モリモリキッズ

信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

坂の上の雲古(妻女山里山通信)

2009-12-12 | アウトドア・ネイチャーフォト
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 冬になり落葉すると森はそれまでとは比べものにならないほど見通しがよくなります。谷の向こうにある尾根や、夏場は木々の葉に隠れて見えなかった崖、眼下の集落など。こんな冬枯れの里山で道に迷う人は、相当の方向音痴です。この冬場に登って山の全貌を記憶しておくと、山菜採りやきのこ狩りなどの時に藪山に入っても迷わずにすむのです。

 そして、冬季になると今まで見えなかったもの、見えずらかったものもよく目にするようになります。そのひとつが、森に棲息する色々な動物の糞です。もちろん冬以外の季節でも目にすることはあるのですが、冬枯れの季節は特によく目に入るのです。先日もわが家の山の急斜面についた獣道の坂を登っていくと、小さな窪みにしたばかりの日本羚羊の艶のある糞を見つけました。

 動物の糞は、その形状と大きさや場所で、なんの糞かがだいたい分かります。親指大の団子がいくつもくっついたようなのは、猪の糞。古いのや新しいのが混じって大量にあるのが狸の溜糞。いわゆる公衆便所と考えてもいいでしょう。日本羚羊や日本鹿は、コロコロの丸い糞をしますが、たいてい決まった糞場があって、そこでします。テンは、「テンの高糞」といって登山道脇の石や切り株などの上に、これ見よがしにするのが特徴。

 月の輪熊に限りませんが、熊は季節によって食べるものが変わるので糞の形状や内容も変化します。写真のものは9月なので栗や団栗などを食べた糞です。大きな個体がした糞らしく、洗面器一杯分ぐらいありました。栃の実を食べると黄色い糞になります。秋は柿の種が混じったり、獣を食べると毛が混じったりします。

 動物の糞には、色々な菌類が発生します。中にはササクレヒトヨタケのような美味しいキノコも出ることがあります。わが家の山の日本羚羊の糞場からは大量のササクレヒトヨタケが発生しました。食べませんでしたが…。畑のくず野菜の捨て場から発生したものは美味しくいただきました。柔らかく上品なマッシュルームという感じです。また、糞からは色々な粘菌(変形菌)も発生します。

 山登りをしていると希に人糞も目にします、人糞の特徴は、上か側に拭いた紙が落ちていることです。たとえひとりでも、どんなに慌てていても、登山道の真ん中にすることは止めてください。しかし、滑落しそうな急斜面でするのは考えものです。排泄しながら滑落したら洒落になりませんから。

 子供の頃は、山や川で雲古をすると紙が無くて蕗などの葉っぱで拭いたりしたものですが、間違って手が汚れると、柳の葉や無患樹(ムクロジ)の果皮を泡立てて手を洗ったものです。環境にやさしい天然の石鹸です。

 雲古というのは、「う~ん」という力む言葉に「こ」という接尾語がついた幼児語ですが、阿吽(あうん)のうんであるという俗説もあります。中国の仏教で便所を吽置といい、その吽が日本に伝わって貴族が用い、うんことなったという説もあります。信州では「雲古をまる」といいますが、これは古事記にも須佐之男命が「屎麻理(くそまり)散らしき」と出てくる古いいい方で、そこから「おまる」という言葉もできました。

 また、万葉集巻16-3828には、「香塗れる 塔にな寄りそ 川隅の 屎鮒喫める 痛き女奴」(かうぬれる たふになよりそ かはくまの くそふなはめる いたきめやつこ)という句があります。「香を塗った清浄な塔に近寄ってはいけない 川隈の屎鮒を食べているいやしい女奴よ」という意味です。
 前記のようにくそという字には、屎と糞があります。屎は、文字通り米を食べて出る排泄物であり人糞のことで、糞は両手で異物を肥料として畑にまく様を表しているといい、獣や鳥の糞をいいます。

 アマゾンでは河の上に立つゆらゆら揺れるトイレで雲古をすると、雲古はそのまま河に落ちていくのですが、下ではたくさんの魚たちが待ちかまえていて、アッという間にたいらげてしまいます。ファーブルの『昆虫記』で有名な糞転がし(スカラベ)は古代エジプトでは神と崇められたことで知られています。獣ではありませんが、木の根元に転がるたくさんのボクトウガの幼虫の糞は、大変きれいでビンに詰めて飾っておきたくなります。昔、動物園の象の檻のすぐ前で象のお尻を眺めていたら、突然肛門がヌワーッと開いて直径30センチぐらいの巨大な雲古が尿とともにドサッと落ちて糞まみれになりそうになったことがあります。

 「うんこをまる」と同様に信州人がよく使う「ずくなし」という言葉も非常に古いもので、古代の製鉄、たたらと深い関係があると私は思っています。これについては、いつか詳しく書いてみたいと思います。
 ところで、注目のドラマ『坂の上の雲』には、松代の文武学校や上田の信州大学繊維学部の講堂などがロケに使われ登場します。黒船来襲以降の佐久間象山を初めとする松代藩や民の話は、わが家の祖先もかかわっているので、これについてもいずれ書いてみたいと思います。

★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、特殊な技法で作るパノラマ写真など。トレッキング・フォトルポにない写真もたくさんアップしました。動物の糞もあります。
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