09/21 私の音楽仲間 (616) ~ 私の室内楽仲間たち (589)
ロマン派のタネ証し
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
このメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲 変ホ長調 (第1番
Op.12) の準備に取り掛かっていたときのことです。
今回私が担当するのは Viola ですが、個人練習に先立ち、
パート譜を点検していると、あるページが私の目を惹きました。
下の〔譜例〕をご覧ください。 「おや? 前回の記事の〔譜例〕
に似ているな…。」 そうお感じになるかもしれません。
30分を超える曲ですから、似たような譜面ヅラがあちこちに
現われても不思議ではありませんが。
同じような形が第Ⅰ楽章で2回、第Ⅳ楽章でも2回あります。
そのうちの第一回目は、すでにご覧いただきました。
関連記事 『聴覚より嗅覚?』
〔譜例〕は第Ⅳ楽章の一部ですが、問題は強弱記号です。
sf が多いですね。 さらに、せっかく cresc. しながら、「すぐ
pp に落とせ!」…と解釈できる箇所が、少なくとも2つあります。
最後は sf の連続で、今度は ff まで! これ、尋常ではない。
さて、いざ4人で音を出してみたら、こんな音楽でした。
[演奏例の音源]がスタートするのは、下の同じ〔譜例〕
の4小節前から。 時間にして8秒あります。
以後しばらくは、Vn.Ⅱの寂しい歌が pp で続く。 この
音楽は、先ほどの関連記事でも聞かれました。
ところが、それまで沈黙していた Vn.Ⅰが 12/8拍子で
加わる (37秒のところ) と、場面は急展開します。 他の3人
より目立つ、“p 1つ” で弾き始めています。
Viola パートは、Vn.Ⅰを支えつつ、劇的緊張を盛り上げる
黒幕でした。
下の〔譜例〕は、その部分のスコア。 一段目までが
“寂しい歌” で、二段目から Vn.Ⅰが入ります。
さて、ここでは同じ音程モティーフが使われていますね。
Vn.Ⅰは “寂しい歌” と同じ高さで入ってきて、次の小節
では5度高くなる。 しかし〔譜例〕の最後では、リズムまで
同じになります。
これ、楽章の第一主題が再現した瞬間なのです。 そんな
大事な箇所で明らかになった、テーマ同士の関連…。
この主題と “寂しい歌” は、本質的に同じものだったのかも
しれません。
Haydn、Mozart、Beethoven…。 先輩作曲家たちの
“タネ証し” は、後輩の Mendelssohn にも見られます。
劇的に、激しく訴えかけながら。
さて、同じ[演奏例の音源]には、後半で次のような箇所が
聞かれます。 (【1分36秒】以後です。)
やはり同じ形が、3回も連続して見られますね。 音程も同じ。
この Vn.Ⅱは、あの “寂しく歌っていた” 楽器です。
↓ ↓ ↓
この〔譜例〕から、ある別の弦楽四重奏曲を連想しませんか?
そう、あの『死と乙女』です。
(調号は "♭が一つ" です。)
関連記事 『三連符の見え隠れ』 など
Mendelssohn が、先輩 Schubert の名作を知らぬわけが
ない。 してみると、この “寂しい歌” には死のイメージが?
さて、このモティーフ、第Ⅰ、第Ⅳ楽章以外にも使われて
いるようです。
それについては、また別の機会に…。
[音源ページ]
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