1 つむじ
やわらかな寝息をたてる幼子のつむじ見つめる日曜の午後
2 頭
ひだまりは仔猫のあたまなでながら時はとまると感じさせてる
3 脳
いっせいに塾からかえる子供らがバスまちながら脳トレをする
4 脊
椅子の脊に体をあずけゆっくりと吐きだす紫煙はひろがってゆく
5 髄
いくつもの被膜をはがし髄晶のとおい記憶をいまさかのぼる
6 髪
だれの手にふれて欲しいか明け方の樹木のしずくでとかす黒髪
7 毛
ゆるやかにのばす背筋をうしろからみあげる先は金色の産毛
8 額
めをとじて額にあてるてのひらに同化してゆくきみの体温
9 皮膚
くっせつを捨てさるように皮膚だけをさらしたきみが温かいです
10 膜
かなわない視線のさきの残像をそっとつかまえ薄膜につつむ
11 臓(器)
中庭に臓器移植をまつひとの指先てらすあわい陽光
12 神経
とがらせた神経の槍 ぼく=31文字 声かれるまで
13 指紋
ぴかぴかに磨いたグラスに存在を問うかのようにつける指紋は
14 顔
やすらかな寝息をたてる横顔のほくろの場所を記憶にとめる
15 頬
もういちど春先ごろのぬくもりを信じるように頬杖をつく
16 骨
言葉ではわかりあえない瞬間が鎖骨にのこすよわい爪痕
17 肉
自ずから近づくことの躊躇いを知るかのように微熱する肉
18 眉
ゆっくりと額にふれる指先にひかりをそそぐ三日月の眉
19 睫毛
廃校に忘れ去られたブランコで少女は長い睫毛を揺らす
20 感覚
分別はねむらせておく鋭敏な皮膚感覚でひかれあうから
21 耳
週末にじどうしゃばくだん組み立てる奴の耳には届かぬ祈り
22 目(眼)
サングラス隠した目元ひくつかせ赤いボタンをゆっくりと押す人
23 瞳
くらやみを瞳にたたえやけあとに少女は母のかたちをさがす
24 涙
もう捨ててしまう手紙の文面にあおくゆるんだ涙腺をひく
25 まぶた
いちにちを確かめながらいちにちを信じるようにまぶたを閉じる
26 鼻
ひとすじの涙をたどりやわらかにきみの鼻梁にたどりつくゆび
27 ほくろ
鼓動する胸のほくろを指先で冬の星座のかたちになぞる
28 髭
明け方は頬をひきよせ夕べにはなかったあわい髭の感触
29 唇
沈黙にたえるかたちを投げすてて唇たちは語りはじめる
30 口
夕暮れがおとなびている街かどで少女がてにとる赤い口紅
31 歯
うっすらと笑みを湛えた口元がきえさる部屋にのこす歯ブラシ
32 舌
月あかりよるはひっそり佇んで竜舌蘭をしずかに照らす
33 唾液
不確かなうすい唾液を飲み下しほの明るさを信じています
34 顎
月光にあなたの顎が鰐のよう一口でいって下さいますか
35 関節
うまれでる赤子のように関節をあさの空気に感じてのばす
36 うなじ
うすやみの廃墟のなかの瞬きにレプリカントはうなじをさらす
37 首
うっすらと翳りをおびた後れ毛がすこし汗ばむ首にはりつく
38 呼吸
呼吸する冷蔵庫のよう真夜中は空疎なからだ冷やしつづける
39 喉
くらやみが背後をよぎる瞬間に仔猫はちいさく喉をならした
40 管
とうめいの管にいだかれゆつくりと遠い太古の海へとかえる
41 肺
あけがたが深呼吸して肺肝はひえた空気にすこしふるえる
42 肩
朔風にあらがうように立ち尽くすふるえる肩をうしろから抱け
43 腋(脇)
たいおんけい腋にはさんで目玉焼きひたいの上でつくるけいかく
44 運動
たくましい運動選手のあしもとにシロツメクサが花を咲かせる
45 筋
イラク派兵反対のこえききながらでたらめにやる腹筋運動
46 腕(手)
ためこんだ含み笑いをうけとめて悲鳴をあげる上腕二頭筋
47 肘
つまらないフランス映画ずかずかと肘でおしのける街の人ごみ
48 掌
からからとサクマドロップス音たてて黄色いつぶを掌におとす
49 指
マジックでえがおをかいて粛々と指にんぎょうの劇をつづける
50 上半身
車椅子マラソン選手がゆるやかに上半身にちからをいれる
51 胴
ぎんいろの胴きらめかせ飛行機はわすれられない軌道をえがく
52 心臓
夕闇にうちすてられた石膏のトルソーのようなむごんの心臓
53 肋
それはもうあばらのうきでたのら犬にとっしんしてゆく保健所のひと
54 循環
どこまでもぐるぐるまわるいつまでも循環バスにのりつづけてる
55 血
かたくなに否定を続けるくちびるにあさひのような血をめぐらせて
56 胸
どんどんとこぶしがたたく終演にたえつづけてるうすい胸板
57 消化
使われることがなければそれはそう幸せかもと錆びたしょうかき
58 食道
駅前のカモメしょくどう知らぬまにビストロ・ル・カモメと名前をかえる
59 胃
それならば巨大なくじらの胃のなかでくらしたときのはなしをしょう
60 腸
腸詰めのソーセージのよう煮て焼いてあつあつのうちに食べてください
61 肝
だれからも知られぬような林縁にしずかに咲いたてまり肝木
62 胆
大胆にあかいっしょくでぬりつぶす最後のそらにこれでさよなら
63 膵島(ランゲルハンス島)
ときとしてせつないこころしたためてランゲルハンス島へ旅立つ
64 乳
かなしみを誇示するようにうすぐらいベッドのうえではりだす乳房
65 腹
もくてきの駅までいかぬ終電のなかでつづける腹筋運動
66 へそ
月夜にはへそから下にすむ人がバベルの塔をたてよとさわぐ
67 背
涙するしまうまの背にまたがって愛しあう僕らのゆきさきは
68 腰
さあおいで腰までのびた黒髪のシーツのうえにみだれるここへ
69 羽
そうなんだ肩甲骨はきえさった羽の所在をおしえてくれる
70 子宮
あたたかな子宮のかべにみをよせて初めてためすモールス信号
71 肛門
肛門としてのげんしがいくおくのときをへだてて唇にかわる
72 陰茎
もうだれもたずねることない林間にからまるようにはえる陰茎
73 陰核
ひとりではいきてゆけない陰核にやさしいうそをなげかけている
74 膣
膣としてさいしょのゆめをなげかけるこの子よおおきくしあわせになあれ
75 生殖
そう、これを生殖という。 あなたには、アイときこえているのでしょうか
76 精巣
なんとなく神風だねっておたがいに出撃まってる精巣のなか
77 卵巣
きっとだれか待っているよってゆうきづけておくりだしてくれた卵巣
78 腎(臓)
そういえば、僕の腎臓がたいへんなことに!ってさわいでたひともいたっけ
79 尿
だから尿道として在ればいいだなんてあなたはとてもとてもうそつき
80 汗
ほらこんなにもここちよい汗かきながら夕飯のしんぱいをする君は
81 爪
マヨネーズきつうくしぼるキューピーのえがおにのこる僕の爪あと
82 尻
あかときは言わないでいた いつまでも尻とりあそびは続かないこと
83 股
股したのながさを自慢するひとはかるうく僕をとびこしたのです
84 腿
あら、あなたとてもきたえた腿ですね この垂直をささえてください
85 脚(足)
脚力でとおざかる人ちょっとだけやすむふりするめくばせをする
86 膝
えいかくにするどくはなつ膝蹴りの軌跡のなかにもとめたくなる
87 脛
いつまでも覚えています脛をうつとてもおもたい波の感触
88 踵
踵から着地するよう頑丈な登山シューズをもたせてください
89 鱗
上空の鱗雲いずれきえること知っていたから喋れなかった
90 尾
尾根沿いのほそい小道をかけおりるあなたの影におくれないよう
91 静脈
いつまでもわかりあえずに僕たちはあおくうきでる静脈にふれ
92 動脈
夏草のおいしげるなか動脈のふるえる音をたしかめあった
93 蛋白
蛋白がたりないひとの手をひいて暮れてゆく廃線の貨車へ
94 腺
涙腺がゆるみはじめる夕暮れの夏はかすかにかたむいていた
95 垢
垢抜けたどうさであかい花束をわたしのまえにとりださないで
96 液
ゆっくりと液化する日をまちわびる螺旋階段にからまる想い
97 脂
冷酷といわれたひとの頭部から突き出している樹脂製パーツ
98 腱
うつくしいアキレス腱の瞬発にまけないような夏の陽射しと
99 分泌
ほら、こことこことこことかこことこここことかここも分泌するんだ
100 体
詩のような身体をだいてかげろうの屈曲のなかにくらす僕たち
やわらかな寝息をたてる幼子のつむじ見つめる日曜の午後
2 頭
ひだまりは仔猫のあたまなでながら時はとまると感じさせてる
3 脳
いっせいに塾からかえる子供らがバスまちながら脳トレをする
4 脊
椅子の脊に体をあずけゆっくりと吐きだす紫煙はひろがってゆく
5 髄
いくつもの被膜をはがし髄晶のとおい記憶をいまさかのぼる
6 髪
だれの手にふれて欲しいか明け方の樹木のしずくでとかす黒髪
7 毛
ゆるやかにのばす背筋をうしろからみあげる先は金色の産毛
8 額
めをとじて額にあてるてのひらに同化してゆくきみの体温
9 皮膚
くっせつを捨てさるように皮膚だけをさらしたきみが温かいです
10 膜
かなわない視線のさきの残像をそっとつかまえ薄膜につつむ
11 臓(器)
中庭に臓器移植をまつひとの指先てらすあわい陽光
12 神経
とがらせた神経の槍 ぼく=31文字 声かれるまで
13 指紋
ぴかぴかに磨いたグラスに存在を問うかのようにつける指紋は
14 顔
やすらかな寝息をたてる横顔のほくろの場所を記憶にとめる
15 頬
もういちど春先ごろのぬくもりを信じるように頬杖をつく
16 骨
言葉ではわかりあえない瞬間が鎖骨にのこすよわい爪痕
17 肉
自ずから近づくことの躊躇いを知るかのように微熱する肉
18 眉
ゆっくりと額にふれる指先にひかりをそそぐ三日月の眉
19 睫毛
廃校に忘れ去られたブランコで少女は長い睫毛を揺らす
20 感覚
分別はねむらせておく鋭敏な皮膚感覚でひかれあうから
21 耳
週末にじどうしゃばくだん組み立てる奴の耳には届かぬ祈り
22 目(眼)
サングラス隠した目元ひくつかせ赤いボタンをゆっくりと押す人
23 瞳
くらやみを瞳にたたえやけあとに少女は母のかたちをさがす
24 涙
もう捨ててしまう手紙の文面にあおくゆるんだ涙腺をひく
25 まぶた
いちにちを確かめながらいちにちを信じるようにまぶたを閉じる
26 鼻
ひとすじの涙をたどりやわらかにきみの鼻梁にたどりつくゆび
27 ほくろ
鼓動する胸のほくろを指先で冬の星座のかたちになぞる
28 髭
明け方は頬をひきよせ夕べにはなかったあわい髭の感触
29 唇
沈黙にたえるかたちを投げすてて唇たちは語りはじめる
30 口
夕暮れがおとなびている街かどで少女がてにとる赤い口紅
31 歯
うっすらと笑みを湛えた口元がきえさる部屋にのこす歯ブラシ
32 舌
月あかりよるはひっそり佇んで竜舌蘭をしずかに照らす
33 唾液
不確かなうすい唾液を飲み下しほの明るさを信じています
34 顎
月光にあなたの顎が鰐のよう一口でいって下さいますか
35 関節
うまれでる赤子のように関節をあさの空気に感じてのばす
36 うなじ
うすやみの廃墟のなかの瞬きにレプリカントはうなじをさらす
37 首
うっすらと翳りをおびた後れ毛がすこし汗ばむ首にはりつく
38 呼吸
呼吸する冷蔵庫のよう真夜中は空疎なからだ冷やしつづける
39 喉
くらやみが背後をよぎる瞬間に仔猫はちいさく喉をならした
40 管
とうめいの管にいだかれゆつくりと遠い太古の海へとかえる
41 肺
あけがたが深呼吸して肺肝はひえた空気にすこしふるえる
42 肩
朔風にあらがうように立ち尽くすふるえる肩をうしろから抱け
43 腋(脇)
たいおんけい腋にはさんで目玉焼きひたいの上でつくるけいかく
44 運動
たくましい運動選手のあしもとにシロツメクサが花を咲かせる
45 筋
イラク派兵反対のこえききながらでたらめにやる腹筋運動
46 腕(手)
ためこんだ含み笑いをうけとめて悲鳴をあげる上腕二頭筋
47 肘
つまらないフランス映画ずかずかと肘でおしのける街の人ごみ
48 掌
からからとサクマドロップス音たてて黄色いつぶを掌におとす
49 指
マジックでえがおをかいて粛々と指にんぎょうの劇をつづける
50 上半身
車椅子マラソン選手がゆるやかに上半身にちからをいれる
51 胴
ぎんいろの胴きらめかせ飛行機はわすれられない軌道をえがく
52 心臓
夕闇にうちすてられた石膏のトルソーのようなむごんの心臓
53 肋
それはもうあばらのうきでたのら犬にとっしんしてゆく保健所のひと
54 循環
どこまでもぐるぐるまわるいつまでも循環バスにのりつづけてる
55 血
かたくなに否定を続けるくちびるにあさひのような血をめぐらせて
56 胸
どんどんとこぶしがたたく終演にたえつづけてるうすい胸板
57 消化
使われることがなければそれはそう幸せかもと錆びたしょうかき
58 食道
駅前のカモメしょくどう知らぬまにビストロ・ル・カモメと名前をかえる
59 胃
それならば巨大なくじらの胃のなかでくらしたときのはなしをしょう
60 腸
腸詰めのソーセージのよう煮て焼いてあつあつのうちに食べてください
61 肝
だれからも知られぬような林縁にしずかに咲いたてまり肝木
62 胆
大胆にあかいっしょくでぬりつぶす最後のそらにこれでさよなら
63 膵島(ランゲルハンス島)
ときとしてせつないこころしたためてランゲルハンス島へ旅立つ
64 乳
かなしみを誇示するようにうすぐらいベッドのうえではりだす乳房
65 腹
もくてきの駅までいかぬ終電のなかでつづける腹筋運動
66 へそ
月夜にはへそから下にすむ人がバベルの塔をたてよとさわぐ
67 背
涙するしまうまの背にまたがって愛しあう僕らのゆきさきは
68 腰
さあおいで腰までのびた黒髪のシーツのうえにみだれるここへ
69 羽
そうなんだ肩甲骨はきえさった羽の所在をおしえてくれる
70 子宮
あたたかな子宮のかべにみをよせて初めてためすモールス信号
71 肛門
肛門としてのげんしがいくおくのときをへだてて唇にかわる
72 陰茎
もうだれもたずねることない林間にからまるようにはえる陰茎
73 陰核
ひとりではいきてゆけない陰核にやさしいうそをなげかけている
74 膣
膣としてさいしょのゆめをなげかけるこの子よおおきくしあわせになあれ
75 生殖
そう、これを生殖という。 あなたには、アイときこえているのでしょうか
76 精巣
なんとなく神風だねっておたがいに出撃まってる精巣のなか
77 卵巣
きっとだれか待っているよってゆうきづけておくりだしてくれた卵巣
78 腎(臓)
そういえば、僕の腎臓がたいへんなことに!ってさわいでたひともいたっけ
79 尿
だから尿道として在ればいいだなんてあなたはとてもとてもうそつき
80 汗
ほらこんなにもここちよい汗かきながら夕飯のしんぱいをする君は
81 爪
マヨネーズきつうくしぼるキューピーのえがおにのこる僕の爪あと
82 尻
あかときは言わないでいた いつまでも尻とりあそびは続かないこと
83 股
股したのながさを自慢するひとはかるうく僕をとびこしたのです
84 腿
あら、あなたとてもきたえた腿ですね この垂直をささえてください
85 脚(足)
脚力でとおざかる人ちょっとだけやすむふりするめくばせをする
86 膝
えいかくにするどくはなつ膝蹴りの軌跡のなかにもとめたくなる
87 脛
いつまでも覚えています脛をうつとてもおもたい波の感触
88 踵
踵から着地するよう頑丈な登山シューズをもたせてください
89 鱗
上空の鱗雲いずれきえること知っていたから喋れなかった
90 尾
尾根沿いのほそい小道をかけおりるあなたの影におくれないよう
91 静脈
いつまでもわかりあえずに僕たちはあおくうきでる静脈にふれ
92 動脈
夏草のおいしげるなか動脈のふるえる音をたしかめあった
93 蛋白
蛋白がたりないひとの手をひいて暮れてゆく廃線の貨車へ
94 腺
涙腺がゆるみはじめる夕暮れの夏はかすかにかたむいていた
95 垢
垢抜けたどうさであかい花束をわたしのまえにとりださないで
96 液
ゆっくりと液化する日をまちわびる螺旋階段にからまる想い
97 脂
冷酷といわれたひとの頭部から突き出している樹脂製パーツ
98 腱
うつくしいアキレス腱の瞬発にまけないような夏の陽射しと
99 分泌
ほら、こことこことこことかこことこここことかここも分泌するんだ
100 体
詩のような身体をだいてかげろうの屈曲のなかにくらす僕たち