小沢一郎から見た安倍政権
権力、政局、そして日米関係の奥座敷を見てきた永田町最後の古老小沢一郎。安倍晋三政権をどう斬るか、聞いた。 (サンデー毎日)
まずは、安保法制の現状だ。
「背景も理念も進めようとしていることの論理構成も無茶苦茶だね。最終的には国家の存立、国民の生命財産が危機に瀕することが政府判断になるのはその通り。その通りだが、集団的自衛権を憲法の理念に反しながら推し進めようとするに当たっての論理としてはあまりにも粗雑で幼稚で抽象的だ」
なぜ、その幼稚な論理に対し自民、公明内で反対が起きないのか?
「今の日本社会、どこもそうでしょう? 誰も異論を言わなくなった。メディアも太鼓をたたくほう。テレビも脅されると静かになる」
特に、自民党内が静かすぎる。
「それだけの人がいなくなったんだろうね。(選挙制度のせい?)いやそうじゃない。英米も小選挙区制だもの。政治家の資質と見識の問題だな。(戦争体験者がいなくなったから?)いやあ、違うね。日本全体が1人の情緒的な思いの方に引きずられている」
誰が、その小沢さんの言う情緒的な人物、つまり安倍首相を支えているのか?
「政治的に大きいのは野党の受け皿がないこと。国民は集団的自衛権も原発も反対だ。なのに安倍支持というのは、しょうがない、それしかないんだからと。決して積極的支持ではない」
「彼は核武装論だから。(原発にこだわるのは)そのへんがある」
安倍首相は中東での海自の機雷掃海にこだわっている。
「もっとやっちゃうんじゃないか。戦前回帰という心情と大国主義を持っている。国連安保理常任理事国(米露中英仏)の連中に負けてない、伍(ご)していける、という気持ちが心の中にあるのではないかな。機雷はとってつけたようなもので」
機雷掃海といえば、1990年の湾岸危機では、当時自民党幹事長の小沢さんも執着した。
「あれは国連の決定に基づいたものだからやるべきだと言った。その後のものは全部国連(が正式に機関決定したもの)ではない。僕は国連中心主義。世界を治めるのはそれ以外ない、と思っている。日本国憲法もたまたま国連と同じ理念を共有している。安倍流の自国だけで何とかしようというのは、国威発揚か何か知らんけど、一番の危険な方法だね」
90年当時は内閣法制局の壁も厚かった。
「法制局は戦後何度も見解を変えてきてはいる。ただ(集団的自衛権は行使できないという)一線は超えなかったんだ」
後方支援も武器弾薬の補給など拡大の流れだ。
「(実戦と)同じだ。兵たん線が戦争の一番の要、戦争そのもの。だから、(実戦と一体化する可能性のある後方支援を忌避する)一体化論があった」
「戦前の昭和史と似てきた。経済格差が増え、軍需産業で不況を乗り切ろうとしている」
「彼は核武装論だから。武装独立論、石原慎太郎と同じ。(原発にこだわるのは)そのへんがある。核技術を温存したいんだろう」
米政権は安倍政権をどう見ている?
「困っていると思う。民主党はダメだ、小沢はダメだということだったが、今は少しずつ、あれ違ってきたな、と思っているんじゃないか。(安倍首相の何が米にとってダメなのか?)だって基本的に反米だもの。最後のところは戦後体制の否定だ。大日本帝国時代の国務大臣(商工相)だったおじいちゃん(祖父の岸信介元首相)の言葉の端々が孫に入っていったのではないか。このままだと恐ろしい世の中になる」
では、台頭する中国とどう向き合う?
「核武装して中国とやろうとしても無理。もちろん通常の抑止力は必要だが、トータルな抑止力は米に頼む以外にない」
「日中の本当の信頼関係を構築するしかない。言うことを言い、認めることは認める。ライバル心を燃やしつつも友好関係をもつようにしないとね」
その意味では70年談話は重い。
「重いし、大きいさ。欧米の安倍政権への不信論の象徴がメルケル(独首相)来日だ。公式訪問してあんなこと(日本の歴史認識について注文)は普通は言わない」
靖国参拝は?
「戦争で死んだ人を祀(まつ)る所であって、政治的な責任者を祀る所ではない。戦争責任を問われて死刑になった人を厚生省と生き残り軍人が無理やり合祀(ごうし)した。そんなものはやめて元に戻し自由に参拝できる所にすべきだ」