朝日新聞で読みごたえがあるのは声欄の左のオピニオン&フォーラム欄。
2017年9月1日朝刊で繰り広げられた、ライフネット生命創業者、歴史の著書も多い出口治明氏の同盟論が面白い。
同盟を企業の合併や経営統合になぞらえて、ギブアンドテイクの原理による関係性と説き、
実例を挙げてその成否とメンテナンスの重要性について説明している、その視点と、企業経営者によくある戦国時代の武将ものや三国志ではなく、
近現代の同盟を現在の同盟の参考として挙げている点が新鮮。
ギブアンドテイクの互恵関係がしっかりしていても、メンテナンスを怠ったり、引継いだ新指導者が意味を理解していないと成り立たなくなる例として、
旧ソ連でスターリンが結んだ同盟が、フルシチョフやブレジネフら後継者の時代に有名無実化したこと、成功と失敗がないまぜになった例としては
19世紀後半ビスマルクのイタリア・オーストリア・ドイツの3国同盟。
これは国境紛争を抱えているのを同盟にまとめ上げて英仏との覇権争いに立ち向かっただけでなく、バルカン半島をめぐって、オーストリアと険悪なロシアが仏と結びつかないようにどくろで秘密条約を締結して分断を目指すという複合的な天才技。
それが、独にウィルヘルム2世という若い皇帝が登場するとビスマルクがきずいた複雑な同盟方程式の意味がわからず、「秘密条約は望ましくない、矛盾している」と考えて独ロ歳保障条約をやめてしまう。結果ドイツは仏ロのサンドイッチとなり最終的に第一次大戦で最悪の東西2正面作戦を余儀なくされる。
ビスマルクという天才的なメンテ役がいなくなった三国同盟は、実利を無視して整合性やイデオロギー重視で大惨事を引き起こした。
安定していれば矛盾していても良い。同盟の成否を考える上で非常に示唆に富む例だと思います、というくだりの説得力。
日独伊三国同盟については、失敗例として。
対中戦争で世界の孤児となってあせった日本が結んだやっつけ仕事で細部を詰めずに失敗。
本業がピンチになってあわてて機能しない契約を結んで失敗する企業と同じ。
「新秩序」という頭で考えたスローガン、キャッチフレーズだけがあって契約の細部に真実が宿っていなかったと一刀両断。
対して成功したのは日英同盟。
これはロと英がユーラシア大陸で覇権争い、グレートゲームをしていたという背景あってのラッキーな同盟。
インドを植民地として潤沢な兵力を持っていた英は南アフリカでボーア戦争を始めて50万人もの兵力を貼り付けなくてはならなくなった。
一種ベトナム戦争のように泥沼化して極東が手薄になったところで、日清戦争に勝ち台頭してきた日本に目を付けた。
本来英国は圧倒的な大国で、本来なら日本が組めるような相手ではなかったところ、たまたま英側にこのような実利やニーズがあったから組むことができたため、日露戦争で、日本は情報入手などで有利に戦えた。
それが終わったのはロシア革命が起きて帝政が終わり、グレートゲームをする必要がなくなったから。
世界のパラダイムが大転換したときには同盟の価値も変化する、と。
日米同盟については、かなり長持ちしているが、今、世界が大転換期を迎えているような・・という振りに対しては。
敗戦後のグランドデザイナーというべき吉田茂による明治維新に次ぐ第二立憲政とでもいうべき体制が整えられた。
それは明治以来の国是だった、開国富国強兵という3つのカードから強兵を捨てたということ。
その代わり、米国に守ってもらうという選択だった。
今、日本が酌むべき相手は潜在的には米中欧の3つ。
地政学的な距離感、歴史的経緯、今後の可能性を鑑みて、安全保障は今まで通り米国傘下、交易中心で中・欧とも仲良くというのが最も合理的。
自主防衛という選択肢は、国内総生産(GDP)の倍以上の債務を抱え、高齢化社会を迎える中では非現実的。
問題は日米同盟のパラダイムが冷戦終結で根本的に変わってしまったこと。
かつては米国に軍事的負担を求める一方、日本は対共産圏の不沈空母として基地を提供する強みがあったが、それが終わった。
日本が日米同盟を大切に考えるなら、人材交流をきちんとメンテしなくてはならない。
ドイツのアデナウアー首相とフランスのドゴール大統領が結んだエリゼ条約(仏独協力条約)は上手に手入れされている。
独仏は1870年勃発の普仏戦争以来、3度も全力で殴り合った。第2次世界大戦後、二人が腹を割って話し合い、「殴り合いの結果、欧州の地位が低下し、漁夫の利を得たのは米ソではないか、もうやめよう」と確かめ合った。
二人のすごいところはメンテの具体策として、国境地帯の住民を中心に姉妹町村を無数に誕生させ、1000万人近い人々を交流させた。互いに悪口を言い合わないよう歴史教科書も統一し、仲良くなる仕組みを作った。
仏大統領選でマクロン氏が勝ったのもルペンさんを見て、国民は独仏関係は死活的に大切だともう一度考え直した。根っこにあったのは条約がもたらした交流の深さ。人間は忘れやすい生き物。忘却を防ぐメンテが大切。
そこで心配なのが、日米の交流が細ってきていること。
現在米国にいる留学生100万人のうち、中国人は33万人強もいるのに日本人は2万人を切った。1990年代には5万人は行っていたのに半減。
実態からすると「価値感を共有する日米」は絵空事に思えてしまう。次代の米国を担うエリートたちは日本の16倍以上の中国人と触れあっている。
未来の米国のリーダーたちの友達が日中どちらに多いかは自明です。
日米同盟でもう一つ大事なのは、負担の平準化。米軍は駐留しているから防衛に本気になるわけで、基地は必要条件。
「常時駐留なき日米安保条約」はあり得ない。その中、沖縄が全体の米軍基地の7割を引き受けているのは異常。
損を沖縄に引き受けさせて、本土が得をしている構図はギブアンドテイクになっておらずそこに依拠した日米同盟は不安定。
本土が多くの基地を引き受けることが、日米同盟を長持ちさせる十分条件です。
と、ここまで、過去の歴史の検証と現在への影響と現状把握、そして未来への仮説、と実効性をを持つ歴史観の開示をできるヒトはそうそういないのでは。
政治を経済的な実利性で合理的に判断するベネチア人を描いた塩野七生の「海の都の物語」を読んだとき以来の感動でした。
2017年9月1日朝刊で繰り広げられた、ライフネット生命創業者、歴史の著書も多い出口治明氏の同盟論が面白い。
同盟を企業の合併や経営統合になぞらえて、ギブアンドテイクの原理による関係性と説き、
実例を挙げてその成否とメンテナンスの重要性について説明している、その視点と、企業経営者によくある戦国時代の武将ものや三国志ではなく、
近現代の同盟を現在の同盟の参考として挙げている点が新鮮。
ギブアンドテイクの互恵関係がしっかりしていても、メンテナンスを怠ったり、引継いだ新指導者が意味を理解していないと成り立たなくなる例として、
旧ソ連でスターリンが結んだ同盟が、フルシチョフやブレジネフら後継者の時代に有名無実化したこと、成功と失敗がないまぜになった例としては
19世紀後半ビスマルクのイタリア・オーストリア・ドイツの3国同盟。
これは国境紛争を抱えているのを同盟にまとめ上げて英仏との覇権争いに立ち向かっただけでなく、バルカン半島をめぐって、オーストリアと険悪なロシアが仏と結びつかないようにどくろで秘密条約を締結して分断を目指すという複合的な天才技。
それが、独にウィルヘルム2世という若い皇帝が登場するとビスマルクがきずいた複雑な同盟方程式の意味がわからず、「秘密条約は望ましくない、矛盾している」と考えて独ロ歳保障条約をやめてしまう。結果ドイツは仏ロのサンドイッチとなり最終的に第一次大戦で最悪の東西2正面作戦を余儀なくされる。
ビスマルクという天才的なメンテ役がいなくなった三国同盟は、実利を無視して整合性やイデオロギー重視で大惨事を引き起こした。
安定していれば矛盾していても良い。同盟の成否を考える上で非常に示唆に富む例だと思います、というくだりの説得力。
日独伊三国同盟については、失敗例として。
対中戦争で世界の孤児となってあせった日本が結んだやっつけ仕事で細部を詰めずに失敗。
本業がピンチになってあわてて機能しない契約を結んで失敗する企業と同じ。
「新秩序」という頭で考えたスローガン、キャッチフレーズだけがあって契約の細部に真実が宿っていなかったと一刀両断。
対して成功したのは日英同盟。
これはロと英がユーラシア大陸で覇権争い、グレートゲームをしていたという背景あってのラッキーな同盟。
インドを植民地として潤沢な兵力を持っていた英は南アフリカでボーア戦争を始めて50万人もの兵力を貼り付けなくてはならなくなった。
一種ベトナム戦争のように泥沼化して極東が手薄になったところで、日清戦争に勝ち台頭してきた日本に目を付けた。
本来英国は圧倒的な大国で、本来なら日本が組めるような相手ではなかったところ、たまたま英側にこのような実利やニーズがあったから組むことができたため、日露戦争で、日本は情報入手などで有利に戦えた。
それが終わったのはロシア革命が起きて帝政が終わり、グレートゲームをする必要がなくなったから。
世界のパラダイムが大転換したときには同盟の価値も変化する、と。
日米同盟については、かなり長持ちしているが、今、世界が大転換期を迎えているような・・という振りに対しては。
敗戦後のグランドデザイナーというべき吉田茂による明治維新に次ぐ第二立憲政とでもいうべき体制が整えられた。
それは明治以来の国是だった、開国富国強兵という3つのカードから強兵を捨てたということ。
その代わり、米国に守ってもらうという選択だった。
今、日本が酌むべき相手は潜在的には米中欧の3つ。
地政学的な距離感、歴史的経緯、今後の可能性を鑑みて、安全保障は今まで通り米国傘下、交易中心で中・欧とも仲良くというのが最も合理的。
自主防衛という選択肢は、国内総生産(GDP)の倍以上の債務を抱え、高齢化社会を迎える中では非現実的。
問題は日米同盟のパラダイムが冷戦終結で根本的に変わってしまったこと。
かつては米国に軍事的負担を求める一方、日本は対共産圏の不沈空母として基地を提供する強みがあったが、それが終わった。
日本が日米同盟を大切に考えるなら、人材交流をきちんとメンテしなくてはならない。
ドイツのアデナウアー首相とフランスのドゴール大統領が結んだエリゼ条約(仏独協力条約)は上手に手入れされている。
独仏は1870年勃発の普仏戦争以来、3度も全力で殴り合った。第2次世界大戦後、二人が腹を割って話し合い、「殴り合いの結果、欧州の地位が低下し、漁夫の利を得たのは米ソではないか、もうやめよう」と確かめ合った。
二人のすごいところはメンテの具体策として、国境地帯の住民を中心に姉妹町村を無数に誕生させ、1000万人近い人々を交流させた。互いに悪口を言い合わないよう歴史教科書も統一し、仲良くなる仕組みを作った。
仏大統領選でマクロン氏が勝ったのもルペンさんを見て、国民は独仏関係は死活的に大切だともう一度考え直した。根っこにあったのは条約がもたらした交流の深さ。人間は忘れやすい生き物。忘却を防ぐメンテが大切。
そこで心配なのが、日米の交流が細ってきていること。
現在米国にいる留学生100万人のうち、中国人は33万人強もいるのに日本人は2万人を切った。1990年代には5万人は行っていたのに半減。
実態からすると「価値感を共有する日米」は絵空事に思えてしまう。次代の米国を担うエリートたちは日本の16倍以上の中国人と触れあっている。
未来の米国のリーダーたちの友達が日中どちらに多いかは自明です。
日米同盟でもう一つ大事なのは、負担の平準化。米軍は駐留しているから防衛に本気になるわけで、基地は必要条件。
「常時駐留なき日米安保条約」はあり得ない。その中、沖縄が全体の米軍基地の7割を引き受けているのは異常。
損を沖縄に引き受けさせて、本土が得をしている構図はギブアンドテイクになっておらずそこに依拠した日米同盟は不安定。
本土が多くの基地を引き受けることが、日米同盟を長持ちさせる十分条件です。
と、ここまで、過去の歴史の検証と現在への影響と現状把握、そして未来への仮説、と実効性をを持つ歴史観の開示をできるヒトはそうそういないのでは。
政治を経済的な実利性で合理的に判断するベネチア人を描いた塩野七生の「海の都の物語」を読んだとき以来の感動でした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます