少し前まで、東京都知事だった猪瀬直樹さんのことがニュースでもちきりだった。政治とカネの問題が問題の本質だったのだけれど、彼が一生懸命作ってきた「虚像」に執着するあまり、ある意味コミカルな状況に陥りより一層事態を悪くした気がする。
あるブログにジャーナリスト佐高信さんが、
「佐藤優氏が私との対談で言っていたが、彼は〈本物のニセモノ〉なのです。自分の売り方には天賦の才があり、肩書にも弱い。彼を支持する竹中平蔵、勝間和代……皆、同じにおいがします」
評したとあった。
本物って何なのかというか、是非は難しいが、古来ブレーンとか軍師とか言った人は、このような生き方をしてきている。諸葛孔明、ヘンリーキッシンジャー、瀬島龍三も同じにおいの人たちな気がする。
こんな軍師的タイプ、つまり看板だけで、カバン、地盤がない人が成功するためには、やりすぎない程度に自分をどう高く売り込むか(ショウアップするか)?というところが重要ではないだろうか?
得てして、自分を売り込むことがうまい人は、口もしくは筆が滑ってドヤ顔的な話をしてしまい、勢いの盛んなときはスルーされても、後々コミカルな話題を提供することになってしまう(*)。何分にも「盛りすぎ」はよくない。
ZAKZAKの記事に、猪瀬氏の例では著書に
「ポジティブ思考の重要さを唱え、「自分の中に眠る自信を取り戻す法」として、「自分で自分を励ましましょう。これを毎日100回唱えれば、言葉の力で元気が出てきます。さあ、顔を上げて! 前進あるのみです!」と提案。閉塞(へいそく)状況を打ち破るには「不利な状況を逆手に取ってみる」こと。」などと記していたが、
これに対して「会見や都議会で自信なさげに答弁する猪瀬氏を見ると、著者本人が実践できているかどうかは疑わしい」などと、あまりにも本人の実情とかけ離れていることを、指摘されている。
”さあ、顔を上げて!”っていうところが、今となっては笑いを誘う以外の何物でもない。
こんな猪瀬氏のことを考えていると、10年ほど前に一世を風靡したものの、盗作や経歴詐称などの報道が出て最近影の薄い国際派ジャーナリスト落合信彦さん(**)のことを思いだす。
経歴詐称や盗作の真偽のほどは定かではないものの、これまた今から思うと??というコメントが多い。
ブルースリーと戦って勝った
なんてのもある。
多分今から50年くらい前に、アメリカに留学して、大学を卒業してっていうだけで結構すごい人だったんだと思う(***)。語学力を生かし、アメリカの原書のネタ本をもとに、興味深い著作をだし(****)、経歴をちょっとよく見せるようにちょっと飾って書いたっていうのは、今ならあり得ないが、あの時代ならあったかなと思う。ちょっと同情の余地もあるが、「ブルースリーに勝った」というのはコミカルでしかない。
とはいえ、猪瀬氏も落合氏(****)も一世を風靡した作家であることは変わりない。世間受けする話題への目の付け所、その売り込み方、筆力はある意味一流のものであったであろう。
残念なのは微妙な一線を越えたこと。
「盛りすぎ」かショウアップ、微妙な一線が問われる。
でも虚像がコントロールできないほど大きくなって、それでいい思いをしたら、誰しも同じようになってしまうのかもしれない。看板で勝負する人の注意点である。自戒、自律、哲学。
(*)今から思うと非常にコミカルなコメントが多い。
山本一郎さんのブログによると
メディア王ルパートマードック(Rupert Murdoch, media mogul) と相互フォローしています。
ていうのもあったらしい。
当時としてもだから何?って感じだが、今や失笑もの。
こういった面はさておき、猪瀬さんは視点としては面白いものを持っていたと思う。例えば、こちらに来て、子供の教育に悩んで言語学者三森ゆりかさんのことを初めて知ったけれど、都の「言葉の力再生プロジェクト」で彼女とタイアップして日本語教育のプロジェクトをされていた。これも今となっては失笑のネタでしかないのかもしれないが、純粋に考えると普通の人にはないよい視点だと思う。
(**)疑惑については
誰も知らない落合信彦にくわしい。そういえばキャッチコピーも国際ジャーナリストでなく、「国際派」ジャーナリストだった気がする。「地鶏風」とか「みりん風」みたいな感じでしょうか?最初から確信犯だったのだろうか??
(***)孫正義のタイムマシン経営ではないが、語学力とアメリカとのコネクションを生かし、アメリカの事物を焼き直して自分のもののようにして売るっていうのは、ちょっと前には結構あったのではないだろうか?
松本清張の長編「
蒼ざめた礼服」はそんな人物を追跡するサスペンスである。
インターネットが存在する前はこういう人物って意外と重要な存在だったかもしれないし。。
ただ今だとより一層の公正さが求められるのは言うまでもない。食品偽装、経歴詐称、景品表示法。。
(****)彼を一躍有名にしたアサヒビールのCMは、アサヒビールのスーパードライの売り上げを不動のものにし
伝説的なものになった。彼もこのCMで爆発的人気が出た。カリスマ性というか何かを持っている人だったのだろう。
落合信彦批判ブログに出ているが、彼の留学時代の話(批判者側の取材した話なので客観的なのだろう)に、彼の恩師の教授が彼のことをよる覚えており、その理由として落合の「陽性な積極性」のではないかと述べている。こんなのもアメリカで生き残るのに重要な知恵かもしれない。