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小説『競争の番人』

2022年09月16日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「競争の番人」とは、
公正取引委員会(公取委)のこと。
この小説は公取委の職員が
不正を摘発すべく奮闘する姿を描く、
「元彼の遺言状」の新川帆立による作品。
「小説現代」(講談社)に2021年12月号から2022年3月号にかけて
連載され、加筆修正を経て刊行された。

主人公の白熊楓(しろくま・かえで)は、
公取委の審査局第六審査(ダイロク)新人職員。29歳。
警察官の父に憧れ、警察学校に通っていたが、
父親が犯人を追跡中にケガをしたため、
娘を心配する母親の強烈な反対によって警察官になる道をあきらめ、
警察学校を中退、一般職採用で公取委に応募し、採用された。
つまり、ノンキャリア。

もう一人の主人公は、
小勝負勉(こしょうぶ・つとむ)。
公取委のキャリア審査官。
東大首席のエリートで政策立案を経済取引局で5年ほど経験した後、
ハーバード大留学を経てダイロクに異動となる。

このノンキャリアとキャリアの二人が組んで、
ホテル業界の不公正な取引を調査し、
数々の妨害を受けながらも
公正で自由な市場競争を守る「競争の番人」として、
独禁法違反の取り締まりに奔走する。

楓は、男まさりな性格で、
実直で感情のままに行動し、
頭で考えるよりも先に、気持ちと身体で体当たりしていく。
空手の達人で、犯人を締め技で失神させて逮捕したりする。

小勝負は東大法学部を首席で卒業後、
どの会社・官庁にでも就職できたのに、
あえて公取委に就職したことで、
まわりからは「もっといいところに入れたはずでは?」
と度々疑問を投げかけられる。
他の審査官とは違う独特の視点や洞察力がある一方、
人とは違う調査の仕方で周囲からは変わり者と思われている。

公正取引委員会は独占禁止法を法的根拠とした役所。
あまり一般にはなじみのないところだが、
公正な競争の出来る社会を目指し、
よく知られているのが、談合の摘発
公共事業の入札に際し、
事前に業者間で談合して、
落札者の順番を決めたり、
落札価格を話し合ったりする。
その結果、高い工事費用で被害を受けるのは納税者。
談合以外に、同一業者間で価格を決める「カルテル」行為や、
有利な立場を利用しての業者を締めつける行為
たとえば、デパートが納入業者に圧力をかけて
不利な取引を強要する行為などを取り締まる。
いずれも「公正な競争」とは言えないわけで、
その意味で「競争の番人」だ。

実は、私は昔、公取委と深く関わる仕事をしたことがある。

真保裕一の「小役人シリーズ」で公取委の職員を扱ったものがあるが、
それ以外で真向から公取委を舞台にした小説は、他に知らない。

小説の登場人物によって語られるように、
公取委は他省庁に比べ、人気も権力もない。

競争が関係する企業界を担当するから、
特定の業界団体や政治家との利権がないのも特徴の一つだ。
気楽な反面、後ろ楯がないから
他省庁との小競り合いでは
常に煮え湯を飲まされる。

小説の中で、立ち入り検査を拒否される場面がある。

「拒否される場合、独禁法第94条に基づき罰則が科されます。
それでもよいのですか」

と言うと、相手がせせら笑う。

「罰則だと。ははは。
知ってるよ。
一年以下の懲役または三百万円以下の罰金だろ。
どうぞどうぞ、罰則を科してもらって結構。
俺を刑務所にぶち込むか?
できないだろ?
この罰則規定は発動されたことがない。
立入検査を拒否されたら、
公取委の担当者の責任だ。
その尻ぬぐいのために
多忙を極める検察様が動いてくれるわけないもんな。
逮捕できるならふっけみろよ」

立入検査が拒否された場合、
強制的に施設に立ち入って検査をすることはできない。
承諾が必要な手続きは、
相手が強硬に拒否するとどうにも進まなくなる。
何のための法律か。

公取委の仕事は、大きく分けて政策審査に分けられる。
政策は、各業界団体の公正競争規約の監督など、事務仕事。
審査は、まさに、不正を摘発する現場仕事。
審査の人間は国家公務員一般職、通称ノンキャリアの人間が多い。
一方で政策は、
独占禁止法の解釈や運用がからむ、
国家公務員総合職、いわゆるキャリア組が多い。
法学部卒だけでなく、
ロースクールを卒業している者もいれば、
弁護士資格を持った者も在籍している。
簡単に言えば、勉強が得意な集団。

小説で描くのは、
北関東のホテル3社が関わるウェディング費用の価格カルテルや
採算の合わない取引を強いる納入業者いじめの調査。
更に既存花屋による取引制限。
ホテルの取引を制限し、新規参入業者を締め出していた。
調べれば調べるほど、
零細業界の実情に同情する楓だが、
そんな感傷を小勝負はあざ笑う。
現場主義の楓と
理論を勧める小勝負は、
何かと衝突する。
その二人のぶつかり合いの中から、
いろいろな教訓が浮かぶ。

楓には、事情聴取し、供述書も取った地方公務員が
自殺してしまったというトラウマがある。
また、5年も付き合って、
結婚に向かって話が進んでいる徹也に
元カノとの浮気問題も浮かぶ。
更に、小勝負との間に、ほのかな恋情のようなものを立ち上がる。
小勝負に義理チョコをあげて驚かれた後の描写。

変に意識されるのも嫌だ。
もちろん小勝負はこちらのことを意識なんてしていないだろう。
小勝負に意識されるかもしれない、
と意識している自分が恥ずかしい。
そんなことで恥ずかしがっている自分がさらに恥ずかしい。
入れ子のようにすべてが恥ずかしく思える。

2022年7月期にフジテレビ系「月9」枠にてテレビドラマ化され、放送中。


9月19日最終回。
小説の内容は前半で、
後半には、別な事件が扱われている。
白熊楓には、小勝負勉には坂口健太郎
他に大倉孝二、小池栄子、加藤清史郎ら。

 



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