2022年の秋の旅で、書き忘れていたことがある。
それは、サンジェルマンアンレーのパトリックが、コロナの最初のロックダウン時に建てたという「お茶室」(と彼が称する)でのことだ。
彼はこのお茶室を私たちに見てもらいたいと、出来上がった時から写真をメールで送ってきてきていて、「ここでお茶をしてほしい」と、私達の訪問を楽しみにしてくれていた。
だからサンジェルマンアンレーに行くことは、計画を立てる上で不可欠なことだった。
最初は日帰りのつもりだったが、彼はぜひ一泊をと言ってくれたことで、このお茶室で簡単なお手前を披露することができた。
実際、この日は私の体調は正直良くなくて、庭にあるので少し寒いこともあり、その「茶室」でお茶をするかどうか迷うところではあった。しかし、一生懸命手料理尽くしでもてなしてくれた彼へのお礼を考えるとそんなことは言っていられなかった。
もちろん奥さんのシルヴィも一緒に楽しむことになった。
しかし、ここで失敗をしてしまった。
フランスの事とてLes Dames d’abord(直訳だと、まず女性)つまりレディーファーストでしかないと、お正客はやはり奥さんのシルヴィにすることにした。
自分より奥さんのご機嫌がよければ幸せというフランス人男性が圧倒的に多い。
もちろん普段のパトリックもそうだ。
お点前の流れに沿って説明をしながら、進めていた。
シルヴィもパトリックにもお茶を飲んでもらった後、「拝見」をする段になり、私がこういった。「拝見など質問は正式なお茶会ではお正客だけがすることになっています。つまりお正客は大切なお客様の代表ということなの。他のゲストは黙って静かにその問答を聞いて楽しむのですよ。」
その説明をした時、間髪入れずにパトリックは言った。
「この茶室は私が建てたんだよ。シルヴィに猛烈に嫉妬するよ!!!」と。
しまった!!!!と思っても後の祭りだった。
そうだった。彼にしてもらうのが本来の正しい選択だった。うかつにもそのことに気づけなかった。
ここで、「シルヴィならいいよ」とはならなかったのだ。普通のフランス人なら「Les Dames d’abord」に文句はないだろうし、ましてや自分の奥さんなのだから、というように無意識に考えてしまった。彼のこの「茶室」に掛けた思い入れは、そんなことではなかったのである。
帰国してからもずっとパトリックにお正客をしてもらうべきだったと、深く反省している。
彼の大切な「茶室開き」のセレモニーだったんだからなぁー。
なお彼の言う「お茶室」は広さは3畳くらいで、床は板張り。一番の特徴は板壁に大きな丸い窓が抜かれている。いろいろ物が置かれて雑然としているが、その室内から椅子に腰かけて庭を眺めて、楽しんでいるという。
下の二枚は彼がお茶室完成後、送ってきてくれていた写真である。↓