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monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

一月題詞

2022年01月30日 | 読書日記

 さやかなるひかりのかぎろひのつちに芽はのびゆき、うつつににほふ月の夜の狭霧の肌をすべすべとおよぐ若やぐ心のひとむれ。それは根笹の雪のゆれおちるおとのやうに、うすものにつつまれて旅立ちゆくみどりの行者か。たはむれ、さざめき、かがやき、見知らぬ果の断崖にとびたつ巣立の鳥のかろい羽ばたき、またうらわかいをとめの乳房のつつむとほい夢のこゑである。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、445~446p)より「季節題詞」)


十二月題詞

2021年12月17日 | 読書日記

 あやしい異香のかをる枕に夢魔をまねきよせ、みどりの柳をふとらせ、ねむりながらにレモンティの優しさに手をのばす。されは古びたランプの思ひ出に糸をつなぎ、さまざまの草花をうゑ、かぎりなくのびひろがる蘆(あし)のひともとに至上の鍵をほのめかし、遠くきこえる香料に、今更ながら幻想のけむる象牙の手鏡を持ちそへる。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、447~448p)より「季節題詞」)


十一月題詞

2021年11月06日 | 読書日記

 銀色の猛獣はほがらかに媚を売り、真紅の脣に金鈴(きんれい)を鳴らして思想の墓上に近づく。肉体に蒸(む)れたる宝石は念願を交して薄暮の扉に焔のゆめをゑがき、尾をたれ、言葉を祭り、紫紺の柩(ひつぎ)に亡魂の帆をかけて、せはしげに、また快く、神の姿へとみちびかれる。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、447p)より「季節題詞」)


十月題詞

2021年10月03日 | 読書日記

 暴風雨(あらし)の鋒鋩はうごめく胎児をはらんで、薔薇色する六本の指はぬめぬめと天(そら)にかがやき、水晶体の憂鬱は祈禱の杖(つゑ)を曳いて青白い小窓のほとりに偸安の花を咲きほこらせる。さざめく微笑、たふれる妄語、十月のむらさき色の乳房には候鳥の悲鳴を蔵して沈みゆき、疾駆する慾情の翅の筋を氷の蝋燭で燃やしつくす。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、447p)より「季節題詞」


九月題詞

2021年09月05日 | 読書日記

 夏の亡霊のうへに浮く悔恨の火の手は琥珀色の波をゑがいてうづまき、渡り鳥の喉に空しい魂の贈物をとどける。うすいろの翡翠の横笛を吹く美童の面形はくろずんで焚香の長夜のゆめに溶け入り、黄金(こがね)の皿にうづくまる漿果(このみ)のひかりは女人の裸形のごとくなまめかしく息づいて吠えさけぶ。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、447p)より「季節題詞」)