼風に帰す
氷夜の散星は塵なりて
鬼人の想は石に硬し

玲瓏の松山は轟き
玉水の湖鳥は沈す
願はくは飛魚の訴の盛んなることを
天狼の白き呪を望む

森塊の相は奇怪なり
樹乱の宴は志を叫ぶ
葉片の恨みは刃に似て
土中の愚を聖に掲ぐる



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星屑ポケット・4

2013-11-21 05:16:04 | 月夜の考古学・本館

☆ 博士の研究

 飛行船は、博士の研究にとって、最も有用なものだった。
 ヘリコプターでは騒々しすぎて、せっかくのデータをぶちこわしてしまうし、飛行機では中空に止まることができず、あっという間に目標地点を通り過ぎてしまう。
 博士の専門は、気層考古学、及び魔法言語学。澄んだ秋空の、風の心地よい日、特に鱗雲が龍のように堂々と空を横切る日は、気層調査には打ってつけの日だ。博士は機材を載せた飛行船を飛ばし、数人の助手たちとともに調査に向かう。
 大地に地層があるように、空に気層があるのをご存じだろうか。上空を見ると澄み渡る瑠璃の天蓋ばかりに目を奪われるが、そこには目に見える太古の空気が、透明な布のように折り畳まれ保存されている。これを気層といい、実はその中には、化石のように太古の人々が発した言葉の破片が埋もれているのだ。その言葉の結晶化石を(専門的には言霊石という)発掘し、解読するのが、博士の主な研究目的なのだ。
 もちろん、全ての恐竜が化石にはなれないように、全ての言葉が言霊石になれる訳ではない。なれるのは、特別な人の特別な言葉、呪文、予言、魂の歌う愛の歌……。
 博士は予定地点の上空に飛行船を止まらせ、モニターを見ながら新しいセンサーの微調整をした。モニターは半球型の水晶レンズでできていて、油膜のような反応パターンが表面をぐるぐると渦巻いている。
 作業が一段落すると博士は窓から下界を見下ろした。遙か下には灰白色の岩塊を剥き出した小さな岬が、翡翠の板のような海に乳房のように突き出ていた。博士はここで発見した一連の言霊石が、一種の予言詩ではないかと考えている。
「博士、ありました!」
 助手の一人が突然叫んだ。博士があわててモニターにしがみつくと、半球レンズの片隅に、淡いすみれの花びらのような反応が、ふわふわと泳いでいた。
「データはとったか?」
「はい、間違いありません」
「よし、では採取しよう」
 言霊石は、春先の小川の薄氷のようにデリケートだ。細心の注意をもって扱わないと、あっと言う間に気化して全てがパーになる。飛行船の外部に取り付けた採取機の先端には、コウノトリの羽毛でできたハケがついていて、操作をまかされた熟練の助手は、モニターを見ながら慎重にマニピュレーターを操り、肉眼では見えない言霊石を見事にハケにからめとった。安堵の吐息が船内に広がった。博士は助手の労をねぎらい、飛行船を帰すよう操縦士に命じた。
 研究室に戻った彼らは、カプセルに閉じ込めた言霊石に、特殊な試薬をふりかけ、一定温度に設定した保冷庫に入れて数日待つ。そこで初めて言霊石は、薄紫色の水滴として肉眼で見えるようになる。これを結晶水という。次にこの結晶水をコウゾの樹皮を加工した特殊な布に染み込ませ、頭でっかちの蜘蛛のような奇怪な形をした増幅器に入れ込む。
 大事なのはこれからだ。チャンスは一度しかない。
 博士は七人の耳の良い助手を集め、機械と耳の調子を聞いた。助手たちは増幅器につないだヘッドホンを点検しながら、それぞれのやり方で大丈夫と言った。博士はファイルとペンを取り、メモの用意をした。最後の最後になって、人間の感覚だけしか頼るものがない今の技術レベルを、博士は何より嘆いている。言霊石の言葉は、どんなすばらしいオーディオ機器をもってしても記録できないのだ。だが今は今のレベルで、やれるだけのことをやっておくのが研究者の責務というものだ。
「よし、始めよう」
 博士が手を上げて合図をすると、室内の空気がピンと緊張した。助手の一人が増幅器のスイッチを入れた。誰ひとり物音をたてない静けさの中で、機械のかすかなうなりだけが羽音のように響いた。ヘッドホンをした助手たちは目を閉じて、耳に神経を集中した。
 皆がかたずを呑んで見守る中、結晶水をしみこませた布は機械の中で静かに燃焼し始めた。そしてそれが燃え尽きる寸前、結晶水の中に秘められた魔法の言葉は、ため息のように気化して再びこの世に蘇る。その最初で最後の再生を、機械は最大限に増幅し、七つのヘッドホンに伝えるのだ。
 沈黙は七十秒以上続いた。助手たちはほっと息をつきながら、次々にヘッドホンを外した。
「どう聞こえた?」
 待ちかねたように博士がたずねると、七人のうち三人は、『シュ』と聞こえたと言った。他の三人は『シ』と聞こえたと言い、残る一人は何も聞こえなかったと答えた。博士は口元を固めて渋い顔をした。
「今までのデータをまとめてみよう」
 別の助手が端末の前に座り、コンピュータからデータを呼び出した。博士はモニターに出てきた結果と、自分のファイルに記したメモとを見比べた

 オンマヤ サラサリ(以上意味不明)
 トホ□□オヤノ(遠き御祖の?)
 ミスノカケ(御簾の影?)
 ウタヒ オトレヤ(歌い踊れや)
 ハ□□ナル(はるかなる?)
 トキヲヘタテテ(時を隔てて?) フタタヒノ(再びの)
 メクリ□タレ□(巡り来れる?)
 ……『シュ』(『シ』?)        (□=欠落)

「どう読める?」
「遙かなる時を隔てて……再び巡り来れる……『主』?」
「『死』かもしれない…」
「何かの名詞の始まりの音とも考えられます。定型詩としては明らかに不完全ですから」
「うむ。周辺のデータからその辺を予測できないだろうか」
「やってみましょう」
 博士はファイルを助手に渡すと、眼鏡を外してこめかみをもんだ。目を窓にやると、外はいつしか霧のような雨が降っている。博士は窓に手をつきながら、暗記してしまった太古の音韻をつぶやいた。するとどこからか、目に見えぬ小さな風が、子へびのように博士の唇にまとわりついた。その微かな感触が、博士の心臓を痛くしぼりこむ。
(……だれだ。だれなのだ、お前は。この言葉を発する度に私の前に現れるお前は……)
 博士は、太古、言葉は一種の生命体であったと信じている。声を肉体とし歌を翼とするそれは、天使だったのか、悪魔だったのか……。それがわかれば人類の存在意義すらもわかるかもしれない。
 博士は、握り締めた拳をゆるめると、小さく息を吐き、自室に向かった。次の作業計画にとりかからねばならない。研究者の仕事に終わりはないのだ。



(2001年、ちこり23号所収)




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