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猫かぶりのタカ派安倍晋三、米国が危ぶむその真意

2013-03-17 | Weblog

「この3年間で著しく損なわれた日米の絆と信頼を取り戻した」――。2月22日、米国の首都ワシントンでバラク・オバマ大統領との初の首脳会談を終えた安倍晋三首相は、誇らしげにこう宣言した。日本では政治家やメディアがこぞって安倍首相を褒めたたえ、経済・外交大国として「日本は戻ってきた」とする首相の大胆な主張に沸いた。

■    真意をくみ取れない米政府

しかし米国での見方はかなり異なる。ニューヨーク市にあるコロンビア大学のジェラルド・カーティス教授は、安倍政権が「この首脳会談を歴史上重要なものに見せるため」に今回の訪米を演出した、と指摘する。安倍首相が日米の同盟関係を救ったというのは断じて真実ではない。12月の総選挙で安倍氏率いる自民党が民主党から政権を奪うずっと前から、日米関係は十分に安定していた。

 オバマ政権にとって信頼しきれない対象があるとすれば、それは安倍首相その人かもしれない。尖閣諸島を巡る日本と中国の対立があわや暴走しようかというこの時期に、しかも米国も巻き添えを食うかもしれない事態なのに、米国政府は安倍首相の真意をくみ取れずにいる。これまで安倍首相は右派の議員仲間と歴史認識の見直しに向けた動きを推し進めてきた。それが今、歴史認識に関してはトーンを抑えている。

■首相の実利主義は見せかけか

 日本の地位回復を狙う安倍政権は、これまで急速な展開を戦略の柱としてきた。日本経済は長期にわたって停滞に苦しんでいる。デフレからの脱却を目指して日銀に大胆な政策を迫る一方、政府支出の拡大を約束する安倍氏の姿は、「決断力のある指導者」という印象を強めている。株式相場は急騰した。最近の世論調査によると、安倍首相の支持率は70%を超えている。ここ数年間にぶざまな姿をさらした歴代首相、そして2006~2007年の第1次政権で見せた安倍氏自身の悲惨な姿に対する評価と比べると、驚くほどに高い数字である。

 今回の日米首脳会談で安倍首相の評価はさらに高まったようだ。

法政大学の森聡教授はその理由を、安倍氏がイデオロギーではなく実利に従って動く人間だとの印象を与えたからではないか、と分析する。

安倍氏は経済を自らのアジェンダの中核に据えてきた(経済はおよそ同氏の専門分野ではない)。支持率が上がることで自民党内の調和も保たれている。それでも心配なのは、安倍氏の実利主義が上辺のものにすぎない可能性があるからだ。

■理解しにくい歴史認識

 首相就任以来、安倍氏が書いてきたメッセージは、同氏の世間知らずぶりを露呈している。

彼は、1945年の敗戦以前の帝政日本は悪事を働いたことがほとんどないと考えているらしい(この見解は隣国の怒りを買っている)。

さらに不思議なのは、戦後の日本に善い行いがほとんどなかったかのように書いていることだ。

また、「日本という国」を「戦後の歴史による支配」から解放したいとつづっている。

 安倍氏の意味するところが何なのか完全にはわからない。

だが、主な不満は日本国憲法の平和条項に向けられているようだ。

安倍氏から見れば、この条項は敗戦国の日本に米国が無理やり押しつけたものであり、国を骨抜きにした元凶だ。

そして日本の骨抜き状態は1960年代に日本の社会主義者がもたらした影響によってさらに悪化したというわけである。

 だが実際には、戦後における日本の平和主義は国民から高い支持を受けている。

一方で、米国が日本の安全を保障したことによって、戦後の日本は未曽有の経済成長と繁栄を経験することができた。

安倍氏の祖父にあたる岸信介氏(安倍氏と同様に首相を2度務めた*)は、戦後の秩序を構築する上で中心的な存在であった。

安倍氏が率いる自民党とその支持母体である産業界は、戦後体制の恩恵を誰よりも享受した。

■米国の関心はTPPと普天間基地

 通常なら米国も受け入れるであろう安倍氏の思想が今回は歓迎されなかった。タカ派の安倍首相が中国を刺激しかねないとの懸念からだろう。

オバマ政権は、日本国憲法の解釈を見直したいという安倍氏の願望を公然とは支持しないことを明確にした。

安倍氏の目指す解釈の見直しは、日本が集団的自衛権(例えば米国が攻撃を受けた場合に援助に駆けつけるための法的資格)を行使できるようにすることが目的だ。

日中がいがみ合う尖閣諸島(中国名は釣魚島)を日本が治めることについて、オバマ大統領もジョン・ケリー新国務長官も、ヒラリー・クリントン前国務長官ほどには支援を強く約束しなかった。

ケリー氏は、尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲であることを改めて確認しただけだった。

 むしろ、米国政府は今回の首脳会談で別の2つの案件に対する日本のコミットメントを引き出そうとした。

1つは、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)についてだ。安倍首相は慎重に言葉を選びながらも交渉参加を約束した。ただし、最大税率が777.7%であるコメの関税撤廃については何の約束もしなかった。自民党は聖域なきTPP交渉には参加しないと言い続けている。

 もう1つは沖縄の米軍基地移設問題に関するコミットメントである。安倍首相はオバマ大統領に対し、米海兵隊が使用している普天間基地の移設に向けて「具体的な行動をとる」と伝えた。2009年に政権の座に就いた民主党は、この基地移設問題で日米関係を混乱させた。

 安倍氏がしたこれら2つの約束は、どちらも大胆な内容だ。沖縄県民は12月の総選挙では圧倒的に自民党を支持したが、「基地を沖縄本島の人口過疎地に移設する」という方針には断固として反対する。彼らの望みは米軍がこぞって沖縄から出て行くことだ。

 一方、自民党所属の国会議員の5分の3がTPP参加に反対している。7月の参議院選挙を控え、支持母体である保守的な農業関係者の反発を恐れているのだ。

 米国やその他の国で、TPP参加を切望する通商の専門家が日本の参加による交渉の遅れを心配するのは理解できる。日本が参加しなければ、TPP交渉は今年中にまとまるめどがついている。日本が加わった場合、少なく見積もっても2年は交渉が延びるかもしれない。

■参院選後の政策に懸念

 国民と党員からの支持を維持するために、安倍氏は有権者に対して今後も経済を最優先に扱うと伝える必要がある。米国からの帰国後、安倍氏は驚くような政策を展開した。2月28日には、アジア開発銀行総裁を務める黒田東彦を次期日銀総裁に指名した。黒田氏、及び副総裁に指名された岩田規久男氏は、新たな「2%のインフレ目標」の達成に向けて安倍氏が提唱する「無制限の金融緩和」の支持者だ。

 この2人を任命することは、日銀に対して敵対的買収を仕掛けるのと同様の意味を持つ。日銀は、自らが着手した非伝統的な金融政策の利点に対して複雑な思いを抱えている保守的な砦なのである。

 安倍氏は、野党が過半数を占める参議院においても13兆1000億円規模の補正予算への支持を取り付けた。予算案が1票差で可決された時、首相への歓声が上がった。今回の予算を成立させたことで、安倍首相は有能だとアピールすることができた。自民党にとっては、7月の参議院選挙に向けて幸先の良い一歩となった。

 参議院選挙で自民党が勝利し、安倍首相が両院を掌握すれば、日本の政治が直面する行き詰まりを打開できるかもしれない。そうなれば、構造改革を進めることも可能になるだろう。だがそれで勢いづいた安倍氏が全面的な憲法改正に臨んだり、戦時中の残虐行為に関する認識を修正(ましてや転換)したりすれば、日中関係は悪化の一途をたどる。米国が何より懸念するのはまさにその点である。

(The economist)


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