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MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

省資源の先例

2014-09-06 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/06 私の音楽仲間 (609) ~ 私の室内楽仲間たち (582)



              省資源の先例



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                 例稚多手入負落
                 トゲのあるセリフ
               破綻を好むダークマター
                  自虐的な遊び
                   奇襲攻撃
                  省資源の先例
 

 

 

 

 演奏例の音源]は、前回と同じ。 Beethoven
楽四重奏曲 イ短調 Op.132 第Ⅰ楽章で、
コーダの部分です。 

    音源をお聴きになるには、Dropbox のアカウント
      を作成、またはログインする必要があります。 


 下の[譜例]は、コーダが始まる部分です。
音源は、最初の “↓” から始まります。

 第一主題は、まず Vn.Ⅱに現われ、他の
楽器に受け継がれていきます。

                音源開始 第一主題

                   ↓    


 ここで他に目立つのは、半音で動く全音符です。 上昇
するもの、下降するもの…。

 よく見ると、これは第一主題2小節目にも見られる形
ですね。 内の音符のことで、ほとんどは[四分音符 +
二分音符]です

 この半音の全音符は、第一主題の現われる箇所では、
常に顔を出しています。 主題の陰鬱な性格を象徴する、
いわば “フレーム” のような役割かもしれません。


 これと対照的なのが、前回の話題の中心となった第二
主題です。 次の[譜例]の二段目では、これがまず Viola
に現われます。 すぐ Violin も加わり、一緒に動く

 しかしこの主題は、すぐに姿を消します。 そして三段目
の最後の小節 ” では、再び第一主題顔を出します。

           関連記事 奇襲攻撃



 もうお解りですね。 二つの主題は、ともに音階で動いています。
違うのは、【上昇下降順序】、そして【長調短調の差】です。
すぐ気付きにくいのは、リズムが異なるからでしょう。

 しかし主題の作り方は単純ですね。 「まったく同じ素材を使って
いる」と言ってもいいほどです。

 

 また[譜例]の後半には、妙な斜線が何本か書き込ま
れています。 朱色で。 これは、最初の[譜例]
触れた半音のフレーム】 ですね。

 まずチェロから Viola へ、“FaMi”。 そして Vn.Ⅱ
からチェロへ、 Sol#La”。 二つの楽器を跨いで
いますね。 前者は、ほぼ1オクターヴ。 後者は2オク
ターヴの跳躍です。

 この Sol# → La”、Fa → Mi” が、この曲で頻繁な
半音進行の、基本的な形です。


 そして最後は、楽譜が切れていますが、FaMi”。
チェロの中の動きです。

 作曲者のこのような意図を演奏で生かそうとすれば、
緊密なチームワークが必要でしょう。


 前回は、これらにちょっと触れただけ。 謎々で
終わり、尻切れトンボでしたが、いかがでしたか?

 「見にくい譜例に、至らない演奏例…! …にも
かかわらず、まじめに考えてやったぞ。」


 それは、本当にありがとうございます。

 Beethoven 先生がまた現われたら、“おかんむり” かも
しれません。 そのときは、思いっきり褒めちぎりましょう。


 [素材多くして、味良し]…とは、必ずしも言えない。 貴方の
作曲姿勢は、私たちに “省資源” の大切さを教えてくれます。

 



      [音源ページ ]  [音源ページ




奇襲攻撃

2014-09-05 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/05 私の音楽仲間 (608) ~ 私の室内楽仲間たち (581)



                奇襲攻撃



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                  自虐的な遊び
                   奇襲攻撃
                  省資源の先例




 (30、8、34。) 私は今計算中です。 あるソナタ楽章の
最後の部分を睨みながら、小節数を数えています。


 曲は、Beethoven の弦楽四重奏曲 イ短調 Op.132 
第Ⅰ楽章ですが、当然イ短調で終わります。

 コーダの調性も、ほとんどがイ短調ですが、途中にイ長調
の部分ある…。 “真ん中の8小節” のことです。


 「別に不思議ではないだろう? イ短調が多いのは当たり前
さ。 コーダは、最後に調を確立するためにあるんだからね。」

 …それはそうですが、とにかく異質なんですよ、このイ長調
8小節は。 それにね、登場や退場の仕方が唐突なんです…。

 「そこで[音源]をお聞きください…と言いたいのかな? まあ
聞いてあげてもいいよ。 いつも “唐突だらけ” の演奏だがね。」

 

 演奏例の音源]、コーダの頭から始まります。

 【1分07秒】経つと、最初の30小節は終わり、イ長調
部分に入ります。 しかし “イ長調の8小節” は、わずか
18秒で終わりを告げ、急にイ短調に引き戻されます。

 音源]は楽章の最後まで辿り着かず、11小節を残して途切れます。


 「ははあ、このイ短調の四重奏曲では、イ長調は特別
調として扱われている…、そう言いたいんだな?」

 はい、そのとおりです! よくお解りくださいました。

 「だって、前回も書いていたろう。 イ長調の第Ⅳ楽章
と、イ短調の第Ⅴ楽章は、調性的にも 表裏の関係
にある…って。」

         関連記事 自虐的な遊び


 「お前の言いたいことは、もう解ったよ。 今回は帰るぞ。
どうせまた[譜例]が出て来て、長ったらしい解説が始まる
んだろ? じゃあな。」

 はい、それもよくお解りですね…。

 



 [譜例]は、先ほどの音源の真ん中の部分で、ピンクのライン
の8小節が、イ長調の音楽です。

 先ほど “唐突” と書きましたが、実は、演奏している私たちさえ
やりにくかったほどです。 原因は幾つもありますが、いずれも
作曲者の戦略としか考えられません。


 (1) 一段目はイ短調。 興奮が高まり f に辿り着くと、音楽は
急に静まり、何の脈絡無く、突然イ長調が出て来ます。

 この第二主題は、もちろんすでに登場しています。 一度目
ヘ長調、二度目はハ長調でしたが、いずれの場合も、それらの
長調事前に準備されており、テーマの導入は滑らかに行われ
ました。 しかし、ここだけは唐突なのです。

 そして、わずか1小節で、元のイ短調に引き戻されます。



 (2) また二段目の最初の小節ですが、頭には音がありません。
Vn.Ⅱが新しいリズムを刻み始めますが、これ、かなりやりにくい。
演奏者が期待するのは、“低音の頭打ち” だからです。

 でも、ここだけは書いてない…。 先立つ二回ではあったのに。
全体の仕組みが解らないと、びっくりしてしまう。 かなり勇気が
必要な箇所です。

 この集まりは、本番が目的ではありません。 4人がこの曲
音を出すのは、おそらくこの日が最初で最後でしょう。



 (3) この二段目で、まずテーマを歌い出すのは Viola です。
ところが、音符が書いてあるのは、2小節目に入ってから…

 本来なら、これ先立って “八分音符が3つ” あるはずです。
音符を書き加えたはもちろん私で、今回の記事のためです。

 提示部の Vn.Ⅱ、再現部のチェロには、これに相当する音符
が書いてあった。 そのほうが、流れに乗りやすいのです。



 さて、[譜例]の後半、“” と書いてあるところをご覧ください。
直前の小節では、いきなり “Do♮” が現われ、イ短調に転調
しています。

 そして Vn.Ⅰが第一主題を歌い出しますが、この主題を
ご覧になって、何かお気付きのことは無いでしょうか?

 また同時に、妙な斜線が何本か見えますね。 色は
ですが、一体これは何でしょう?


 何の前触れも無く、唐突に第二主題を登場
させ、演奏者まで惑わせた作曲者…。

 …と思っていたら、今度は最後まで読んで
くださった、貴方にお鉢が回ってきました。

 



    [音源ページ ]  [音源ページ




自虐的な遊び

2014-09-03 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/03 私の音楽仲間 (607) ~ 私の室内楽仲間たち (580)



              自虐的な遊び



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                   奇襲攻撃
                  省資源の先例



 [譜例]は、Beethoven の弦楽四重奏曲 イ短調 Op.132 
最終(第Ⅴ)楽章から。 冒頭と同じ部分で、Vn.Ⅰのパート譜です。


 演奏例の音源]、その2小節前からスタートします。

 


 全体は、整然とした8小節フレーズの連続です。 音源が
ちゃんと最後まで辿り着いていれば、ですが…。 ここでは
とんでもないことになっています。

 

 勘の鋭い貴方は、もうすべてお察しのことでしょう。 余計
な解説は不要ですね。 では今回は、これで失礼を…。

 …したいところですが、そうも行きません。 「お前の記事
は長い」…というご指摘をよくいただくので、少しは反省して
いるのですが…。


 さて、何とも場違いな音楽が闖入してきました。 直前の
第Ⅳ楽章で、その冒頭部分です。

 標語の意味は、「行進曲風に、大いに生き生きと」。

          ↓


 これに対して第Ⅴ楽章は、“Allegro appassionato”、
「快い速度で、情熱的に」。 音楽の印象はまるで
正反対ですが、もちろん作曲者の設計です。

 この両楽章の間は切れ目なく演奏されますが、
途中には、レチタティーヴォ風の部分があり、
あの第九交響曲の終楽章を思わせます。

       関連記事 例稚多手入負落


 「おお、友よ、このような音ではなく…。」

 ここで否定されているのは、陽気な行進曲の気分でしょう。


 しかし両楽章の基本モティーフは、よく似ています。 
で示した分散和音のことです。 3つめの最高音の音符に
は、sf が頻繁に現われる…。 その点も共通しています。

 終楽章の[譜例](↓)では二段目以降で、後半の主役と
して活躍しています。


 これに対して、最初に現われる4つの音符は、形が
だいぶ違いますね。 運動も上下していて、不規則です。

 でもよく見ると、基本は[下降形の “La Mi Do La
であることが解ります。 先ほどは上昇形でしたが。

   ↓                             ↓


 これらのモティーフには、すべて共通性がある…。

 もちろん、聴いている者がすぐ気付くようだと、作曲者
しては面白くありません。 拍子を変え、リズムを変化させ、
音符の数を変え、変装に趣向を凝らしています。


 楽章間の “長調と短調の差” は、とても効果的ですね。
二つの調は、長調、短調の、同名調関係にあります。

 両楽章が “表裏の関係” にあることは、ただ聴いている
だけで無意識に解るように書かれています。


 どちらの楽章が先に作曲されたのかは、もちろん判りま
せん。 でも構想は、終楽章のほうが先だったと考える
が自然でしょう。 “情熱的” な基本モティーフを、行進曲
では敢えてパロディー化した…と言うことも出来ます。

 半ば “自虐的” ですが、余裕とユーモアさえ窺えます。
Beethoven 先生の、ちょっとした遊び心でしょう。



 「また下らんことをしおって! 最終楽章の後に
前の楽章を続けるとは、一体なにごとだ!」

 …、あ、先生、またおいでになったんですか…。

 「苦労して構想を練ったのに、お前はいつだって
余計なことをしてくれる…。」


 すみません、ほんの遊び心のつもりで…。

 「“遊び” とはな、巨匠のやることだ。 お前にはまだ早い!」

 …おや? 昔どこかで聞いたセリフだな…。 先生、カイ君
ご存じなんですか?


 「とにかく、こんなことをしているヒマがあるなら、演奏に身を
入れ、もっとまともな研究に精進するのだ。 わかったな!」

 …はい、はい…。 どうせ “下らないブログ” ですよ~だ!


 「何か言ったか?」

 いえ、なーんにも…。 なんだ、ちゃんと聞えるんじゃないか…。


 「私は地獄耳。 自虐的なのは、お前のほうだ。」

 



    [音源ページ ]  [音源ページ




破綻を好むダークマター

2014-08-29 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

08/29 私の音楽仲間 (606) ~ 私の室内楽仲間たち (579)



           破綻を好むダークマター



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                 トゲのあるセリフ
               破綻を好むダークマター
                  自虐的な遊び
                   奇襲攻撃
                  省資源の先例



 重力レンズ…。 最近は新聞などでも頻繁に見かける言葉ですね。


 「途中にある天体などの重力によって、光が曲げられる現象」…と
書かれています。

 光を発する天体は、間にある天体に遮られ、位置関係によって
はまったく見えないはず…。 光が直進すれば…の話ですが。


 解説を読み進むと、一般相対性理論が登場します

 「光が曲がるのは、重い物体によって歪められた時空
を進むため。」

 「対象物と観測者の間に大きい重力源があると、この
現象により光が曲がる。」


 (へえー、“歪んだ時空” ね~…? 空間だけでなく、“時” まで
歪むの??) 歪んだ頭では、逆立ちしても想像不可能な私です。


 その “大きい重力源” は、見えるとは限りません。 観測
しても何も無いはずなのに、光が曲がる。 この事実から、
には未知重力源がある」…と想定せざるを得ないので、
ダーク マター とも呼ばれ、研究が進められています。



 「おや? 今回のカテゴリーは星と音楽だったかな?」

 いいえ、このままご辛抱ください。 私の頭の歪みが急に
ひどくなったわけではありません。 もうすでに臨界に達して
いますから。

 


 

 今回の曲は、Beethoven の弦楽四重奏曲 イ短調
Op.132 から、第Ⅲ楽章の一部です。

 最初の[譜例]は、参考までに漠然と眺めてください。


 演奏例の音源]は、 からスタートします。

 Violin は私、Sanさん、Viola Yさん、チェロは Mさんです。


    音源をお聴きになるには、Dropbox のアカウント
      を作成、またはログインする必要があります。

                             

               

 ここから、次の[譜例]の頭に続きます。

     

 

 さて、ここのところ、記事の内容としては、アンサンブルの
破綻、本番中の事故などが続きました。

         関連記事 無音の新世界


 幸い今回は、特に問題が無いようです でも、もし破綻
が生じるとすれば、どの部分が危険だと思われますか?
課題は、“同じテンポ” の持続です。 

 それは、三段の[譜例]のうち、二段目に入った部分です。
[同じ音源では “48秒” に当ります。

 

 4パートのうち Vn.Ⅰ以外は、ここで細かいリズムを刻み
始める。 でもこれが、意外に難しいんです。 同じテンポ
をキープしようとすれば。

 この部分を弾いていて、(周りのテンポが重くなったな)
と感じことが、これまで何度もありました。 いわば、光が
そのまま直進せず、急にブレーキがかかったような感覚です。


      次の記事も、この楽章に関するものです。

      関連記事 病に沈む者の感謝の歌


 幸いにも今回は、光は真っすぐ進んでくれました。 性格の
真っすぐなかたばかりでしたし。 歪んだ性格の自分を除けば。


 

 演奏者には、誰でもクセがあります。 急いだり、遅れたり。
もちろん私も、その筆頭です。

 これ、自分では気付かないものなんでしょうか? 最悪の
場合には、信頼関係まで破綻してしまうことがあります。

      関連記事 無理が通れば道理引っ込む


 さて、ここで始まるリズム音形は、“シュッシュッポッポ”
に似ていますね。 音符は32分音符に変わり、短くなり
ました。 音符同士の間隔も、当然接近しています。

 こういう場合に気を付けねばならないのは、各音符
軽く弾くことです。 それまでに比べて! その感覚の差
は、もちろん目には見えません。

 



 オケでも室内楽でも、アンサンブルに携わる者は、様々
な指摘を受けるものですね。 特にテンポに関しては。

 「走るな、遅れるな、指揮者を見ろ、周りを聴け…。」

 「注意力が足りない、自覚が無い、無神経だ…。」

 ときには叱咤激励の範囲を越えることもあります。


 もちろん本人の不注意もあるでしょう。 しかしここで
触れたい原因は、“自分の内部の感覚” です。 楽器
を鳴らす際の。

 弦楽器で言えば、弓と弦の接点の、[重い / 軽い]の
感覚のことです。 これは、強弱、長短、テンポ次第で、
本来は様々に変化させなければなりません。


 ところが、これをほとんど変えずに演奏しているかたを
見かけることが、よくあります。 いわば、自分の好みの
感覚で、すべてを処理しようとしている…。

 もちろん変化と言っても、「僅かな加減で、最大の効果
を。」…が理想ですが。


 そして重大なのは、【この感覚が自分のテンポ感を
支配してしまう】場合が多い…ことです。

 つまり、「重すぎる場合は、自分が遅くなっても気付か
ない。 逆に軽すぎて、急いでも気付かない。」…という
恐ろしい現象です。

 いわば、外部に向けて注意を向けようとしても、それ
が働かないのです。 視覚的にも聴覚的にも。 まるで
フィルター機能が生じて妨害されたように。


 至らぬ私も努力を続けていますが、これが主要な
原因と考えられる場合がほとんどです。 他の奏者
を観察していても同じ。 [本人の注意が足りない]
…とは、必ずしも言えないことがあります。

 Violin で言えば、その感覚は、「姿勢や構え方の
僅かな差によっても左右される」…と考えています。

 もし私の書くとおりなら…。 大変なことだとお感じ
になるでしょう。

 

 外部への注意力を遮断してしまうほどの感覚…。

 その歪んだ感覚は、重力レンズとして働くことも
あれば、逆に光を加速してしまうこともある。

 そしてアンサンブルのみならず、人間関係まで
破綻させかねない。 先ほどの関連記事でお伝え
したとおりです。


 今回の課題は、[リズムが変化しても同じテンポを
守る]ことでした。 扱う音符も、16分音符から32分
に変わっており、それなりに難しいと言えます。

 それでは、[音符もリズムも変わらないまま]なのに、
テンポが変わってしまうような実例は無かったろうか…。
そう思ったら、ありました。 

        関連記事 暴走 Viola 集団

 



 「人は自分の感覚で物を言う。」

 よく耳にするセリフですね。 通常は、心理的な感覚を指す
場合が多いでしょう。 しかし “音を出す者” にとっては、文字
どおり身体的な感覚のことなのです。

 もしこれが原因で、自分のテンポが歪んでいるのに気付か
ないとすれば、大きな悲劇でしょう。 それに止まらず、他者
のテンポを批判することになれば、問題はさらに深刻です。


 重力レンズは、歪んだ時空を作る

 演奏時のダーク マターは、人間関係まで歪めてしまいます。

 



      [音源ページ ]  [音源ページ




無理が通れば道理引っ込む

2014-08-21 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

08/21 私の音楽仲間 (605) ~ 私の室内楽仲間たち (578)



          無理が通れば道理引っ込む


         これまでの 『私の室内楽仲間たち』


 

 続く第Ⅳ楽章は、Violin の軽やかな動きで始まります。
曲は、シューマンの弦楽四重奏曲 第2番 ヘ長調 で、
パート譜では次のように書かれています。

 “♩=126” と指定されていますが、例によって若干
遅いテンポで始めました。 とは言うものの、正確に、
そして軽やかに弾くのは、かなり大変です。 3人の
仲間の協力が無くては出来ません。



 (みんな、着いて来てくれるといいんだけどな~。 もし
合わなかったら、どうしよう…。)

 そんな心配を抱きながら始めたところ、やはり大変な
ことになってしまいました。 その際の音源です。

 

 お聞きいただいて、他の3パートがどういう動きをしているか?
おそらくお解りにならないでしょう。 曲をご存じない限りは…。

 私は弾きながら悩みました。

 (とんでもないことになったぞ! 今すぐ止めて、原因
を徹底的に直そうか? でも始めたばかりだしな…。)


 そこで私は、前回と同じように、止めずにそのまま行く
ことにしました。

           関連記事 危機管理


 (とにかくもう少し辛抱して、この先の “繰り返し記号” まで
頑張ろうか。 そうしたら、もう一度頭の部分に戻れるからね。
何度も出て来る形だし、そのうち合うかもしれない…。)


 しかし実際はそうなりませんでした。 チェロのXさんが、
この後、すぐ止めたからです。

 「テンポが速すぎる。 小節の頭にアクセントを付けて
弾いてもらわないと、テンポがつかめない。」


 それが、Xさんの言い分でした。

 私は唖然としましたが、とにかく注文どおりに
努力してみることにしました


 私がなぜ呆れてしまったか。 だってこの部分は、次のように
書かれているから…。 同じ音源です。

 以下は技術的解説が続くので、適当に読み飛ばしてください。

 

 

 お聞きのとおり、“音符 ” の食い付きが、あまりにも遅い。
原因は、“音符 ” が、後半になっても音が重いままだから
です。 こうなると、2拍目 (八分休符) を意識するタイミング
も遅れやすい。

 “音符 ” も同じことが言えるので、続き2拍目の意識が
遅れます。 また “音符 ” は、同じ八分音符でも、さらに
軽く弾く必要がある。 そうしないと、次の音符が遅れる。

 小節線を跨いで音符が二つあるわけですが、このような
パターンのリズムは、すべて同じ結果になっています。

 

 上の[譜例]には、“>” の記号が書き込んでありますね。 
これは音の軽さ、弓の圧力を “減らす” 意識を表わしたもの
で、こうしないと、このリズムは正確に弾けないのです。

 別の表現をすれば、【音を抜く】ということ。 ところがXさん
は、音符の最後まで〔重い音のまま〕弾こうとしているので、
これが、正確なテンポ感を狂わせてしまっているのです。


 問題は、〔私のテンポが速い〕のではない。 Xさん
の【リズムが、したがってテンポも不正確】なのです。

 「拍の頭に弓でアクセントを付けて弾け。」…なんて、
とんでもない! (長く弾け…なら、まだ解りますが。)

 これは、拍ごとにリズムを “ガチガチ” 刻むような
音楽ではない。 そんな “引っ掻く” ような弾き方は
避けるべきで、少なくとも Violin の2小節フレーズ
感じながら、流れに乗る必要があります。

 

 音を出す前に、私が「ワン、トゥー」…と言っているの
は、何のためか、お解りでしょう。 それでもテンポに
乗れないなんて、私には信じられません。

 〔聴いて一音符ずつ合わせる〕のではなく、むしろ
自分が半分リードしながら、確認のために Vn.Ⅰを
聞く。 そう表現したほうが的確でしょう。


 とにかくここでは、チェロには Vn.Ⅰに寄り添って
もらわねばなりません。 もし私が、理不尽にテンポ
を揺らしているのでなければ。

 あとのお二人、Yさん、Zさんは、この日は本当に
お気の毒でした。 外声がリズム、テンポの骨格を
作ってくれなければ、どうしようもないからです。


 全員の努力は、この後も続きました。 しかし結果
的には、ほとんど進歩は見られませんでした。

 この後の模様の音源です。 私の右手も左手も、
さらにヨレヨレになっています。 もう拷問に近い。

 (アンサンブルなんか、やらなきゃよかった…。)
そう感じたほどですから。

 



 Xさん。 貴方がこんなブログを覘くことはないでしょうが、
もしご覧になったときのことを考えて、少し書かせてもらい
ますね。 勝手なことを申し上げましたが、私にも確かに
謝ることがあります。 「ゆっくり弾け」と言われたのに、
どうしても最初のテンポに戻ってしまったことです。

 そのことについては、あのときみんなの前で頭を下げて
謝りましたよね? でもね、やらされればやらされるほど、
焦ってしまうものなんです。 それも、あんなリズムでは。


 それに、ちょっと考えてみてください。 これ、私には簡単
なパッセジではないので何度もさらいました。 その結果、
この音楽を表現するのに “一番弾きやすいテンポ”…という
と、あのぐらいになってしまうのです。

 これがもし、「自分には速すぎてリズムが入れられない、
頼むから少しゆっくり弾いてくれ」…というなら、また話は
別です。 “その練習” のつもりで、自分も弾きますから。

 しかし貴方の言い方は一方的で、いわゆる “上から
目線” です。 「悪いのは私の Violin だけだ」…としか
聞こえません。



 余談ですが、聖書には以下のような句があります。


 〔さばいてはいけません。さばかれないためです。

 あなたがたがさばくとおりに、あなたがたもさばか
れ、あなたがたが量るとおりに、あなたがたも量ら
れるからです。

 また、なぜあなたは、兄弟の目の中のちりに目を
つけるが、自分の目の中の梁には気がつかないの
ですか。

 兄弟に向かって、『あなたの目のちりを取らせて
ください。』などとどうして言うのですか。 見なさい、
自分の目には梁があるではありませんか。

 まず自分の目から梁を取りのけなさい。 そう
すれば、はっきり見えて、兄弟の目からも、ちり
を取り除くことができます。


 こんなことを書いたのは、貴方に気付いてほしいから
です。 私がゆっくり弾けなかったことと、貴方のリズム
が悪かったことと、どちらが重大だと思いますか?

 



 「そんなことなら、なぜその場で指摘してくれなかったのか?

 もしそうおっしゃるのなら…。

 私が言い返したら、ただ弁解しただけだと貴方は思うに
決まっているし、全体が気まずい雰囲気になるだろう…
感じたからです。その意味では、“先に言った者が勝ち
なんです。 たとえ内容が誤りでも。


 それに貴方は普段から、少なくとも私の言うことに
は耳を傾けてくれないから。

 演奏が中断したときに、ときどき幾つか提言
をさせてもらっているが、貴方はそんなとき、いつも
チューニングをしたり、何かしら音を出している。
貴方だけですよ、そんなふうに人を無視するのは。
これ、俗に “傍若無人” と言われる態度です。

 ちなみに、そのときの “音の出し方” は、いつも
同じです。 低音を何度も短く弾きながら、弓と弦
の “引っ掛かり” を確認している。 圧力の大きい
弾き方なので、(ちょっとまずいな…)と私は感じて
います。

 これは、今回の事件にも大いに関係しているから
です。 ご自分の好きな感触だけで、すべての音楽
を処理しようとすると、テンポ感まで狂うのですよ?
音それぞれには、相応の重さや軽さが必要です。

 あるときなどは、鼻でせせら笑われたことがあり
ましたね。 他愛の無い雑談のときでしたが、話題
が気に入りませんでしたか?

 

 そんな貴方に対して、「リズムが悪い原因は…」などと私が
口にすることが出来ると思いますか? いくら丁重に言葉を
選んだとしても。 おそらく喧嘩別れになり、演奏など続ける
雰囲気ではなくなったでしょう。 私はそれを避けたのです。

 ちなみに、貴方に対して気付いたことを口にしたのは、
一回しかありません。 もちろん、何の曲の、どの箇所か
も覚えています。 そのときは、何度やっても同じように
聞こえたので、最後に一度だけ指摘させてもらいました。
失礼にならないよう、表現には気を遣ったつもりです。



 今回は、貴方に悪意があって “私を虐めた”…とは思って
いません。 〔貴方が気付いていなかったから。〕 原因は
ただそれだけです。 “そうでない解釈” も可能ですが。


 口を開くタイミングって、本当に難しいですね。 思ったら
すぐ口にするんじゃなくて、その前に色々考えることがある
はずだから。

 「今言うべきかどうか。 自分はこう思うが、本当にそれで
正しいのか? 頭ごなしに言うのでなく、ちゃんと対等な形で
表現できるか? 相手を傷つけることになりはしないか?
…などなどです。 要するに、発言の前の “自己吟味” です。


 アンサンブルには技術も必要でしょうが、根本は “相手の
言うことを聞き、音に合わせてあげること” です。 貴方が
それをしていない…などとは言っていません。 それは今
まで何度もご一緒した際に、よく理解しているつもりです。

 でも貴方は、絶対に譲ってくれないことも多い。 貴方の
言葉を借りれば、「こちらは十六分音符の連続で動けない
から、全員これに合わせてくれなければ困る」…です。


 でも今回は、私が “その立場” だった…とはお考えになりま
んか? 技術的にも余裕が無い箇所なんです。 もちろん、
『建前と現実が違う』ことだってあるから、たとえ自分は十六分
音符ばかり弾いていても、相手に合わせてあげることだって
幾らでもあるんですが。

 でも、もし自分が遅いテンで弾けたにしても、違うリズム
弾く貴方に合わせる余裕など、ありません。

 



 この曲ではないが、いつか貴方とやった曲がありましたね。

 Beethoven の作品132 ですが、問題の箇所は、ここでした。



 Vn.Ⅰ以外は、3人でリズムを刻んでいますね。 この前にも
同じような箇所がありましたが、そのときも弾きにくかったので、
この楽章を二回目に通したとき、次のように頼みました。

 「直前と同じテンポで弾きたいが、いつもここから急に重くなる
ので、やりにくい。 同じテンポにしてください。」


 するとあるかたが、次のように答えました。

 「テンポが前へ行かないように、ブレーキをかけています。」


 …それじゃ困るよ! 〔急にテンポが重くなりやすい形だ〕…と
いうことに、気付いていない。 タッチの軽い音が必要なんです。
このとき答えたのは、貴方ではありませんが。

 〔私が突然急いだ〕…と言うなら、まだ解りますが。 ここはね、
速くされても遅くされても弾けなくなり、止まってしまうかどうか…
というほどの難所なんです。 頼むから合わせてよ…。


 この曲、ちなみに先日、別のチェロのかたとやりました。
そのときは、(えっ! こんなに簡単に弾けちゃうの?)…
と自分で驚くほど、スムーズに弾くことができましたよ。

 もちろんお上手なかたです。 でも多分、「Xさん? とても
じゃないけど、私など及びません。」…と答えることでしょう。
そういう謙虚なかたなんです。

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 上手で自信家であるほど、合わせてくれないものなんで
しょうか? 

 とにかく、今のままでは、貴方とご一緒するのは怖い。
しばらくご遠慮させていただこうと思っています。

 〔貴方が私を人間として対等に扱ってくれる〕…と感じ
られるまでは。

 



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