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MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

勝手なカラス

2014-09-17 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/17 私の音楽仲間 (614) ~ 私の室内楽仲間たち (587)



               勝手なカラス




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』

              室内楽で Viola



 弦楽三重奏…というと、楽器の組み合わせは様々です。


 [Violin、Viola、チェロ]で示すと、よくお目にかかる数
は、[2 1 0]、[2 0 1]、[1 1 1]…ですね。

 さらに、コントラバスが加わった[1 0 1]や、[0 1 1]…
なるものまであります。


 要するに、決まってない…ということ。 [1 1 1]は確かに
一般的ですが、弦楽四重奏ほど決定的とは言えません。

 

 さて、あまり知られていませんが、『勝手なカラス』という曲
があります。 編成は弦楽三重奏です。

 そこで、演奏例の音源]をお聞きください。 この三重奏
は、どういう組み合わせでしょうか? 当ててください。



 なんとも “勝手なカラス” ですね。 勝手なのは、一羽だけ
ですが…。

 不貞腐れて口笛を吹く。 一人でアンサンブルを乱し、仲間
より先飛び去っていく。

 ヒバリの真似をして舞い上がったはいいが、挙句の果てに
酸欠で昇天してしまいました。 最後は “アーメン終止” です。


 「う~ん…。 Viola が1台あるのは確かだな。」

 そのとおりです、さすがに鋭いですね! 楽器の音色でお解り
になった? それとも、低い開放弦の “Do” が聞こえたから?

 「いや、“室内楽で Viola”…って、上に書いてあるもん。」


 …なるほど、これ以上確実なヒントはありませんね。

 「それに、Violin も1つあるな。

 なぜですか?


 「だって最後の音は、超高音だよ。 苦しそうにヒイヒイ言って
るのは、まさか Viola じゃないだろ? いくらなんでもね…。

 それでは正解を…。 これは Viola 三重奏です。

 「…ということは、最後の高音は Viola か? からかうな。」


 信じていただけないんですね…。 では、スコア兼パート譜
をご覧ください。 同じ音源です。




 「なぜ、3番 Viola の音が一番高いんだ?」

 “勝手なカラス”…だからッす…!


 「“8va” とか “15va” とかいうのは、どういう意味だ?」

 “1オクターヴ上”、“2オクターヴ上” のことです。 書いて
ある音符の。

 ちなみに Viola の調弦では、一番上が La の音ですね。
曲の最高音は La♭ですから、ほぼ3オクターヴ上に当る。
これほど高いと指幅が狭く、1ミリずれたら、もう大変です。



 「なるほど、だから音程まで狂っている。 編曲したヤツ
の顔が見たいよ! 誰なんだ?」

 …恥ずかしくて言えません…。


 「じゃあ演奏者は?」

 GさんKさん、私。 2006年10月20日の実演です。


 「聞かされた聴衆は、堪ったもんじゃないな…? 烏合の衆か?」

 そんな…。 いいんです、アンコール用に作ったんですから。

 「アルコール…の間違いじゃないの?」

 それは、この演奏の後です…。



 「なぜ、こんな楽譜や録音を引っ張り出してきたんだ?」

 だって、ほら、前回 Viola の音域のことを書いたでしょ?

         関連記事 聴覚より嗅覚?



 「まだ信じられん。 3番 Viola のパートは、お前が Violin で
弾いたんじゃないのか? よく見ると、ト音記号ばかり出てくる
ぞ。 それに、使われている最低音は Sol じゃないか! Violin
で弾ける音だ。」

 …それは、信じていただく以外にありません。 Violin でも
演奏できるように編曲したから、そうなっただけです。


 「楽譜を公開しているが、いいのか? 著作権は
どうなってるんだ?」

 勝手にしてください。


 「“06/10/07”…とあるな。 1906年だから、
著作権はおそらく消滅しているだろう…!」

 ……勝手に判断しないでください……。

 

 


聴覚より嗅覚?

2014-09-16 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/16 私の音楽仲間 (613) ~ 私の室内楽仲間たち (586)



              聴覚より嗅覚?




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』

              室内楽で Viola



 Viola は、ちょうど人間の声の高さで鳴る楽器だ…と
言われています。

 「Violin は甲高くて嫌だが、Viola の音なら落ち着く。」
そうおっしゃるかたも多いようです。 貴方のお好みは
如何ですか?


 なるほど、音域を見ると、男声の中音から、女声の
高音にまで至ります。


            "大譜表とアルト譜表"

         ([ハ音記号の正しい読み方] より)

    
         ↑                    ↑
         ↑                    ↑

 この
の音が、ヴィオラの最低音です。

                              ↑
                              ↑
 高音は、この Mi の1オクターヴ上ぐらいまで要求される
ことは珍しくありません。


 弦楽四重奏では、上には Violin が2つ、下にはチェロ
があります。 すべて弦楽器ですから、どれが Viola の
音なのか、なかなか聴き分けにいでしょう。



 演奏例の音源]は、ある弦楽四重奏曲の一節です。 お聴き
になりながら、ご想像ください。 どれが Viola の音でしょうか?

 「最初は Violin だな…。 次は音域がちょっと低いが、Vn.Ⅱ
かな? その後はチェロに決まってるさ!」

 

 貴方は Viola 弾きですか? あるいはオーケストラに親しんで
おられますか? でしたら、今回はほとんどお解りになるでしょう。


 「それより、お前の楽器が鳴ってないぞ!」…なんて言われそう…。

 Violin は OさんSaさん、Viola 私、チェロ Saさんです。

 



 さて、貴方がアルト譜表に精通しておられたら、下の[譜例]を
ご覧ください。 簡単に確認できますね。

 同じ音源は、一段目の “a tempo” からスタートしています。


 「アルト譜表は苦手だが、挑戦してみたいな…。」

 そんな貴方、ありがとうございます! 音符の長短を参考に
楽譜を追っていただくだけで充分です。 

                            


 アルト譜表は初めてなのに、楽譜を追ってくださった貴方!
本当にありがとうございます!


 「いや、音程は読めないので、ほかの楽器の音を聴くことに
したんだよ。 だから、けっこう楽しかったね。」

 素晴らしい! それがアンサンブルの極意なんです!


        関連記事 アルト譜表に親しむ

 



 それにしても、書いてある強弱記号を、素直に信じる
わけには行かないものですね。

 作曲家の全体的指示と、演奏者個々の気遣いとは
一致しないのが普通だからです。 たとえば…。


 pp でも、ちゃんと聞こえないと意味が無いもの (二段目)

 f よりも、その前に書かれた cresc. の部分のほうが、
音楽的に重要なもの (四段目)…。


 これらは、まず楽譜を見たときに感じなければいけません。
Viola 弾き特有の嗅覚で。

 ただし、「二段目の、“p の部分” の音量は小さ過ぎたな…。」
これは今回の大きな反省です。




 ところで、肝心の曲は、メンデルスゾーン弦楽四重奏曲
変ホ長調 (第1番 Op.12) で、その第Ⅰ楽章からでした。

 



   関連サイト集 メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲

               音源ページ




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ユーモアだけじゃないさ

2014-09-14 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/14 私の音楽仲間 (612) ~ 私の室内楽仲間たち (585)



           ユーモアだけじゃないさ




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



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                   愛情と意識
             意見が合わずに和気藹藹?
                 夜明けのコーヒー
                音でキャッチボール
                  もうすぐ春分
              踊りから出来た日の出?
                  手強い終楽章
                名は体を表わす?
              作る人、壊す人、伝える人
               ユーモアだけじゃないさ




 リズム、強弱記号、スラー、スタカート…。 同じ曲でも出版社
が異なると、相違点があっても不思議ではありません。

 ご一緒しているハイドンの弦楽四重奏曲 (変ロ長調 作品76-4)
日の出』の場合も同じです。 中には、作曲者が込めた裏
意味が “伝わるかどうか”…という、重要な問題までありました。

         関連記事 名は体を表わす?


 でも今回は単純な違いです。 以下の[音源]お聞き
になり、[譜例]と違う点を一つだけ指摘してください。

 四つの楽器のうち、一番上に書かれている Vn.Ⅰが
問題のパートです。 何が違うのでしょう? なお[譜例]
には、でヘンレ版の内容が記されていますが、この
は、今回はまったく関係ありません。

 

 演奏例の音源]は、[譜例]の7小節前からスタート
しています。 2/2拍子で、それほど速くありません。



 これは変ロ長調の第Ⅳ楽章ですが、変ロ短調が突然出て
きました。 同名調への転調とはいえ、♭が5つも! いくら
ビックリしても、演奏者は正確に弾かなければいけません。


 ところが正解者の貴方は、もっとビックリ!

 「まさか…。 こんなことがあるの?」


 ええ、あるんです。 もうお解りと思いますが、この[譜例]
は、最後2つの音がオクターヴ上がっていますね。

 ところが私が使ったヘンレ版では、書かれた跳躍は長十度。
“オクターヴ + 長三度” です。


 私がこのパートを弾くのは、今回で二度目。 でも Viola
でなら何回か経験しています。 いずれも Edition Peters
でした。

 朧げながらも記憶に残っているのは、(ここの跳躍は、確か
オクターヴだったよね…。)

 ところが今回のヘンレ版を初めて見て、本当驚きました。
不勉強な私は、音源もほとんど聞かないので知らなかった…
というのが正直なところですが。


 八度が十度になったからといって、技術的にそれほど難しく
なるわけではありません。 (でも、仲間がきっと驚くだろうな!)
…それが私の心配であり、また楽しみでもありました。

 「えっ? そこ、オクターヴじゃなかったの!?」…な~んてね。


 でも、結果は期待外れ。 誰も何にも言わなかったのです…。
音源には、私などより詳しいはずの仲間たちが…。 それに、
[ヘンレ版は初めて]…というメンバーが、少なくとも3人はいた
はずなのに。 私を含めて。

 


 

 でも、後からよく考えてみたんです。 スコアを眺めながら。
(耳慣れた八度と、ヘンレ版の十度と、本来はどちらが自然
なんだろう?)

 私の結論は “十度” のほうでした。 貴方は如何ですか?


 この十度には、とにかくユーモアがある。 それにはどなたも
異存が無いでしょう。 聴き手も演奏者も、意表を突かれます。

 もし、ありふれた八度のままなら当り前。 面白みなど皆無
で、聴き手の記憶にも残りません。


 でも、それは私だけの感覚かもしれない。 理屈っぽい
理由を考えてみました。 (もし十度のほう自然で、
八度が陳腐に聞こえるとすれば、それはなぜ…?)

 私が抱いたのは、「十度そのものは良しとして、問題
その後かもしれないな」…という意識でした。


 十度なら、終わりの音は Fa ですね。 繰り返せば、戻った
音は同じ Fa (オクターヴ下の) になる。 先へ行けば、次の音
は隣りの Sol♭ (長七度下)。 いずれも自然です。

 反対に八度だと、Re♭ で終わる。 戻ったときは良くても、
先の Sol♭には違和感があります。



 もし後世の編集者たちが、“十度” を “八度” に書き変えて
しまったのなら…。 それは極めて罪深いことでしょう。

 「お! ハイドン先生、加線が一本多すぎるよ? Fa よりも
Re♭のほうが自然なのにな! きっと老眼だったんだね。」


 恐らくそんなところだったのでしょう。 ユーモアを解せず、また
音の続き具合も吟味せずに。 老眼の私が加線を読み間違える
のなら、日常茶飯事ですが。

 仲間たちが何も言わなかったのは、きっと十度が自然に聞こえ
たからでしょう! これで私も、胸を撫で下ろすことが出来ました。




 「そうかね。 安心するのは早くないかな?」

 あ、ハイドン先生…。 このブログには初登場ですね。
先生までこんな所に…。


 「私が書いたのが、十度か八度かは別としてだよ?
仲間たちは、とにかく “自然”…に感じたと思うのさ!」

 …え?? それ、どういう意味ですか?


 「(あ、また加線を読み違えてるよ、あるいは音程
を外したんだな?)…と思ったに違いないからさ。
ね? “自然” だろう?」

 ……はあ…。



 「それにさ…。」

 え、まだあるんですか?


 「[譜例]と違う点を一つだけ指摘してください
…と、お前は書いたよね。」

 はい。


 「でも、本当に一つだけ…だったのかい?
音程にしても、リズムにしても。」

 …………。

 

 


  [音源ページ   [音源ページ



作る人、壊す人、伝える人

2014-09-12 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/12 私の音楽仲間 (611) ~ 私の室内楽仲間たち (584)



          作る人、壊す人、伝える人




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



                関連記事

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             意見が合わずに和気藹藹?
                 夜明けのコーヒー
                音でキャッチボール
                  もうすぐ春分
              踊りから出来た日の出?
                  手強い終楽章
                名は体を表わす?
              作る人、壊す人、伝える人
               ユーモアだけじゃないさ




 演奏例の音源]は、前回と同じもの。 [音源]の
30秒以降の部分が、下の[譜例]です。 

 曲は、ハイドンの弦楽四重奏曲 (変ロ長調 作品76-4)
日の出から、第Ⅰ楽章の一部です。


 なおで書き込んだスタカーティシモ、また消してある
スラーは、ヘンレの内容を書き写したものです。

 私が書き加えたのは Vn.Ⅰのパートだけですが、他の
3パートの類似箇所も、おそらく同じでしょう。

 

 

 作曲時の自筆スコアが、まったく残っていないのが、ハイドン
弦楽四重奏曲。 ヘンレ版といえども、出版に漕ぎつけるの
は、かなり大変だったと思われます。

 でも、この『日の出』は、まだ恵まれたほうでしょう。 ハイドン
本人が労を費やして、後日スコアを再構成したからです。

         関連記事 お役御免のスコア


 スタカーティシモ。 ここでは、【リズムをスタカートより
はっきりさせる弾き方】…とだけ記しておきましょう。

 なおハイドンは、丸い点のスタカートをほとんど用いな
かったそうです。

   関連記事 『頭の体操 (106) 漢字クイズ 問題/解答 より』
             スタカーティシモ

 

 そして、スラーの有無…。 演奏者の都合から言えば、
スラーが見えたり見えなかったりするよりは、一方だけ
してほしい。

 このように f の十六分音符が続く場合は、スラーが
無いほうが、音量も出るし、弾きやすい。


 以上は、奏者の事情を述べただけですね。 作曲者
立場は考えていません。

 大事なのは、「作品に込められた内容を生かせるか
どうか。」 …この点は、どうなのでしょう?


 前回も触れた “ピリック” のリズム。 戦闘や行軍を象徴
する “詩の脚韻” でしたが、今回も顔を出しています。

        関連記事 名は体を表わす? 

 

 スタカーティシモの “楔形” 記号は、まさに、このリズム音符
上に書かれています。 四分音符、八分音符! そして…、

                   

 

 

(1) 二段目の最後の小節では、スラーを切ってしまいました。
もし、どのパートも “スラーだらけ” だったら…。 この小節
では、[四分音符4つ]のリズムしか感じられません。

(2) 三段目の最初の小節は、このリズムの縮小形。 スラー
紛れ込むと、別のリズムになってしまいます。

(3) 三段目の最後の小節は、反対に拡大された形ですね。
3拍目と4拍目のにあるのは、“Sol” の音符。 スラーなど
無いほうが、断然はっきり聞こえます! それに印刷どおりだ
と、技術的にも感覚的にも受け入れにくい。 音符の並び方
から感じるリズムと、スラーとが両立しないのです。


 作曲者がスコアを再構成したにもかかわらず、なぜこのような
結果になってしまうのか…。 もちろん、後世の編集者や出版社
が、共に主観を加味してしまったからです。

 その意味では、「見かける楽譜は、必ずしも信用できない!」

 ハイドンのこの曲に限りません。

 



 私たちの室内楽の集いは、本番を前提としたものではありません。
この曲も、いわば “一期一会” の四人によるものです。 したがって、
持ち寄る楽譜の版も様々…。 「全員が同じ版を揃えなければならぬ」
…としたら、かなり無理が伴います。

 しかし今回は、全員が同じヘンレ版で演奏することが出来ました!
チェロの Fさんが提唱し、予め全員の部分を用意してくれたのです。


 私などは、[どうせ本番じゃないからいいや]…と、安上がりな方法
でお茶を濁してきました。 実は、「ハイドンの四重奏曲でも、ヘンレ
版がいいよ?」…なる声を、何度も聞いていたのですが…。

 それ、みんな愛好家の仲間たちなんです…。 専門家のハシクレ
私が、これ以上いい加減でいてはいけない。


 そういえば仲間の Suさんも、いつも楽譜を用意してくれた。 同じ
ような場で。 しかも “めくりやすいように” 再編集し、印刷、製本まで
して届けてくれるのです…。

 こちらもチェリストでした。 Fさん、Suさんには頭が上がりません。
素敵な仲間たちに巡り合えて、本当に幸せです。


 用いる版の大切さ。 そして、ハイドンの意図や精神に、自分が
一歩でも近づけた喜び。 一期一会の場だからこそ、大事なこと
なのかもしれません。

 私にとっては、ピリッと辛い教訓でした。

 


 

 次の[譜例]は、私が今回用いたパート譜です。 先ほど
同じ演奏例の音源]も、この最初からスタートします。

 ただし、で書き加えたのは、他の版の “介入” 内容
です。 先ほどの[譜例]とは逆で、予め印刷されている
のがヘンレ版で、それに従って演奏しています。

 

 

 


        [音源ページ   [音源ページ



名は体を表わす?

2014-09-11 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/11 私の音楽仲間 (610) ~ 私の室内楽仲間たち (583)



             名は体を表わす?




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



                関連記事

                   愛情と意識
             意見が合わずに和気藹藹?
                 夜明けのコーヒー
                音でキャッチボール
                  もうすぐ春分
              踊りから出来た日の出?
                  手強い終楽章
                名は体を表わす?
              作る人、壊す人、伝える人
               ユーモアだけじゃないさ




 英雄、運命、田園、幻想、未完成、春、ライン、イタリア、

新世界(より)、巨人、復活、悲劇的…。

 こう書けば、クラシック音楽ファンの貴方は、すぐお解り
ですね。 有名な交響曲に着けられた愛称です。

 作曲者自身が命名したものから、後世に勝手に名付け
られたものまで、様々です。 中には、内容とは無関係の
ものも。


 ニックネームのお蔭で一層親しまれる傾向は、弦楽
四重奏の世界でも同じです。 今回の曲は、その筆頭
挙げられるかもしれません。

 演奏例の音源]は、その曲の一部です。 例により
カット、編集してあるので、鑑賞には向きません。

 Violin は私、Sanさん、Viola Saさん、チェロは Fさんです。


 さて、貴方が曲名をご存知でしたら、室内楽の世界にも
お詳しいかたですね。 どうかこのまま、辛抱してお読み
ください。

 (ご存じないほうが、私にとっては却って都合がいいんですが…。)


 音源をお聴きになり、どんな印象を持たれたでしょうか?

 もちろん曲のごく一部ですし、その上カット部分がある。
曲全体のイメージを伝えるものではありませんが…。


 これはハイドンの弦楽四重奏曲 (変ロ長調 作品76-4) で、
日の出の愛称で親しまれている曲です。 第Ⅰ楽章冒頭
の、美しい主題に由来する名称です。 お聴きいただければ
どなたでも、「なるほど」…と思われることでしょう。

           関連記事 もうすぐ春分



 この主題からは、平和で穏やかな雰囲気が感じられます。
今回の音源でも同じ主題が現われていますが、だいぶ
印象が違うのではないでしょうか。

 まず音源の【9秒】で、これが聞こえてきました。 しかし
その響きは、なんと不安な気分に満ちているのでしょうか。


 そのテーマの前のこと。 音源がスタートすると、いきなり
聞こえてきたのは…。 決然とした、ヘ長調終止形です。

 提示部はこれで終わり、展開部が始まるのですが、主題
本来の長調ではない。 ニ短調やト短調です。 おまけに
そのには、不安を増長するかのように、減七の和音まで
聞こえました。


 調性の変転が激しいのは、展開部の特徴でもあります。
別に不思議なことではありませんが、ハイドンはそれを
利用して、主題の性格そのものまで変質させてしまった
ようです。

 これには、何か意図があるのでしょうか?


 【1分10秒】でコーダに跳んでしまうと、同じ主題を
Viola が歌います。 この楽器の “超低音域” です
私には “不安” を通り越し、不気味にさえ聞こえます。

 しかし直後に ff で現われるのが、活気に満ちた
変ロ長調。 不安を打ち消すかのように、楽章は
堂々と終わります。


 “日の出” の主題は、このように楽章の重要な節目に
顔を出します。 展開部とコーダでは、いきなり “短調
の日の出” 聞こえてくるのです。

 



 さて、音源の真ん中にあった展開部。 この激しい音楽
から、どんな印象を受けましたか。 “慰め”? “平安”?

 そんなことは、まずないでしょう。 作曲者が “短調の
テーマ” を設け、展開部を開始したのは、当初から不安
感を煽るためだった。 またそのためにこそ、これほど
美しく対照的な主題を作った…。

 そう考えられるからです。


 この展開部を聞き、貴方の脳裏に浮かんだ言葉が、
もし “闘い”、“戦争” だったら…。 ハイドンの試みは
成功しているように思えます。 実は私も、同じように
感じたのです。

 聴き手に、そのような印象を抱かせたい…。 もし
それが、展開部に託された構想だとしたら…。

 主題変質してしまったのも、動きの激しい音楽
続いた理由も、よく解るような気がするのです。

 

 “不気味な Viola” が聞えてきたのは、ほんの一瞬。

 楽章は、変ロ長調の “荒々しい鼓舞” で終わります。

 



 闘い、戦争…。 それは私が勝手に感じただけでしょうか?

 

 次の[譜例]は、音源の【30秒】以降の部分です。 十六分
音符の激しい動きが目立ちます。

 でもここでは、書き込んである “リズム” に注目してください
中心となるのは、[四分音符、八分音符、八分音符]の形(♩ ♪♪)
です。

                          

                              

 次いで、[八分、十六分、十六分]。 そして[二部、四分、四分]の
形もありますね。 共に、最初の[四分、八分、八分]が縮小、拡大
されたもの。 つまり、同じリズムです。


 これは “ピリック” と呼ばれる “詩の脚韻” で、戦闘や行軍
の象徴でした。 もちろん、意図的に使われているのでしょう。

   関連記事   扇動家ハイドン   象徴の現実  など


 これらの記事で扱っていた曲は、『皇帝』と『五度』でした。
やはりハイドンの名作で、同じ作品76シリーズに含まれて
いる弦楽四重奏曲です。

 『皇帝讃歌』が基となって成立した、弦楽四重奏曲の『皇帝
(Op.76-3)。 これは単に、「有名なテーマが第Ⅱ楽章で聞かれ
」…だけではありません。 深い政治的メッセージが全曲に
託されているのを、ご一緒に見てきました。


 それに止まらず、五度(Op.76-2) もそうだった! そして、
この『日の出』(Op.76-4) まで…。 これは、私にとっても驚き
でした。

 ひょっとして、残りの3曲も? 不勉強な私は、そこまでは
調べていません。 譜面を見れば気付くでしょうが、いかに
無精な性格か、貴方に白状してしまいました…。


 平和な夜明けを思わせるテーマは、やがて訪れる戦乱の
世を想定していた…。 『日の出』は決して、聴く者を優しく
包むだけの、“耳ざわりの良い曲” ではなかった…。

 そう考えても、間違いではないようです。

 



 さて、この楽譜ですが、の書き込みがありますね。



 これは今回4人が用いたヘンレ版の内容を、私が自分
パートに記したものです。

 相違点は、スタカートとスタカーティシモの区別、それに
何箇所かでスラーが削除されている点です。


 以上は些細なことかもしれませんが、今回記した “曲の
内容” にまで影響してくるのでしょうか?

 また、“ピリック” なる音韻とも関係があるのでしょうか?




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