花ののちも春のなさけはのこりけり有明かすむ東雲(しののめ)のそら(風雅和歌集)
さくら花ちりての後(のち)のおもかげは弥生のそらありあけの月(前摂政家歌合)
暮れてゆく春の残りをながむれば霞の底に有明の月(玉葉和歌集)
花ののちも春のなさけはのこりけり有明かすむ東雲(しののめ)のそら(風雅和歌集)
さくら花ちりての後(のち)のおもかげは弥生のそらありあけの月(前摂政家歌合)
暮れてゆく春の残りをながむれば霞の底に有明の月(玉葉和歌集)
年ごとに春は来れども池みづ に生ふるぬなはは絶えずぞありける(拾遺和歌集)
こりずまのこもりえに生ふる浮きぬなはうき身にものを思ふころかな(古今和歌六帖)
にごり江の水草(みくさ)がくれの浮きぬなはくるしとだにも知る人はなし(続拾遺和歌集)
奥山の岩垣沼のうきぬなは深きこひぢになに乱れけむ(千載和歌集)
山水にきみは生ひねどねぬなはのくるまにまにも思ひますかな(古今和歌六帖)
恋をのみますだの池の浮きぬなはくるにぞものの乱れとはなる(古今和歌六帖)
きのふけふ返すとみえて苗代のあぜ越す水もまづ にごりつつ(新後拾遺和歌集)
高ねには櫻も咲きぬ小山田や種まくほどになりぞしぬらし(夫木抄)
あしひきの山のさくらの色見てぞをちかた人もたねは蒔きける(夫木抄)
山川を苗代水にまかすれば田の面(も)にうきて花ぞながるる(風雅和歌集)
やま里の外面(とのも)の小田(をだ)のなはしろに岩まの水をせかぬ日ぞなき(金葉和歌集)
宵ごとにかはづ のあまた鳴く田には水こそまされ雨は降らねど(伊勢物語)
水(み)がくれてすだく蛙(かはづ)の声ながらまかせてけりな小田の苗代(風雅和歌集)
雨ふれば小田のますらをいとまあれや苗代みづを空にまかせて(新古今和歌集)
苗代の水かげ青みわたるなり早稲田(わさだ)の苗の生(お)ひいづるかも(夫木抄)
まだとらぬ早苗の末葉(すゑば)なびくなりすだく蛙の声のひびきに(夫木抄)
朝まだきかすみも八重(やへ)の潮かぜに由良(ゆら)の門(と)わたる春の舟びと(続後拾遺和歌集)
春の日のうららにさしてゆく舟は棹(さを)のしづくも花ぞ散りける(源氏物語)
田子の浦にかすみのふかく見ゆるかな藻塩のけぶり立ちやそふらむ(拾遺和歌集)
潮風の音(おと)もたかしの浜松にかすみてかかる春の夕浪(続拾遺和歌集)
浦とほき難波の春の夕なぎに入り日かすめる淡路島山(続拾遺和歌集)
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浜木綿(はまゆふ)
春霞いくへかさねて隔つらむえぞみくま野の浦のはまゆふ(長方集)
み熊野の浦のはまゆふ見えぬまでいくへ霞のたちへだつらむ(夫木抄)
み熊野の浦の浜木綿(はまゆふ)いくへかも我をば人の思ひへだつる(古今和歌六帖)
いたづ らに年(とし)ぞかさなるみ熊野の浦の浜木綿われならなくに(新撰和歌六帖)
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桜貝(さくらがひ)
春はさぞ花おもしろくさくらゐの浜にぞひろふおなじ名の貝(廻国雑記)
波よする霞の浦に散る花をさくら貝とや人は見るらむ(為忠家後度百首)
春風のふけひの浦に散る花をさくらがひとてひろふ今日かな(夫木抄)
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鯛(たひ)
桜鯛(さくらだひ)花の名なれば青柳の糸をたれてや人の釣りけむ(夫木抄)
かすみしく波の初花をりかけてさくら鯛釣る沖のあま舟(山家集)
のどかなる春のひがたのうら波に鯛釣る小船(をぶね)けふもいづ らし(夫木抄)
ゆく春のさかひの浦の桜鯛あかぬかたみに今日や引くらむ(夫木抄)
花の白きこずゑのうへはのどかにて霞のうちに月ぞふけぬる(風雅和歌集)
春の夜はいこそ寝られね閨ちかき梅のにほひにおどろかれつつ(太皇太后宮大進清輔朝臣家歌合)
いもやすく寝られざりけり春の夜は花の散るのみ夢に見えつつ(新古今和歌集)
おもひつつただうたた寝の夢の間にいく山こえて花を見つらむ(藤原師兼)
花ちらば起きつつも見むつねよりもさやけく照らせ春の夜の月(続後拾遺和歌集)
風にさぞ散るらむ花のおもかげの見ぬ色惜しき春の夜のやみ(玉葉和歌集)