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日本映画の行く末

2023年02月06日 23時00分00秒 | 様々な話題

1月28日に
スポーツ・エンタメビジネス「ドクターK」の視点
で配信された記事
「アカデミー賞をなぜ日本映画は取れないのか」
に、興味深い内容が掲載されている。

その前に、
アカデミー賞での日本人の受賞者を見てみよう。

演技賞では、助演女優賞のナンシー梅木(サヨナラ 1958年)。
技術賞では、衣裳デザイン賞に、和田三造(地獄門 1955年)、
ワダエミ(乱 1986年)、
石田瑛子(ドラキュラ 1993年)、
作曲賞に、坂本龍一(ラストエンペラー 1988年)、
メイクアップ&ヘアスタイリング賞に、辻一弘(ウィンストン・チャーチル 2018年、
スキャンダル 2020年)、
長編アニメ賞に、「千と千尋の神隠し」(2003年)、
短編アニメ賞に、「つみきのいえ」(2009年)、
短編ドキュメンタリー賞に、「ザ・パーソナルズ 黄昏のロマンス」(1999年)、
現在の国際長編映画賞にあたる外国語映画賞、特別賞に、
「羅生門」(1952年)、「地獄門」(1955年)、「宮本武蔵」(1956年)、

「おくりびと」(2009年)、「ドライブ・マイ・カー」(2022年)
などがある。

2019年度のアカデミー賞では、
韓国映画の非英語作品「パラサイト 半地下の家族」
作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞、国際長編映画賞を受章して
世界を驚かせた。


韓国映画の受章は初。
なにしろ、韓国映画は
それまでアカデミー賞にノミネートさえされたことがない。

映画だけではなく、
韓国のドラマがNetflixで配信されて、
世界中で視聴された。
実際、韓国ドラマは日本のドラマより面白い。
そのアイディア、演出、演技でも
日本のドラマをはるかに越えている。

では、日本映画がなぜ国際競争力を失っているのか、
について、「ドクターK」氏は、
次のように解説する。

欧米基準の映画製作を教育できる組織が存在せず、
映画製作者の大半がビデオ撮りテレビ番組の制作経験者であること

欧米には半世紀以上の歴史を持つ
大学レベルの映画学校が多く存在し、
脚本、演出、撮影、編集、音響、美術、照明などの基礎を一巡学んだ後に、
専門領域の理論を身に付け、
制作実務をショートフィルムの実制作を介して習得する
カリキュラムが確立されている。

南カリフォルニア大学やニューヨーク大学のようなエリート校に限らず、
大学の映画学部や大学院を修了したほぼ全員が
同等の映像理論や基礎的な制作手法を学んでいるので、
共通の撮影・編集ルールに基づいた映画製作が可能で、
作られた作品も「記号論」的視座から解析、評価されるのだ。                                                     海外でも高く評価された日本人監督3人とその理由を述べると、

日本映画界でも、
洋画の映像表現法を解析しながら、
自らの撮影、編集方法を確立した
溝口健二、小津安二郎、黒澤明といった監督が存在し、
独自のセオリーに基づいた
構図や編集の一貫性が海外でも高く評価されていた。

3人は画家を目指した経験から、
熟考の上でショット毎の構図を決め、
全編のストーリーボード、
絵コンテを自ら描いてから撮影に入ることが常であった。

しかし、ほとんどがテレビ出身の現代の監督は、
撮影前にそういった準備をすることはない。
演技指導を主務とすることが多く、
撮影はカメラマン、編集はエディターが担う。
そして作品の多くがワンシーンを複数のビデオカメラで撮影して、
後で編集するという手法で作られているため、
いわゆるカット割り
(脚本に沿って各シーンのカットやアングル、構図などを決めておくこと)
をする必要性がそれほどないのだ。

しかも大学を卒業してテレビ局に入社しても、
映像理論を新入社員研修で教えられることはなく、
現場の徒弟制度で先輩の技を見ながら制作手法を身に着けるしかない。

日本の実写作品には映画、テレビを問わず、
到底プロが製作したとは思えない、
ワイドショットで長い演技を撮り続け、
ズームやパン(カメラを固定したまま、撮影方向を左右に振ること)が多用され、
アクション途中で急に他のカットに切り替わり、
左右が逆転するような編集が多いことも事実だが、
これらは欧米スタンダードとはかけ離れた
ガラパゴス標準で育った製作者によるものだろう。

それが当たり前の時代が30年近く続いたのだから、
現場での改革に大きな望みは持てない。

ただ「唯一の望み」として、
CMと低予算映画の製作経験者たちを挙げる。

CMでは熟考を重ね、
関係者の同意を得た絵コンテに基づいて撮影を行う。
他方、低予算のピンク映画製作などでは
当時高額のフィルムを長時間撮影で無駄にできないため、
必然的に監督が絵コンテを描きながら
シーン毎のフレーミングを決める必要がある。

彼らの儀容は実に欧米基準に匹敵する。
実際「おくりびと」の滝田洋二郎監督は
成人映画の製作経験者であり、
浜田毅カメラマンは大蔵映画出身、
川島章正エディターもロマンポルノ編集20年以上のベテランだ。

もう一つ、なぜ日本のアニメ映画は海外の評価が高いのか、
については、同じ理由を挙げる。
アニメは原作が漫画や劇画で、
既にカット割りが出来ているものを映像化することが多い。
オリジナル作品でも、完成度の高い絵コンテから
動画を起こしていくものが大半である。
こうして完成した映画作品は、
欧米基準の実写映像と隔たりが無く、
外国人にも違和感なく受け入れられる。

確かに、日本のアニメは海外でも評価が高い。
また、海外旅行の際、
ホテルのテレビでCMを観たら、
日本のCMのレベルの高さが分かる。

韓国や中国は、
既に1980年代には
欧米の記号論に基づいて作品を製作しなければ、
国際流通に掛けられないことに気付き、
国主導で専門高等教育に力を入れた。
有望な学生を選抜し、
欧米や豪州の著名映画監督や制作技術者を招聘するとともに、
ハリウッド周辺の南カリフォルニア大学やUCLA、
AFI(アメリカン・フィルム・インスティテュート)に国費留学させ、
国際基準の手法で作品を製作できる人材の教育制度を確立した。

北京電影学院は、英語教育学部も設立して
海外からの留学生も迎え入れ、
ジェームズ・キャメロン監督などを特別講師として招聘している。

84年に国家戦略により映画振興公社が設立した韓国映画アカデミーは、
「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督をはじめ、
既に500人ものハリウッド基準の現場で通用する人材を輩出している。

日本映画の海外進出支援には、
今こそ本腰を入れて、戦略的に、
世界市場で通用する実写映画を製作できる
新世代クリエーターを育成しなければならない。

日本映画の技術が向上しなかった原因として、
テレビの撮影方法に慣れてしまい、
精緻なカット割の精神と技術を忘れてしまったため、
というのは、一つの卓見だと思う。

一つ私の意見を付け加えさせてもらえば、
映画の設計図である脚本にお金を払わないことがあげられる。
脚本家の待遇が悪い。
苦労して書いたシナリオが
現場でズタズタにされて屈辱感を与える現状を見れば、
能力のある人ほど、映画やドラマから離れ、
小説家や漫画原作者に流れてしまう
そちらの方がもうけられるからだ。
その証拠に、
大会社が製作する映画やドラマの原作の多くが
コミックからの映画化であることが示している。
人気だけの演技訓練のされていない若者たちを主役に起用して、
テレビ局が肝入りで宣伝し、
金が儲かればいい、というような映画が作られ、
そうなれば、必然的に映画が若者向けのものとなって、
大人の観客からそっぽを向かれる、という結果を生むだろう。

「ドクターK」氏が書くように、
政府が文化事業に予算を挙げ、
脚本家、監督等の育成に本気を出さないと、
日本映画の衰退は止まらないだろう。



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