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荒野の用心棒騒動

2023年01月29日 23時00分00秒 | 映画関係

1月22日のブログ「モリコーネ」の中、
イタリア映画の「荒野の用心棒」のところで、

この映画、
「用心棒」の断りなしのリメイクだった。
その後、訴訟に発展するのだが、
そのことについては、
日を改めて紹介したい。

と書きましたが、
今日が、その「日」。

まず、「用心棒」について。
1961年に公開された黒澤明監督の娯楽時代劇。


ヤクザの二組が対立する宿場町にふらりと現れた素浪人が、
ヤクザの用心棒として雇われ、
その実、両方を焚きつけて衝突させ、
最終的には壊滅させて、
平和な宿場町に戻して、去っていく、
という話。
興行的に大ヒットし、
翌年には続編の「椿三十郎」が作られた。
浪人・桑畑三十郎を演ずる三船敏郎は、
この作品でヴェネツィア国際映画祭の男優賞を受賞。
その年のキネマ旬報ベスト・テンで2位に選ばれた。
海外でも高く評価されており、
2008年にイギリスの映画雑誌エンパイアが発表した
「歴代最高の映画500本」で95位にランクインした。
2005年にタイム誌が発表した
「史上最高の映画100本」にも選出されている。
                          
1964年、セルジオ・レオーネ監督が「荒野の用心棒」としてリメイク。
しかし、これは、東宝の事前承諾を得ない勝手な再映画化であった。
つまり、「盗作」。
しかも、「たまたま似てしまいました」でも、
「ちょっとアイデアを拝借しました」でもなく、
アメリカ=メキシコ国境にある小さな町に、流れ者が現れ、
縄張り争いをしていた2大勢力を焚きつけて衝突させ、
両方を壊滅して、町を去っていく。
という、ストーリーの展開、人物配置、ポイントポイントが酷似した、
言い逃れの出来ないレベルのものだった。

東宝は黒澤、脚本を書いた菊島隆三と共に著作権侵害で告訴した。
黒澤もレオーネに権利料の支払いを求める手紙を送ったが、
レオーネは黒澤から手紙をもらったことに感激し、
周りの人たちに見せびらかしていたという。

最終的にイタリア側が盗作を認めたため
日本側が和解に応じ、
1965年11月に著作権保有者の黒澤と菊島は、
「荒野の用心棒」の日本・台湾・韓国などアジアにおける配給権と、
10万ドルの賠償金、
世界配給収入の15%を受け取ることでイタリア側と合意した。
最初から原作料を支払っていれば、
もっと少ない出費で済んだだろうに。
日本では東宝の傍系の東和を通じて配給、
1965年11月25日に公開。


この裁判の過程で映画の著作者が受け取る世界の標準額を知った黒澤は
東宝に不信感を抱き、契約解除、
ハリウッドへの挑戦を決意させる要因にもなった。

という話とは別に、次のような話も伝わっている。
「荒野の七人」は東宝の権利許諾を得た正式リメイク作品だが、
「続・荒野の七人」(1966)、「新・荒野の七人 馬上の決闘」(1969)、
「荒野の七人・真昼の決闘」(1972年)などの続編が制作され、
TVシリーズなど、後発作品が多数あり、
クレジットも「原作=東宝作品『七人の侍』」となっているが、
作者である黒澤、小国、橋本は誰一人許可しておらず、
黒澤はこの件で晩年まで東宝にクレームをつけ続けていたという。

更に、
1964年までの間に、
東宝はイタリアの無名の映画会社から
「用心棒」のリメイク許諾を求める手紙を受け取っていたが、
黒澤サイドに伝えることなく無視してしまった。
イタリアの会社は「無視=勝手にしろ」と判断し、
「荒野の用心棒」を製作した。
この映画の予想を超える世界的ヒットに、黒澤サイドは座視できず、
この会社を訴え、
その訴訟の過程で
東宝が許諾申請の手紙を握りつぶしていたことを知り、
黒澤は東宝に猛烈な不信感を抱くようになり、
専属契約を解除、「トラ・トラ・トラ! 」の撮影も
東宝のスタジオで行わないなど、禍根を残した。

何だ、イタリア側は「盗作」する意図はなく、
悪いのは東宝か。

リメイクの経緯は次のとおり。

イタリアで公開された黒澤明の「用心棒」を見て感銘を受けたセルジオ・レオーネが、
西部劇に作り変えようとしたのが始まり。
レオーネは同僚の撮影監督や脚本家たちを誘って再度「用心棒」を鑑賞、
脚本執筆の参考にするために映画の台詞をそのまま書き写した。

レオーネは当初、ヘンリー・フォンダの起用を望んでいたが、
フォンダはハリウッド・スターだったため獲得できなかった。
その次にチャールズ・ブロンソンに出演依頼をするが
ブロンソンは脚本が気に入らないという理由で辞退。
さらにヘンリー・シルヴァ、ロリー・カルホーン、トニー・ラッセル、
スティーヴ・リーヴス、タイ・ハーディン、ジェームズ・コバーン等
にも打診するがいずれもも断られた。

最後に白羽の矢が立ったのが
当時テレビ西部劇「ローハイド」に出ていた
クリント・イーストウッドだった。
この時、イーストウッドが受け取った脚本の題名は
「Magnificent Stranger」(素晴らしい来訪者)で、
「用心棒」の翻案であることもすぐに読み取った。
というのは、後述する黒澤明の「七人の侍」の正式リメイク「荒野の七人」(1960)の
アメリカ題が「The Magnificent Seven 」(素晴らしい7人)だったのだ。
無名のイタリア人監督がスペインで日本映画の西部劇風リメイクを制作するという
如何にも胡散臭い企画ではあったが、
「ローハイド」出演の際の契約で、
他のハリウッド映画に出演できなかった
イーストウッドは、小遣い稼ぎと
ヨーロッパへの物見遊山気分半ばでオファーを受諾した。

それでも、イーストウッドは名無しの男の役作りに励んだ。
ブルーのジーンズをハリウッドで、帽子をサンタモニカで、
葉巻をビバリーヒルズで買った。
また「ローハイド」で使っていた、
蛇の飾りがついた銃のグリップも持ち込んだ。
ポンチョはスペインで手に入れた。

撮影はスペインのアルメリア地方で行われた。
この作品にはアメリカ、ドイツ、イタリアなど様々な国の俳優が出演しているため、
撮影時にはそれぞれの母国語でセリフを喋り、
イタリア公開時にはイタリア語、
アメリカ公開時には英語に、台詞が吹き替えられた。

結果、アメリカで大ヒット
1960年代初期からイタリアでは西部劇が作られおり、
軽侮をこめて「マカロニ・ウエスタン」と呼ばれていた。
そのイタリア製の西部劇、マカロニ・ウェスタンが世界的に知られるようになったのは
「荒野の用心棒」のアメリカにおける大ヒットからである。

アメリカに帰国後、再び「ローハイド」に出演していたイーストウッドは
ヨーロッパ全域で「A Fistful of Dollars」(一握りのドル)という映画が
人気を博しているという噂を耳にしたが、
それが自分が主演した「Magnificent Stranger」のことであるとは
全く知らなかった。


ヒットを受けて、イーストウッドは
「夕陽のガンマン」、「続・夕陽のガンマン」といった
マカロニ・ウエスタンに出演して、人気を得、
ハリウッドに凱旋。
その後大監督となっていくきっかけが
「荒野の用心棒」出演だったのだから、
人の運命は分からないものだ。

クェンティン・タランティーノ監督の
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」 (2019) には、
これによく似た話が描かれる。
かつてテレビの西部劇ドラマで人気を博した俳優
リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオが演ずる)は、
今は落ち目。
そこへマカロニ・ウエスタンの出演をオファーされる。
質の低いイタリア西部劇への出演は「都落ち」であると思いつつ、
いやいやイタリアに出かける。
イーストウッドがモデル?

黒澤作品は海外での評価が高いだけに、
他にもリメイクされており、
ジョン・スタージェス監督の「荒野の七人」
「七人の侍」のリメイクであることは、あまりに有名。


これは盗作ではなく、正式なリメイクで、
ユル・ブリンナー、スティーブ・マックイーン、
チャールズ・ブロンソン、ロバート・ヴォーン、
ホルスト・ブッフホルツ、ジェームズ・コバーン
という、その後のハリウッドを飾る俳優たちの出世作となった。

ユル・ブリンナーが「七人の侍」に感銘を受け製作した
オマージュ色の強い作品のため、
大まかなあらすじ・登場人物の設定・台詞などの多くが忠実に再現され、
西部劇の古典とも言える名作となった。
エルマー・バーンスタインの音楽も古典となった。

その後、2016年には、
「マグニフィセント・セブン」として再リメイクされている。

マーティン・リット監督、
ポール・ニューマン、ローレンス・ハーヴェイ主演の「暴行」(1964)は
「羅生門」のリメイク。
これも舞台を西部劇に移し替えている。

ウォルター・ヒル監督の「ラストマン・スタンディング」は、
「用心棒」を、1930年代のギャング社会の設定でリメイクした、
ブルース・ウイリス主演のアクション映画。
アイルランド系とイタリア系のギャングが睨み合う町を訪れた男が、
二つの勢力を衝突させ、壊滅させる話。

リメイクではないが、1992年公開の
ケヴィン・コスナー主演の「ボディガード」で、
主人公たちが映画を見る場面で「用心棒」が登場し、
1シーンがそのまま使われている。
作品のタイトル自体が「用心棒」のアメリカ公開時の英題であり、
他にも劇中で本作を含む黒澤作品へのオマージュが見られる。

スター・ウォーズシリーズも黒澤作品から部分的な影響を受けている。
シリーズ1作目
「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」(1977)のストーリーのアイデアは、
「隠し砦の三悪人」を元にしており、
C―3POとR2D2は、
同作の登場人物である百姓の太平と又七がモデルであることを
ジョージ・ルーカス自身が認めている。

 



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