スポーツクラブで、意図せず時の人となってしまったわたしは、相変わらずマウントを取られている。
放っておいてほしいのに、顔見知りにやいのやいの言われたり、知らない人に知り合いのようにあれこれ聞かれたりで、「イヤだイヤだ」状態。
面白くないこと続きなので、ハービー相手にプールであーでもないこーでもないと愚痴をこぼしていると。
「僕もいいことないんですよう・・・あー、でも、お客様に話すようなことじゃないな・・・」
「早く言いなさいよ、わかった、留年だ!笑」
「違います、もっと悪いです」
「留年よりひどいのー?困っちゃうねぇ」
「・・・離婚です」
「えっ?お父さんとお母さん?」
「違います、僕です」
「誰?」
「僕です」
「いつ?どうして?何したの?浮気、バレた?秘密は墓場までっていつも言ってるじゃん、もうどうして、そうなるのよー」
「違いますよう、僕が原因じゃないです・・・」
「じゃ、どうして」
わたしはハービー側にしか立つことができないけれど。彼には彼の言い分があり、それが全てではない。そして、奥さんには奥さんの言い分がある。
好きで一緒になったのに。。。二人で楽しかった思い出もあるけれど、今は嫌なことしか思い出せないなんて、悲しい。わたしが泣きたくなった。おめでとうと言った日からまだ4年しか経っていない。
「今はスッキリしてます」って笑っているけれど、家に帰ると寂しいって。そりゃあそうだよ。わたしもハービーも一人が好きと豪語しているけれど、本当に一人が好きなわけではないから。ハービーは疲れてしまっている。
後出し爆弾を食らって、わたしのちっぽけ愚痴は遠くに吹っ飛んだ。小さくなってしまった大型犬をどう慰めようかと言葉を探していると。
「くるりさん、僕、モテちゃいますよね。33歳独身ドクター!」
「ん?ちょっと違くない?33歳独身、財産分与してビンボーになった留年しそうな医大生だよ」
だいぶ違った。
「そうとも言いますねえ」
「そうとも言いますねじゃない、そうなの。もうさ、学校行って女の子にがっつかないでよね、みっともないから」
「大丈夫ですよ。あ、僕、金曜日バタフライしに来ようかな、チビっ子プールに若いお母さんたち来るんですよね」
「うわ、気持ち悪い、そういうのヤメて、気持ち悪い」
やっぱりハービーはバカだ。そして、ちょっと壊れてしまっている。
「僕、しばらくは一人でいいです・・・」
「そだねー。良いことはあるよ。結婚が全てじゃないし、大丈夫、人生はそんなに悪いことばかり続かない」
「はい。くるりさん、僕たち頑張りましょうね」
「わたし、何頑張るの?」
「平泳ぎとか、ドラえもんのポッケとか・・・」
「あ、そうね、そうね、頑張ろうか」
「頑張りましょー!」
ハービーに幸あらんことを。いつだって前を向いて、上を向いて歩け。
家の前、おじさんが野菜を売りに来る。
「おじさん、これ、ズッキーニ?」
「それ、きゅうり」
「ええっ!?」
「1日遅いとそうなっちゃうんだけど、それはそれで美味しいよ、3本100円」
「買った!」
マイケルには大味すぎると不評。でも、わたしは美味しいと思うな。一本で500グラム近くある。