モリモリキッズ

信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

日本羚羊と榎茸(妻女山里山通信)

2010-02-12 | アウトドア・ネイチャーフォト
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 早春というにはまだ早い北信濃ですが、このところの多雨で山は例年になく湿っています。数日前の大雪も、その後の大雨でかなり溶け、霰(あられ)も降って溶けては凍って、林道は凍結と泥濘(でいねい)状態の混合。とても歩く気にはなりません。そんな小雨の中、久しぶりに山へ出かけました。林道ではなく、落ち葉の積もった山道や林内を登ります。

 雪と強風で落ちた太い枝を切って片付けてから天然の榎茸を採っていると、誰かの視線を感じました。見上げるとすぐそこに日本羚羊が一頭こちらを凝視しています。この妻女山から斎場山にかけて棲んでいる母子の、おそらく子供の方です。随分と成長しました。去年は、かなり遠くからシッ!という威嚇音を発してすぐに逃げたのですが、今回は堂々としていました。しかも、時間をおいて違う場所で三回も遭遇。最初の出合いでは、呼び止めると何度も立ち止まって振り向きながら、凍結した林道を去っていきました。写真は最後に遇ったときのものです。車で帰る途中でした。見つけて車を止め、降りて近づく間もずっとこちらを観察していました。三度目で見慣れたのか、興味深げにいつまでも私を見ていました。

 最初に母親と思われる個体を見かけたのは、2002年の夏でした。小学生だった息子達と妻女山の駐車場で遭遇しました。妻女山に日本羚羊がいるらしいという噂は聞いていましたが、こんな里山に高山の動物がいるなんてと、子供達も驚いて見ていました。

 その後は、見かける機会がなく、次に遭遇したのは2008年の12月。既に成獣となっていました。おそらく同じ個体だと思います。そして、すぐに母子でいるところに遭遇。母親であることが分かりました。その後は何度か見かけるようになりました

 翌年の春には、おそらくそのつがいと思われる雄にも遭遇しました。その他にも、鞍骨城跡で大きな雄と思われる個体に遭遇。土口将軍塚古墳では、毛並みの白っぽい個体と遭遇。南の倉科尾根では大小二頭に遭遇。間の唐崎城跡にも一、二頭いるようです。日本羚羊の個体識別は、なかなか難しく、度々遇っている妻女山のマダム以外は、なかなか区別がつきません。雌雄共に角があるので、大きさと風貌の違いしか区別する手だてがありません。子供も成長が早いので大きくなってくると母親との区別が困難になるかもしれません。体の大きさと角の長さで、だいたいの年齢は分かるそうです。

 二頭の母子は、妻女山(赤坂山)の上の日当たりの良い植林地で一緒にいることがよくあり、母親の方はそこから南方の天城山方面、子供の方は西方の薬師山方面をテリトリーとしているようです。それぞれ決まった糞場があり、朝夕には必ず訪れます。そのうちの一箇所は、わが家の山中にあり、糞場にはササクレヒトヨタケが生えます。一頭のテリトリーは、雄15ha、雌10haだそうですが、親子や雌雄だと重なっていることもあるようです。この辺りだと、大凡ひとつの尾根に二頭ぐらい棲息している感じです。

 秋の繁殖期には、大きな雄がマダムをもの凄い勢いで追いかけ、マダムはもの凄い勢いで逃げていました。ちょうど上杉謙信槍尻の泉の上にいたのですが、人間がいることなどお構いなしに高速道路と林道の間の杉林の中を、右へ左へと地響きを立てて激しく追いかけっこしていました。結末がどうなったかは知りませんが、この冬遇ったマダムのお腹が大きくなかったので、子作りには至らなかったようです…。

 ところで、日本羚羊の鳴き声というのを聞いたことがあるでしょうか。検索してもあまり出てきません。めったに鳴かないんですね。フシュッ!という警戒音はよく発するのですが、いわゆる鳴き声というのは確かにあまり聞きません。繁殖期の雄雌同士の追いかけっこでも鳴き声は一切発していませんでした。その鳴き声を一度だけ聞いたことがあります。鞍骨城跡で、谷にいる子供が親を呼んだのか、親が子供を呼んだのか、どちらかでしょう。けたたましく鳴きました。それは、グウェーーーーーーッというような鳴き声で、綿羊や山羊の鳴き声を濁声にしたような鳴き声でした。決して美しい鳴き声ではないですね。単独で棲息するので鳴く必要があまりないからでしょう。

 日本羚羊と遭遇した時に採っていたのが天然の榎茸。市販のものとは随分と姿形が違います。学名をFlammulina velutipesというのですが、ラテン語で「ビロード状の柄の小さな炎」という意味です。その通り、軸には細かな天鵞絨状の細毛が生えています。小さな炎というのは傘がまだ開く前の状態をいっているのでしょうか。ずいぶんと洒落た学名だと思います。冬に採れる貴重で希少なキノコです。

「羚羊の 振り向き振り向き 凍り道」林風

★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、森の動物、特殊な技法で作るパノラマ写真など。

★妻女山については、本当の妻女山について研究した私の特集ページ「妻女山の位置と名称について」をご覧ください。
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