あなたは京都が好きですか。物心がついたころ、気が付くと父に連れられて京都に行くことが多かった。記憶にあるのは、京都駅につくとお迎えの車が待っていて、「立ち吉」に必ず立ち寄った。番頭さんが案内をしてくださって、数々の陶磁器を見せていただいた。モダンな陶磁器と、伝統的な陶磁器(唐津焼、志野、織部)を拝見した。見学が終わると、茶室に招待されお抹茶をいただくのが大抵のお決まりコースだった。昼食をいただき、その後はまたタクシーで京都の親戚に立ち寄ることが多かった。
いつもではないが、そこには私が「たきじー」と呼んでいた、お爺さんか来ていた。優しいおじいさんで、自宅にいる祖父と同じくらいに好きだった。またそこには、自分同い年の女の子がいて、遊びには事欠かなかった。
その「たきじー」と気安く呼んでいたお爺さんの名前を、日本史の教科書で発見したときは、その場で、飛び上がるほど驚いた。
滝川事件の当事者、元京都大学総長の法学者、滝川幸辰(タキグァユキトキ)が「たきじー」だったのだ。
滝川幸辰氏の蔵書(約18,000冊)は、現在名古屋大学法学部に寄贈されている。